表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

姉様……?

 姉様は相変わらず美しい。

 私が同じなのは黒い瞳だけで、姉様は髪も黒く腰ほどに真っ直ぐ伸び、絹のような輝きだ。


 私の髪はこの国の多くの人がそうであるように茶色、ヴィヴィに頑張って結って貰わなければ癖で乱れてしまう。

 母譲りなのでそんな髪でも愛着はあるんだけどね。今の母様には少し不評。


 それも仕方ないかな、だって、姉様の黒髪は母様譲りだから。

母様の髪は綺麗にウェーブが掛かっているけどそれも素敵です。


 しばらく姿をお見かけしていない母様のことに思いを馳せているのは、現実逃避をしているから。

今現在、私の不用意な一言を聞き逃すような姉様ではありませんから、人払いをしてソファーに二人っきりで向き合っている。


姉様付きのメイド達は私と二人だけにすることを渋っていたけど、姉様の言葉に逆らえないのでたぶん扉の外で待機してあることだろう。

ヴィヴィはもちろん扉の前にいると言っていた。


「あの、姉様…」

「シャル、さっきの言葉はどういう意味?」


 私もだけど、姉様は元々あまり子供らしい話し方をなさらない。

私の場合はへまをしないために気をつけているからだけど、姉様は違うはずだ。


 さっきの様に人の名を急に叫んだりはしない、はずなんだけど。

 私の言動が不味かったかのかもしれない。


「ごめんなさい、姉様。夢のせいで変なことを言ってーー」

「もしかして、あなたも前世の記憶があるの?」

「えっ、あの、どうして……え? あなた、も?」


 戸惑う私とは対称的に、姉様は病明けとは思えないほどの煌めく笑顔で驚くほど前のめりになった。


「私もなの!! キャーァァ、どうしましょ、凄すぎる。シャルまで転生者なの! きゃあ」


 どうしたのでしょうか、姉様。

ソファーから立ち上がり、満面の笑みで右を向いたり左を向いたり挙動不審で、どうやら喜んでいるらしい。


 あの淑やかな姉様が完全におかしくなっている。


「あ、あの」


 聞く前に部屋のドアが勢いよく開いた。


「エリー様! どうなさりました、まさか何か危害を?!」


 そりゃ悲鳴なんてあげればメイド達が来るはずだ。

けれど姉様は全く動じず、嘘のようにいつもの姉様の微笑みでメイド達に向いた。


「何の問題も起こっていないわ、まだしばらくシャルと話があるの。外で待っていて」

「しかしエリー様」


 姉様付きのメイドの視線が私に向けられ、完全に不審がられている。

不審なのは姉様の方だと思いながらも、私はいつも通り僅かに目を伏せて、姉様に従う姿勢を示す。


「私が良いと言うまで入ってきては駄目ですよ」


 姉様は何事においても素晴らしい女性だ。

十歳でもちゃんとレディで十五歳での社交デビューを今から期待されている。

メイド達に有無を言わせぬ雰囲気を笑顔で醸し出せるのも、ただ外見だけの存在じゃないと分からせるものだ。


 だからこそ、だからこそだよ!

器量も美貌も兼ね備えた、前世でもまさにそのものだったのだから、姉様が委員長

生まれ変わりだってのも信じられるのに……、扉が閉まった瞬間に豹変する状況は前世を思い出した時よりも衝撃だよ。


 再びメイド達を追い出した姉様はやっぱり嘘のように頬を上気させて興奮の笑みでこちらを見ている。


「ねえ、シャルちゃんは『輝け! きらめきアメジスト』って知ってる?」

「……申し訳ありません、分からないのですが。それは何でしょうか?」

「乙女ゲームよ!」

「……ゲームということは、前世でのことですか?」


 姉様は飛びっきりの笑顔で大袈裟に頷いた。


 今の世界でゲームと言えばボードゲームかカードゲームか、あとはスポーツで使う言葉だ。

いわゆるテレビゲームとかPCゲームとかは存在していない。

なぜならこの世界そのものがそのゲームの中のように魔法があって魔物がいるから、前世におけるファンタジー系の需要は皆無だ。

まあ平和でもあるので、壮大な使命を持った勇者も必要とはしてない。


それに私自身は前世でもそういうゲームのプレイ経験はほとんどない。

弟がいたので、何度か説明してもらっておおよその雰囲気みたいのは知っているけど、興味は沸かなかった。


 ちなみに本を読むのは今も含めて苦手。漫画も少しだけしか読んだことがない。

かといってファッションに全力投球していたわけでもない。


そんな私は日々何をしていたかいうと、テレビばっかり観てた。

それも主にバラエティー。ドキュメンタリーも観てたかな。

アニメは有名どころだけ。

進学校に行くには勉強も欠かせなかったから、なんでもかんでもは観れなかったんだよなー。

だからドラマとかも先が気になるようなのは意識的に外してた。

観始めちゃうと止められない、二時間ドラマはたまに観ちゃったこともあるけど。

あれはうっかり観始めちゃうと、途中で止めるのはすごい精神力がいる。


それにしても、自分で言うのはアレなんだけど……その趣味は全然今世で役に立たないよー。

思い出した意味があるのか、そっちの方が心配になる。

 あ!グルメコメントなら使えるかな。

今のところ晩餐はほとんど沈黙の中なんですけども。

実際言うのはなかなか難しいんだけどね。


 けれどもさすが姉様!

そんな私とは大違いで、前世の記憶が早速発揮されているようです。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ