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第21話


 俺は今、目的のダンジョンに向かって歩いている最中だった。

 そして、今交戦中だ。


 「うっわ……」


 目の前に巨大な火の玉が現れた。

 めちゃくちゃでかい。

 俺の身長より遥かにでかい。

 運動会で見た大玉の倍は確実にある。


 「今度はウィスプか。炎だし、こいつ斬れるのか?……とりあえずステータスは……」



——————————————————————————


 名前:無し


 種族:マザーウィスプ


 全長:3m


 体重:5kg


 生命力:3000


 機動力:500


 魔力値:2000


 体力:500


 知力:50


 保有アビリティ:紅炎魔球、魔炎球、火球


———————————————————————————




 「おお、結構強いな。生命力は俺と似たり寄ったりか」


 ウィスプは轟々と燃えながら、こちらを睨みつけている。

 いつ向かってきてもおかしくなかった。


 「よし、それじゃあいくか」


 腰に帯びている剣を抜き構える。

 魔力を集中させ全身強化。


 「スタートだ」


 地面を踏み込んで突っ込んでいく。

 それに応じてマザーウィスプが火球を数発放った。


 「当たるか、よっ!」


 これくらいなら神眼に頼らず躱せる。

 俺は火球同士の隙間駆けていく。

 邪魔な火球は剣で斬っていった。


 「フゥーっ」


 大きく踏み込み、マザーウィスプの後ろに回り込む。

 それに連れてマザーウィスプが回転するのでさらに回り込み、跳んだ。


 「らあっ!」


 魔力強化した剣で十字に斬った。


 「やっぱり手応えがあんましないな」


 「キュルキュル!」


 マザーウィスプは火球より少し大きめの魔炎球を放つ。


 「よっと」


 正面に魔力を放ち、その反動で躱して着地。

 その後瞬時に跳び、その勢いで水平に斬った。


 「これは………なるほど。よし、それならいける…………!? やばっ!」


 マザーウィスプがカウンターで紅炎魔球を繰り出した。

 咄嗟に全魔力を防御に回し身を守る。

 そして俺の全身を巨大な炎が包んだ。

 


 「うわわわわ! 熱っつ!」



 かなり熱かったがなんとか無事だ。

 俺は壁を作る様な感じで魔力を使った。

 すると、炎は壁に当たって弾け、通り過ぎていったいった。

 どうやら魔力をうまく操ったら燃えない様に出来るらしい。

 炎が魔力で形成されているからだろう。

 ただし、その副産物である熱は防げないので、耐えれない温度に長時間晒されると多分死ぬ。


 「あんのやろう……これでも———」


 アビリティコピーによる紅炎魔球。


 「———喰らえ!」

 

 紅炎魔球はマザーウィスプに直撃する。

 本来この技はあまり効かないだろう。

 しかし、

 

 「キュルアアア!?」


 炎はマザーウィスプ周辺の炎は巻き込み、消えた。

 さっき斬った時にあった微かな違和感。

 俺はそれを狙った。

 そして目論見通り、中から現れたのは小さな石の塊。

 あれは恐らく核なのだろう。


 「よし、トドメ!」

 

 炎が消えてまごついているマザーウィスプの核を縦に一刀両断する。


 「キュアアアアアア…………」


 生命力の値は一気に減り0となった。


 「ふう……」

 

 マザーウィスプのコアが変化して魔石になっていく。

 綺麗な赤色の魔石だった。


 「はい、終わり」


 俺は魔石を“箱”に仕舞った。

 後ろを振り返ると、影の中からあちゃー、という声が聞こえた。


 「これは……ちょっと練習しないとなぁ」


 紅炎魔球の威力の調節が効かず、周辺を焼け野原にしてしまった。








 「戦い慣れてきたニャンね」


 さっきのアビリティはともかく、と付け加え、影の中からシロナが喋りかけてきた。


 「まあ、確かにアビリティはもうすこし頑張らないとな。戦うこと自体は結構慣れて来たなって感じてる。何と無く体のうまい動かし方がわかるようになって来たからな」


 向こうで剣道やチャンバラをやってはいたが、人じゃ無いものとの戦いは流石に経験したことは無かった。

 しかし、数回戦う内に何と無くコツの様なものがわかる様になったのだ。


 「今から行くのはダンジョンだし、慣れるに越したことはない」


 「そうニャンね。あんなに喰らってたらダンジョンでは結構危ニャい」


 「うっ…」


 既に降りてからもうかれこれ5回はモンスターに襲われている。

 襲われる度に技を喰らうお陰で、アビリティを覚えるのは有難いが全部喰らってしまった技なので素直に喜べない。


 「むう、確かに詰めの甘さは無くさないとな。このアビリティもそれに役立ってくれるとありがたい」


 俺は鑑定でアビリティコピーの項目を見た。


————————————————————————


 アビリティコピー(死者の雷、紅炎魔球、大氷塊、双嵐の舞)


————————————————————————



 「あれ? 5つしかない」


 5回喰らったので死者の雷を含めて6個になる筈だ。


 「ウィンドドールから喰らった“風雲”なら双嵐の舞があるから覚えられないニャンよ。アビリティを喰らった時そのアビリティより上位のアビリティがあったら下位のアビリティと同位のアビリティは覚えられないニャン。威力は弱めればいいからニャー」


 「でも今のモンスター紅炎魔球の下位互換っぽいの覚えてたぞ?」


 「モンスターは複雑なことが苦手ニャンから種類で威力を分けてるニャ」


 「そういう事か。ん? でもそれだったら上位のアビリティもいらないんじゃ無いのか?」


 込める魔力を上げればいいのだから。

 俺の問いに対して、


 「いや、ちがうニャン。モンスターのアビリティにも階級が第一から第五まであって威力下限はなくても上限があるニャ。第一と第五じゃもう天と地の差ほどの違いニャンよ。あと同じ階級の魔法でも魔力の強い奴と弱い奴じゃ威力が異なるのは覚えといた方がいいニャン」


 「ふむふむ」


 「モンスターが覚えているアビリティは大体E−〜C+は第一、B−〜B+は第二、A−〜A+は第三、S−〜Sは第四、それ以上が第五ニャンね」


 第四、五はかなり厳しいな。


 「それにしてもご主人運がいいニャンね」


 「なんでだ?」


 「今覚えたはみんな第二クラスニャ。戦ったモンスターは本来C−クラスニャンけどたまにこういう事もあるニャ。それは上級魔術師が撃つ魔法と同じレベルだから暫くは役立つニャンよ。ちなみに今んとこ四までいった人は殆ど見たことニャいし、五に至っては皆無ニャ」


 「それじゃあ、俺の魔力でこれ撃ったら結構やばいよな?」


 「ニャ」


 全力で撃つ場面は選ばないといけないか。でもそれ聞いたら五まで到達してみたくなるな。

 

 「そろそろ見えるニャン」


 「なんでわかる?」


 「活気づいてるからニャン」


 「耳がいいんだな。俺は全然……あ、微かに聞こえる」


 よーく耳をすませば聞こえなくは無い。

 かなり小さいが人の声のようなものが聞こえてくる。


 そこから小走りして行くと、


 「おー、でっかい塔だな!」


 ここから巨大な塔が見えた。

 塔の割に見えないなと思っていたら塔は低地の最も低いところにあった所為だった。

 ダンジョンの周りには人がわらわらと集まっている。

 それを囲む様にして露店がたくさんあるのが見えた。


 「ご主人行くニャンよ」


 「おう」





————————————————————————

———



 

 「はい、到着。相当賑わってんな」


 「そりゃそうニャン。戦いに挑む冒険者がここでアイテムを買い溜めていくからニャ。儲けるためにいろんな店が建てられるニャ」


 「確かにこれくらい冒険者がいればがっぽりだろうな。まあ俺は買わないけど」


 俺はクレアから貰ったアイテム類が死ぬほどあるので大丈夫だ。

 下手に捕まる前にさっさと移動しようとした。


 「お客さん、うちは他所の店より安いし質のいいアイテムが揃ってるよ!」


 「いや、ウチのが一番だよ!」


 「いやウチが」


 「いやいやウチが」


 思ったそばからだ。 

 俺は客呼び勢を振り切ってとりあえず宿に向かった。







 シロナと話した結果もう夕方だったのでとりあえず休んで明日ダンジョンに入ろうという事になった。



 「あー疲れた。昼間からこんなに戦うとは慌ただしい世の中だ」


 向こうとはまるで違う日常。

 文明も文化も大きく違う。

 同じ生活なんて送れるわけがない。

 でも、


 「……こっちのが楽しーな」


 俺は枕に顔を埋めて言った。

 そのままでいると、俺は寝てしまっていた。





———————————————————————————





 「おはようニャンご主人」


 …………


 朝起きたら布団の中に人型モードのシロナがいた。


 「おはよう」


 昼のテンションならかなり過剰に反応した、かもしれない。

 しかし、朝はボーっとしやすいので反応が薄い俺。


 「むっ、反応薄いニャンね。つまんないニャーン」


 シロナは猫に戻ると影の中に入っていった。


 残念だったな。俺に寝起きドッキリは騒音以外通用しないのだ。


 バイトも学校も無いので急いで目を覚ます必要がないので楽だ。

 ここでは喧しい目覚まし音に苛まれる事もない。

 俺は基本朝が弱いからな。


 




 今は朝食をとっているのだが思いもよらぬ問題があった。

 それは、


 「……ここの飯マズイな。特にこのスープ、“シュルクル”だっけ?」


 ちなみにこのスープが日本語に訳されてないのはこれがシュルクルという固有名詞だからだ。

 ラタトゥイユを煮込みって言わないのと同じ。


 「そうニャン? みんな平気そうニャンけど……ああ、異世界の料理と比べると質が落ちるかもニャンね」


 そういえばここに来て異世界の料理は食べたことが無かった。

 食文化はあちらの方が進んでるというわけだ。

 よくよく考えたら異世界メシが美味いという認識はない。

 俺はシュルクルを全て口に流して、宿を後にした。






———————————————————————————






 「もうシュルクは食わん。食うとしても自分で独自のに作る」


 「ワタシもあれは苦手ニャン」


 「え?」


 「ニャ?」


 俺たちは思わず顔を見合わせた。


 「猫って野菜食えるのか?」


 「ワタシは猫じゃないニャン。見た目は猫でも魔獣ニャンからヒトと同じ味覚を持ってるニャン」


 なるほど、じゃあキャットフードとか籠とかのペット的な世話は要らないんだな。


 猫の世話をする俺のイメージが見えた。


 「今失礼なこと考えたニャ? あ、今目逸らした」


 「いや別に」


 飼育はどうすべきか考えてたとか言ったら間違いなく引っ掻かれる。

 俺はそう思い、口に出さないよう決意するのであった。


 「さてと、そろそろダンジョン入りするか」


 「逃げたニャンね」


 なんとでも言うがいい。


 「よし行くぞー……ん?」

 

 辺りの様子がおかしい。

 突然ざわざわし始めた。

 独り言だと思われたのか内心焦ったがそうではないようだ。

 俺は騒ぎの中心に向かった。


 「すみませーん。通りまーす」


 一体何事だ?


 もう少しで見えると言うところで話し声が耳に入った。


 「……あれエルフじゃないか?」


 エルフ!


 今までいろんなラノベを読んで来たがもはや定番中の定番の妖精。

 俺は人混みをかき分けて奥に進んでいった。

 そこから見える一人の女性。

 金髪で尖った耳。

 背中には折りたたんでいるのであろう透明な羽。

 そして案の定美人だ。

 アーデルハイトとはまた別のベクトルの綺麗な人だ。

 しかし、彼女を見ると少し俯いているような気がする。

 表情も険しい。


 なんだこの違和感は?


 俺は改めて周りの人々の顔を見た。

 そこには一つの共通点。

 その表情には、侮蔑と嫌悪が含まれていた。


 「……なんでこんなところにエルフが」


 「……また問題を起こすんじゃないよな」


 「……ああ、恐ろしい。信じられないわ」


 一言一言に棘がある。

 恐らく彼女にも聞こえて居る。

 非常に胸糞悪いが下手に口出し出来ない。

 俺はまだ常識には疎い。

 だから聞いてみることにした。


 「なあシロナ。ここの人たちってなんでこんな顔してるんだ?」


 影の中からシロナが返答した。


 「それはニャー、エルフが呪われた一族と言われているからニャン」


 呪われた?


 一体どう言う事だろうと考えていると女エルフはどこかにいってしまっていた。


 「……やっぱりいい事だけの世界じゃないって事だな」


 俺はそう呟いて、ダンジョンに向かった。


次回から3日に1回投稿になります。

すみません!

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