第25話
すみません、不定期投稿になります
「後衛援護遅いぞ! エルフは回復だ! 急げ!」
「今やっている!」
女エルフがいたパーティは今モンスターと交戦中だった。
敵は巨大イモムシ、正式名称はターボキャタピラーの大群。
それと戦っている彼らはランクD+の冒険者達だ。
対して、ターボキャタピラーのランクもD+。
推奨ランクギリギリだが、負けはしない。
しかし、敵が大群だった場合ランクは引き上げられれこの場合ランクはC−となる。
「ギュイィィィィィ!」
当然状況は劣勢。
味方の体力も底をつこうとしていた。
「チィッ…………我———」
エルフが魔法を使おうと詠唱を始めるが横から遮られた。
「おい! 余計な真似をするな!」
リーダーはエルフに攻撃に加わることを許していない。
自分の指示が絶対であり最強だと思っているからだ。
今まで負けが無かったことがそれをさらに助長している。
格上との戦闘経験の浅さがこの自体を招いているのだ。
「わがままを言うな! このままだと全滅するぞ!」
「うるさい黙れ! 俺の指示に従っていれば負けはしないんだ!」
聞く耳は持たないらしい。
(失敗したな……このパーティに入るんじゃなかった……!)
今更だがそんなことを思い始めた。
言い争いをしている間にターボキャタピラー5匹が攻撃体制に入った。
ギリッギリッ体を丸め、目の前のリーダー目掛けて猛スピードで転がった。
「来るぞ! 大盾固めろ!」
大盾を持つ二人を前にやり防御を固める。
衝撃とともに盾が軋み、装備者の身体にその波が伝わる。
なんとか持ちこたえてはいるが、二人掛かりで5匹は流石に分が悪い。
「ぐぅぅ……リ、リーダー、持ちま、せん」
「貴様らァ! 何のための大盾だ! いいから黙って俺を守ってろ!」
「ギュイ、ギュイ」
基本的に自分より高ランクの敵が現れた場合、撤退するのがセオリーだ。
だが、このパーティのリーダー、ダンゲルの性格上撤退を良しとしなかった。
彼は自尊心の塊のような男だ。
だからどうしても同ランクのモンスター相手に撤退する事が許せなかったのである。
故に、
「ぐあああ!」
「なっ!」
負ける。
冒険者は大盾ごと吹き飛ばされ、そのままダンゲルへと流れ込んでいった。
「く、来るなっ!」
引き際を選ぶ能力は全ての冒険者に必須なものだと言っていい。
あらゆる戦いにおいて、それを間違えると戦況は簡単に崩れてしまうのだ。
その崩壊はパーティ全体に伝わり、最悪の場合全滅も大いにあり得る。
だが、状況をひっくり返すような力を持つ者がいる場合は、そうならない時もある。
「【ウィンドカッター】」
「!!」
突進していたターボキャタピラーの動きが止まった。
「見てられないな」
女エルフは前に出て剣を構える。
「おい、私の援護をしろ、指示に従え。全員だ。死にたくないのならグズグズするなよ」
エルフは、チラッとダンゲルを見た。
ビクッと体を硬ばらせた様子を見ると、フンと鼻で笑って気にも留めなかった。
プライドの高いダンゲルはみるみる顔を紅潮させてエルフを睨みつけたがそれも無視。
「き、貴様……」
「おい大盾ども。こいつらは一定以上の距離を走らないと曲がれないようだ。なるべく距離を詰めてギリギリで躱せ」
エルフは周辺の味方の様子を確認し、策を組み立てる。
現在パーティは、攻撃役がダンゲルと魔法を使うメンバーが2名。
残りは大盾4人という無茶苦茶なパーティだ。
ダンゲルが活躍するために攻撃役を減らして、防御用のタンク増やした結果こんなパーティが出来たしまったのだ。
「火力が足りないか……それなら………うん」
エルフは一旦全員下げ、指示を出した。
「いいか。今の指示通りに動け。恐らくこれで勝てる筈だ。行くぞ」
掛け声とともに移動を開始する。
ターボキャタピラー二体につき大盾一人ずつ、盾が無い場合は二人付いている。
エルフと残ったメンバーは少し離れた位置に移動した。
「おおおおおおおお!!」
大盾の冒険者達は大声をだして挑発をする。
ターボキャタピラーは声に反応して再び丸まる。
うまく狙いを向けられたようだ。
「ギュイイイイイイ!」
ターボキャタピラー達はそれぞれ向かって行く。
大盾は魔力強化をして構え、それ以外は詠唱を始めた。
「【我求めるは、主人を守護する堅城鉄壁の盾。我が魔力を礎とし、其の力を顕現せよ】」
詠唱者の身体を包むように光が広がる。
光は徐々に確かな形をとり防壁となった。
「【マジックシールド】」
この魔法は防御魔法の第一魔法だ。
防御魔法の基本であると同時に最も使用頻度の多い魔法でもある。
「さあ来なさい」
ターボキャタピラーはシールドにおもいっ切りぶつかった。
シールドは壊れていないが力負けしている冒険者はゆっくりと後ずさっていく。
「くっ……」
先程のように吹き飛ばされないのは抵抗を弱めているからだ。
後ろに力が逃げていくお陰でなんとか耐えられている。
ターボキャタピラーに付いている冒険者全員が似たような状態になった。
「そのまま耐えろ。中央に向かうように調整するんだ」
ある一点に向かうように角度を変える。
すると、バラバラにいた冒険者達が集まっていく。
抵抗を弱めて後ろに下がっていたのはこのためだ。
「もう少しだ。………………今だ! 離れろ!」
盾持ちは横に逃げ、魔法を使っていたものはそれを解いて躱す。
急に加速したターボキャタピラーは止まれず互いに衝突した。
「ギ!?」
衝撃で動きが止まるターボキャタピラー。
エルフの狙いはこれだったのだ。
「撃て!」
固まっている場所へ魔法の集中砲火。
ありったけを注いで攻撃した。
「【我求めるは燃え盛る火の玉。我が魔力を礎とし、その力を顕現せよ“ファイアーボール”】」
ファイアーボールは炎魔法・球形の第一魔法。
パーティの冒険者達が放った魔法。
「【ウインドカッター】」
「すごい! 詠唱短縮が出来るなんて……しかも第二魔法で!」
ウインドカッターは風魔法・刃形の第二魔法。
エルフはそれを詠唱無しで行った。
これは熟練の魔法使いでもかなり難しいのだ。
冒険者たちは興奮しきっていた。
「集中を切らすな。もう少し攻撃を加えろ」
残った魔力で追い討ちをかける。
徐々にターボキャタピラーの鳴き声が小さくなっていく。
もう数発撃つ頃には鳴き声は完全に魔法の音でかき消されていた。
「よし、やめろ」
魔法の連射を止め、煙が晴れるのを待つ。
影は見えない。倒しきったのだ。
「討伐完了だ」
そうエルフが言うとわっと歓声が上がった。
「やったぞ! 俺たち生き残れたんだ!」
「よかった〜」
興奮と安堵が入り混じった声が次々上がる。
「俺今までエルフって悪いイメージがあったけどそうでもないみたいだな」
「だなぁ。みんながみんな悪いわけじゃないんだ。いてくれて本当に助かったよ」
エルフへの感謝もたくさん出ていた。
彼女が指示を出していなかったらおそらく全滅していたというのを皆わかっているのだ。
ただ一人を除いて。
「くそっ、なんなんだあのエルフは。一人だったから仕方なく声をかけてやったのに調子に乗りやがって」
ダンゲルからすればこの状況は非常に面白くない。
自分の指示で勝てなかった相手を自分の指示から外れた奴の指示で勝ったと言うのがどうしても我慢ならなかった。
「……呪われた一族め」
「…………」
エルフ耳は人間の数倍いい。
ちょっとした小言でも耳に入ってしまうのだ。
しかしエルフは言い返さない。
しばらくして休憩が終わったころ。
「おい、貴様ら。魔石を回収したら移動するぞ」
「…………」
「へ、返事をしろ!」
「……はい」
実に気の無い返事だった。
前々からこの男に嫌気がさしていたが今回の件で完全に言うことを聞きたくなくなった様子。
休憩中このパーティを抜けようと言う話も上がった程だ。
冒険者達は嫌々魔石を回収しに向かった。
D+の大群は彼らにとっては大きな収穫だった。
今まで同格以下の敵としか戦ってこなかった
「うはは! D+の魔石がこんなに!」
「エルフ様様だな」
「おいマジであのリーダーのパーティ抜けないか?」
「これは考えとくべきだな」
D以上はもう立派な一人前だ。
引く手数多とまではいかないが、まあまあ勧誘はされるだろう。
「気が抜けきっているな」
ダンジョン内でこう言う状態になるのは非常に危険だ。
エルフだけは警戒を怠っていなかった。
ここは安全地帯ではない。
いつモンスターが来てもおかしくはなかった
「嫌な感じだ。おい! 少し急げ!」
五感の優れるエルフはこのような感覚に鋭い。
だから何かが起きる前触れを読み取ることができる。
「!」
ピクピクっと耳が動いた。
何処かから物音が聞こえている。
「うわああああ!」
魔石を取りに行った冒険者達から聞こえた。
エルフは急いで向かった。
「どうした!」
「あ、あれ」
冒険者が指差す方向にイモムシがいた。
「はあ、そのくらいで驚くな。たかが1匹だ。束になれば敵じゃ———」
「武器が!」
イモムシのすぐそばにはさっきまで使っていた大盾と杖があった。
だが、それはすでに原型をとどめていなかった。
「武器が溶けている……まさか」
「よくも私の杖を!」
「馬鹿が! 行くんじゃない!」
急な大声に驚いて足を止める。
その目の前をドロドロした透明な液体が通り過ぎていった。
「え? 何?」
女の冒険者は液体の飛んでいった方向を見る。
すると、液体のついた場所一帯の地面の石が溶けていくのをみた。
「ひっ……」
「やはり酸か。武器を溶かすとなると強力だな。急いで逃げる準備をしろ! こいつは恐らくランクCのモンスターだ!」
ポイズンキャタピラー。
ターボキャタピラーの上位種で毒霧や酸を使う。
ステータスはターボキャタピラー大差ないが、毒が厄介なのでランクが上げられている。
冒険者達は一目散にその場から逃げようとした。
その時、
「ギュリャリャリャリャリャリャ!!!!!」
ポイズンキャタピラーは大声で鳴いた。
普通の鳴き声とは違い響くような鳴き声だ。
「な、なんだ?」
「耳が……」
冒険者達は訳が分からず混乱していた。
そんな中エルフとダンゲルはこの鳴き声を理解していた。
「い、いやだ。貴様らッ! 俺を守れ!」
ダンゲルは分かっているからこそ取り乱した。
あのイモムシ相手にまともにやれなかったのにその上のランクのモンスターに勝てる訳がない。
「もっと早く移動していれば…………!」
大群だ。
「ギュイイイイ!!!!」
声に呼ばれ再び10匹ほどイモムシが集まる。ただし今回集まったにはポイズンキャタピラー。ランクはC+となる。
あっという間に囲まれる。
今回は盾が無いのでさっきのような作戦は決行できない。
あったとしても酸を使われるとすぐ溶かされて使い物にならなくなる。
「まともに戦えるのは私とあいつだけか」
あいつとはもちろんダンゲルのことだ。
そのダンゲルはと言うと、
「早く逃げねぇと……」
逃げる気満々だった。
Cと聞いた時から逃げる気になっていた。
同格や格下には強気な彼だが、格上にはかなり弱気だった。
「使えない……どうする。逃げ切れるか? いや、倒すのは厳しいが出来なくはない。だが……」
周りにいるのは腰抜けと武器無しの冒険者。
条件が悪すぎる。
「この人数を守りながらは不可能だ。せめてあと一人いれば……」
「ひっ、く、来るなァ!」
唯一外にいたダンゲルに気がついたポイズンキャタピラーはのそのそと向かっていった。
ダンゲルは逃げようとするが、
「ギュシャアア!!」
そこを他のポイズンキャタピラーが塞いだ。
「しまった……」
エルフはすぐに助けようとするが近づけないかった。
「ちくしょう、この俺がやられてたまるかァ!」
ダンゲルはかけられる酸からなんとか避けて助かっている。
身のこなしは軽く技術もある方だ。
性格さえまともならと口々に言われる。
「いける……いけるぞ!」
すぐ調子付くのも短所だが、今は動ける方がいいので結果オーライだ。
ダンゲルはそのままポイズンキャタピラーへ向かって行く。
「どらああああ!」
手持ちの大剣をふりかざす。
当たる、と思いきや、
寸前のところで器用に身をよじってかわした。
「何!」
その勢いで尻尾を振って攻撃をしてくる。
ダンゲル飛んでそれを躱し、尻尾に大剣を突き立てた。
「フハハ! やったぞ、ッぐぎ!?」
突然の衝撃。
ダンゲルは壁まで吹き飛ばされた。
他のポイズンキャタピラーがどこにいるかまで頭が回らなかったのだ。
「ギュイイイイ」
ポイズンキャタピラーはターボキャタピラーのように回転し、突進して行く。
(こいつもこの攻撃をするのか!)
「人間! 早く動け!」
エルフの声を聞き逃げようとするが間に合わない。
「う、うわあああああ!!!」
ズン、っと大きな衝撃音とともに背後の壁が弾け飛ぶと同時にポイズンキャタピラーが吹き飛んだ。
(なんだ? 死んでない? 止まったのか?)
「お?」
ダンゲルはひょうきんな声を聞いた。
「うわ、さっきのイモムシとはまた違うイモムシか。ひえー、気持ち悪っ」
目を開くとそこには16歳ほどのレザーアーマーの少年がたっていた。




