2、運命のヒトに会いに行きます。
コンコン
「入れ」
部屋の中から、聞き慣れたお父様の声。
「失礼致します」
婚約破棄されてから2日。私は今、我がウィッシュ国の城へ戻って来ていました。
「ん……?リアか?お前は帝国に行っていたはず……」
ちなみに、リアというのは私の愛称です。
「婚約を破棄されたので、戻ってまいりました」
「……はぁ⁈」
口に含んだ紅茶を吹き出すお父様。
あぁ……紅茶、もったいない……。
「あの婚約は帝国の要望だったはずだ。なのに婚約破棄……だと?」
「はい。皇子が、他に好きな人が出来たので婚約を破棄すると……」
「帝国め……、ウィッシュを舐めおって……挙兵の準備をする」
「……お待ち下さい」
帝国が潰れる分には別に構わないのですが、その戦争にあの人が巻き込まれてしまうのはいけません。
「帝国はいつでも潰せます。今戦争をするのは、得策ではありません」
「……そうだな」
「あの、お父様。私に新しい婚約者様を探すことを許して頂けませんか?」
きっと、許されないでしょうが……
「許す」
「ふぇっ……あ、ありがとうございます。……では、失礼致します」
意外にも、あっさり許されてしまいました。
……まあ、私の次の婚約者は、もう決まっているようなものなのですが。
黒髪で瞳はエメラルドグリーン。
帝国の男爵で、名はシリウス=アーチャーです。
……まだ会ったことは無いんですけど。
千里眼は、未来、過去、人の心の中までも見通せる便利な能力なんですよ。
千里眼によると、私とシリウス様が出会うのは今から3年後。ウィッシュ国主催のパーティーで初めて会う予定です。
「3年後……ですか」
私には時間がありません。
「姫様、もうすぐ行き遅れになりますよね」
「え……ええ」
今、メイドのリリィに言われたように、あと少しで私は行き遅れ。
「婚約破棄された上に行き遅れになるなんてっ……そんなのっ」
「そんなの?」
「私のプライドが許さないっ!」
「……姫様って変なところでプライド高いですよね」
今、私の悪口が聞こえたような気がしますが……気のせいですかね。
「とにかくっ、3年なんてまってられないのっ!」
「例の運命のヒトのことですか」
「ええ。3年後、私とシリウス様は出逢う。運命なの」
「いい歳して中二病……」
「違うからっ、千里眼で見たんだからっ」
「そーですかー」
「絶対信じて無いでしょ⁈」
リリィの視線が冷たいです……。
「それで、姫様はどーするんですか?」
「私は……私は、運命を変えてみせますっ!」
「やっぱり中二病……」
「違うっ!」
「はいはい。それで?具体的にどうするんですか?」
呆れたように言うリリィ。
「シリウス様に会いに行く」
「はい?」
「3年後出会うのなんて待っていられないので、自分から会いに行きます。一週間後、シリウス様の男爵家で開かれるパーティーに、私も参加します!」
「はぁ……。姫様……、いつからこんな馬鹿になったんですか?」
「失礼ね。他国との交流を深めるための公務とでも言っておけば、お父様も許してくださるわ」
「はぁ……」
あぁ……シリウス様と会うのが、今から楽しみです!