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おはようリトル  作者: たかや もとひこ
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第5話 深まる友情

「ピョン太っていうのは、どう?」

『海の上をピョンピョン飛び跳ねるから?』

「そうだよ。でもダサいかな」

『うぅん。ピョン太って名前、最高!』

「じゃぁ、いつもガーガー鳴いているプテラノドンは……」

『ガー子!』

「ガー子!」

 二人の口から同じ名前が同時に飛び出したので、ボクたちはしばらくの間、ベッドの上で笑い転げた。リトルの友だちの恐竜たちに名前をつけようと言いだしたのはボクだったが、二人ともこんなにも熱中してしまうなんて。海竜のピョン太に翼竜のガー子。それにトリケラトプスのドン助、パラサウロロフスのプリプリ。おかげで、夕飯に遅れて、姉さんにまた嫌みを言われるところだった。

「最後にあいつだけどさ」階段を下りながら、ボクは自分にだけ見える友だちに問いかけた。「あの大きなブラキオサウルス」

『あぁ。あいつなら、チビでいいかな』

「なんで?」

『だって仲間の中で一番小ちゃかったんだよ』

「えっ?! あれだけ大きいのに。それにチビっていったら……」

『なにが言いたいんだよ、モトヒコ?』

「リトルだって小さいくせに」

『言ったな』

 ボクとリトルは声をあげて笑った。

「一人でなにを騒いでるの? そんなところにいないで、早く降りてらっしゃい」

 母さんが忙しそうに声をかけてくる。そして「ほら。あんたもテレビばかり観てないで夕飯の支度を手伝いなさい」と、夕食時には珍しく居間でテレビにかじりついてた姉に小言を言った。

「テレビじゃなくて宿題してんの!」

「あら。遊んでるようにしか見えないわよ。さぁ、早く手伝って」

「これは『英会話番組』。宿題で必要なんだから。もう!」

 文句を言いながら台所に入ってきた姉は、すれ違いざまにボクの頭を小突くと挑戦的な視線をぶつけてきた。

「受験生と違って、小学生はのん気でいいわね」

「八つ当たりだ!」

『そうだ、そうだ! そんなんじゃ、モテないぞ』

「なんだって?!」

「いい加減になさい!」

 母さんの一喝(いっかつ)で姉さんとは休戦。母さんは姉さんと仕事を交代して庭で望遠鏡の調整をしている父さんを呼びにいった。

 その間、ボクは居間のソファに腰掛けて見るともなしにテレビを眺めていた。画面の中では外国人がテレビセットの喫茶店で、なにやら大げさに手を振り回してしゃべっている。

「リトルはテレビの中で、なにしゃべってるか、わかるの?」

「うん。この前の続きからすると……」

 リトルの学習能力にも驚かされるけど、知識欲はもっとスゴい。居間でボクが居眠りしている間も、ボクの耳を使ってテレビでいろいろな勉強することだってある。しかも一度勉強したことは忘れないんだから、宿題に追いまくられたときなんか、特にこのリトルの能力がうらやましくなる。あぁ、こんな力がボクにもあれば……。そうだ!

「ねぇ、リトル」

               *

 母さんが庭から父さんを早々と引っぱってきてくれたおかげで、家族四人、いや、リトルを含めて五人は、やっと夕食にありつくことができた。

「美味しいね!」

『うん! この肉じゃがは、なんとも言えないよ!』

「黙って食べな」と不機嫌そうな姉。

 それを無視して、隣の席にいるリトルに応えるボク。

「特に、玉ねぎと肉の、しっとり感…」

『それにジャガイモのほろほろ感…』

「あら、そう」

 母さんは、ボクらの会話を一人言(ひとりごと)だと思って(うれ)しそうに返事をする。でも母さんは父さんには油断のならない視線を投げかけ続ける。たまりかねたように父さんが口を開く。

「なぁ、中継だけでも……」

「ダメです」

「私だって我慢してんのよ、父さん。しかも宿題のためでもだよ」

「でも、こんな機会は……」

「『夕食の時はテレビもスマホも使わないこと』これは、あなたが言い出したことです」

「でもなぁ……」

『モトヒコ。お父さんは、そんなにテレビを観たいのかなぁ?』

「男のロマンなんだってさ」

 ソワソワし続けだった父さんは食事時間から解放されるや(いな)や、庭に出した望遠鏡までボクを引っぱっていった。

 居間ではボクとリトルのいたずらに姉さんが裏返った声で「ありえない!」という言葉を連発している。そりゃそうだろ、あの短時間でリトルが解いた英語の完璧(かんぺき)な答えを見たら。

 宿題を手に目を白黒させている姉さんの姿が目に浮かぶ。

 やったね!

「モトヒコ。これ見てみろ」

「『男のロマン』?」

「その通りだ!」

 父さんに促されてボクは望遠鏡をのぞき込んだ。視界の中に小さな火花が散って夜空を駆け下りてくる。と同時に(そば)にいるリトルの気持ちが強ばるのが感じられた。

 そうか。隕石の衝突を思い出しちゃったんだな。

「大丈夫だよ」と心の中でボクはリトルに語りかける。

 ほどなく、父さんが誰に言うともなく、こうつぶやくのが聞こえた。

「はるばる帰ってきたんだよ、やっと……」

 ボクが生まれる遥か前に小惑星探査のため、宇宙へ打ち上げられた探査機ウラシマ3号。ハヤブサやハヤブサ2号、それにオオトリに続いて冒険に出た宇宙の旅人だ。今では、すっかり珍しくなくなってしまった宇宙探査機の帰還(きかん)。でもウラシマは、たった一人で長い旅を続け、そして、いまやっと故郷に帰ってきたんだ。安らぐことのできる、ただ一つの場所。みんなが待ってる所に。

 ボクは思った。あの宇宙探査機はリトルと同じだと。

 でも、リトルはいったいどこへ帰っていくんだろう、それとも帰る場所もなく、このままずっと長い旅をし続けるんだろうか……。

 もちろんボクの時間がリトルといっしょの旅を許さなくなる時が来ることくらいわかっている。でも、かなうことなら、ずっといっしょに旅をしていたい。そしてリトルが帰るべき場所は、ここであってほしい。

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