第5話
目の前の少年は自分は日本人だと言った。
「日本人!? 」
「ああ、そうだ。信じてねぇんなら漢字でも書いてやろうか?」
マジか。いきなり日本人に出くわすとは思ってもみなかった。と言うかここに来て会話した中の3人目が日本人とかどんな確率だよ。異世界人って実は多いのか?
「俺は音羽 響だ。ヨロシク」
「お、おう」
少々戸惑ったが、こいつは俺と同じ日本人の様だ。
身長は大分小さく155センチと言ったところだろう。
目つきは鋭いがちっちゃいのであまり怖くはない。
髪は金髪なので見た目は完全に不良だ。
ん?という事は……
「なあ、いきなりで悪いけど、この街のクレープ売ってる店知ってるか?」
「あ?ああ、知ってるぜ。と言うか俺はあそこの従業員だ。ちなみにクレープ以外も売ってる」
ビンゴだ。やっぱり異世界人絡みの店だったんだな。チャーンス。
「あー、響でいいか?」
「ああ」
「じゃあ響、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
「頼み? 何だ?」
「実は……」
俺は事情を話した。
同じ日本人同士きっとわかってくれるはず。
「というわけでお前が働いてるところに泊めてくれないか?」
「あー……」
考えてくれているな、じゃあもうひと押し。
「頼む! ここまで来て野宿はきつい!」
いけるか?
「しゃーねーな、わかったよ」
「マジか!助かる!」
こうしてなんとか今日の寝床を得たのだった。
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スイーツ屋に向かう途中、響からいろんな話を聞いた。
「俺がこの世界にに来たのは今から2年前くらいだ」
2年か。長いような短いような
「起きたら服が変わっててよ、すっげぇびびった。最初は手の込んだドッキリかと思ったんだけど、自分の家を探して歩き回ったら亜人やらドラゴンやらで、もう訳がわからん。よく見ると全部本物だったって気づいて、ようやく自分の現状に知ったってとこだ」
「そりゃあ、あんなもんいきなり見せられたらびびるよなぁ。俺もドラゴン見てビックリしたし」
やっぱりみんな初見じゃ驚くだろう。俺も気絶して起きたら自然溢れる森の中だからな。そういえばあの頭痛はやばかったな。あの野郎俺だけにあんな……って待てよ。こいつも召喚されたなら何かあの黒男について知ってるかも。
俺は期待して聞いてみた。
「お前召喚される前後に黒づくめの男見なかったか?長身の奴だ」
「あ?黒づくめ?しらねぇな。コ◯ン君かよ」
「違げぇよ。まあ知らないならいいや」
どうやら知らないっぽいな。一体どういう事だ? 召喚のされ方って人によって違うのか? まだ俺を含め二人しか会ってないから情報が足りないな。現状はなんとも言えないか。とりあえず別の質問をしよう。
「なぁ、お前もこの近くに召喚されたのか?」
それに対する答えは、
「いんや違う。俺はここから大分遠いところに召喚された。最初はそこに居たんだが、なんというか色々あってこっちに来た。この街結構有名なんだぜ?」
と言われてもここの常識にはまだ疎いので反応に困る。
「そうなのか。全然知らなかった。俺は二日前に召喚されたばかりだからな」
すると響はふぅん、と言って何か納得した様な顔をしていた。
「……なるほどな。だから昼間……」
ブツブツ言っていたが俺には聞こえなかった。
「? なんだ?」
「いやなんでもねーよ。おっ、ついたぜ」
話しながら歩いていたらいつの間にか着いていた。結構立派な建物だ。店の名前は……そういえば読めないんだった。
「やっぱ店名微妙だなー。"異世界スイーツ屋"ってまんますぎ」
なんと響は平然と異世界文字を読んでいた。
「お前これ読めるのか?」
「あん?逆にお前読めねーのか……あ、そうか知らないのか」
「どういう事だ? 」
「まあ、ここの店長に聞いたらお前も読めるようになるぜ」
「へえ」
どんな奴なんだろうか?
「とりあえず店入ろうぜ。あ、泊まりの件聞くには聞くが多分と言うか間違いなくOK出ると思うぞ」
「それなら嬉しいけど、なんで?」
「まあ話を聞けば分かる」
そして俺たちは店に入った。
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「へぇ、立派な店だな」
ここの内装は日本の喫茶店にそっくりだった。
落ち着いた雰囲気で少々和のテイストが入った感じだ。
「いやー、そう言ってもらえると嬉しいッスね」
「おう、こういう店……!?」
横に響がいたので普通に話していたが、相手は響では無く知らない奴だった。
というかどこから現れた。
「おークウ、今日もやってんな」
「ははっ、これ結構面白いんでやめられないッスよ」
いつもやってんのかコイツ。
クウと呼ばれたこの男、身長は俺と同じくらいでメガネを掛けている。
茶髪でかなりのイケメンだ。
日本だったらモデルやらジャ◯ーズにでもなってそうな感じだった。
特徴はてっぺんにアホ毛がある。
俺が観察しているとすぐさま自己紹介を始めた。
「初めまして。僕は藤崎 空護ッス。日本人ッス」
「!?」
え、 マジで!? 日本人多くね!?
「おっ、その反応は君もッスね?なるほど、ヤンキーの響ちゃんが連れて来たのはそう言うことッスか」
「おいクウ、ちゃん付けやめろっつってんだろ。ぶっ殺すぞ」
怖いこと言ってるなぁ。と言うかヤンキーは否定しないんだ。
「あ、そうだ。こいつここに泊めてやれるか?」
「いいッスよ」
「軽っ!」
助かるから嬉しいけど、いいのか?
「まあ同じ日本人ッスから。僕はYESと言える日本人ッス」
「それダメな奴じゃねーか」
響がツッコミを入れていた。
そうか、日本人だったのか。だからOK出るって言ってたんだな。
「但し条件があるッス」
こんな事を言って来た。
まあタダで泊まるのは悪いしそれくらい呑むか。
……無茶振りしないよな?ちょっと怖くなって来た。
「わかった。条件は?」
「条件は———」
なんだろ。
「ここでバイトをして欲しいッス!」
全然普通だった。
「なんだ、それなら大丈夫だ」
ともあれこれで一安心だ。
「じゃあよろしくな。俺は宮下 刻だ」
「こちらこそよろしくッス」
俺たちは握手を交わした。
「さて働いてもらうのは明日からにするとして、いろいろ話を聞きたいッスね」
「いいけど俺ここに来てまだ二日しか経ってないぞ」
「へぇ、そうなんッスか。じゃあ軽い自己紹介でいいッスよ」
「OK。じゃあ改めて自己紹介する。俺は宮下 刻。日本から来た16歳の高校生、と言いたいとこだが学校には通ってない」
「ニートッスか?ダメっすよー16歳のくせに」
「ちげーよ」
初っ端から失礼な奴だな。
「それじゃあ皆同い年ッスね」
「は?」
え?と言うことは……
チラッと響を見ると、ギロリと睨んで来た
「あ?俺は16だ。おいテメェ、まさか俺が小学生、中学生だとか思ってたんじゃねぇだろうな?」
はいご名答。と言ったら絶対ダメだな。
すごくご立腹だ。
「あはは、響ちゃんいろいろちっこいッスからねー」
いろいろって何だよ。
……ナニか? そこは言っちゃ駄目だろう。人によっちゃあ立ち直れないんだぞ。まあ何にせよまずい。
「おいおい、そんな事を言ったら……」
おそるおそる響を見る。
その顔はゆでダコの如く真っ赤になっていた。
あれ? 思ってたよりずっと怒ってるぞ。
「き……」
「き?」
「気にしてんのにぃぃ!!!」
響の右目が変化し出す。
黒目の中に波の様な模様が広がる。
すると辺りの物がブルブル震え始める。
次第に震えはこの家自体に伝わっていった。
「なっ……!」
揺れは徐々に大きくなっていく。
棚などを見るが動いてない。
恐らく対策はしてあるのだろう。
しかし、かなりミシミシ言っている。
うわ、やっば……これが神眼の力……!
「ちょっ、響ちゃんストップストップ! 悪かったッスよ!」
一向に止まる気配がない。
「あーもうわかったッスよ! 後で好きなもん好きなだけ奢ってやるッスから!」
「おいおいそんな事で止まるわけ———」
その瞬間から揺れが弱まり始める。
止まるんかいっ!
「……ホントか?」
「もちッス」
「なら許してやらなくもない」
完全に歪みが消えた。
響の目も元通りの黒目になっていた。
「今のは神眼か?」
「そッス」
「ものすげぇな……あのまま続いてたらどうなってなんだ?」
「家ごと下敷きッス」
「怖いわ! 」
何を平然と言ってんだ!
「いやー、ついカッとなっちまった。」
奢ってもらえるとの事なので大分上機嫌だった。
「おいクウ。もしスッポかしたら頭のてっぺんのアンテナブチ抜くからな」
「これだけはダメッス!」
頭……というかアホ毛を守るようにしてそう言った。
「なあ、これ何の能力だ?」
「波動ッス」
なるほど。だからあんなブルブルなってたんだな。改めて異世界ってすげぇな。
「眼の中の模様は能力を表してるッス。あの波みたいなのが波動を表してるんッス」
「へぇ、色々知ってんだな。そういえばお前いつこの世界に来たんだ?」
「僕ッスか?僕は今から4年前っす」
「4年ってことは……小6じゃん!」
「そうッスよ。詳しいのはその間いろんな召喚者から話を聞いたからッス」
小学生の時にこんなところに送られたら苦労が絶えないだろう。
ただでさえ子供なのに増してやここは異世界。
無知な子供が生き抜くのはかなり難しいだろう。
「小6から異世界とか壮絶だな。寂しく無かったのか?」
「まあ寂しかったっちゃ寂しかったッスけどそうでもないッス。結構はしゃいでたッスしね。だって異世界ッスよ?」
「まあ、そうかもしれないけど」
「……寂しがる様な余裕は無かったんッス」
「ん?」
何と言ったのか聞き取れなかった。
「次の話題行くッスよ。刻君の神眼の能力はどんなッスか? ちなみに僕のは———」
すると空護の眼が変化し始める。
眼に渦の様な模様が浮かぶ。
「!?」
いきなり移動させられていた。
「これッス」
「どうッスか? 僕の能力は空間操作ッス」
「なんかするなら言えよな。それにしても今のはすげぇな。瞬間移動か?」
「そうッスよ。空間を入れ替えるんッス。効果範囲は狭いッスけど」
なるほど、さっきの登場はこれを使ったのか。
「神眼ってみんなそんな感じなのか?」
「うーん、何と言うか一概にそうとも言え無いんッスよ」
「というと?」
「僕の神眼は普通の神眼とは別物ということッスよ」
「そうなのか?」
「そうッス。所持者がここの人間か、異世界人かという違いがあるッス」
「その違いでどう変わるんだ?」
「2つあるッス。それは、異世界の神眼には普通の神眼には無い能力がいくつかあることッス」
おお異世界人補正か。
「もう一つは所持者に主人となる神がいないことッスね」
なるほど、概ね理解した。やっぱり異世界人補正かかってんのか。
「と言うわけでこの眼は通常の神眼の力ではないんッス」
勉強になるな。だがひとつ気掛かりなことがあった。
「教えてくれるのは嬉しいけど、そう言う情報とか、自分の能力って普通は隠すもんじゃないのか?」
こんな会って数分の奴に教える様なことじゃ無いよな。
「それは大丈夫ッス」
「何で?」
「そこは言えないッスね。けど確信はあるッス。君は信頼に足る人物だと言う確信が」
「そっか。なら俺も信用する。と言っても俺の神眼の能力だっけ。実はよくわからないんだよ」
「と言うと?」
俺は召喚されてからの事を二人に話した。
響は途中から寝ていた。
「なるほど。じゃあここで働く間はいろいろレクチャーするッスよ。さっきの神眼の効果とか」
「いいのか?」
「もちッス」
「じゃあ改めてよろしく頼むわ」
「りょーかいッス」
すると響が起きた。
「……ん。おっ、話は終わったっぽいな。じゃあ歓迎会だクウ。なん買ってこい」
「やれやれッス。響ちゃんが食いたいだけじゃ無いッスか」
「るっせーな。いいから行って来やがれ」
「はいはい」
こいつら2人とは長い付き合いになりそうだ。
何となくそう感じたのだった。