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第9話


 場面は変わり、今俺は空護の言っていた部屋にいる。

 普通専用の部屋ってすぐ用意できるものなのだろうか?

 もしかしたら例の魔法具とかでポンポン部屋を作ってるのかもしれない。

 まあ、部屋があるのは助かるのでなんでもいいが。

 俺は久々のベッドにダイブした。


 「あー疲れた。4人分の料理を作るって結構大変なんだな。お袋の有り難みが身に染みる」


 お袋か……もう一人になって何年経ったっけ。


 数年前に家族を失って、ずっと俺は一人だった。

 その頃から人がいない一人の時はこうして家族の事がふと頭に過ぎる事がある。


 「おっと、いかんいかん。暗くなったらダメだな。さて、もう異世界三日目だしこれからの事を考えていかねーと」


 この世界で何をしたらいいのか、何をすべきか、俺はそれが未だに定まってないのだ。

 何かのために呼ばれたのかもしれないし、特に理由はないのかもしれない。

 今の俺には使命もなければ目的もない。

 いや、目的ならある。

 あの黒ずくめの事や時折あるフラッシュバックの事を知る事だ。


 とは言っても何をすれば良いのか……あ、そう言えば明日クレアが帰るんだったな。無事に女神の果実を届けられるといいな。……うーむ、俺も付いて行ってみるか? いやでもバイトほっぽって行けないしなー。まぁまた会えるって言ってしいいか。


 色々考えている内に眠くなってきた。

 そう思ってそのまま寝ようとした時のことだった。


 「ふぁあ……寝みぃ……」

 

 「ご主人」


 「うおっ!」

 

 何処からともなくシロナが現れた。


 「なんだシロナか、脅かすなよ。と言うか今まで何処いたんだ?」


 「ご主人と一緒にいたニャンよ。気づかなかったニャンか?」


 「え、マジで? 全然気がつかなかったんだけど」


 確か居なかった気がしたんだが。


 「正確に言うとご主人の影の中ニャ」


 影?

 影ってこの影だろうか。


 「見たほうが早いニャンね」


 するとシロナの体が徐々に床に沈んでいった。

 そしてすぐ浮き上がってきた。


 「おお、すげぇな。四六時中一緒って訳だな」


 魔獣ってこんな事が出来るんだな。流石は異世界。


 「そうニャンよ。変なことしてたら一瞬で分かるニャ」


 「しねーよ。じゃあ俺もう寝るからな」


 そういえば寝る前に話しするの久しぶりだ。猫だがな。まあこれと言っていつもとなんら変わりはないけど。


 「それじゃあおやすみニャ〜」


 「ん」


 実はこちらに来てゆっくり室内で睡眠が取れたのはこれが初めてだったりする。

 そして俺は眠りについた。







 「……もう寝たかニャ?」


 シロナは辺りを見回し俺が寝ていることを確認した。


 「やれやれだニャ。神霊魔獣ともあろうこのワタシがこんなご主人の元につくとは。まあ、見込みがあるのは知ってるけどニャー」


 すると、シロナの周りに靄がかかる。

 その靄は徐々にシロナの全身を包み、シロナは姿を変えていく。

 そして、月明かりに照らされたシルエットは猫のそれでは無かった。


 「いよいよ明日ニャンね。()()()の言う通りなら明日は大変になりそうニャンよ。生きるも死ぬもご主人の運命ニャ。さて、どこまでやれるかニャ」


 シロナは不穏な言葉を残し、影に消えていった。

 




———————————————————————————





 夢を見た。

 それは遠い、遠い、過去の夢。

 人も、亜人も、魔族も、神さえもがともに笑いあっている世界。

 俺はその世界の中心にいた。

 いや、俺はそこにいる誰かの視点でこれを見ている。


 「平和なところだ。うん、いいなこういうの」


 どこかは知らないけど、ここがいいところだと言うのはわかる。


 ———だが、これは夢だ。


 「!?」


 突然の声に驚き周りを見渡すが誰もいない。


 あれ、え? さっきの人たちは?


 ———果たされなかった願いの篭った夢だ


 この声の後にこの風景は一瞬にして変わった。


 一言で言えば——————地獄。

 そこはあらゆる負の感情が渦巻く世界。

 人は嘆き、悲しみ、苦しみ、絶望する。

 

 「なんだよ……これ」


 先程まで見ていた光景とはまるで反対だ。

 ここには人の悪意しか感じない。


 「ウソだろ…こんな事があっていいのか?……」


 ———そうだな。だが、これが現実だ。


 「……これが現実?」


 ———そうだ。


 「こんな世界がか?」


 ———そうだ。何故疑う?


 「ここの人達はこんなじゃなかった!」


 ——それはそうだろう。彼女が治めているのだからな。


 「彼女?」


 誰のことだろうか?


 ———ああ、お前も知っているはずだ。アイツが死んでしまった今、彼女こそが絶対神に相応しい。いや、彼女以外ありえない。他の神など……皆クズばかりだッ……!


 その言葉には強い怒りを感じた。

 声の主は誰に怒りを抱いているのだろうか。


 「一体何の話だ。よくはわからないが神も悪い奴ばっかじゃ無いかも知れないだろ! それにここじゃないところもこんなのばかりな筈がない!」


 ———そう思うのはお前が知らないからだ。あの出来事を、あの光景を、そして……あの誓いを!


 そして再び風景が変わる。


 目の前に立つ人影。

 あれは……

 

 『ごめんね』


 

 



———————————————————————————






 「ッッぁあああああ!」


 絶叫と共に目が覚めた。

 手を見ると微かに震えている。


 あれはあの時の夢の中で死んだ……ごめんねって言ってたのか。


 俺は顔に手を当てる。

 すると手に冷たい感触。

 これは……涙?

 なんで俺は涙なんか……

 

 「……訳わかんね」


 とりあえず顔を洗うか、ってよくよく考えたら俺場所知らねーわ。


 とりあえず店の中を覗いた。

 しかし、誰も見当たらない。


 「誰も居ないのか? おーい」

 

 返事はない。


 「外にでも出たのか? やれやれ、一言ぐらい言って行ったらいいのに。仕方ない自分で探すか」


 この家見た目よりずっと広いらしく探すのに結構時間が掛かった。


 「……お、洗面所あった」


 やっとの事で俺は洗面所に行った。

 その時だった。


 「……」


 「……!」


 突然何かを感じた。

 明らかに異質な何か。

 これはあまり良いものじゃ無い気がする。


 「魔力……じゃなさそうだな。もっと強い力だ」


 正体はわからない。

 だがはっきりと感じ取れる。

 

 「どちらにせよ嫌な感じだ。向かってみるか。思い立ったがなんとかって言うしな」


 俺はその感覚を元に行くことにした。


 





 「ここは……」


 先ほど感じた力を頼りに辿った先は街の外だった。

 俺が最初に居たあの森だ。


 「やっぱり間違いなさそうだな」


 少しづつだがその感覚の元は徐々に街に向かっている。

 何もできないかもしれないが、やはり気になる。

 これは放って置いたら絶対に大変な事になる。

 ここまで禍々しい感覚がいいモノだと言うことは100%ない。


 「もう結構近づいてきてるな。よし、じゃあ……行くか。」


 俺は再び森に入った。


—————


 大分奥に進んだ気がする。

 そろそろ見えてくる筈だ。


 「あともう少し先か」


 もう結構近い距離まで来ている。

 おそらく後数10メートルといったところだろう。

 しかし、


 「勢いで出てきたけど、どうしたらいいんだ?」


 そう、ノープランだ。

 本当に学ばない奴だと自分でも思う。

 一応護身用にゴブリンの剣は持って来ているが役に立つかは定かではない。

 それでもやっぱり気になったものはしょうがない。


 「まぁ、成るように成るだろう」


 ゴブリンと戦って少々高を括っていた。

 なんとかなる、と。

 だが、今回はあれと比べ物にはならない相手だった。


 「……あれは?」


 遠くに人影が見える。

 どうやらこいつが原因らしい。

 ゆっくり街に向かって歩いている。


 「やっぱり街に向かってるな。でもここからじゃなにも出来ないな。とりあえず様子見か……あ」


 ひとつだけ出来るかも知れない事があった。


 よし“鑑定”……!


 そう鑑定なら出来るかもしれない。


 俺は“眼”で鑑定を行った。


 空護を見た時とは違い今度はちゃんと見えた。


 「よし、見え……は?」


 見えた内容は、


———————————————————————————


 名前:グレイル


 種族:神


 年齢:300歳


 身長:170cm


 体重:65kg


 生命力:1000000/1000000


 機動力:100000


 魔力値:500000/500000


 体力:10000/10000


 知力:0


 保有スキル:無し


———————————————————————————



 余裕が一瞬で絶望に変わる。


 「……詰んだな、これ」


 文字通り桁が違う。

 勝てるはずがない。

 いろいろ妙なとこはあるが規格外過ぎる

 そもそも相手は神だ。


 「圧倒的じゃねーかよ、マジで……あれ? ちょっと待てよ」


 なんで鑑定出来るんだ? 神だったら俺より権限高いはずだろう?


 「どういうことだ?使える相手と使えない相手がいるのか?」


 「……ゥ」


 「!」


 殆ど聞こえなかったが何か言ったようだ。

 俺は耳を澄まして声を聞いた。


 「…ロ…ゥ」


 何やら様子がおかしい。

 グレイルと言う神は急に頭を抱え出した。

 そして膝をついて苦しみ出した。


 「やばそうな雰囲気だな……」


 声は徐々に大きくなっていく。


 「…ロスゥ」


 苦しみ悶えながらも何かをぶつぶつ言っている。


 そして今度ははっきりとこう言った。


 「殺スゥゥゥゥウウ!」


 「なっ!」


 今まではっきりしなかった感覚が徐々に確固たるものになっていく。

 謎の力は周りの草木にも影響を及ぼしている。

 木が、枝がミシミシと音を立てている。

 今にも吹き飛びそうに

 そして…


 「ガァァァアアア!!!!」


 爆発。


 爆音とともに辺りは一瞬光に包まれる。

 

 「くっ……!」


 


————


 地面に必死に張り付いてなんとか爆風に耐えた。

 顔を上げる。

 見えたのは、


 「一体何が……なっ、これは!」


 奴を中心に更地になった森の光景だった。

 巻き込まれて近くの動物たちは死んでしまったようだ。

 不幸中の幸いで奴の居る所は地面が低いので俺はなんとか無事だった。


 「クソッ、神がこんな事やっていいのかよッ」


 怒ったところで何も出来ない。

 こいつは俺の手にはどうやっても余る。

 だが、見逃していいのか?

 こいつはまたこんな事をするんじゃないのか?


 「うわああああ!」


 悲鳴が聞こえた。


 俺は急いでその方向を見た。


 「え……?」


 そこには子供を庇って死んだ女性がいた。


 あの時と一緒だ……


 昔、交通事故で俺を庇って死んだ母と重なって見えた。


 子供はあの時の俺のように泣いている。


 「おがあさぁん……死なないで……」


 なんでこんな事……おい、ちょっと待てよ……なんであの子が……


 「ミルちゃん……?」


 目の前で親が死ぬ悲しみ。

 それがどれだけの苦痛か俺は知っている。

 しかもあれだけ大好きだといっていた母を


 「ゥゥ……」

 

 奴はミルちゃんの方を向いた。


 「ウガァアア!!」


 「ひっ!」


 奴はミルちゃんを襲おうとしていた。


 なんでだ? お前神だろ? 神ってそう言うものじゃないだろ? あれが見えないのか? あの悲痛な顔が見えないのか?…………おい、ふざけるな……何してんだよ……何で殺してんだよ……!


 もう我慢ならなかった。


 「何してんだテメェェ!」


 「「!」」


 異世界二戦目、俺は神と戦う。



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