45.もしゃ
「ソウシ様。うまく行くかは分かりませんが、提案があります」
モニカが何かを思いついたようだ。
彼女は不確かな情報でも俺に伝えてくれるようになった。
やっぱり二人きりで生活しているんだから、こうでなくっちゃさ。
お互いに気を張って生きるより、何でも言い合える仲に俺はなりたい。
モニカがどう考えているか分からないところが、ちょっともやもやするんだよな。
もしかしたら、彼女は嫌々やってないだろうか? とか考えることもある。
だけど、先ほどの筋力のことと言い、彼女は嫌がる様子を見せはしなかった。
俺が女装をした時とかノリノリだったしな……。
「是非、モニカの提案を聞かせてくれ」
「では失礼して。ユーカリの大木から枝を拝借し、挿し木をしてみたらいかがでしょうか?」
「なるほど。いけるかもしれない。俺も一つ似たような案があるんだ」
「ソウシ様のお考えをお聞きしたいです」
「枝を切ってヒールを使う。そこで種が取れないかなと思って」
「可能かもしれません。枝を落としてからまずヒールをかけて頂き、種が取れれば種を。種が取れずとも挿し木をしてみませんか?」
「それで行ってみるか。枝は幾つか持って帰ろう」
ここで試してもいいんだが、魔力が枯渇してモンスターに襲われでもしたらたまらない。
屋敷まで持って行ったら、寝ればまた魔力が回復するしここより気軽かつ安全に試すことができる。
「では、枝を落とします。よろしいですか? コアラ様」
「もう葉をつけないからな。構わない」
モニカがその場でしゃがんでコアラに問いかけると、彼は即返事を返す。
コアラが雄か雌のどちらか分からないけど、声そのものが人間の青年の声だった。
なので、彼と言ったわけだが、正直どっちでもいい。
「モニカの名においてお願いいたします。風の精霊さん。ウィンドカッター」
風の刃がすぱーんと枝を根元から切り裂く。一本、二本、三本の枝を落としたところで、風の刃は虚空に消えた。
どさああと音がして、枝が次々に落ちてくる。
モニカは軽々と片手でキャッチし、地面にそっと枝を置いた。
枝といっても、太さが50センチくらいあるんだけど……長さも2メートルはあるかなあ。
小さな枝を落としたけど、元が巨木だから根本からはやりすぎだったかもしれない。
枝から伸びる小枝を挿し木にするといいかな。
「モニカ。枝は一本でよかったかも。持って帰るにも邪魔だよな?」
「問題ありません。これくらいでしたらわたしが持ちます」
にこやかにほほ笑むモニカである。
「二本はここに置いて行こう。丁度いい」
「承知いたしました」
いつもの上品な礼を返すモニカ。
さて。俺は俺の仕事をするとしよう。
「コアラ、枝を一本もらっていく。その代わりといってはなんだが」
地面に置かれた枝の根元に手を当てる。
「ん? 別に構わんぞ。この枝はもうどうしようもないからな」
「さっきの約束をこの枝で」
「お、そうか。頼む」
コアラがどうぞどうぞと腕を振った。
こいつの動き、やたらと人間的なんだよな。
異世界のコアラは喋るし、獣人に近い種族なのかもしれない。
おっと集中集中。目を閉じ、心の中で聖魔法の術式を構築する。
「総士の名において祈る。元気に育ちますように。ヒール」
枯れた枝が瑞々しさを取り戻し、先から緑の芽が顔を出し見る間に見事な葉となった。
巨木にヒールをかけた時と異なり、枝一杯にユーカリの葉が繁茂し往年の輝きを取り戻す。
やはり、魔力が分散しなければ、枯れた木であっても完全に復活させることができる。
「お、おお」
コアラがフラフラと吸い込まれるようにユーカリの葉に手を伸ばす。
そのままユーカリの葉を口に運び、もしゃもしゃし出した。
餓死寸前だったもんな。余程お腹が減っていたんだろう。もう俺やモニカのことなどコアラの意識の外にあるようだった。
「もう一本いっとくか」
先ほどと同じようにヒールをかけると、枯れた枝が緑一杯の枝に変わる。
「モニカ。種が無いか探してみようか」
「はい」
もしゃることをやめないコアラをよそに、俺とモニカの二人は葉っぱや小枝に触れ種が無いか探していく。
「ありました」
「こっちにもあった」
案外あるもんだな。あっさりと種が見つかったよ。
これで挿し木はしなくてもよさそうだ。持ち帰りもラクチン。
ん。
「よく考えてみると、別に持って帰らなくてもいいよな」
「いえ、そうすると何度もここに通うことになりませんか?」
「あ、確かに。樹木を育てるにはヒールを何回もしないといけないからな」
そうはいってもランバード村にユーカリの木があったとして、コアラに届けなきゃならないんじゃないのか?
それなら最初は手間だけど、ここで樹木を育成したほうがよさそうな。
ん? 何だ?
「もしゃ……」
「食べるのか喋るのかどっちかにしろよ……」
グイグイとズボンの裾をコアラに引っ張られたが、彼は俺を見上げるだけでもしゃもしゃしたままだ。
苦笑いする俺へコアラは自分を指さし、続いて俺を指さした。
もちろん、もしゃることを止めずに。
「えっと、ついてくるってこと?」
コクコクと頷くコアラ。
「森の賢者じゃないの? 森を護るとかそんな役目があったりしないのか?」
ブンブンと首を横に振るコアラ。
「ま、いいか。んじゃ、俺たちの家まで戻るぞ」
ブンブンと首を横に振り、ユーカリの葉を指し示すコアラ。
「まだ食べるからダメってこと?」
コクコクと頷くコアラ。
いや、もういいや。
「モニカ」
「はい」
「ユーカリの葉をむしって、麻袋に全部詰め込む。そいつをコアラに渡してこいつを抱えていく」
「抱っこでしたらお任せください」
よく分からない謎の生物「コアラ」を連れて行くことになってしまったが、特に問題は無いと思う。
この短い期間で俺は分かったんだ。
こいつ、人間の言葉を喋るにしても、思考がかなり動物的だ。
つまり、食欲最優先でもしゃもしゃすることこそ至上の喜びなんじゃないかと。
この森でずっと生活してこれたわけだから、それなりに戦えるだろうし。
ユーカリの木がランバード村にあるなら、俺たちが留守の間も村を外敵から護ってくれるだろ。
ユーカリの葉を駄賃に働く衛兵と考えれば悪くない。
◇◇◇
コアラにいろいろ聞きたいことがあったが、結局ランバード村に戻るまでずっともしゃもしゃしていて会話ができなかった。
変な鳥も俺たちについてきて、屋敷の前にソリを置いた今にいたるってわけだ。
「モニカ、片付けを頼んでいいか?」
「はい。コアラ様はどうされますか?」
「その辺に置いておいたらいいんじゃないかな。麻袋のユーカリの葉が無くなるまで動かないだろ」
モニカは少し迷った末に屋敷の中に入っていった。まずコアラをどこかに設置しないと両手が開かないからな。
俺はまだ魔力に余裕があるから、ユーカリの種を育てるとしよう。
どの辺がいいかなあ。
屋敷の北側から一番近い廃屋の隣辺りに種を撒き、ヒールを五回唱えた。
五年分ユーカリの木が育成され、それなりに葉をつける。
二十回くらいヒールを唱えておけば、食うに困らなくなるかな。
いや、あの食欲だ。数本育てておいたほうがいいかもしれない。
「といっても今日は後二回で打ち止めだ」
更に二回、ユーカリの木にヒールをかける。これで合計七年分になった。
魔力は余裕をもって残しておかないと、何があるか分からないからな。
もちろん、夜に使う予定の魔力を差し引いて余裕を持たせてある。
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