赤い子と白い子3
ワクワクしながら階段を降りると、テーブルの上に温かそうな湯気を上げるスープ、スライスされたパン、彩り豊かなサラダやチキンのような肉が並んでいた。
思わず駆け寄ると村長の奥さんがクスクス笑いながら椅子を引いてくれた。椅子の座面がちょっと高くて、よじ登るような形になってしまった。多分俺用に座席が高い椅子を用意してくれたのだろう、ありがたいことだ。2人には10歳といったがもしかしたら本当にもっと幼い外見なのかもしれない。死ぬ直前こそ長身でガタイのいい俺だったが中学上がるまではクラスどころか学年で一番チビでヒョロっこいガキンチョだったしな。
どうぞとスプーンとフォークを合わせたような木製のカトラリーを手渡され、目の前にスープを置いてもらった。因みにジュノには、階段横のスペースにミルクとほぐされた肉のようなものが用意してあり、ジュノは「人間のくれる食べ物は初めてだな〜」と嬉しそうにご飯の前へ走っていった。
俺の両隣にニアとカエラが座り、さあ食べるぞ!と思ったらみんなが指を組んで目を閉じた。
「女神オパルの恵みに感謝を」
村長がそういうと、周りの全員が復唱する。俺も少し遅れたが同じように復唱した。
「女神オパールの恵みに感謝を」
カエラがクスッと笑って「オパールって伸ばすんじゃなくてオパル、でしょぉ」と俺を撫でる。名前の似た別の女神様だろうか?
さぁどうぞと勧められて、やっといただきますだ。大きな声でいただきますと言って食べ始める。
スープはクリームシチューのように見えたが俺の知るシチューとはだいぶ違った。前世のアレと同じ様に白いが、あのホワイトソースじゃない、だがゴロッと大きめに切られて入れらている野菜はよく煮込まれているようで、しっとり柔らかくて美味しい。初めて食べる味だが懐かしく感じるのは体のせいかもしれない、この体のおかげで言葉もわかるのだから。
パクパク食べているとニアがパンとお肉を皿に取り分けてくれた。
「フフ、美味そうに食べるな」
「初めて食べる味ですが、懐かしい感じでとても美味しいです」
ニアの言葉を受けて、村長さんに向かって料理の感想を言うと彼はちょっと驚いたような顔をした。変なこと言ったかな?
「このスープの味付けはこの国では一般的なものだと思うが…君は異国から来たのかい?さっきのイタダキマスという言葉や女神様の名前のニュアンスが違うのも驚いたが…着ている服も見たことないねぇ」
たしかに、と荷馬車のオジサンや村長の奥さんもこちらを見ている。異物を排除したいような嫌な雰囲気ではないが、転校生が興味津々の子供達に囲まれジロジロと見られるような感じだ。なんて言えば良いか悩んでいると
「実在の前例を聞いたことが無いので、まだ仮定ですが…彼は妖精の穴に落ちた子供かも知れません」
ニアがカトラリーを置いて村長さんに言ってくれた。おお、さっきの神隠しだね!よし、その設定でこれからも行こう。
「はい、実は私は気付いたら草原に立っていました、それ以前の記憶は曖昧で…街道まで歩いたのですが、どちらに行けば良いのか迷って、困っているところを偶然通り掛かった彼らに助けて頂きました」
まぁそうだったの、と村長の奥さんは涙ぐんでいる。
村長さんと荷馬車のオジサンは、身なりも良いし言葉遣いからもどこかの貴族のご子息では?などと話している。すみません、庶民です。
今着ている服は日本では一般的な子供服だと思う。ちょっと良いお出かけに行くときに着せてもらっていたお気に入りの服だった記憶がある。
「まぁ妖精の穴で無くても、人攫いの可能性もありますしぃ、私達が責任を持って王都の神殿まで連れて行こうと思っていますぅ、何か分かるかも知れませんしぃ」
カエラがニッコリと微笑みながらコップに水で薄めたワインのような物を注いでくれた。ありがとうと受け取り一口のんだ、葡萄で出来たワインと言うより、ブルーベリージュースのような味だ。
「それが良いでしょう、本当に幸運でしたね」
村長さん急に敬語にならないでくれ…申し訳無さでいっぱいになってしまう。愛想笑いで誤魔化そう。
その後はお腹いっぱいになるまでご馳走になり、俺とジュノ、ニアとカエラの3人と1匹は先に部屋に戻って休むことにした。
オジサンと村長さんは村に卸す品の商談などをしてから休むそうだ。オヤスミナサイと言ってみたがそれもこちらでは馴染みのない挨拶だったようだ。そっか。因みに「星精霊のご加護を」と言われた。
2階に上がると僕達の部屋の向かいのドアから誰かがこちらを覗いていた。目の高さからして子供だろう。
こんばんはと声を掛けると男女2人の子供が部屋から出てきた、村長さんの子供だろうか?何となく似ている。
「なんだそれ?お前異国人なのか?」
腕を組んで話しかけてきた男の子は俺より随分大きいが、同じ10歳くらいだろうか?
実はわからないんだ、と答えると珍しいものを見つけたようにジロジロと見られてしまった。
「…コンパンマ?」
男の子の後ろに隠れるようにしていた小さい女の子が顔を出して小さい声でつぶやく。間違えてるが可愛いから許す、言っておくが俺は幼女趣味はない、普通にかわいいだろ、こんなん。
「こんばんわ、だよ。夜に会った人に言う挨拶なんだ。ボクはミツオミ、今夜ここに泊めてもらうことになったんだ、よろしくね?」
握手しようと思って手を出したら、握った拳を出された。そうだったこっちは手を握るんじゃなくて拳を当てるんだった。でもニアは冒険者の挨拶って言ってなかったっけ?
「俺はカート、こっちは妹のカイだ。」
カートとゴツンと拳をぶつけ合う、妹のカイも拳を出してくれたのでコツンと当てておいた。とっても嬉しそうにウフフと笑った顔が可愛い。
ニアとカエラは先に部屋に行ってるよと、行ってしまった。
俺も部屋に戻ろうと思ったらこっちに来いと、カートとカイが顔を出していた部屋に連れて行かれた。ジュノは頭の上にピョンと飛び乗って付いてきてくれた、カイが目をキラキラさせてジュノを見ている。あとで撫でさせてあげよう。