終わる今日
あまり長く話しているわけではないけど、姉様のテンション具合に心配になってきた。
「姉様、もうすっかり体調は良くなられたのですか?」
姉様はニッコリ頷いた。
「もう大丈夫。前世の記憶が戻って熱が出るなんてよくあることよ」
姉様にはよくあることなのですね……。
自分でも十歳には似合わない苦笑いをしているのを自覚していますよ。
映画でも確かにそんなシーンを観たことがあるし、機械の熱暴走と一緒だろうか。
けれども姉様。と私は言いたいです。
私としても三日間ただ夢を見てただけで、時折目が覚めたときに発熱の怠さを感じていた以外はそれほど辛くはなかったので、大したことないとは思ってますよ。
でも屋敷の人達は姉様の事をすごく心配して、見たわけではないけど特に母様は夜も眠れなかったのではないかと思うわけです。
私のところにはやってこなくても本当の母ではないのでちゃんと割りきれているけど、何も思うことはないけど、さすがに実の娘に今回の病が何てことないと言われてしまうのは母様が不憫です。
でも姉様のことですから、言わなくても落ち着けば分かってらっしゃると思うので、そろそろメイドさんたちも安心してもらわなければならないだろう。
「姉様、お元気になられたばかりで体力もお戻りなってないと思いますから、今日はもうお部屋に戻られた方が良いと」
「……私はもっと話したいわ」
姉様の不満げな顔は初めてな気がする。貴重です!
されども無理をさせてはいけません。
「私も同じ気持ちですよ、ですからまた明日以降ゆっくり時間を取ってはどうでしょう」
「う~ん」
渋る姉様も可愛らしい。
負けそうだけど、頑張れ私!
「今は姉妹なのですよ、同じ家の中にいるんですからすぐ会えます」
会わせてもらえるかどうかは分かりませんが……。
ヴィヴィに言えば何とかしてくれそうだけど、そこまで甘えるのは申し訳ないのでお願いすることはないかな。
姉様の願いだったら聞いてもらえるだろうけど、渋られるでしょうなー。
なぜならかなり警戒されているからです。
何かしたわけではないんだけど、立場的にしかたない。
「姉様、あまり無理なされないようにしてくださいね」
そう言って姉様を送り出した。
最後まで渋ってらっしゃいましたが、さすがドアを開けた瞬間から普段の姉様に変わられ、メイドさんを従えて戻っていかれました。
「シャルエッタ様温かいお飲み物をご用意しましょうか?」
てっきり素早く寝かし付けられるかと思いきや、ヴィヴィは姉様を見送った後にそんな風に私をテーブルに誘った。
「体調は悪くなっていませんか?」
優しい微笑みでヴィヴィが黄金色の液体の入ったティーカップを目の前に置き、手を伸ばす。
「大丈夫」
さすがに元気いっぱいってわけにはいかないが、病み上がりだからというより精神的疲労のせいかな。
それでもヴィヴィに変な心配をさせるわけにはいかないから、笑って見せた。
「どうやらお疲れの様ですね、明日も朝はゆっくりして構いませんので、たくさん眠って下さい」
「ヴィヴィはお見通しだね」
温かく甘い飲み物は混乱で昂っていた頭を落ち着かせてくれて、眠りを誘ってくれた。
ベッドに入ってヴィヴィにおやすみの挨拶をすると明かりが落とされ天蓋の中はぼんやりとした暗さになる。真っ暗にしないのはヴィヴィのこだわりらしいので、魔石に一種である夜光石が一晩中足元でオレンジの明かりを灯している。
眠りそうな微睡みの思考で考えることは決まっていた。
なんだか不思議な一日だったな。
一日って感じもしてないくらいの凝縮ぶりで、三日で一人分の人生を味わったんだから、冷静に思い返した今日が大変だったのは仕方あるまい。
しかも姉様まで同じでさらにそのせいでいつもと違う状態。でもあんなに話をしたのは初めてかもしれない。前世も含めてもやっぱり初めてだ。
そう思えば、姉様のことをあまり知らなくて当然だし、あれほどキラキラしたり、まさかの自分の容姿が嫌いだなんて知る由もなかった。
一時間くらいの間だけど、ちょっと楽しかった。
自分の前世の記憶が戻ったことにはそんなこともあるんだってくらいなもんだけど、それで姉様がなにやらドキドキするならそれだけで価値のある記憶だ。私には何の役にも立たないのだけどね。
それにしてもゲームの世界か。
知らない私からしたら、よく分からないので想像もしようもない。
ヒロインなんて姉様が言っていたので主人公があれほど美しい姉様ではないのが不思議だけど、この今の私の世界では絶対に姉様が主役だと思う。
悪役とか私のこと言ってたから、今の現状を考えたら頷ける。姉様に悪さをすると思われてるんだから悪役なのは間違いない。
実際は何もしないから、うまく勤められるかは謎だけど。
「そういえば姉様に私が前世で誰だったのか言わなかったな。言っても覚えてないかなー」
ただのクラスメイトだったからきっと覚えていない。
前世でも今世でも脇役なのが私のポジション。出来るだけ今世も平和に暮らしたいものだ。
お読みいただきありがとうございました。




