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39.取り戻す

「モニカ」

「はい。ソウシ様」


 枝に脚をかけ手を伸ばし、モニカの手を握りしめる。

 グイっと引っ張ると彼女は幹に足裏を乗せ一息に伸び上がった。

 それは勢いが強すぎるぞ。


「おっと」


 彼女の体を自分の体で受け止める。両手が塞がっているからこうするしかないのだ。

 ぽふん。

 俺の胸に顔を埋めるモニカ。

 

「感謝いたします」


 勢いよく膝を伸ばしすぎた恥ずかしさからか、モニカの頬に朱がさす。


「大丈夫か?」

「はい。ソウシ様に受け止めて頂きましたので」


 モニカは俺の胸に頬を当てた状態で両手を乗せ、はあと息を吐く。


「もうちょっと上まで登ろう」

「承知しました。お手間かけます」

「ううん。得意不得意があって当然だよ。初めての木登りだろ?」

「はい。お恥ずかしながら」

「それで怖がらずに登ってこれるんだから、大したもんだと思う。俺なんて……」


 あああああ。思い出したくない。

 最初のころの木登りを。

 まず登るまでに何度もずり落ち。ある程度登って下を見たら、足が竦んで動けなくなったり……。

 いろいろあったなあ。

 お恥ずかしい。

 仕方ないじゃないか。現代日本で育った俺はこの世界の人に比べて相当軟弱なんだよ。いや、日本で育ったことを理由にしちゃいけないな。

 俺自身がこれまでのうのうと生きてきたつけが、木登りなりをした時に痛感したってわけだな。うん。

 だがしかし。

 人間、それなりに努力をすれば克服できるもんなんだ。

 今では高いところから下を見ても足は少ししか竦まない。

 え? やっぱり竦むんだって? そんなの無理だって。人間は空を飛べないから潜在的に高いところに対して防衛反応が働くんだよ(俺調べ)。

 

「モニカ、下は見ちゃダメだぞ」

「突然どうされたんですか?」


 モニカの頭をぎゅっと抱きしめてからゆっくりと体を離す。

 ちょ、うつむいて下を見てんじゃないかよ。

 見るなって言っただろ?

 

「モニカ」

「は、はい!」

「大丈夫?」

「はい! ちゃんと幸せです」


 よく分からないが、彼女は下を見ても平気なのかな。

 初めてだというのにすげえなおい。それに比べて俺は……ブンブンと首を振りこれ以上考えないようにする。

 

 スルスルと更に高いところまでモニカと一緒に登って行き、ついに見晴らしのいい場所まで到達した。


「それじゃあ、はじめますか。モニカ、手を離すから注意してくれよ」

「はい」


 目を閉じ、胸の前で両手を合わせ集中状態に入る。

 イメージしろ。どのように展開するのかを。

 

「総士の名において依頼する。水の精霊よ。氷となりて描け。アイスフォーメーション」


 指揮者のように左手の指先を右から左へ大きく振るう。

 すると、氷の帯が木の枝から木の枝へと張り巡らされて行き、氷の道が生成されていく。

 水の精霊魔法「アイスインフォメーション」は氷を自由自在に生成する。

 この精霊魔法は、魔力を込める量に応じて生成される氷の量が変わるんだ。

 手のひらサイズから、今俺が生成したような氷の道まで自由自在にね。

 氷を維持するのにも魔力は必要だが、生成することに比べれば微々たるもの。

 そして、この魔法の氷は多少の衝撃では割れない。この辺はさすが魔法ってところだよな。

 アイスシールドもそうだけど、普通の氷でグリフォンの攻撃なんてとてもじゃないが防ぐことなんてできないのだから。

 

「とても、綺麗です」


 太陽の光がキラキラと反射し、氷の道が美しく飾りたてられている。

 確かに幻想的で美しい光景だ。


「この高さなら障害物はないだろ? もう一丁、魔法を使う」

「確かに。ここなら真っ直ぐ進むことができますね」


 モニカも何をするのか気が付いたようで、口元に微笑みを浮かべ頷いていた。

 それじゃあ、いつもの魔法を行きますかね。

 

「総士の名において依頼する。水の精霊よ。氷となり我が身を護れ。アイスシールド」


 力ある言葉に応じ、足裏と地面の間に氷の板が出現する。


「ソウシ様だけで行かれるのですか?」


 モニカは自分の足裏に氷が出なかったことに首をかしげた。


「そんなわけないだろ。もちろん一緒に行くさ」

「え、何を」


 少し屈んでモニカの膝裏に右腕を。彼女の背中に左腕を通しひょいっと抱え上げる。

 

「万が一落ちた時、これで一緒だ」

「な、なるほど……ですが、少し恥ずかしいです」


 姫抱きされたモニカが頬を赤らめた。


「ごめん。バラバラに落ちてしまうと、俺の結界魔法じゃあ守り切れないからさ」


 結界魔法が効いていれば、この高さから落ちてもかすり傷一つつかない。

 この倍の高さになるとただじゃあ済まないけどね……その時は別の精霊魔法を使って護ることができる。


「そ、そうですね。ソウシ様の結界魔法は二メートル以上離れると効果が切れるのでしたよね」

「うん。だから、少し我慢してくれ」

「いくらでも我慢いたします!」

「じゃあ、風の精霊魔法を頼む」

「はい!」


 一歩足を踏み出し、氷の道の上に乗る。


「モニカの名においてお願いいたします。風の精霊さん。ウィンドブレイク」


 背後から突風が吹き抜けると共に、俺の体がグングンと加速して行く。

 

「真っ直ぐにグリフォンのところまで向かってくれ。道が無ければ作ればいいから。幸いここは木々が途切れない」

「承知しました。進む方向は手で示します」

「了解!」


 待ってろよお。グリフォンめえ。

 サンドイッチとカエルの恨み、忘れるものか。

 

 ◇◇◇

 

 モニカの指示に従い進んで行くと、森が途切れ木々より高い崖が姿を現す。

 なるほど。崖の上部にある出っ張りのところにいるのだな。

 でっぱりは崖の中にできた棚のようになっており、奥には空洞が続く。

 空洞が丁度屋根のようなっていて雨風も凌げそうだ。

 この空間はグリフォンが巣にしているだけあり、でっぱった棚の部分だけでも横幅が十メートルはある。

 

「あの奥です」

「了解。総士の名において依頼する。水の精霊よ。氷となりて描け。アイスフォーメーション」


 木の枝から崖の棚まで氷の道が伸びる。

 登り道になるが、モニカが追い風を強めると速度が落ちるどころか逆に加速した。

 

 最後は大きく飛び上がり、棚の上に着地する。

 モニカをその場でゆっくりと降ろし、アイスシールドを解除。

 

 奥にいるだろうグリフォンは外に出てこようとしない。咆哮もあげていないから、俺たちのことに気が付いていないのだろうか?

 いやいや、まさかそんな。これだけ派手に着地してんだし、気が付いているだろ。

 ここまで来たら、どっちにしても進むしかない。

 

「モニカ。俺の後ろに」

「ですが」

「前にいたら、巻き込まれるかもしれないから」

「分かりました。わたしも風の精霊魔法をいつでも放てるよう準備いたします」

「頼む」


 俺もモニカに倣い、頭の中で精霊魔法のイメージを構築しておく。

 グリフォンの強みは圧倒的なスピードなのだが、この狭い穴の中だと空も飛べないしスピードが活かせない。

 奴は飛竜と違ってブレスも持たないし、マンティコアのように魔法も使ってこないんだ。

 目にもとまらぬ速さで鋭い爪と嘴で敵を切り裂くのがグリフォンの攻撃手段である。だが、スピードに乗った攻撃でなければ、結界魔法で少なくとも一撃は防ぎ切れるはず。

 

 恐れず進もう。

 地の利はこちらにある。

よろしくお願いします!

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こちらも間もなく完結となります。

ぜひぜひチラ見していってください!

・タイトル

最強ハウジングアプリで快適異世界生活

・あらすじ

異世界の戦場に転移してしまった主人公がど真ん中にハウジングアプリというチートを使って誰も侵入できない無敵の家を作って戦争を止めたり、村作りをしていくお話しです。

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