第27話
魔石を回収する
「ふう、これはちょっと魔力が余分に消費されている気がするな。鑑定、鑑定っと。うひゃー、数倍はいってるぞ」
それでもまだまだ余裕があった。
魔力が多いというのを改めて実感する。
「さて、おーい、大丈夫か?」
まずは冒険者達の安否確認だ。
巻き込まないように配慮はしたが念のためだ。
「ああ、大丈夫だ」
巻き込んでなかったようだ。
一安心一安心。
「あんたら冒険者か?」
「ああ、あそこで倒れてるおっさんのパーティに所属してる」
さっきのおっさんか。
「ねえ君、さっきのは魔法?」
魔法使いっぽい女冒険者が尋ねてきた。
「まあ、みたいなもんだ。第二魔法と同等らしい」
「ええ! それを詠唱もしないで連発したの!?」
「うん」
魔法使いは若干引いたような驚いたような目で見ていた。
俺は気にせずに、詠唱とかいるんだ。とか考えていた。
「なあ、俺たちのパーティに入らないか? このダンジョン限定でいいからさ」
おお、勧誘された。ダンジョンに慣れた冒険者達と一緒の方がスムーズに進めそうだし、加わっとくか。
「わかった。パーティに加わる」
「ホントか! 助かるよ! ここの魔物強いんだよなぁ。君が加わってくれるなら百人力だ」
周りの人たちも喜んでいる。
この人たちは俺より戦闘力の面では劣るかもしれないが、経験という面では優っているはず。
win-winというやつだ。
「よし、じゃあ早速移動しよう」
「ちょい待ち。あのおっさんのこと忘れてるぞ」
すると、冒険者達は一瞬とぼけた顔をして、
「あははははは!!!」
笑った。
「いや、いいんだよあのおっさんは。いつも偉そうに命令してさ。今までは勝てていたから我慢していたけどもうウンザリだ。今回このエルフがいなかったら俺らは死んでたんだよ? もう流石に見限るって」
その目は見たことがあった。入り口でエルフへと人々が向けていた目だ。
なるほど、こういう奴らなのか。と思った途端心のどこかが一気に冷えていったような感じがした。
これは組めない。
俺はこういう連中が一番嫌いだ。
元から味方じゃないやつがチョロチョロしてるのはまだ我慢できるが、これは無い。
だから、
「やっぱ、今の話なしで」
組まないことにした。
俺がそういうと、あたりの冒険者がざわつき始めた。
特に俺を誘ったやつはすごい顔になっている。
「えっ、な、なんで……」
「パーティメンバーを簡単に切るやつを信頼できると思ったのか? 悪いが俺は無理だ。んじゃ」
俺は倒れているダンゲルのところまで歩いていった。
「畜生、なんなんだよあいつ。せっかく誘ってやったのに」
イライラしている様子。
このパーティは良くも悪くもダンゲルの影響が強く、何人かは荒んだ性格になってしまった。
要はキレ症になったのだ。
そこにさらに彼らを追い込む出来事が。
「なあ、話がある」
エルフは言った。
箱の中から特製ポーションを取り出して、ダンゲルに使わせた。
「おっさんこれ使え」
ダンゲルはポーションを使うとその効果に驚愕していた。
「貴様、こんなものをどこで……」
「貰いもんだ。それとなおっさん。説教垂れるつもりじゃ無いけど、アンタ相当嫌われてるぞ。パーティ内でのそういうのは後々厄介になる。リーダーなんだろ? その辺考えとけよ」
「…………」
ダンゲルは黙り込んだ。
文句を言わないあたり思うところがあるのだろう。
俺はそのまま先へと進んでいった。
ちなみにこのパーティはその後生き残る為に一致団結し、Aランクパーティとなっていくのは別の話。
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「失敗したなぁ」
俺はエルフに声を掛け忘れていた。
再びソロ攻略だ。
正直多少心細い。
さっきの連中もちゃんと話せばわかってくれたかもしれない。
………いや、やっぱりさっきのは許せなかっただろう。
その事は後悔してはいけない。
「……ん?」
来た道から魔力感知に引っかかっている何かがこちらに向かっている。
モンスターでは無いだろう。
通った時はいなかったし周辺で急に湧いたら流石にわかる。
つまり人だ。
向こうも感知できるなら恐らく気がついている。
丁度いい分かれ道がある。
試しに撒いてみよう。
「……っ」
俺は少し速度を上げて分かれ道に入る。
向こうも上げてきた。
やはり俺を追いかけているようだ。
隠れようとする気配は無いあたり敵意はないのだろう。
「なんで追いかけてくんだ?」
心当たりは無い。
いや、さっきのやつらの誰かいう可能性はある。
敵意が無いという事は引き止めに来たのだろうか。
だが、不確定なのでもう少し様子を見たかった。
追いかけっこは割とあっさり終了した。
「おい! 聞こえているだろう」
「!!」
追いつけないと思ったのか大声で叫んでいた。
仕方ないので会いに行ってみる。
「誰だ」
暗闇から出てくる人影。
それは、
「さっきのエルフか?」
「ああ」
さっきのエルフは何故か一人で俺を追いかけて来たのだ。
「なんか用か? もしかしてさっきの連中に引き止めるよう言われたんなら悪いけど俺は戻ら———」
「私と一時的にパーティを組む気は無いか?」
一瞬の間をおいて、俺は聞き返した。
「パーティ?」
「そうだ。お前はあの連中の薄情な所に嫌気がさして加入を断ったのだろう? 私もああいうのは好きじゃない。もともとある程度までという約束だったのを長引かせていたから丁度いい頃合いだったので抜けたまでだ」
「なるほど、んじゃセーフだ。よろしく」
「無理を言ってるのはわかって、え?」
「聞こえなかったのか? よろしく」
「い、いいのか? あっさりパーティに入れて。お前は私よりずっと強いだろう? ここのモンスターなぞ容易く倒せる筈……」
確かに彼女が言うのはもっともだ。
それでもパーティに入れるのはやぶさかでは無い
それに理由はある。
「アンタ途中までって約束をしていたんだよな?」
「ああ」
それがどうしたと言った感じの顔だ。
「それは不自然だ。パーティを組むにしても途中までって事は無いだろ。でもアンタはそうした。それは途中までにしておきたい理由があったからだろ」
「……!」
図星のようだ。
俺はそのまま話を続けた。
「俺のとこに来たって事は誰かと待ち合わせをしていたわけでは無い。なぜ離れてあいつらでは無く俺のところに来たのか。真っ先に思い浮かぶのは戦闘力。あー、こう言っちゃ悪いけどあの連中はお世辞にも強いとは言えない。入り口にいた冒険者連中も多分似たり寄ったりの実力だ。つまりアンタは何かと戦いに来た。違うか?」
「……お前本当に子供か?」
「ああ、ちょっとだけ小賢しいだけのガキだぞ、俺は。その返答は正解って事だよな」
エルフは少し間をおいて言った。
「ここのダンジョンマスターはエルフなんだ。私はそいつを倒さなければならない。しかし、奴は強い。何人もの同胞が殺された。私の兄も……」
「……!」
「私だけでは到底敵わないだろう。だから、主の層で一緒に戦ってくれそうな者を探そうと思っていたのだ」
大方事情は把握した。
なるほど、これは大変な事だろう。
ただでさえこんな事に巻き込まれようとする奴は少ない。
その上彼女はエルフだ。
色々な人に忌み嫌われている。
条件としては最悪だ。
「頼む。私と共に戦ってはくれないだろうか」
断るべき、なんだろう。
見ず知らずの奴に命を賭けるのは余程のバカか聖人君子くらいだ。
なら俺は馬鹿なんだろうな。
こんなことを聞いてしまっては引き下がれるわけがない。
肉親を失う痛みなら俺にだって理解できる。
「いいぜ、戦ってやる」
「!」
「ただし、殺しはしない。それだけは絶対にしたくないんだ。それでいいなら俺は協力を惜しまないぞ」
ここで逃げるようなダセー真似はしない。
「ありがとう……!」
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