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第20話



 当初の予定では挨拶まわりだけだった様だが、なにやらダンジョンに行く事になったらしい。


 「ダンジョン?……ダンジョンがあるのか!」


 俺は思わず身を乗り出した。


 「う、うん。凄い食いつきね」


 そりゃあダンジョンですから。


 「一応説明すると、世界には無数のダンジョンが存在するの。ダンジョンっていうのは無数のトラップとモンスターで構成された迷宮のことよ。塔型ダンジョンと洞窟型ダンジョンがメインで稀に特殊なダンジョン、例えば都市型ダンジョンがあるわ」


 「なるほど、続けて」


 「ダンジョンはある日突然現れて、攻略されるか、一定時間経つと自然消滅する仕組みになってるわ。今回行ってもらいたいのは、この街の近くにできた新ダンジョンよ」


 新ダンジョン、なんて良い響きだ。ウキウキするね。


 しかし、何故俺なのだろうかと疑問に思った。

 空護や響の方がずっと強い筈だ。

 成功率は俺より遥かに上だろうに。


 「それは楽しみだけど何で俺なんだ?」


 俺は思い切って聞いてみることにした。


 「初仕事だからね。あまり成功率の事は考えてないわ。ダンジョンは結構運任せなところがあるから」


 「そう言う事ならお任せあれ」


 ぶっちゃけかなり楽しみだ。

 ダンジョン探索は男のロマンなのだ。


 「そう! ありがとう。それじゃあ準備が出来次第出発するわ」


 「りょーかい、まあ特に準備は必要ないんだけどね」


 「そうなんだ。それじゃあ少しだけ待ってて。移動の時はドルト爺に任せるから」


 ドルト爺? …………ドランバルトの爺さんか。そんなニックネームだったのか。そういえばニックネームを付けられた事ないな。俺の名前は2文字だからニックネーム付けづらいもんなー。


 それはさて置き休む事にした。





———————————————————————————





 

 俺がいなくなったタイミングでクレアがドランバルトに尋ねた。


 「ねぇドルト爺、なんで急にダンジョン攻略なんて依頼させたの? その場のノリっていう訳でもないんでしょ?」


 「うむ。ちゃんと理由はあるぞ」


 「どんな?」


 「それはのう———」





———————————————————————————


 これは少し遡って、俺がここでクレアと再会する前の事だ。


 「来てすぐはただの一般人の異世界人がどうしてドランバルト様の一撃を受けて無事で済んでいるのでしょうか」


 その質問に対して答えを少し考えて、ドランバルトは答えた。


 「わからん。じゃがあの眼、あれはクロノの神眼じゃった」


 「クロノ……先程仰っていたドランバルト様の元契約者ですか」


 アーデルハイトの問いかけにドランバルトが相槌を打つ。


 「なるほど、ドランバルト様程の神霊魔獣と契約を結んでいたのなら相当の実力者なのでしょう。それがなんらかの形でトキ殿に伝わっていると」


 「可能性はある。神眼に関しては完全にわかっているわけではないが、そういう事もあるやもしん」


 「そうですか……」


 おそらくアーデルハイトは危惧しているのだ。

 いきなり現れた俺がもし悪人だった場合、クレアに危険が及ぶにではないのだろうかと。

 ドランバルトはこう言った。


 「じゃが心配はないじゃろう」


 「え?」


 「彼奴は……クロノは悪人ではない。猫の言う通りじゃよ」


 そういうとドランバルトは寂しそうな顔をした。

 彼の心境は複雑なのだろう。

 自分を捨てた主人だが恐らく捨てたくて捨てたわけじゃないのだ。

 シロナの言動からそれは見て取れる。


 「じゃからのう、つまり、彼奴が選んだ後継者じゃ。心配はいるまい。ワシが言いたいのはそう言うことじゃ。それにのう、アーデル。ワシは彼奴が悪人に思えんのじゃ」


 それを聞いたアーデルハイトはふっと息を吐いて、

 

 「そうですか……彼は敵では無いと思っていのでしょうか」

 

 「うむ。もし心配ならなんとかするがどうする?」


 「いや、そこまでする必要はないでしょう。私も彼が悪人ではないと判断していますから」


 アーデルハイトがそういうとドランバルトは一瞬目を丸くして笑った。


 「ほっほっほ、そうか」


 「ええ、彼はからかい甲斐があります」


 完全に意図的だったのを公表したが、俺はそれを聞いていない。

 ドランバルトは大声で笑った。


 「それにしても中々の強さじゃよ、彼奴。既にBランク相当かそれ以上の実力はあるぞい。しかも魔力値はAランク。猫とも契約しておるし、クウゴらを除くとここいらではかなり上位の冒険者じゃろう。冒険者か……ふむ、丁度良い」


 「どうなさいましたか?」


 「トキをあのダンジョンに行かせよう」


 アーデルハイトが驚いた表情を浮かべた。


 「【還らずの塔】ですか」


 「ああ、出現して間もないが未だに帰還者がいないあの塔型ダンジョン。この辺りには大した冒険者がいないせいでもあるがそれでも帰還者が0というのは妙な話じゃから時期を見て空護たちに行かせようと思っていた頃じゃったからな。腕試しには良いじゃろう」


 「危険ではありませんか?」


 「なに、心配はいらんよ。彼奴の実力だったら逃げるくらいなら楽勝じゃわい」





———————————————————————————





 「———というわけじゃ」


 「それなら良かった。もしかしてトキを信用してないのかなとか思ってたから」


 「ほっほっほ、そんな事はないわい。ただ、あやつの能力はダンジョン向きなものがあるからのう。任せてみたいという気持ちがない事もない。これでも結構彼奴には期待しておるんじゃよ」


 理由を聞いて安心したらしく、


 「そっかあ」


 と安堵の表情を浮かべた

 この話はここでおしまい。


 



———————————————————————————





 「そろそろ行くのか? 俺はいつでも良いぞ」


 「そうか。うむ、では行くとしよう」


 いよいよ出発だ。

 これから向かうのは還らずの塔というダンジョンらしい。

 還らずというのは気になっていたが、楽しみだという感情がそれを上回っているのでかなり気分が高揚している。

 

 「あまり浮かれていると痛い目にあうぞい」


 「ああ、大丈夫。俺は油断だけはしない」


 そう、油断はしない。物事を慎重に行うのは向こうにいた頃から変わらない。

 頭に血がのぼることは殆どない。


 「それじゃあ、頑張ってね、トキ」


 クレアが檄を入れてくれた。

 一層やる気が出る。


 「任せとけ!」


 アーデルハイトも見送ってくれた。


 「トキ殿、ドランバルト様、いってらっしゃいませ」


 今回は毒を吐かない様だ。


 「まあ、いきなりの攻略は全く期待してないのでほどほどに頑張って下さい」


 と思ってたらすぐ毒を吐いた。

 

 「よーし絶対攻略して一泡吹かせてやる」


 「はっ、期待しないで待ってます」


 鼻で笑いやがった!


 「少し離れていなされ。変身するぞ」


 あのデカイいのになるのか。


 「では…………ッッ!」


 ドランバルトの周辺に靄がかかる。

 それは徐々に渦を起こしながら膨らんでいき、巨大な竜巻の様になっていった。

 やがて竜巻は弾け飛び中から巨大な龍が現れた。


 「乗って良いぞ」


 「りょーかい」


 俺は鱗をよじ登ってドランバルトに乗った。


 「ちゃんと捕まったな? では行くぞい」


 ドランバルトは少し浮き上がる。

 周りの景色が歪んでいき城が見えなくなっていった。

 







 数分後、異空間を抜けて俺たちはダンジョンに向かって移動中だ。

 かなりの猛スピードだった。


 「じ、爺さん、これめちゃくちゃしんど、いんだが」


 毎秒ものすごい風が全身を叩きつけてくる。

 

 「我慢せい。座りやすい様に鱗をずらしているじゃろうが」


 「この鱗痛いんだよ! なんでこんなにザラザラしてんの! ヤスリかッ!」


 「なにィ?! 自慢の鱗に何を言うとるんじゃ! お主も最初は綺麗な鱗だとかいっておったではないか!」


 綺麗なのと粗いのは関係ねー!


 「プクク、ジジィも歳かニャー?」


 「だぁっとれ! この縮れ毛!」


 「ニャッ、ニャんだとお! レディに向かって失礼ニャン!」


 そこから暫くこの2名による口汚い言い争いが続いた。

 ただただ酷い誹謗中傷だった。

 あんたら一旦落ち着けと言いたかったが、巻き込まれては堪らないので言わないことにした。


 



 「はぁ、はぁ、もう疲れたわい。そろそろ着く頃じゃから早めに飛び降りるんじゃ」


 「え、降ろしてくれないのか?」


 「ワシが降りたら目立つじゃろう。じゃから、ほれ」


 「マジかよ……」


 下を覗き込むととんでもない高さなことに改めて気づいた。


 「大丈夫じゃ。着地補助はする」


 「……わかった」


 よし、飛べる!俺は飛べるぞ! そう、俺は鳥!


 自己暗示をかけながら、俺は決心した。


 「せーのっ!」


 飛び降りた。







 「ああああああああああああははははははははは! やっばい! 落ちてる落ちてる! あははははは! 」


 めちゃくちゃ怖いが結構楽しい。

 そうでも思わないと身がもたない。


 「うっわ! 高さ何メートルだ?」


 現在地は上空1000m程。

 ちなみにさっきのまでいたのが2000mなのでだいぶ飛んでいた。


 「着地補助ってどんなだ? もう着いちゃうぞ!」



 上空500……450……400…



 「え、マジ? 全然速度変わらないんだけど……」



 350……300……250……



 「おいおいおいおい! ちょっ、待っ!」



 200……150……100……



 「ふざけんなああああああ!」



 そして、上空5cm。



 地面スレスレまでいった瞬間ピタリと止まった。


 「…………」


 何かが全身を包み逆さになっている俺の体を元の向きに戻して着地した。


 「……あ」


 「ああ、ビビったぁ! 絶対終わったと思った!」


 今更だが全身を変な汗をかいている。

 もう、手汗なんて湧き出る様な量だ。

 なので少し落ち着くことにした。


 こんな時は深呼吸だ。スー………ハー………



 ………



 だいぶ落ちつてきた。


 「ふう、生きてたから良かったけどかなり怖いスカイダイビングだった。貴重な体験だ。空飛ぶ魔法とかあったら覚えたいな」


 我ながら結構神経が太いと思った。

 これはかなりトラウマものだろう。


 「さてと、行くか」


 俺は目的のダンジョンに歩き始めた。

 今のうちに手持ちの物を確認する事にした。


 「持ってるのは、剣と5000マルクとこの“箱”だ」


 俺は今手のひらと同じ大きさの箱を持っている。

 実は実はこれ、自立式魔法具でクリスタルのかけらで動く超激レアアイテムなのだ。

 ドランバルトの話によると、少し前に空護が作った。魔法具の一つらしい。

 いろんなもの作ってるな、と改めて思う。

 容量は大体2m×1m×1mとそれなりのサイズだ。

 仕組みは大体神都の拡大と同じ原理だ。

 空護の能力に空間創生というのがあった。

 おそらくそれだ。

 それにクリスタルのカケラの無尽蔵な魔力を送っている訳である。と思う。


 「ほんと便利だよな。これに2立方メートルってかなり豪華」


 このボディバックじゃ入りきれないものでもこれさえあれば詰め込めることができる。


 「そんじゃ、人生初ダンジョンにいくとしますか!」

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