01 パンの行方
風の街ウンディの外れには、水晶屋敷と呼ばれている屋敷がある。
石の収集を趣味としている屋敷の主人が住んでいる事からそう名付けられた屋敷では、主人の護衛をするという条件の下アスウェルという男の旅人が世話になっていた。
朝、そのアスウェルが起きて部屋でぼーっとしていると、使用人の少女が朝食を運んでくる。
檸檬色の髪を長く伸ばした、あどけなさの残る幼い顔立ちをした十四歳の少女、レミィだ。
いつもその頭の上にはトレードマークとなる、緑色のリボンのついたカチューシャがあるのだが、今日はない、代わりのものが乗っているようだった。
レミィは朝食ののったトレイを机に置くと、こちらへ向かってこの機会を待ってましたとばかりに発言する。
レミィ「アスウェルさん、大変なんです。バスケットにいれたパンがなくなったんです!」
アスウェルがその言葉を聞いたとき、使用人のレミィの頭には例のネコが乗っかっていた。
ムラネコという名前がつけられた、浮き輪をつけたネコに似た何か。この世界にはいない何かの生き物だ。
レミィになついて、よくくっついている。
ネコ「にゃあああ!」
むしゃむしゃ。
アス「……手を上げて頭の上に乗せてみろ」
レミィ「犯罪者扱いですか!? 私は犯人じゃないですよっ!」
妙な勘違いをしているレミィに近づいてムラネコをつまみ上げる。
アス「次からは犯人探しをするときは自分の頭の上までよく見ておくんだな」
レミィ「はっ、ムラネコさん!」
ネコ「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
ぶら下げられたままのネコは、アスウェルの手の中から脱出しようと必死にもがく。
アス「鍋だ。今夜の料理のリクエストだ、料理長に伝えておけ」
レミィ「だ、駄目ですよ! ムラネコさんは食べちゃダメです!」
テーブルについて、運ばれてきた食事を口に運ぶ。
こうしてやかましく一日が始まるのが、ここ最近のアスウェルの朝だった。