第26話
「お?」
俺が思った以上に簡単に壁は砕け散った。
こんなことなら思いっきり強化しなかったらよかったと少し思ったり思わなかったり。
気になるのはこの手に残る感触。
これは、
「うわ、さっきのデカイモムシとはまた違うイモムシか。ひえー、気持ち悪っ」
ブルブルと体を震わせてみる。
さっきの鷲掴みよりはずっとましだがそれでも気持ち悪い。
「さてと、この状況は……」
横には腰を抜かしたおっさん。
前方には何故か武器を持たない冒険者が数名。
そしてさっきのエルフ。
おっさんは傷だらけで、エルフ達はポイズンキャタピラーに囲まれている。
「これは苦戦中ってことでいいのか? なあおっさん」
「……ああ」
不機嫌そうにダンゲルは言った。
「そっか。このままじゃこの人らやられかねないし、目撃しちまった以上何もしない訳にはいかないよな」
剣を抜き臨戦態勢に入る。
「それじゃあ退治しますか」
ちょうど今こちらに突進しれてきているポイズンキャタピラーが一匹。
俺は魔力を貯めつつ、鑑定を行う。
——————————————————————————
名前:無し
種族:ポイズンキャタピラー
全長:6m(体長)
体重:20kg
生命力:2000
機動力:500
魔力値:200
体力:800
知力:50
保有アビリティ:毒霧、酸
———————————————————————————
毒持ったイモムシなのか。吹き飛ばせたのは体重のおかげだな。多分ステータスは基本的にさっきのイモムシと大差ない。つまりこのアビリティが問題ってことか。
「じゃあ特に問題なし」
溜める。
もっと多く。
(このガキ何する気だ?)
ダンゲルは訝しげにこちらを見ている。
(こいつらを倒す気か? こんなガキが? 無理だ。俺でも勝てなかったんだ。ガキが、)
「フッ!」
下に構えた剣をまっすぐ斬りあげる。
転がっているポイズンキャタピラーを真っ二つにした。
このポイズンキャタピラーもコアは中心にあったらしく、一瞬で魔石に変わった。
「は?……」
ダンゲルは己の目を疑っていた。
まさかこんな子供が自分より強いという事実が飲み込めないのだ。
「こっちだな」
神眼で酸が飛んで来る方向から一番効率よく避けるられるように体を仰け反らせる。
「迷惑かけないのは…………このアビリティがいいな」
そのまま振り返って飛んできた酸を躱しつつ、
「よっ、と」
大氷塊で吹き飛ばしていた奴ごと固まらせ、コアを砕いた。
「…………」
冒険者達は口をパクパクさせながら見ていた。
自分たちよりずっと年下の子供がこんな動きをするとは夢にも思っていなかっただろう。
という自覚のない俺。
「うん、だいぶ慣れてきた。でも油断は禁物だってシロナも言ってたし、それだけはしないようにせねば」
これで三匹討伐。
後は、
「七匹か」
今あの七匹がいる場所には冒険者達もいるので、どうにかこっちに注意を向けれないかと考えてみる。
と、俺はあの便利箱を思い出した。
が、正直言って気乗りしない。
クレアから使い方と効果そしてこの道具のデメリットも聞いていた。
「…………わがままはダメだよな」
俺は自分に人助けだと言い聞かせて、箱から小さな袋を取り出し、ほんのすこしだけ開いた。
「むぐっ! ………………あっぶねぇ……サンドイッチがこんにちはしそっ、う、っぷ」
袋からは物凄い匂いがした。
これは本来モンスター相手に注意を向けさせ逃げるために使う囮袋と呼ばれるアイテムだ。
この効果を利用してモンスターの注意を俺に向けると言う寸法だ。
世界一臭いらしい。
現代にあったら某動画サイトでさぞネタとして愛用されていただろう。
「ぶむ゛ー、はやぐ来いよー」
我慢しているがとてつもなく臭い。
例えるなら…………やめておこうこう。
ポイズンキャタピラー達は一斉にこっちを向いた。
どうやら効果があったらしい。
「うっぷ……もういいか」
俺は急いで袋を仕舞った。
「なんだ? イモムシ達が向こうにいってるぞ」
「え、なんで?」
「いいじゃんどうでも。俺たち襲われずに済んだんだから」
「つかなんか臭くね?」
冒険者達はいきなり現れた俺に戸惑いつつも自分達が助かるのではないかと期待していた。
「準備オッケーだ。さあ、暴れるか」
全身魔力強化。
これにも慣れてきたころだ。
「よーい」
しゃがんで下半身に大目に魔力を送り、
「どんッ」
走る。
ポイズンキャタピラーは全部で七匹。
まとまって動かずにバラバラで向かって来る。
好都合だ、と思った。
先ずは先頭の一匹を斬る。
「ギィ!」
尻尾を振って攻撃するのを見て避け、尻尾に剣を突き立てる。
向こうから見ていたダンゲルはさっきの自分と同じだと気がついた。
つまり、この後どうなるかわかっているのだ。
「これは、俺と同じ……! おいガ———」
キと言われる前に俺は行動を起こしていた。
「わかってる———」
死角から迫るもう一匹のポイズンキャタピラー。
だが俺には神眼がある。
未来が見え、予測できる俺に死角は無い。
「———よ!」
魔力を脚に集中させ、回し蹴りを入れる。
回転が止まり、イモムシがくの字に曲がった。
「ギィアアア!?」
大きな隙ができた。
これを逃す手はない。
尻尾に突き立てていた剣を引っこ抜き、滅多斬りにした。
「後、六匹だ」
尻尾を斬ったポイズンキャタピラーは復活して少し引いた場所にいた。
そこから酸を吐き出してくる。
俺は酸を避けイモムシの真ん中あたりを剣で突き刺した。
コアを狙ったつもりだ。
しかし、
「あれ? コアここじゃない」
どうやら外したらしい。
てっきり真ん中にあるものだと思っていたが違っていたようだ。
剣を抜き、コアは諦めて斬ろうとした瞬間、
「!」
神眼の力で先が見えた。
来る。でもこれは、
「避けれないか」
挟み撃ちにされ逃げ場を失う。
前後両方のポイズンキャタピラーが紫色の霧を吐いた。
「うっ……! ゴホッゴホッ……」
気分が悪くなってきた。
全身を倦怠感が支配し、頭痛や腹痛が襲う。
「毒か……ゲホッ」
右にいたイモムシの頭を殴って抜け道を作る。
俺は一体離れてポケットから解毒ポーションを取り出し、砕いた。
解毒から出た光が体に中に入っていく。
徐々に毒が消えて気分良くなっていった。
「……今まで食らった攻撃の中でも特に酷いな。毒って」
ステータスを見ると、
———————————————————————————
契約スキル:アビリティコピー(死者の雷、紅炎魔球、大氷塊、双嵐の舞、毒霧)
———————————————————————————
毒は治っており、アビリティコピーに毒霧が追加されていた。
「ポイズンキャタピラーども。毒がどんだけきついか教えてやる」
再び走ってポイズンキャタピラー達に向かっていく。
「当たんねーよ」
時間加速を使い酸を避けつつ進む。
この戦い方が板についてきたな、なんて思っているうちに到着。
ポイズンキャタピラー二匹の口と思われる部位に手を当てる。
「ほら、たんと食らえ 【毒霧】!」
ポイズンキャタピラーの体内に毒が入っていく。
「!?」
このポイズンキャタピラー達は今まで毒というものを経験してこなかった。
毒を使うということからコイツらには聞かないという偏見を持たれていたからだ。
だがそんなことはない。
確かにコイツらの生成する毒なら効かないかもしれないが、俺が放ったのは俺が作った別の毒。
作ったというのは大袈裟かもしれないが、別の毒であることには変わりない。
なので有効な手段である。
「と、思ったわけだ」
ポイズンキャタピラー達は毒の苦痛に耐えきれず、暴れまわっている。
お陰で時間に余裕が出来たので魔力をじっくり込め、袈裟斬りにする。
「毒のしんどさがわかったかバカヤロー」
残りもすぐ近くまで来ていた。
今まで突っ込んでこなかったのは流石に警戒心を抱いたからだ。
「へぇ、一応考えることはできるのか。これ以上学習されてもめんどくさそうだし、一気に片付けよう。実験も兼ねてな」
ニヒヒ、といたずらっぽく笑ってみる。
少し待ってみるが来る様子はない。
それならば、
「こっちから仕掛けるか」
今から実験するのはアビリティの連射。
アビリティの失敗もなくなってきた今ならもしかしたらと思い実験することにした。
使うのは、双風の刃と死者の雷
イメージする。
大事なのは想像力だ。
アビリティを使うコツは、自分から魔力がどのように放たれているのかをアビリティごとに想像し、魔力を流す。
はじめの方で失敗していたのはイメージが足りなかったせいで不安定になり、暴走したからだ。
今ならできる。
「そらっ!」
双風の刃を発動。
これは当たらない。
逃げるのは右に約2m。
タイミングを合わせて、
「食らえ!」
逃げた地点に雷がドンピシャで当たる。
初めての試みだったので少しブレたが直撃。
「出来るもんなんだな」
ポイズンキャタピラー達に近づいていく。
俺はイモムシ達にとどめを刺して魔石を回収した。




