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第24話



 「ご主人大丈夫かニャー? ……んー、この感じだとまだ生きてはいるっぽいけど、やっぱ心配だニャン」


 シロナはさっきまでいた見えない床の上にいる。

 姿は人型だ。


 「ご主人ならたぶん大丈夫ニャンね。魔力の感じからしてここのモンスターは多分ご主人で対処できそうニャン。さてと、今気になるのは……」


 何かを探すように注意深く周りを観察していた。

 一通り見ると思案顔になってこう言った。

 

 「ふーん、やっぱり()()が無い。なるほど、そういうことニャンか。このダンジョン、普通のダンジョンじゃないっぽいニャンね」


 シロナはすくっと立ち上がり、向こうの壁にいる冒険者の方を向いた。


 「それじゃ、ダンジョンマスターさんにご挨拶に行くしようかニャー」


 シロナは壁に向かって思いっきり跳んだ。


 




———————————————————————————






 「はっ、はっ、はっ」


 俺は今走っている。

 全身フル強化で全力疾走中だ。

 あまり意識していないが結構速いと思う。


 「くそっ、ここに、来て、はっ、はっ、こんなん、ばっかっ」


 ダンジョン入場からずっと気が休まらない。

 身も心もボロボロだ。

 休みをくれ。

 しかし、現実はそうそう甘くはなく、俺をまだまだ動き回らせる模様。


 走る。

 どんどん走る。

 追いつかれないよう死にものぐるいで走る。


 「いつまで……」


 それは延々と俺を追って来ていた。

 ゴロゴロと音を鳴らして俺を追ってくる。

 

 「いつまで追ってくんだよ!」


 巨大な岩が俺を追って坂道を—————上っていた。


 「ちくしょおおおおお!! 重力に逆らうんじゃねえええええ!!」


 ああ、こんなことなら押さなければ良かった。







   数分前



 「もう、どのくらい歩いたんだ? 俺」


 イモムシ戦から暫くモンスターは現れていない。

 そこからずっと歩いていたが出口はおろか、道の変化も見られなかった。


 「あー、やばい。同じ岩場がずーーーーーっと続いてゲシュタルト崩壊しそう。せめて分かれ道くらい作れよー。延々と一本道って中々のクソダンジョンだぞー」


 そうぼやいても、やはり道は変わらない。

 もはや悪夢だ。

 


 「ダメだ。とりあえず一旦休憩しないと。んー、おっ、丁度いい石発見」


 いい加減休憩を取らないと精神衛生上よろしくない。

 頭がおかしくなる。

 俺は近くにあった石を椅子にして座った。


 「ああ゛、やっと一息つけた」


 ずっと歩きっぱなしだったので足が痛い、と言うことは特になかった。

 この世界でステータス上昇のおかげで、体力がかなり上がっている。

 それでも同じ道を長時間歩くのはかなり辛い。


 「なんでこんなに洞窟が続いてんだよ。ここ本当に塔なのか? 平面の床がアホみたいに広いぞ」


 もうかなり真っ直ぐ歩いているが果てはない。

 外から見たときはこんなに広くは無かった。


 「一体どういう構造なんだ?」


 やっぱり何かしらの魔法っぽい作用はあるとしてそれは何なのか。

 今の俺の知識では到底知り得ない。

 改めて勉強は必要だと感じた。


 「ダメだ、さっぱり分からん。…………メシでも食うか」


 俺は来る前に作ったサンドイッチを取り出した。

 

 「むぐむぐ……シロナ腹空かせてないかな……そもそも魔獣ってメシ必要なのか?」


 思い返すと出せば食っていたがそれ以外では見ていない。

 食えるけど必要ないみたいな感じだろうか。 

 とりあえずそう結論付けた。


 「大丈夫だったらいいなあ。神霊魔獣とか言ってたし、きっと無事だな」


 サンドイッチを食べながら周りを見るが、残念なことに何もない。

 俺はがっくりと首を垂らした。

 





 「はあ〜〜………あ?」


 変化を見つけた。


 「なんだこれ? さっきまでは無かった、よな?」


 床に小さな凹みがあった。

 もう慣れすぎて少しでも違うものが見えたら瞬時にわかるようになっていた。

 我が事ながら恐ろしい。

 それを見てみると、なにやらボタンのような物だ。

 そしてその上には文字が書かれている。

 内容はこうだ。


 “押しちゃダメ”


 「…………」


 あからさまである。

 あからさま故にかなり胡散臭い。


 「どう見てもトラップだろうな。これで何も無かったらとんでもない肩透かしだ」


 本心を言おう。

 めちゃくちゃ押したい。

 だから、

 

 「これでなんらかの変化があるなら、もうなんでもいいや」


 躊躇なく押した。







 結論、何も起きない、


 「…………マジで何も起きな———いッ!?」


 訳が無かった。


 「うおぉおお……なんだこれ、動いてんのか!? 」


 地鳴りとともに、突然地面が傾き始めた。

 床の角度はどんどん急になっていく。


 「おおおお、お」


 俺は壁につかまって止まるのを待った。

 なんで坂? と思ったが、変化があったので嬉しいと思っていた。

 後でどんな目に遭うとも知らずに。

 止まった頃には立派な坂道になった。





 「止まったか。つくづくおかしな所だな。攻略に手こずる訳だ」


 坂道になった事で何処かに繋がってたらいいなと思いながら俺は坂を上ろうとした。


 「……? なんの音だ?」


 地響きのようなものを感じた。

 後ろを振り返るが、そこには何も見当たらない。

 俺は再び正面を向いた。

 音は鳴り止むことはなく、それどころか徐々に大きくなっていく。

 俺は一層警戒心を強めた。

 

 「これは……何か来てる」


 未だに地響きの原因となるものは見えてこない。

 確かなのは徐々にそれが近づいてきていることだ。

 

 「………む」


 よく聞いてみたらこれは物が転がる音。

 俺は坂の上を見た。

 だが、何も見えない。

 

 「何も無い。気のせい……じゃないよな。どっから鳴ってんだ?」


 ゴロゴロ、とどんどん音が大きくなる。

 やはり気のせいではない。

 何かが迫っている。

 だが周辺にはそれらしきものは見当たらない。

 見えるわけがなかった。


 「これ、前じゃ無い……!」


 後ろを振り返ると、それはものすごい勢いで俺に向かってきた。

 

 「わ、」

 

 岩の球が、坂を登ってきているのだ。


 「わーーー!」








———————————————————————————









 そして今に至る。


 「はっ、はっ、はっ」


 身体強化で本気で走っても、加速して全く振り切れない。

 まるで俺に合わせてスピードを上げているかのようだった。


 「やっ、ばい……」


 思い返しているうちに、体力的な危機が迫っていた。

 以前よりはずっと増えた体力も無限では無い。

 限界は徐々に近づいている。

 本格的に手を打たなければ押し潰されてお陀仏だ。

 俺は岩の方に目をやった。


 「あれっ、岩だったらっ、壊せねぇっかなっ」


 俺は走りながら岩に狙いを定めた。

 これだけ大きいと狙いやすいので安心して撃てる。

 

 「【死者の雷】ィ!」


 現時点で手元にあるアビリティの中で最も物理的な攻撃力は高い。

 これなら……!


 スカッ


 「スカ?」


 まただ。

 雷が通り抜けた。

 さっきの階段同様、これも幻覚。

 そして岩は呆然としている俺をすーっと通り抜けて転がり続けた。


 「…………はっ」

 

 このダンジョン 作ったやつ、


 「あっはっはっはっはは、は………………ふ、」


 絶対性格悪い。


 「ふざけんなああああああ!!!!!」








———————————————————————————







 「ヒヒ、人間ってほんと間抜けだなぁ」


 絶叫中の俺を見ている奴はそう言った。


 「いやー、ここまでしぶといのもなかなかいないねね。暫くはこいつおちょくって遊ぶかな? いや、そろそろ違うやつでもいいか。ちょうどいいのもいるし」


 ねっとりとした視線の先にはあのエルフとそのパーティがいた。


 「やっぱり僕のことを追いかけてきてくれたんだ………ヒヒ」


 そこはこの塔の最上階。

 ダンジョンのゴールに相当する場所だ。

 ()()()()


 「どいつもこいつもダンジョン攻略に精が出てるねぇ。自分らが踊らされているとは知らないで。笑いが止まらないよ。ヒヒヒ」


 見ているのは俺やエルフ達だけではなかった。

 このダンジョン全体を見ている。

 球形の空間の中央に椅子があって壁にはダンジョン内のありとあらゆる場所が映っていた。

 

 「もう少しだ……もう少しで……」


 







———————————————————————————







 「もう嫌だ、このダンジョン。今のところトラップだけでお宝の一つも見つからないし。ミミックでもいいから宝箱見せろよ」


 今度は坂道を登っていた。

 すっかり幻覚にしてやられた俺は、このダンジョンが嫌になりそうだ。


 「ここのトラップはなんというか嫌がらせっぽいんだよなぁ。もっと矢が降ってきたり、針が飛び出る床だったりすようなのが来ると思ってたんだが」


 一口にダンジョンといってもいろいろあるのだろう。

 でもそろそろ次に行きたいところだ。


 「いい加減ここから脱出しねーとな」


 相変わらずの洞窟。

 出口は見えない。

 少し考える。

 今から取る行動は三択ある。


 一、このままずっと歩く。


 二、動きがあるまで待つ


 三、壁か天上を壊す。



 再び考える。

 

 とりあえず“二”は無い。いつ来るかわからないし、来ても何も起きなければ意味がない。となると一か三か……一はもうずっとやってるし、三はそれが原因でここが崩れたらやばいしなぁ…………いや、もうここは、


 「壊すか」


 多分これが一番可能性が高い。

 他のと違って崩れない限りすぐ結果が出るというメリットがある。

 ダンジョンの壁は破壊不能な可能性もあるがそれを知れるのもまあ、損じゃないだろう。

 それにいろんな冒険者達が戦ってまわるダンジョンがそう簡単に崩れるとも思えない。


 「ここで壊すか? それとも……」


 忘れていたので魔力感知をしたところ壁の奥の方で感知にかかっているものがある。

 壁を壊すと決まったならそちら側に行くのもまた一つの選択肢だった。


 「魔力があるってのはわかるんだけど、それがなんなのかわからないってのは困りものだな。まあ行くんだけどね」


 わかっている以上行かない手はない。


 俺は壁に迫り触れようとした。

 が、横から聞こえる音を聞いて、一旦作業は中断させた。

 

 「!」


 ゴロゴロと音がする。

 もうなんか忌々しいあの音だ。


 「しつけーな。またかよ、ってあれ? なんかさっきのと違う」


 今回は大岩ではない。

 それよりひと回りもふた回りも小さかったが、すごい数だ。

 坂上から小さめの岩が雪崩のように大量に流れてきた。

 

 「スッゲェ迫力だな。でも幻覚はもう見飽き——————!」


 見えたのは岩に呑まれるイメージ。


 やばい。


 気がつくと反射的に行動をとっていた。


 「ッらぁああ!」


 咄嗟にアビリティを繰り出しす。

 死者の雷。

 放たれた雷が直撃し次々に岩が崩れていった。


 当たった。


 魔力を多めに込めて正解だった。

 足りていなかったら俺は岩雪崩に飲まれて死んでいたに違いない。


 「……本当にタチが悪いダンジョンだな。マジでさっさと脱出しよう」


 俺は奥へと進んで行く。










 向こうはさっきから急に慌ただしくなってきたようだ。


 「これは……戦ってる音?」


 近づくにつれ大きな音が聞こえるようになる。

 破壊音や人の声も聞こえるので、おそらく戦闘中だ。

 

 「ここでいいか」


 せーのっ、と壁を殴ってみた。

 もちろん魔力強化済みだ。

 殴って壊せるのならそれに越したことはない。


 拳が壁に突き刺さる。

 案外簡単に壁は砕けたので、勢いは止まらない。

 そのまま振り抜こうとした時何かが拳に触れて、


 「お?」


 吹き飛んでいった。

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