旅の相棒1
「ん…」
我ながら色っぽい声が出たような気がした、が幼い子ども特有の高い声のせいだろうな、変な感じだ。
長く寝すぎた時のような頭のだるさはあるが、酷く嫌な感じではない。
ゆっくり目を開けると、そこは草原の真ん中で、俺はポツンと立っていた。
「おお…?」
周りよりも高くなっている場所だったので周りがよく見える。
少し先に街道のようなものと小川、反対側…自分の背中側は森、更に奥は山脈だろうか山頂が白くなった山が列なっている。
街道も森もどちらもまぁまぁ離れているが、歩けない距離じゃない。とりあえず世界を知るためには人の居る所に行くべきだろう、俺は迷わず街道側へと歩き出した。
「…っだぁ〜〜〜〜〜!!!遠い!!!!休憩!!」
ゴロッと草の上に横になる、頬に当たる草は柔らかくくすぐったい。しかしそれよりも足がつかれた。以前の俺ならはビャッと走りきれた距離だったのだろうが如何せん今は子供の体である。思った以上に非力だ。
「う〜ん、困った。とりあえず日が暮れる前までに街…せめて人のいる所までは行きたいのに…」
今は昼前くらいだろうか?歩き始めた頃よりも日が高くなった。高台から見た街道は近く感じでいたのに実際には結構な距離があったようだ。
「はぁ、水が飲みたい…」
そう呟いた瞬間だった
『お水あるよ』
声が聞こえた気がした。びっくりして上体を起こし、キョロキョロと辺りを見渡すが誰もいない。
恐る恐る「だれ…誰かいるのか?」と言ってみる。体が小さく子供になったせいだろうか、心も子供のように怖がりになってしまったようだ。
『ぼくだよ〜』
今度ははっきり聞こえた、耳に聞こえたというより、頭の中に響いてきた。
『じゅの出てこーいって言って〜』
なんとも気の抜けるような声が更に響く、が俺はその声に急に安心してしまった何故かは分からないけど。
「ジュノ…出てこい…」
そうすることを知っていたように俺はあの女神がくれた指輪に声をかけた
「やったぁ〜」
嬉しそうな声とともに指輪から現れたのはふわふわの子猫だった。真っ白の毛に、黄金の瞳。俺の前にちょこんと座っている。
「お水、のむ?」
こてんと首を傾げる子猫は可愛らしいが、どう見ても水を持っているようには見えない。
「どこに水があるんだよ」
思わずムッとしてしまった、大人気ない。だが猫は気にする様子もなくニャンと小さく鳴いた。するとザバッとバケツをひっくり返すような音とともに俺は全身ずぶ濡れになったのだった。
「あ…やっちゃった〜」
悪いとは思ってなさそうな猫、もといジュノの声。怒る気力を削がれる。
「…涼しくなったよ、ありがとう。でも俺は水をかぶりたいんじゃなくて飲みたいんだよ」
ビショビショの前髪を後ろにかき上げながら言うとジュノはまたニャンと小さく鳴いた
今度はゴウッという音と共に俺は勢い良く後ろに吹っ飛ばされた。
ゴロゴロと転がりながら何が起きたのか分からないでいると、ジュノが小走りに近づいてくる。
「じゅのだけじゃ、じょうずにできない」
草と泥にまみれたまま転がっている俺は頭の上にハテナマークがたくさん浮かんでいそうだが、ジュノが言うにはジュノはケットシーという種族の妖精でオパール様の眷属らしい、力が強すぎるので神々の住まう天界に保護されていたのだとか。
普通の妖精はエルフやドワーフといった亜人族の周りに多くいて、お互いに助け合っているそう。しかし人間の前には滅多に出ないという。大昔に喧嘩したと言っているが、何があったんだろう?
で、妖精たちはそれぞれ気に入った相手と契約することで力を増幅させたり、制御したり…とにかく1人では出来ないことも契約によって出来るようになるという。契約はWinWinの関係なんだな。なるほど。
ジュノは力が大きすぎて尽く契約を弾かれてしまっていたそうだ、感情が大きく揺れると暴走してしまい仲間に大きく被害を出してしまったとしょぼくれている。
ちなみにこの指輪をつけた時点で契約が成り立ったそうで、驚き以上に嬉しくてたまらなかったとニャンニャン鳴いた。
だが説明もなく何も知らない俺は中々呼んでくれず、呼び出してもらっても俺からの制御意思がなかったせいでこうなっている…と。ちなみに吹っ飛ばされたのは乾かそうと思って風の魔法を使ってくれたそうだ。いや、俺だけ台風だったよ。
ということで、俺は改めて水を飲みたいな。
使い慣れなくておかしい部分があったら申し訳ないです…精進いたします。