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初めて知りました

 姉様は少しばかり呼吸まで荒くし始めた。


「乙女ゲームと言うのはね、女子を対象にした恋愛シミュレーションゲームのことよ」


 たぶんカッコいい男の人を落とすゲームってことなんでしょうか。

姉様の興奮が分からない私はちょっと戸惑うけど、相槌くらいは打たないといけない。


「なるほど、……えーっと」


 それがなんの関係があるのかさっぱりな私は、姉様のドヤ顔の意味も分からず言葉が続かない。

その分からなさを悟って下さったのか、きちんと説明を加えて下さった。


「つまりね、今私達がいるこの世界がその『キラスト』の中なのよ!」


 きゃあーとハートを飛ばしながら私の横に座り直し、しかも手までとってブンブン振りながら喜んでいらっしゃる姉様。


 姉様、全然分かりません。と言えませんでした。

 しかし、めげてばかりいても前進しないのだから、こうなったら質問を重ねていくしかない。


 まずは、そもそもどうしてそれほどまでに嬉しそうなのか。

それを探ろう。


「姉様は、えっと略して『キラスト』なんですかね、それにお詳しいのですか?」


 姉様の瞳がキラーンと光ったように見えたのは気のせいでしょうか、しかも両目……。


「詳しいなんてものじゃないの。もう何周したかも分からないほどやりこんだわ。他にもたくさんの作品をプレイしましたけれど、その中でもなかなか好きな作品でした」


 委員長時代にしていたのか、大人になってからやっていたのかは分からないけど、兎に角ハマっていたのですね。

とりあえず、そのキラストについてだけ堀下よう。


「何周?……その、何回もやりたくなるほどと言うことでしょうか」

「そう! 設定は割とシンプルで王道。簡単に終わろうと思えば早くにトゥルーエンドを見ることも可能なの。でも奥は深い。全ストーリーをコンプリートするのは難しくて、バッドエンドしか存在しないのかと思わせてからのハッピーエンドとか、攻略の順番さえも意味があったりとか、どんどんハマってしまったわ」


 姉様は別人になってしまわれたようにしゃべる。委員長だって口数は結して多くはなかったはずなんだけど、私が知ってる委員長とは違うのかもしれない。

それとよーく分かったことが一つ。


「とってもお好きなのですね」


 私は何故だか無意味に笑顔になっていますよ。

 確かに伝わったことはそれだけで、その他は雰囲気だけを掴んだというところだ。


「姉様の好きなゲームだったのは分かったのですが、それがその……」

「私達はそのゲームの中に転生したのです!」

「ゲームの中……ですか」

「そうです!」

「でもどうしてゲームの中だとわかるのですか? つたない知識で申し訳ないのですが、恋愛ゲームの設定は二十歳前後の登場人物が多いものじゃないですか?」


 女性が対象のゲームで登場男性がロリコンってのはあったとしても王道とは言い難いのではないだろうか。

だとすると今の私の年齢では少し年齢が足りない気がする。


 ゲーム内だと決定付けるイベントが現在進行形で起きているとは考えづらかったから、聞いてみたら姉様の瞳がまた光った、ように見えただけど、次は方目だけね。


「私達の名前よ! そしてあなたのそのビジュアル!」


 犯人はあなたです!と言われたようなドキッと感だった。



「……見た目?」

「そう! あなたはヒロインのライバル悪役令嬢、シャルエッタ・ウォリーシック。スタートまでまだ四年ありますが、間違いないですわ」


 いろいろ気になる言葉はあったが、私が一番聞きたいこと。


「姉様は前のままの姿……委員長ですよね?」


 そう言えば私は前世と全く違う見た目に生まれている。

前世では全くもって平凡な日本人。顔の作りも、痩せてもいなければ太ってもいなかったからなんとも目立たない容姿だった。

 それに引き換え、委員長は全く一緒だ。

十歳の委員長は知らないけど、真っ白な肌に黒く長い髪、大きな真っ黒な瞳、小ぶりな桃色な唇に引き締まった輪郭。

鈴が鳴るような声でさえ、成長したら絶対にあの委員長になると確信が持てる。


 この世界でも違和感はないから、美しさは全世界共通なのかもしれない。


 けれど姉様には容姿の変化有無の謎が分かるらしかった。


「エリー・ウォリーシックは名前だけ、寧ろシャルエッタ・ウォリーシックを説明するためだけの存在だからイラストはなかったの」


 つまりゲームに表されていないから、前世のままなのですね。

前世の私の教室のオアシスな姿が引き継がれて、嬉しい限り!

しかも今世では一応家族、記憶がよみがえる前から私の癒しです。

そこは全く変わらなかったんだな、私。


「……委員長は美しいですものね」


 前世では絶対言えなかった言葉がつい漏れてしまった。

すると姉様は神妙な表情になった。


「やっぱり嫉妬してる?」


 嫉妬という言葉を考えてみるが、そんなもの畏れ多いとすぐに首をふる。

母親が同じならそんなこともあったかもしれないけど、私は私で今の容姿を結構気に入っていたりする。

だから素直に感じていることを姉様に伝える。少し恥ずかしいけど。


「姉様が美しいのは私の自慢です。……委員長の時から同じクラスになれて良かったと思うくらいには、えっと敬愛してます」


 姉様は少しだけ笑って有り難うと言った後に、暗い顔になってしまった。


「私は好きではないわ」

「……どうして」

「煩わしい事が多すぎるわ、まさかまた同じ顔だなんて何かの罰なのかしら」


 美人にしか分からない苦労があるのだろうとは思う、確かに姉様に懸かるプレッシャーは私では想像も及ばないはずだ。

けれども、姉様のあまりの落ち込みようが不思議と可愛らしい気がしてしまった。


「……うふふ、美しい顔が罰だなんて、世の中の女性が聞いたら姉様は大変なことになりますよ」


そうね、と姉様は困ったように笑っていた。

お読みいただきありがとうございました。

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