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第22話

 

 人生初のダンジョン【還らずの塔】

 入り口には様々な冒険者達で溢れかえっていた。

 出現してまだ数日との事だが、周辺には様々な露店や宿泊施設が建っている。

 数日で建物が出来るものなのだろうかと考えていたが、ここは魔法が存在する世界。

 やろうと思えばやれるのだろう。

 俺は今何をしているのかと言うと、一人でダンジョンに入ろうとした時めちゃくちゃ見られてたのでなんとなく入りづらくなっていた。


 「完全に失念していたな……俺今ソロじゃん」


 でもあんなに見ることは無いだろう。

 あの目。

 みんながみんな正気を疑うような感じで見ていたのが俺は気になった。


 「なあシロナ、こう言うのってパーティ組んで入るのがお決まりなのか?」


 「いや、そうでも無いニャンよ。単独攻略も聞くには聞くニャン」


 「だよな」


 「でもここまで過剰に反応されるって事は何かがあるニャンね。用心するに越した事はニャいよ」


 確かにそうかも知れない。

 結局のところここはダンジョン。

 様々な冒険者が命がけで攻略に挑む場合なのだ。


 「それじゃあどっかのパーティに混ざった方ががいいと思ったけど……」


 周りを見るが余りもしくは入れてくれそうなパーティは見当たらない。

 近付こうとしても、こっちくんなオーラが凄まじい。


 「しょうがない、手当たり次第に頼み込んでみるか。はあ、俺知らん奴の中に混ざるの苦手なんだけとなあ……」


 「ま、頑張るニャ」


 文句を言いつつ頼みに行くのであった。








 「ダメニャンね」


 やれやれと大袈裟に手を広げてそう言った。

 ちなみに猫のまんまだ。


 「ああ、どこにいっても取り合ってもらえそうにない。でも理由はわかった」


 とあるパーティに頼み込んだ時、そのパーティのリーダーがこんなことを言っていた。





———————————————————————————








 『悪いがパーティには入れられない。なんせあの還らずの塔だからな』


 その口ぶりはまるで常識と言わんばかりのものだった。


 『あの?』


 だが、前情報なしでいきなり来た俺は、例えどんなに有名だろうが関係ない。

 全くの無知である。


 『え、知らないのか? ここは今まで生還した者がいないと言われているダンジョンなんだぞ。まだ強い冒険者が入った訳では無いからなんとも言えないが危険度は高い。そんなところで新参者を入れて連携が崩れたら命取りだからな。見たところ冒険者登録してる訳でもなさそうだから…………まあ諦めてくれ。今回攻略するのは俺たち【オークの金棒】だからな』


 と、名前がダサいパーティはダンジョンへ入っていった。







———————————————————————————









 「還らずってそう言う意味だったのか」

 

 「あのジジィ知った上でよこしたニャンね」


 チッ、と舌打ちをしながらそう言う。


 マジか。何考えてんだあの爺さん。



 「ま、大丈夫ニャン。なんとかなるニャン」


 「そうだな、腹をくくるか……」


 仕方ないと諦めたようとしたその時、


 「あ!」


 「ニャ?」


 この中で恐らく唯一のパーティを組んでなさそうな人を発見した。

 あのエルフだ。


 「あれはさっきのエルフニャンね」


 彼女は人気のない暗い場所で一人佇んでいた。


 「よし決めた。俺、あの人と組む。いいだろ?」


 「ま、いいじゃニャい? エルフは魔術に優れてるからニャー。人間と組むよりいいかも知れないニャン」


 それじゃあ決まりだ。

 俺はパーティに誘うべくエルフの元に近づこうと思った。

 しかし、


 「おい、さっさとこい」


 横からいかつい顔のおっさんが出てきた。

 どうやら彼女のパーティの様だ。


 え、いるの?


 俺はエルフがパーティと一緒にダンジョンに入っていくのをぼーっと眺めていた。


 「あらま。失敗ニャンね」


 俺は肩をガクッと落とした。


 「はあ、先客がいるならしょうがない。一人で入るか」


 「いいのかニャ?」


 「大丈夫だろ、お前もいるしさ」


 「ニャはは。任せるニャ」





 

 俺はダンジョンの入り口に立った。


 「この渦か……」


 入り口の扉には渦が発生している。

 これがダンジョンのスタート地点と繋がっているのだろう。


 「よし……行くぞ」


 俺は扉の中に入った。






———————————————————————————






 扉に入るとその景色は一瞬にして変化した。


 「凄っげぇ……」


 そこは、この世の物理法則を無視した様な摩訶不思議な迷路だった。

 一言で表すなら“異質”。

 外界の常識なんぞ軽々と凌駕してしまう幻想的な現実。

 目に入ってくるのは空に浮かぶ扉、逆さまの階段、壁や宙を歩いている冒険者、終わりが見えない奈落と空、そしてモンスター。

 これぞ迷宮(ダンジョン)だ。


 「うげぇ……第1階層は【迷路の階】ニャンか。初心者には厄介ニャンね」


 「迷宮の階?」


 「やっぱ知らないニャンか。さすがキング・オブ・無知」


 「誰がキング・オブ・無知だ」


 失礼な猫だ。


 「一応言っとくが結構な物知りだぞ俺は。向こうのことはだけど」


 シロナは、あー はいはい、と気の無い返事をした。


 「それはどうでもいいけど説明するニャ。ダンジョン内部のは様々なステージがあるニャン。例えば今言った迷宮の階とか魔物の階とか、それぞれの特徴を表した名前がついてるニャン」


 なるほど、ここはこの床といい階段といい迷路っぽいからか。


 「モンスターなら高ランクの冒険者は楽勝ニャンけど、迷路の場合は強さ関係ニャいからニャー」


 よく見ると周りの冒険者は神経質なまでに慎重に動いていた。


 「確かにこれは大変そうだ。慎重に———」


 進んでいこうと言おうとした途端ある事に気がついた。


 「———……っ」


 そう、第1歩目から床がない。

 初手から見えない床だ。

 

 「あっぶねぇ……」


 「焦るニャご主人。ゆっくり確実にあの階段を目指すニャ」


 ここから正面に見える巨大な階段恐らくあそこが見えない床のゴールだろう。


 「それとニャ、魔力探知だけはこまめにしといた方がいいニャ」


 「りぃーかい」


 俺は魔力探知をしつつ前進する。

 どうやって通ればいいのかはなんとなくわかる。

 俺の前を歩いている冒険者が一歩ごとに床を探って歩いてた。

 何か地面にバラ撒ける者があれば楽だったのだが、生憎そんなものは持っていない。

 仕方がないので俺もあの冒険者に倣って進む事にした。

 

 「ぉお、お」

 

 これがかなり怖い。

 一歩間違えれば奈落の底に真っ逆さまだ。

 そしてゆっくり足を前に出して、漸く一歩目。


 「うわぁ、なんか、もどかしい、な。床が、見えないってのは、こんなに、クるのか」


 そろりそろりと歩いているせいか言葉が途切れ途切れになってしまう。

 そして、2歩目3歩目と足を出していく。

 非常にゆっくりだが確実に進んでいる。


 「ご主人焦るニャよー。焦ると一瞬で全てが終わるニャン。あんな風に」


 シロナが向いた方向に今にも落ちそうな人影を見た。






 体つきが細い男の冒険者は見えない地面にしがみついてなんとか耐えている様だ。

 すると、髭の濃い男がぶら下がっている細い男に手を差し伸べて叫んだ。


 「おい! 大丈夫かっ!」


 細いの男はなんとかギリギリのところで掴まれているという感じだ。

 その表情には余裕はなく、恐怖心が完全に表に出てきている。

 男はガタガタと震える口で返事をした。


 「あ、危なかった。なんとか、無事だ」


 それを見て髭の濃い男は、ほっとした表情なって、


 「それは良かった。じゃあ登ってきてくれ」


 「あ、ああ」


 ぶら下がっている男は上にいる男に手を伸ばす。しかし、


 「あっ」


 手を滑らせた。


 「うわああああああああ!!!」


 「そんなっ!」


 髭の男は懸命に手を伸ばすが届かない。


 「くそおおおおお!」


 そのまま真っ逆さまに奈落に落ちていった、と思った時、


 「………………え?」


 下から強い風が吹き上げられて男の体が上へと運ばれていく。

 そして元の高さまでいくと男をゆっくりと着地させた。

 そこにいた男たちは呆然と立ち尽くしていた。




 「今のは魔法か?」


 「ニャ。間違いニャい。それもかなり精密なやつニャ」


 魔法か……


 俺はなんとなくさっきのエルフを思い浮かべた。

 エルフは魔法が得意だと聞いたので、もしやと思い回りを見るが見当たらない。

 

 「ここまで精密だとさっきのエルフのやつかもニャー」


 シロナも同じことを考えていたらしい。

 やはり悪人ではなさそうだ。

 だからこそ余計に気になっていた。

 呪われた一族と呼ばれる理由が。


 「ご主人」


 「うわっ!」


 急に顔を出されたのでつい仰け反ってしまう。


 「集中しないと死ぬニャンよ」


 「悪い悪い」


 俺は再び見えない床の上を歩き出した。


 そういえば注意をするために見せたんだっけ。


 俺は今更ながら気を引き締めた。

 だが歩みは遅い。

 これでは一向に進まない。

 もっと効率のいい方法模索せねば。


 俺は一旦立ち止まって考えた。

 手の甲に肘を置き、顔に近い方の手の人差し指をこめかみに弾く。

 あたりはシーンとしてペチペチという音だけが響いている。

 俺はこの音でなんとなく集中できるのでよくやっているのだ。


 「もっと効率のいい方法……ある……!」


 俺は神眼を発動させる。


 「この予知があればいける!」


 俺は想定する。

 あらゆる道筋を考える。

 俺が観れるのはほんの数秒。四方に歩いて落ちない場所を見つける。


 「よ、っと」


 するとどんどんペースが上がる。

 どんどん進んでいき、目を使うのに慣れてくる。

 一歩に十数秒かかっていたのが一歩につき1秒くらいになっていた。


 「ははっ、いけるいける」


 状況は一転し、かなり楽になった。

 だんだん慣れてきて、恐怖心も拭えてきた。

 でも油断はしない。

 俺は他の冒険者を横目に確実に一歩一歩進んでいった。

 それを見ていた冒険者は唖然とこっちを見ていた。







 「だー!、もーちょいなのに」


 数分歩いたら入口から見えていた大きな階段のすぐ近くまで来ていた。

 しかしここで問題発生。

 向こう岸に渡れる未来が見えない。

 どの方角に行っても落ちる。

 俺はおもわず頭を抱え込む。

 こんな時頼れるのは、


 「シロナ、なんか足場はないのか?」


 「ニャい」


 「だよなぁ」


 淡い期待は打ち砕かれ、もうすっかり手詰まりだ。

 しかし、足場以外で向こうに渡る方法が思いつかない。

 いや、方法はあるにはあるが……


 「もう思い切って飛んだらどうニャ?」


 「むう……」


 やはりそれしかない。

 俺は向こう岸を凝視してざっと距離を測る。

 確かに本気で跳べば届かない距離ではない。

 およそ10メートル。

 助走は出来ないが本気で強化すれば確実に届く。


 「どうするニャ。決めるのはご主人ニャ」


 「でもなあ」


 俺は床を見て固唾を飲んだ。

 真っ暗な奈落の底落ちたら二度と這い上がってはこれまい。

 しかし、


 「うーん、やむを得ないか。よし、跳ぶぞ」


 真面目な話もうそれしかない気がした。

 ここでチンタラしていても進めない。

 だったら跳ぶ。

 決心はついた。


 「…………フーッ。せー———」


 魔力を集中。

 脚力を限界まで強化。

 感じる。

 足に今までにない力が込められていく。

 腰を落とし、膝を曲げ、手を後ろに振り上げて、


 「———のっ!」


 跳んだ。

 

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