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プロローグ

とりあえず20日間毎日更新目指して頑張ります!

 

 「待……て。やめ……ろ」


 男は満身創痍でそう言った。


 周りには夥しい数の敵と死体。

 目の前にはたった一人の味方。

 絶望的なこの状況で敵が襲って来ないのは偏に彼女のお陰だろう。


 でも駄目だ。

 この数には勝てない。


 だから言ったのだ、やめろと。


 それでも彼女は笑っていた。

 こんな状況にもかかわらず振り向いて男に微笑みかける。

 その穢れのない笑顔に男は漠然とした恐怖を抱いた。

 これは何かを覚悟した表情だと、男は感じた。


 それは的中する。


 「おい……何考えて……」


 そして彼女はこう言った。


 「大丈夫。私が守るから」


 彼女はそう言って男を突き飛ばした。


 「えっ……」


 男は訳もわからず呆然としている。

 そして気がつく頃にはもう遅かった。


 「……なに、してんだよ。おい、やめろ、嫌だ!待ってくれ、僕は……僕はお前を!」

 

 手を伸ばし手をつかもうとした。

 でも届かない。

 ほんの数センチ。

 それは男にとっては果てしなく遠い。

 届きそうで、決して届かない。



 彼女は言う。


 「あの子をお願い。アンタも……生きて」


 その眼は強かった。何よりも誰よりも。

 そして、もう一言だけ男に残した。


 「 」


 男はその言葉を聞き顔を絶望に染める。


 その瞬間、敵は一斉に彼女に向かった。

 しかし男は為す術も無くそれをただ眺めることしか出来なかった。








 やがてその場は静まり返り、男の頭上に何かが降ってくる。

 男は小さな希望を胸に抱いてその手を伸ばす。

 そして掴んだ。


 「…………ぁ」


 だがそれは、抱いていた希望を簡単に打ち砕く、彼女の死という現実だった。


 「ぅ、あ……ああ……ああああああああ‼︎‼︎」


 打ち砕かれた希望が憎しみへと変わってゆく。

 内側から溢れ出すドス黒い感情が男を闇に沈めていった。


 どこまでも深く、なによりも、暗い。





 光の刺さない常闇の中、男は想う。


 過去は変えられない。それは理。絶対不可侵のこの世の掟。ならば俺はせめて……彼女から託されたあの子を守り、あいつらを全員残らず……


 「地獄に、落としてやるッッッ……‼︎」

 





———————————————————————————






 「おあああああッッ!」



 俺は目が覚めた。


 「はぁ、はぁ……なんだ?夢か?」


 夢の内容ははっきり覚えている。

 嫌な夢だ。

 気がつくと、全身汗まみれだった。

 未だに心臓がバクバクいってる。

 あの名状しがたい恐怖が俺の頭に残っている。


 「なんなんだ、一体……」






 しばらくして落ち着いた頃にはもう心臓は通常運転に戻っていた。


 「……それにしてもやけにリアルだ」


 思い返すとまるで自分が体験したかの様な感覚だった。


 「いわゆる明晰夢みたいなやつか? まあ所詮夢だし、なんでもいっか。ふぁ……さっさと風呂入って寝よ」


 俺はシャワーを浴びた後眠りについた。

 次に眠った時は同じ夢は見なかった。






———————————————————————————






 変な夢を見たが俺はいつものように喧しい目覚ましの音で目が覚めた。


 「んむー……」


 布団の中から目覚まし時計へ、モゾモゾと手を伸ばす。


 「……朝か」


 顔を洗い、朝飯を食う。

 朝は基本的にニュースを見ながら飯を食っている。

 テレビをつけると行方不明のニュースをやっていた。


 「また行方不明か。最近多いな。異世界にでも行ってたりして……なんてな」

 

 冗談はさておき、飯を食い終わったら。日課であるトレーニングをする。

 その後に部屋を軽く掃除をして俺はバイトに向かった。

 

 

 俺は今16歳。本来なら高校1年生だ。

 両親を亡くして自力で生活費を稼ぐ為に中卒でバイトをして生活しているため、高校には通ってない。

 朝と夕方にバイトをして、空き時間は剣道をしたり、ネットをしたり、図書館で勉強したりしている。

 おそらくその辺の高校生より腕っ節は強いし頭もいいと思う。

 そんな感じなので友達もいない。

 正確に言うと昔はいたが、今はどこにいるのかわからない。

 つまりボッチだ。

 起きて、飯食って、運動して、働いて、飯食って、また働いて、飯食って、寝る。

 何も無い日々。


 と、まあこれが俺の日常だった。


 そして唐突にその日常は終わりを告げた。


 それはある日の昼のこと。


 いつもバイト帰りに通る人気の無い道を通って家に帰っていると目の前に妙な奴が現れた。

 真っ黒いコートを身に纏った長身の男だ。

 一目見て直感した。


 こいつはやばい。


 見る限りカタギじゃ無いですオーラが半端ない。

 妙な圧迫感がある。

 関わるまいと男を避けるように歩いた。

 見られているような気がするが気のせいだとしておく。

 幸いなにかしてくる気配は無くこのまま行けると思っていた。

 しかし、男は俺が真横まで来ると、急に口を開きこう言った。


 「わかってんだろう? 止まれよ」


 男は俺が男に見られていることに気がついていたことに気がついていた。


 「はあ、なんだ一体。俺に何の用———」


 「家族も親戚も友達もいない。何もない人生を生きていて楽しいか?」


 「……!」


 普通ならここで逃げるべきだろう。

 なんせ知らない黒ずくめの男が急に話しかけてきたのだから。

 しかし、それに答えなければならないと、何故かそう感じた。

 理由は分からないが、脳が、心が、俺にそう訴えかける。

 そして、俺は問いに答えた。

 それが俺を非日常に誘う問いとは知らずに。

 

 「楽しいかと聞かれたらそうでもないけど、死のうとまでは思はないな。折角貰った命を簡単に捨てちゃ駄目だろ? ただ……」


 「ただ?」


 「ここは……生きるには少し退屈だ。昔はそうでもなかったけどな。俺にとって大事なものはみんなどっかに行った」


 なぜ俺は真面目にこんな問いに答えているのだろう。

 考えたところで後の祭りだが。


 「もういいか?俺、今家に帰って……」


 「では、別の人生が欲しいと思ったことはないか?」


 男が被せて言ってきた。


 別の人生? 何言ってんだこいつ。


 何が言いたいかわからないが、またさっきと同様に答えた。


 「考えたことないなぁ。今は生きてるだけで精一杯だし。でもまぁ、そんなことができるのなら面白そうだな。ほら、あんたが言うように俺には家族も友人も親戚もいないし」


 答えている途中ある事に気がついた。


 ん? そういえばこいつなんで俺の事情なんて知っているんだ? 会ったことあったかなぁ。そう考えてみると誰かに似てるような似てないような。


 いくら思い返しても心当たりが無い。

 これは怪しい。

 と言うか黒ずくめの時点でかなり怪しい。


 「なあ、アンタなんで俺の事情なんか知って……」


 男はいなくなっていた。


 「あれどこに行った?」


 辺りを見渡すが誰もいない。謎だ。こんなことが現実であるのか。


 「まあいいか、帰ろ」


 そのまま帰ろうとした瞬間、突然頭に激痛が走る。


「!? ッッ!!」


 ものすごい頭痛だ。


 「ッッあ!! いっ…ぁがっぐがぁ!」


 頭が内側から破裂しそうなくらいの痛みが襲った。


 「な…んだ……これ……」


 あまりの痛みに気を失いそうだが、ギリギリのところで意識を保っている。


 刺すような痛みが頭を巡る。

 いや、それすらも陳腐な表現だろう。

 そのくらいの苦痛を俺は感じている。


 何が起きたのだろう。


 だんだん薄れていく意識の中で頭の中で急に声が聞こえてきた。


 ———この"眼"を授ける。だから今度こそしくじるな。絶対に———を守れ。


 さっきの男の声だった。


 「な、に、を言っ、て」


 ———いずれ全て知るだろう。さあ、地獄へようこそ。


 その声を聞いた瞬間、俺の意識が途切れた。






———————————————————————————






 「……ん」


 しばらくするとようやく目が覚めた。


 「どこだ……?」


 さっきいた道では無い。

 俺は全く知らない場所に居た。

 今いるここは湖の中心の巨大な樹の真下だった。


 何故こんな所に居るのだろうか。

 俺は寝ぼけた頭を頑張って稼働させ、やっと思い出した。


 「確かいきなり頭痛がして、それであの黒ずくめのやつがなんか護れとか眼とか地獄とか色々言ってて……」


 色々思い出してきた。

 しかし肝心の黒ずくめはここにいなかった。


 「まずったな。あんな見る限り怪しい奴と会話した俺が馬鹿だった。これって誘拐なのか? でもその割に拘束も何もされてないし……ん?」


 服が変わっていた。


 さっきまで来ていた黒のパーカーにジーパンではなく、ヨーロッパの庶民服の様な格好になっていた。


 「いよいよ訳がわからんぞ。マジでどういう状況だ? 混乱してきた。 とりあえず現状がよくわからないしでここを一旦離れ、て……」


 すると突然大きな影に覆われた。

 空を見上げてみる。

 そしてその光景に思わず息を飲んだ。

 そこには……竜が飛んでいた。


 「なんだ竜か……………竜?」



 思わず二度見する。

 だが何度見ようが目を擦ろうが、 それは紛うことなき竜だった。


 「……ど」


 「どうなってんだああ!?」


 なんでもない日の昼のことだった。

 バイトの帰りに俺こと"宮下 刻"は異世界に来てしまったのだ。

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