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第3話


 正直諦めかけていた。


 私一人なら逃げ切れたかもしれない。

 けれど、この子を守りながらだと逃げるのは難しい。

 かと言ってこの子を置いていく事は出来ないのだ。

 こんな小さな子供を置き去りにして、逃げることなんて出来るわけがない。

 だから、絶対に私が守り抜こうと思っていた。


 しかし、ゴブリンの前ではなす術は無かった。

 今の私は戦闘能力がまるで無いからだ。

 強い肉体も高レベルの魔力値も持ってない。

 唯一使える能力も制御できない。

 何かを守るには私はあまりにも欠落していた。


 そう考えているうちにゴブリンが迫って来る。


 今の私にできるのは女の子を安心させることくらいだ。

 

 「大丈夫、私が守るから」


 不安を悟られないように微笑みかける。


 虚勢だ。

 私にそんな力はない。

 それでも私にはこの子を守る義務がある。

 いや、この子だけじゃない。

 他にも沢山……だから死ぬわけにはいかない。


 覚悟を決め、一か八か力を使おうとした時だった。

 突然横から叫び声が聞こえた。


 「こっちだ化け物!」


 突然の声に驚いた。

 振り返ると同い年くらいの少年がいる。

 人間だ。

 その少年はゴブリンに向かっていった。

 武器も持たずにだ。

 無茶だと思った。

 見る限り何の能力も持たない、武器すら無いただの人間が魔族に戦いを挑むなんて無謀にもほどがある。


 止めなくちゃ。


 止めなければ死んでしまう。

 彼は多分私達の為に戦ってくれているのだろう。

 そんな人をむざむざ死なせてしまうわけにはいかない。

 しかし、少年は一向にやられない。

 それどころか少しずつゴブリンを攻略していってる。


 「すごい……」


 本当にそう思う。

 恐らく冒険者でも無い普通の少年だ。

 それがゴブリンと戦っているのだ。

 少年はついにゴブリンの攻撃を止めた。

 だが、ゴブリンは手を封じられ少年に蹴りを入れようとしていた。

 私は咄嗟に声を出す。


 「危ない!」

 

 少年はこちらに気づいた。

 が、間に合わなかった。

 結果ゴブリンの蹴りは少年に直撃する。

 少年はは吹き飛ばされ、さらに木が倒れ込んできたせいで動けなくなっていた。


 ああ、私のせいだ。


 後悔の念が湧き上がる。

 もっと早く止めていればこんな目に合わせずに済んだのに。

 それに、もうダメだ。

 ゴブリンはどんどん近づいている。

 でも、諦めたくは、ない。

 

 「せめて……足搔けるだけ……」


 私は足掻く。

 こんな所で死んだら皆に顔向けできない。

 小さく拳を握り、致命傷だけは避けようとした。


 すると突如ゴブリンが後ずさった。


 「「!?」」


 目の前には先程の少年。

 どこか様子が違う。


 「……あっ」


 眼だ。


 そのまま戦況がひっくり返りゴブリンは瞬く間に倒された。

 少年はそのまま倒れてしまう。

 慌てて駆け寄ったが、命に別状は無さそうだ。


 なんにせよ助かったのだ。

 この少年のおかげで。

 しかし、この少年について気になることもあった。


 「あの力は…………ううん、ダメ。彼は私たちを助けたんだから」





 


———————————————————————————






 

 「あ、起きた」

 

 起きたら目の前に美少女がいた。

 上から見下ろす感じでこちらを見ている。


 というか誰だ?


 「もう大丈夫?」


 聞き覚えのある声だ。

 ああ、なるほどさっきの子か。


 「……ん、」


 両手を前にかざしてグーパーをする。

 特に異常はない。

 足も動く。

 俺は起き上がって返事をした。


 「ああ、もうバッチリだ。君の方は大丈夫なのか?」


 「うん。特に大きな怪我はしてなかったわ」


 見る限り彼女の言う通り大きな怪我は無い様だった。

 それを聞いて安心した。


 「あっ、こんなのかぶったままじゃ失礼ね」


 少女はフードを取った。


 「…………」


 つい、見入ってしまった。


 フードを取った彼女はとても現実のものとは思えないほど綺麗だった。


 風にたなびく桃色の髪にも、透き通ったブルーの瞳にも、雪のように白い肌にも、全てに見惚れた。


 こんなに綺麗な女の子は今まで見たことないし、世界中探したってそうは見つからない。



 ————なのに、どうして懐かしく感じるのだろう。





 「どうかしたの?」


 ハッとした俺は慌てて答える。


 「あっ、いや美少女だったのでつい見とれてた」


 軽口っぽくなってしまった。

 少し話題を逸らすことにしよう。


 「えーっと、それよりさっきの子は大丈夫?」


 「え? あっ、うん。大丈夫寝てるだけだから」


 美少女と言われて照れていた。


 なにこの反応。可愛い。


 一緒にいた子はこの少女の側で寝ていた。

 どうやらこの子も無事なようだ。


 「あなたのお陰でなんとか死なずに済んだわ。ありがとう」


 そう言って彼女は微笑んだ。

 俺はその笑顔にドキッとした。

 

 「ねぇ、名前、教えてくれる?」


 そういえば自己紹介がまだだった。


 「俺は刻。宮下 刻だ」


 「トキ、ね。私はクレアよ」


 「クレアか、よろしく」


 「うん。よろしく」


 俺たちは握手を交わした。







———————————————————————————






 「ここってあんなのがよく出るのか?」


 「ううん、今まで聞いた事ないわ」


 「ははっ、そりゃ運が悪かったって感じだな」


 極々稀にってそんなに低確率の災難が降りかかっていたのか。

 それはついてない。


 「死にかけたんだから笑い事じゃないわよ」


 「ははは」


 そりゃそうか。戦う前はあれほどビビってたのを思うと確かに笑い事じゃあない。でも、生き残った…… 生きてるんだ! これ程までに“生”を実感した事はない……事もないか。まあでもあれだけボロボロになって……


 「ん?」


 全身を見てみると、


 「治ってる、?」


 これはどう考えても自然治癒じゃ無い。

 俺はパッとクレアの方を見て尋ねた。


 「傷が治っているのはクレアが直してくれたのか?」


 「うん。薬を“創った”の」


 作った……こんな何もないところで? 調合みたいな感じか? まあいいけどな、助かったし。


 「悪いな、助かった。こんな見ず知らずのやつ助けて貰って」


 「こっちが助けて貰ったのに何もしないわけにもいかないでしょ」


 それでも助けてもらえたら嬉しいものだ。


 「ねぇ、トキはここで何をしてたの?」


 「うーん、“何を”か」


 なんて言うかべきかな……まあ知られてもいいか。異世界人は処刑なんてことは無いだろう。






———————————————————————————






 俺はここに来てからのことを全て話した。


 「と言う訳で俺は異世界人だ。何をしていたかと言うと森を出ようとしていた。まぁ全然出られなかったけどな。はは」


 基本異世界人だと聞いたら驚くものだと勝手に想像していたが、クレアは予想に反して、


 「ふぅん」


 あまり驚いていなかった。


  あれ? あんまり驚いてないな。もしかして異世界人って割と知られているのか?


 試しに聞いてみた。


 「思ったより反応薄いな。ということは異世界人っているんだ」


 「かなり少ないけどね」


 「へぇ、そうなのか」


 やはり知られているようだった。


 まあ、いるだろうとは思ったけど知られてるとまでは思ってなかったな。そういうこともあるんだろう。そもそも俺の偏見だし。

 さて、じゃあ今度は俺が聞くか。


 俺はクレアにこう質問した。


 「じゃあクレアはここで何をしていたんだ?」


 「私? 私は……」


 それを聞いたクレアは急に顔色を変える。


 「あっ! そうだった……いけない、早く探さなくちゃ……」


 クレアは立ち上がって何かを探すように辺りを見回した。


 「探さなくちゃって何を? 人か?」


 「ううん、違う。私が探してたのは女神の果実って言う果物よ」


 「女神の果実?」


 聞きなれない名前が出てきた。

 この世界のものなのだろう。


 「どんなものなんだ?」


 「女神の果実は簡単に言うと万能の薬みたいなものなの。どんな病気や呪いでも口にしただけでたちまち良くなるらしいわ」


 どんな病気もってすごいな。最先端医療も真っ青だ。というか呪いなんてものがあるのか。


 「ってことは誰か病気だったり呪われてたりしてるのか?」


 「うん……大事な家族が呪いに冒されてるの。だから絶対見つけないと……でもかなり希少な果実で見つかった例が全然ないらしくて……それでも探さなきゃいけない」


 その表情から彼女の必死さが見て取れる。

 それほど大切な家族なのだろう。

 だったら、


 「……よしっ、俺も手伝ってやる」


 「えっ、いいの?」


 「ああ、もちろんだ」


 命の恩人の頼みは断れないしな。


 「ちなみにどんな果実なんだ?」


 「真っ白で丸くて、表面が光っているらしいの」


 ん?それどっかで見たことあるな。

 まさか、


 「もしかして……これのことか?」


 俺は昨日見つけた果物をカバンから取り出して見せた。


 「ああ、これなら納得だ。そうか、これ女神の果実って言うんだな」


 「あーっ!そ、それ!え?なんで持ってるの!」


 クレアは若干引くぐらい身を乗り出して来た。


 「じゃ、じゃあはい」


 俺は果実をクレアに渡した。


 「え?」


 「俺にはもう必要なさそうだしな」


 「いいの!? ありがとう!」


 うむ。いいことをするのは気持ちが良いものだ。こういうのはなんかのフラグのなるというのがお決まりだしな。


 「何かお礼できないかな?」


 ほれきた。と言っても特に希望はないな。


 「うーん、いや、特にないな」


 「そっかあ。じゃあ、とりあえず今から私たち街に行くんだけど一緒に行く? この子も連れて行かなきゃだし」


 「何っ! 街か!」


 ついに異世界の街に行けるのか!そしてここから出られる!


 「よし行こう、今行こう、すぐに行こう!」


 「う、うん。すごい食い付きね。」


 楽しみだなあ。やっぱりケモ耳は欠かせない。異世界の街が俺を呼んでるぜ!


 若干変なテンションになってしまったが、異世界二日目にして漸く森を抜けれる。


 子供も起きたので街行く準備は整った。

 俺たちは森を出るべく出発した。






———————————————————————————






 そこから余り時間が掛からなかった気がする。

 昨日あれだけ歩いて外に出れなかったのに……と少しガックリしたが、森から出られると思うとそれも一瞬だった。


 森を抜け外に出る。

 そこに広がった景色は異世界と呼ぶのに相応しい所だった。

 

 「おお!凄っげぇ!」


 広々とした草原が広がっていて、知らない生き物が沢山いる。

 塀に囲まれた大きな街が見えた。

 見たことが無い世界に感動した。

 そんなことを考えていると、


 「そっか、トキはここに来てまだ誰にも会って無いんだよね?」


 「? ああ」


 「じゃあ一応……」


 こう言うのは気分だしね、と言ってクレアは前に出る。


 「それじゃあ……」


 大きく手を広げこう言った。


 「ようこそ。神々が住まう世界〔ヘヴンへイム〕へ!」


 ヘヴンへイム。

 それが、これから俺が過ごす世界の名前だ。


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