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第12話


 それから少し寝て起きたらすっかり日が暮れていた。

 俺はベランダに出て物思いにふけった。


 「いろいろあったなぁ。まだ何日しか経ってないのに。ラノベみたいにファンタジー世界でモンスター相手に無双!……みたいな事になると思ってたら……現実は甘くないな。それでも向こうよりは遥かに居心地がいい」


 結構痛い思いをした。

 それでもひとりぼっちだった時よりこっちの方が全然いい。

 

 「あれから何日か経ってたのか。それじゃあ迎えってのが来てクレアはもう帰ったんだな。果物渡せてめでたしめでたしだ」


 あの後、どうなったのかはよく知らない。

  グレイルはどうなったのか。

 空護たちは無事なのか。

 目の前で親を失ったミルちゃんは大丈夫なのか。


 「……降りてみるか」


 ここて考えても答えは出ない。

 俺は部屋を出て店の方に行く事にした。

 空護達なら知っていると思ったからだ。

 今日は確か休業日だったから店はやってないだろう。


 「……あ」


 扉を開けたら目の前に奈々がいた。


 「おっす」


 「だ……」


 「だ?」


 「だだだ、大丈夫!? もういいの? 怪我とか平気?? ちゃんと歩けるの? 心配したんだよ!」


 ガシッと肩を掴まれた。

 流石亜人なだけあって兎でも結構強い。

 というか痛い。


 「大丈夫。肩以外わああああああああ!!!!!!」


 お、折れてしまう……!


 「あっ、ご、ごめんね。つい力入っちゃった」


 そうか、心配してくれてたのか。こんな会ってすぐの奴のことを。有難いなぁ。痛かったけど


 「ありがとう。優しいな先輩」


 「ふぁっ!」


 固まってしまった。どうしよ。なんか気に障ったか? いや、でもこの前のあの反応を見る限りこの先輩は……喋り出す前に話を逸らそう。

 

 俺は慌てて話を変えた。


 「空護達は下か?」


 「うん。みんな居るよ」


 みんなって言ってもここには俺ら以外には2人しかいないけどな。それとも別に誰か居るのか?


 そんな事を思いながら俺は下に降りた。

 下には空護と響がいた。


 「お、もういいんッスか?」


 「ああ、もうバッチリだ」


 「ハラヘッター。おお、起きたんか」


 どうやら2人とも元気みたいだ。 

 俺はその様子を見てホッとした。


 すると、


 「おにいちゃん!」


 足に何かがしがみついた。

 見下ろすとそこには、


 「ミルちゃん……」


 予想外だったので少し驚いた。

 元気な様子を見て安心したが不安にもなった。

 正直合わせる顔がない。 


 「ごめんね。お母さん助けられなかった……」


 「ううん、大丈夫。おにいちゃんのせいじゃないよ。おにいちゃんは私を護ってくれたもん。だからねだから……だか……」


 ミルの目から涙が溢れる。

 当然だろう。

 こんな小さな子が親を失って平気な訳がない。

 

 「……なあ空護」


 「なんスか」


 「この子ここに置いとけないか? 身寄りがないんだ。頼む」


 今俺に出来るのはこのくらいだ。


 「もちろんッス」


 「サンキューな。……ミルちゃん、それでいいか?」


 「……うん」


 「じゃあ今日から一緒だ」


 ミルは涙を拭って力強く頷いた。

 

 

———————————————————————————



 「今日からお世話になります。よろしくお願いします!」


 「うん、よろしく」


 ミルはここに住む事になった。

 営業中は店で働くとも言っている。


 「よろしくッス」


 「おう」


 「……かわいい」


 一人反応が変だったが皆歓迎していた。


 部屋は空護が用意した。

 俺は何故そんなに部屋が大量にあるのだろうかと疑問に思った。


 「なあ空護。なんでこんなに部屋が沢山あるんだ? 見た感じそんな広いとは思えないんだけど」


 「ああ、それは僕の能力ッス」


 「能力? ああ、お前“空間”の能力だったっけ」


 「そうッス。ちなみにこの街の空間操作も僕がやってるッスよ。まぁ流石に魔法具は必要ッスけどね」


 「ほぉースゲェな」


 この規模を操れるのは凄い事なのだろう。

 この前聞いた話では街は日に日に変わっているらしいから、それを一人でやっていると言う事だ。


 「なんでこんな事してると思うッスか」


 「なんだ突然? まあ街規模なんだから多分この街の偉いやつとなんらかの関わりがあると言ったとこだろ」

 

 「へぇー、よくわかったッスね。その通りッスよ」


 まあ多分そうなんだろうな。


 「ちなみに僕にそれを依頼した神様が刻君の事お呼びッスよ」


 「……は?」


 一瞬頭がフリーズした。


 待て待て、何故? 神様? 確かここは神都だから神様が治めてるって話だよな。何かマズかったか? 異世界人の不法入国みたいな感じか? 神様怒ってんのか? まじか、勘弁してくれよ。


 「怒ってるわけじゃ無いから大丈夫ッスよ」


 空護が付け加えた。


 「……さてはお前わざとだな?」


 「人の話はちゃんと聞こうっておばあちゃんから習わなかったッスか?」


 おちょくる様な口調で言う。


 「お前、飯抜きな」


 「すみませんでした。もう二度としないッス」


 必死だ。

 このスキルなんて便利なんだ。

 そしてなんて現金な店長なんだ。

 さっきスゲェと思った俺が馬鹿だった。


 「取り敢えず明日その神様に会いに行くッスよ」


 「りょーかい」


 怒ってないなら一安心だ。

 

 「どーでもいいけど腹減った。なあ、起きたんだしなんか作ってくれよ」


 「オメー、ちょっとは病み上がりを気遣おうとは思わねーのか?」


 この腹ペコ病み上がりになんてこと言うんだ。まあ構わないけどさぁ。


 俺はさっさと厨房へ向かった。


 「おにいちゃん料理できるの?」


 「おう、スゲーぞこいつの料理。美味いのなんの。そこのアホ毛のボンクラよりよっぽどこの店に貢献してくれてるぜ」


 「ひ、ひでぇッス」


 「わ、私はアホ毛いいと思うよ!」


 助け船が入った。


 「奈々ちゃん!」


 「そう、アホ毛というのはもう一種の武器。古今東西ありとあらゆるアニメ、漫画、ラノベ、ゲームでキャラクターに付けられた由緒正しき属性で……」


 「なにあれー?」


 「ダメだミルちゃん、良い子は見ちゃダメッス」


 「そうだぞミル。そこのボンクラに触られたらアホ毛のアホになっちまうぞ」


 「なんてこと言うんッスかあ!」


 阿鼻叫喚だ。






——————






 「さて、今日は何にするかな」


 本来的向こうと同じ素材があまり無いこの世界の食材たちで馴染みの料理を作るのは至難の業だろう。

 しかし俺が持つスキルはそれを難なくこなすトンデモなスキルなのでなんの問題もない。


 「よし、じゃあ始めるか」


 スキルを使っている時、感覚的には自動で料理していると言うよりはなにをすればいいのかが分かると言った感じだ。

 つまりあくまでも料理するのは自分だと言う事だ。

 

 そして作ること数分。


 「今日はヘブンへイム産野菜を使った特製シチューだ」


 「うおおおお! まさかシチューを拝めるとは!」


 流石響。メシのことになるとテンションが高い高い。


 「なにこれー?」


 「これは俺の故郷のシチューって言う料理だ」


 まあ厳密には違うけど。


 「しちゅー?」


 「そう、シチューだ」


 今回は牛乳もバターもあったのでスキルは要らないと思っていたが具の方が訳の分からん物ばかりだったので流石に必要だった。

 何故かは知らないがここの食材は動物から取れるものは向こうのものと一緒のものが多い。


 ミルはまじまじとシチューを見ている。

 初めての食べ物だとまあこうなるだろう。

 そして、スプーンを口に運んだ。


 「! おいしー!」


 「そうか。良かった良かった」


 いやー、喜んで貰えるとうれしいな。


 「なんだろう? これ」


 奈々が野菜の様なものを拾い上げた。


 「あ、それブルースカル草ッスね。よくこんな硬いの使えたッスね」


 ブルースカルっていうのは犬が骨の様にかじっていたことと色が青いことから付けられたらしい。


 「知らん。スキル使ったらなんとなく使えそうなだったから使っただけだぞ」


 「でもこれほかの野菜とは一線を画すうまさッスね」


 「特殊調理しょ……」


 「やめとけ」


 そこはかとなくマズい感じがした。


 「さて、明後日からまた仕事ッスから今のうちにいっぱい食べていっぱい休むッスよ」


 「「働いてから言えよ」」


 「二人揃って!」


 清々しいくらいハモった。

 まぁ当然っちゃ当然だ。


 空護は助けを求める様に奈々の方を向いた。


 しかし


 「ちょっと弁明の仕様がないかなぁ……」


 「んなっ!」


 ショックを受けるくらいなら働け。


 「だ、だって空護君いっつもナンパしてるから……」


 「ほぉー」


 こいついっぺんに吊るしあげた方がいいな。


 「ぐぬぬ……いいじゃないッスか! 結果的に女性客めちゃくちゃ増えてるッスよ! むしろ感謝して然るべきッスよ!」


 「こいつ開き直りやがった!」


 もはや手に負えんダメ店長だ。


 すると、突然裁きの時が来た。


 「クウおにいちゃん!」


 「ミ、ミルちゃん! ミルちゃんは僕の味方ッスよね?」


 「 働かないとダメ人間になるんだよ!」


 「だ、ダメ人間ッスか……!」


 どうやら底知れないショックを受けた模様

 会心の一撃だ。


 「あはははっ!」


 ミルは楽しそうだった。

 俺は元気付けられて心底良かったと思えた。

 

 「これで安心か?」


 「ん? 気づいてたのか?」


 「ああ」


 響はどうやらミルを元気付けようとしていたことに気がついていたらしい。


 「ちなみになんで?」


 「俺もああやって元気付けようとされた事があったからよ。あのアホ毛にな」


 「空護がか?」


 「おう。アイツ人を励ますのがヘッタクソでよ、どうやったらいいか分からんかったっぽいけどな」


 そうだったのか。と言うことは昔こいつに何かがあってそうなったんだろうな。


 「……おにいちゃん、か」


 響はどこか寂しそうな顔でそう呟く。

 俺はその顔を見て詮索はしまいと思った。


 「あ、忘れてた……刻君」


 「んあ?」


 「明日装備整えるんでついて来て下さいッス」


 「装備? 俺のか?」


 「そうッス」


 ほう……いいね! 装備かぁ。そろそろこの服飽きて来た頃だったから丁度いいな。鎧とかは別に求めてないけど、もっとちゃんとしたの着たいよな。


 俺はここに来て中世ヨーロッパの庶民服みたいなやつと従業員の制服しか着てない。

 別にお洒落したい訳じゃないが流石にもっとらしい服を着たかったのだ。

 

 「オッケー。昼ぐらいに行くのか?」


 「いや、朝ッス」


 「? まあいいけど」


 何故に朝。朝しか開いてないとか? いや、考えにくいな。……ああそうか。呼ばれてるんだった。


 すっかり忘れていた。

 神様に呼ばれてるのに忘れるとは我ながら図太いなと思う。

 

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