本心
墓地の近くになぜがあるシンプルなカフェ。ホラー感とかの演出は全然ありませんよ、……そっちの方がむしろ怖いかな。
余計なお世話だと思いますが、儲かっているのでしょうか。
そのカフェにはテラス席が墓地を見渡せる側と全く見えない側と店の両側にあるけど、カルエさんは外は全く見えない店内の奥まった席を選びました。
「シャルエッタ、あんたもう自由になってもいいんじゃないかい」
注文したドリンクがやって来ると、カルエさんは唐突にそう言いました。
「自由、ですか?」
「そうだよ、自由におなり」
「私は何も不自由なんて……」
屋敷で暮らしていることはそんな風に見えるのでしょうか。
私の困った顔にカルエさんは暖かな笑顔をくれました。
「あんたは優しい子だ、だからシリエルの願いを叶えたいと思うのは仕方ないとは思うよ。でもそれに縛られる必要はないんだ」
ママの願い。
私を独りぼっちにしたくないと言っていたことだと分かりました。
でもそれに縛られている気はないのですが。
「私は……そんな」
「いつか屋敷を追い出されると思っているんだろ?」
確かにその通りです。
私が何か失敗をすれば、出ていかざるを得ないはずです。
「そうなる未来もあるとは思っています」
「本当はシャルエッタが出でいきたいと思ってるんじゃないかい?」
「そんなこと!」
思いもしないことを言われて動揺しました。
心臓がドキドキして、苦しいくらい。
そんな私を見て、向かいに座っていたカルエさんは横に来てオレンジジュースを飲んで落ち着くように促してくれます。
「聞き方が悪かったね、あの私たちの店にいたかったんじゃないかい? お前は私たちも一緒に育てたようなもんだからね、血の繋がりはありゃしないがあんたくらい十分養えるよ」
「でも」
どうしてすがるようにカルエさんの手を握ってしまったのか……。
私自身考えないように、それどころが気づきそうになるのさえ嫌がっていたことを、カルエさんは見抜いていたのかもしれません
「シリエルがお前に父親がいないことを、それ以外にも血の繋がった家族に会わせられないことを悔いていたのは知っているよ。だからお前は父親と一緒に行くことを望んだ。私たちも養えるとは言っても貧乏よりは少しだけマシなくらいだからね、魔力のことについても全くだ。それならばと送り出したが、それで良かったのか、未だに考えることがあるよ」
「カルエさん……」
「シャルエッタは喋りだすのが遅かったからね、五歳じゃまだまだ上手く話せてなったね。今は見違えるようだけどね」
当時を思い出しているのか、懐かしそうに私を撫でてくれるカルエさんに、私は何故か言い訳しなくてはと思いました。
「でも、本当に、ツラくはないんです」
充実した毎日を送られてもらっている、それはきっぱり言えることです。
ですから追い出されたいと思っているわけではないと言いたいのに、そうとは言葉にしづらい自分に苦しくなりました。
「辛いことと寂しいことは別なんだよ」
「別……」
そうなのでしょうか。
辛くなくても……寂しいと思ってもいいのですか。
「いい暮らしをさせてもらっているのも、大事にされているのも分かるよ。ただ会いたいと思う人間会えないと寂しいだろ。死んじまったシリエルには無理だと割りきれても、私たちは町にいるんだからね」
「でもママは父様に会えたとき、嬉しそうに笑ったから」
私はもうそれだけが今を選んだ理由だと言わざるを得なかった。
ママを最期に幸せにしたのは父様だ。
その父様に私をお願いと言っていたのだ。
「そりゃ惚れた相手だからね、もう会わない決意をしていても最期にもなれば本音が漏れるってもんだよ」
「わたし……」
「だからね、もういいんだよ。我慢せずに、好きなようにおし。あんたが居たいと思う場所に戻っても大丈夫だよ」
この時のことを後で振り返っても、どんな感情だったか上手く説明できない。
ただ一つ。
この時、漸くママにはもう会えないんだとちゃんと理解できたんだと思う。
だって私に戻っておいでって言ってくれたのはママじゃない、カルエさんだから。
あの場所に戻ってももうママには会えない。
その現実が示されて、涙が溢れて止まらなくなった。
そして、とっても良い人たちだと言い切れる家族の事を、いつか追い出されると言う自分の本心と向き合わなければならない。
お読みいただきありがとうございました。




