夢祭村
今年もやってきた祭りの季節。
わたしの地元はこう言っちゃなんだけど夏祭りは手を抜く。
その代わりに秋の祭りに力を入れてるの。
どこの地方でも夏祭りやってるから、お客さんを呼ぶならこの時期にやった方がいいのよね。まぁ、他方も文化祭、とかやる時期だし、多少の差にしかならないけど。
花火も勿論上がるわ。
秋の花火なんて珍しいって、他方から観光客が来るの。夏の花火とは違って、秋仕様の花火は色味なんかが違ったり、銀杏の形とか椛とか、形を変えた花火も上がる。
花火師も気合い入ってるのね。
この祭り、元々ここは自然災害が多くて、神様に供物を捧げることから始まったらしいんだけど、今はそんなこと忘れられて皆楽しんでるわ。
……だけど、この祭りには秘密があるの。
特別に教えてあげるわね?
実はこの祭りは毎日行われているの。
さっき言った神様に供物を捧げるってことね。毎日よ。
これをそのまま仕事として毎日やってる人もいれば、家族で交代でやってるとこもある。
市役所から支援がされるから、毎日やってても生活はできるの。
寧ろ、神に感謝しているとされ、御礼が出るわ。これが結構な額でね、この辺の人達はみんな祭りに参加しているわ。
この村は特例が出てるの。
祭りをするってことが贄とされ、この市を守ってくれてありがとうってことでね。
贄の役割を果たさないといけないから、この村の名前は消えないんだけど。
他方から人が来るのは、来れるのは秋だけなのよ。今の時期だけ。この3日間だけ。この地域に入ることを許されるの。
それが今年もやってきた。この時だけは色んな人と出会えるから楽しかったわ。
他の日はそもそも、ここに観光に来れないのよ。
だからその3日間だけは、他方の人達にはこの秘密を話さないから、それを忘れてみんな楽しんでるってわけ。地元の人達もこの3日間だけは純粋に祭りを楽しむ。他方からのお客さんで忙しいしね。
なんでこの3日間しかこの地域に入れないか知りたい?
この村は存在しない村だからだよ。
え?さっき話したのと違うじゃないかって?
ほんとの話よ。昔の話だけど。
贄は必要なくなったとされたの。役所の人間が変わった所為でね。穀潰しとされて、村は潰された。
だけどこの村の祭りが好きだった市の人達が、この村の名前を使って祭りを始めたの。
だから3日だけ。秋だけ、他地域の人もこの村に入れるのよ。
じゃあこの祭りはなんだって?
だから、私たちは毎日祭りをやっているんだってば。終わらない祭りをね。この村で。
わたしもね、わからないんだ。
なんでお兄さんとお姉さんの2人だけがここに来れたのか。何してたの?こんな時間に?こんなとこ迷い込むなんて。
まぁでも、なんでもいいや。
もう帰れないだろうし、お兄さんもお姉さんも、わたしたちの仲間だよ?
一緒にお祭りしよ?案内してあげるよ。今日だけ特別ね。
明日からは働く側にも回ってもらうから。
最近ちょっとだけ手が足りなくて困ってたんだよね。ちょうど良かった。
え?帰りたい?
無理だよ。どうやって帰るのさ。どこから来たのかもわからないのに?
あ、そう。そっちから来たから戻ればいいだろって?
おっけー。じゃあ行ってみてよ?
多分、また会うことになるよ。
手を振って見送る。
お兄さんとお姉さんは村の南の道を真っ直ぐ歩いてった。
じゃ、私は北の役所で待ってよっかな。
*********
彼女と仲直りの為に、祭りに行こうと誘ったのは俺だ。
花火も上がるし、秋の花火って珍しいだろ?って、車出してきたのに。
なんだ、あいつ?なんだ、ここ?
今日は祭りの日じゃねぇのかよ……
彼女は何も言わない。
俺も何も言わない。
何を言っていいのかわからない。
ただひたすらに、近くに止めたはずの車を目指した。
暫く歩くと灯りが見えてきた。
車のライトは消してきたはずだ。
ってことは……。
あの女の子の姿が見える……。
********
お、帰って来たみたい。
おかえりって言うと凄い怖い顔してた。
お姉さんは恐怖に怯えた顔してる。
あはは。村を1周してきたみたいだね。その道を真っ直ぐ行くとどこに出るのか知ってたから、ここで待ってたわけだけど。
え?今日は祭りの日のはずだって?
調べたら出て来たって?
お兄さん、ちゃんと見た?
それ、去年の日付だよ。
今年は昨日で終わったの。
でも大丈夫。怖くないよ。そんな顔しないで。
楽しい、楽しい、永遠に終わらない祭りへ、ようこそ。
これから、ずっと一緒だよ。
女の子がただただ喋ってるだけになってしまった。当初の予定はこうではなかった気が……( ˘ω˘ )