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第19話


 いよいよ神に謁見する時が来た。

 この扉の向こうに神様がいる。


 「あー緊張する。何の用なんだろうな。シロナはどう思う?」


 緊張していると言いつつ気の抜けた会話をしている俺。

 同様にシロナもいつもの気の抜けた話し方になっていた。


 「さあ、多分グレイルの件じゃないかニャー。あれも一応神ニャんだし」


 ちなみに、シロナは未だ人型モードだ。


 「ふーん。ところでお前猫に戻らないのか?」


 「ご主人はどうしたい?」


 満面の笑みでそう聞いてきた。

 それなら悩むまでもない。


 「このまんまで」


 「了解ニャー」


 銀髪猫耳の美少女。これを放っておくなんて滅相も無い。


 「しっかし、爺さんとアーデルさん遅いな。何してんだろ?」


 「雑談じゃニャいかニャー? さっきの場所にいるっぽいニャン」


 もしや、やっぱりさっき何か壊してしまったか? でも俺は悪くないぞー。多分。


 それから暫く経っても来る気配が無かった。


 「マジで遅いな。どうする?」


 「それじゃあ、先に行っておくかニャー」


 「そうだな。いつまでも待たせるのは失礼だよな」


 そういうやり取りをしている中、俺たちを見ている人影があった。


 「! あれは……」


 そして、いざ入ろうとした時、その人に声をかけられた。


 「何してるの?」


 「ん?」「ニャ?」


 俺とシロナは声を掛けられた方向に振り向いた。

 そこには見知った人が立っていた。


 「おお、クレア!」


 声を掛けたのはクレアだった。


 「久しぶり、だったっけ?」


 あの時から数日間眠りっぱなしだったので、俺からすると二日ぶりなのだが、クレアにとっては数日ぶりだ。


 「私にとっては久しぶり。元気になってよかった!あ、それと果実。本当にありがとね」


 クレアが優しく微笑んだ。


 相変わらず眩しいくらいの笑顔だ。マジで女神。


 「気にすんな。俺も大分世話になったからな」


 「…………」


 シロナがじっとクレアを見ていた。


 「ふぅん、なるほどニャー」


 「どした? 何がなるほどなんだ?」


 「扉の向こうに行く必要が無くなったニャンよ」


 扉の向こうに? なんでだ?


 「えーっと、もしかしてあなたは神霊魔獣なの?」


 「そうニャンよ」


 「やっぱり! あと可愛い!」


 「むぎゅ〜」


 クレアがシロナを思いっきりハグした。

 素晴らしい光景だ。


 さっきの言葉だが、どうやら二人の間では意味が通じているらしい。


 うーん…………ん? まさか、


 「お、気がついたっぽいニャンね」


 「と言うことは……」


 クレアが……


 「うん、私がこの神都を治める神なの」






———————————————————————————





 そうこうしている内にドランバルトとアーデルハイトが来て部屋の中で話すことになった。

 結局扉の向こうには行った。


 「さてと、どう? ビックリした?」


 「そりゃあビックリもするよ。神だぞ、神。このままの喋り方だったらダメだったりする?」


 「ううん、あまり硬いのも嫌だし、このままでいいわ」


 ホッ、よかった。


 よかったと思った矢先、横から思わぬ攻撃を食らった。


 「そうですね。トキ殿は丁寧な言葉遣いが苦手だと思われますから」


 くそぅ、ゆとり教育め。なぜ俺にもっとちゃんとした敬語を教えてくれなかった! どうしても空護みたいな“ッス”みたいになってしまう! あそこまであからさまにでは無いけど。


 「ぐぬぬ、辛辣なコメントありがとよ、チクショウ」


 この人あれをまだ根に持ってるのか? これに関しては完全に俺のせいじゃないと断言できる。と思う。かもしれない。かなぁ。


 考えれば考えるほど自身が無くなる。

 あの圧が凄い。


 いや、考えるのはよそう。この人は毒舌キャラなんだ。そう思うことにする。


 俺は話題を元に戻した。


 「クレアが神だってわからなかったな。……あ、いやでも、思い当たる節がないことは無い」


 やたら人気だったし、神に関する話題になるとやや挙動不審気味になってたし、よく考えたらわかったかも知れない。


 「それは詳しく教えていただきたいですね」


 クレアをじっと見ながらそう言う。

 クレアはというとその横で冷や汗をかいていた。


 「ギクリ……」


 これ言っちゃダメだったやつだ。





 結局洗いざらい喋らされた。


 「もうっ、トキのバカっ!」


 アーデルハイトに聞こえない用に悪態を吐いた。

 怒っている姿もめちゃくちゃ可愛い。

 ずって見ていたいくらいだがアーデルハイトが凝視しているのでやめておこう。



 「クレア様、やはりその辺りはしっかりしていなければなりませんね」


 アーデルハイトがやや圧のある風に言った。


 「うっ…気をつけます」


 アーデルハイトからのお叱りを受けて肩をすくめた。


 「病気が治ったと思ったらこれだもん。もうちょっとだけ寝ててもいいのよ?」


 その方が私も遊べるしと言う呟きをアーデルハイトは見逃さなかった。


 「……いい覚悟ですね。余程厳しくして欲しいとみえます」


 明らかにやっちまったと言う表情になるクレア。


 そういえばこの人病気だったんだっけ。


 「もしかして、女神の果実を探してたのって……」


 「そう。アーデルのためだったの」


 なるほど。そう繋がる訳だ。


 「その節は本当にありがとうございました」


 アーデルハイトが深々と頭を下げた。

 クレアと同様に俺は気にするなと言った。


 「それはそうとあれ程までに勝手な外出は慎むよう申し付けたのに———」


 「もうそれ何回も聞いたー!」


 勝手な外出? さっきも怒られてたし不都合があるのか?


 「神だって事がバレたらマズいのか?」


 「ちょっとね……目立ち過ぎると危険なの」


 危険?


 「【クロノス】と名乗る神殺しがいるのです」


 「神殺し? 大それたことをする奴がいるもんだ。それって神都の主人がいなくなるってことだよな」


 それはかなりの大ごとだ。

 いろんな国の首相が暗殺されまくってる様なものである。


 「クロノスか。クロノス———時の神、じゃ無い方だろうな……ウラノスを殺した父殺しの神。なるほど、だから神殺しか」


 この辺は本で読んだ事がある。


 「異世界の神話ですか?」


 「ああ、俺のいた世界のギリシャって国の神話だ。クロノスはそこで出て来る神の事だ。ウラヌスって言う神様……父親の神を殺したって言われてる。とてつもない力を持っていたらしい。神殺しをするくらいの力を持つってことを示してるんだろう」


 それにしても殺しとは穏やかじゃない。


 「それを名乗ってるってことは異世界人だろうな」


 「ですから、私はクレア様には慎重になって頂きたいのです」


 そりゃあそうだ。

 そんな危険な奴がいつ来るかわからない状況で、主人を放っておくわけにはいかないだろう。


 「わかったわ。今回の事は反省してます」


 「それならばよろしいです」


 「あれ、今回は結構甘めよね?」


 「私のためでしたから」


 アーデルは優しくそう言った。

 仲がいいんだなって感じる光景だ。


 「お主ら、そろそろ本題を言わんと、なんのために呼んだのかわからんぞ」


 今までずっと黙っていたドランバルトが声を発した。


 「爺さんいたのか、ってなんかデジャヴるな。まあいいや、本題って?」


 よく考えてみたら、ここに呼ばれた訳をまだ知らなかった。

 こんな雰囲気だから悪いことでは無いと思うが、直接呼ばれてるってことはそれなりに大事な要件なのだろう。


 そして、本題に入ろうとした時、


 「皆さんその前に休憩を入れませんか? 刻殿はここに来て一息もつけてないでしょう。気絶を除けば」


 やはり棘がある。何故だ。でも休憩か。それもいいな。


 「さて、聞くところによるとトキ殿」


 「うん?」


 なんだ一体。


 「【コック王】のスキルをお持ちだとか」


 急になんだ?


 「ああ、持ってるぞ」


 「何か作って下さい」


 あまりに直球だったので一瞬フリーズした。


 あれー? 俺の休憩じゃ無かったっけ?


 「何か作って下さい」


 「2回言うな」


 何故だ! 何故ここまで初対面のやつをコケにできるんだ!


 「いいでは無いか。減るもんでもないじゃろう。なあ猫」


 「そうニャンご主人。一回ぐらいいいじゃニャいか。なあジジィ」


 「お前らさっきまで殺しあってたよな! 何同意を求め合ってんだよ!」


 都合のいい奴らめ。一体どこから情報が漏れた。この中で知ってる奴は……この猫か!


 俺が睨むと空かさず目を逸らすシロナ。


 「でも俺は料理は作れるけど、スイーツは無理だ。それは別個のスキルがあるらしいからな」


 「それは承知しています。なのでお茶受けのいい物を作って下さい」


 客に料理を作らせるのみならず注文までつけるか。


 「コック王ってあのコック王よね?」


 「はい、あのコック王です」


 すると、目を輝かせたクレアが、


 「お願い、トキ」


 …………






———————————————————————————






 最終的に作る事になった。


 あんな感じに頼まれたら仕方がない。みんなそんなジト目をしないでおくれ。


 「お茶受けのいい食べ物か。手軽な物がいいな……よし、サンドイッチでいいか」


 ティータイムにサンドイッチというのはそれなりに聞く。

 それ以外にパッと思いつかなかっただけなのだが。


 「パンはある。あとは中に何を入れるかだ」


 とりあえずスキル発動。


 食材は、虹瓜とキメラポークの生ハムとこの前ついでに作った特性マヨネーズ。

 この世界にはマヨネーズを使う文化がないらしく、かといって異世界人も今まで特に作ろうとしなかったため広まってない。

 今回はこの特製マヨの分量調整版でキメラポーク特有の匂いを中和して虹瓜の甘みを加えた物だ。

 この虹瓜は何故か甘い味のする虹色のきゅうりっぽいものだ。

 切ると中はただのきゅうり。

 単品では不味いが組み合わせ次第では美味くなる。

 これがマヨと絶妙にあうのだ。

 マヨとハムだけだとめちゃくちゃ酸っぱいが甘みがこれを打ち消し丁度いい酸っぱさになる。

 あとは普通にサンドイッチを作って、


 「よし、こんなもんだ」


 



———————————————————————————





 「ほれ、出来たぞ」


 「これは……パルカンタ?」


 パルカンタ? 異世界ではそう言うのか。


 「俺のいたとこではサンドイッチと言うんだ」


 「サンドイッチですか」


 「ああ、昔サンドイッチさんって人が名付けたお手軽料理だ。まあ食ってみてく「うまいニャー」」


 自由だなオイ。


 出してすぐ食っていた。

 テーブルについて約0.5秒後口に収まってた。


 「これはキメラポークか。 よくあんな物が使えたのう」


 それは確かに工夫した。スキルが。


 「トキー、これは?」


 「それは我らが偉大なる調味料マヨネーズだ。うまいだろ?」


 「うん!」


 それは何より。






 だいたい食べ終えた頃、漸くお待ちかね本題に入った。


 「それではそろそろ本題に移ります…………もぐもぐ」


 しまらねぇなぁ。


 「もう私が喋るからいいわよ、アーデル」


 「ではお任せします。もぐもぐ」


 まだ食うか。この人。普通神に説明役をなげないだろ。


 「この前クウゴからトキがあの店の店員になったって聞いたわ。合ってる?」


 「うん、なった」


 「あの店はね、この天宮直属の組織でもあるの。このヘヴンヘイムのあちこちにある冒険者ギルドのクレアトル支部の管理だったり、街の空間増幅だったり、他にも色々あそこに依頼をしてるわ」


 なるほど、だから知り合いだったのか。


 「今回は一応それに入ったトキをみんなに合わせておこうかなと思って呼んだんだけど……」


 「なんだ? 歯切れが悪いな」


 「ちょっと、都合が変わったの。あっ、トキを仲間外れにするって事じゃないよ。このまま直接仕事を依頼したいと思うの」


 仕事か。良いだろう、どんな仕事か楽しみだ。


 「トキ、今回あなたに———」


 それは願ってもない俺好みの仕事だった。


 「ダンジョンに行ってもらいます」


 

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