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無知で未知なんですが  作者: 雉虎 悠雨


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14/33

どうしちゃったのぉ

ぐっすり眠って、もう完全完璧に元気いっぱいな私は、溌剌と朝の支度をしていた。

もちろんいつものようにヴィヴィが至れり尽くせりで手伝ってくれて、戸惑うことなく侯爵令嬢の出来上がり。

朝食までまだ少し時間があるので、窓際で朝の空気を吸いながらヴィヴィに話があった。


「今年も母のお墓に行きたいのだけど、いろいろ準備をお願いしてもいい?」

「もちろんでございます」


誕生日の二週間後が命日だから、その日は教会の共同墓地に行くことにしている。


「父様には私からお話するね」


父様は訊けば毎年何も言わずに頷いて、一緒には行かないけれど馬車の用意をしてくれる。


ヴィヴィもそれが分かっているから、わざわざ一言添えなくてもいいんだけど、お墓に行きたいのは私の我が儘だから毎年きちんと父様に許しを得ることにしている。


するとヴィヴィが頷いたついでに思い出したと言わんばかりのトーンで話を続けた。


「ご当主様が昨夜いらしていましたが、シャルエッタ様がお休みになったあとでしたのでお帰りいただきました」


父様を追い返してお咎めなしなメイドはきっとヴィヴィくらいだと思うよ。

もうそこには触れないけどね。


「父様がいらっしゃるなんて珍しいね」

「今日の朝食の席でお会いできますよ」

「それも久しぶり」

「……ご当主様も限界がきたようですよ」

「忙しいからとてもお疲れなんだね」


本当に忙しそうだからそう思ったのに、ヴィヴィは意味深な笑顔で返事を濁しす。


「お会いになれば分かりますよ」





ダイニングに行くと、姉様と兄様のがいつも通り席でにこやかな笑顔で迎えてくださいます。

父様はまだいらっしゃってない様子。


「おは──」

「シャルエッタァァアーー」


聞きなれない声に扉の方を思わず振り向く。

うわぁっ!!

という声も漏れないほどに父様には抱き締められた。


「シャルエッタ、もっと早くに会いに行けなくてごめん!」


グリグリと頭を撫でながら、さらに腕の力が強くなり、返事などできようもない。

息もできない。


「ご当主様、シャルエッタ様のお命が危ういのでお止めください」


ヴィヴィが丁寧な言葉と強い腕力で父様を引き剥がしてくれた。


「っはあ、はぁ、……おはようございます、父様」

「もうパパでいいんだよ」


昨日の兄様を彷彿とさせる笑顔。

遺伝とは恐ろしい……、兄様よりは格段にダンディーだけど甘さは兄様も負けず劣らず。兄様は将来こんな雰囲気になられるんですねー。


「父様、私も十才になりましたから今まで通りお呼びします」

「遠慮せずに、ほらパパって」


ちなみに、そんな風に呼んだことは一度もありませんよ。

さすがに五才でも初めて見る父親というものにいろいろ思うことはあったわけで、おいそれと声を掛けたりはできなかったから。


それ以後も親子にしては遠い距離感でやってきたのに、今日になって突然どうしたのだろうか。


「父様どこかお加減が悪いのですか?」


奥で座っている兄様がブッと吹いて口を抑えて肩を震わせ始めます。

父様はチラリと兄様を見はしたけど、構わず私に笑顔を向けられます。


「シャルエッタ、僕は至って健康だから大丈夫。もしマリーヌに遠慮があるならすでに話し合っているから気にしなくて構わないんだよ」


マリーヌとは母様のお名前です。

どんな話し合いを持たれているのかわかりませんが、兄様の時とは話が違うので、簡単には頷けない。


困っている私に父様もあからさまにしょんぼりされてしまうので、さらに私は困るばかり。


「僕のことはパパとは呼べない?」


確かに亡き母を呼ぶときはママと言っていたけど、だからって今更呼べないよ……どうしよう。


「あなた、シャルエッタが困っています。お止めなさい」

「母様!」


救世主!

今朝は母様もご一緒なのですね、助かった。


母様の目線ひとつで、ダイニング付きのメイドがイスをそれぞれ引いて着席を促してくれる。


また父様に捕まる前に自分の席に急いで座り、できるだけ父様の方は見ないようにした。


ヴィヴィは私が座るのを確認すると、退出して別の業務をこなしに行くのでここからは自力でなんとかしなくては。


食事が始まるといつも会話は少ない。問題は食後だと思っていたのに、今日の父様は違う。

忘れてたわけじゃないんだけど、急なことで対応が後手後手に回っている感じ。


「シャルエッタは今日は何をするのかな?」


ニコニコと話しかけてくる父様は何かに乗り移られている可能性さえ感じる。


「あの、お勉強をします」

「いつも偉いな! だからたまにはお休みをしてパパと遊ばないかい?」

「……熱でお休みしていたので、今日からはしっかり勉強します」

「だったら尚更もっと静養してもいいだろう? 体力を程よく取り戻すためにもパパと遊ぼう」


父様がカッコイイからまだ許される気がするけど、娘に対する父親の態度としては少々イタイ気が……十才にならまだありなのかな。

でも姉様も、笑顔でドン引きしてるのをひしひしと感じますよ。


「あなた、私が良いと言ったからと羽目を外しすぎですよ。今以上に嫌われても私のせいではありませんからね」


またしても母様が助けてくださいました。

私は決して嫌いではないんですが、私がもう少し成長してたらなってたかもです。

食事もそこそこになんとか遊ぶ約束を取り付けようとする父様に、私の方が無理やり話題を変えたくなりました。


「と、父様。あとでお話が……」

「なんだい?」


あとでと言っているだろう、と内心で突っ込みつつ、母様がいる手前内容を言うわけにはいかない。

いつもはもっと察しが良いのに、本当にどうしたんだろう。


「私も十才になりましたから」

「直接おめでとうと言えず申し訳なかったね、そうだ! 新しいドレスを作らなくちゃならないな、次はどんなのがいい?」

「お任せします」

「あなた、シャルエッタはシリエルさんの話をされたいんですよ。全く本気で忘れたわけではないでしょう、これ以上娘に幻滅されたくなかったら真面目に話なさい」


母様、どこまで素晴らしいお方なのですか!

……というか、母様もいつもと違うってそろそろ私も気づきますよ。

こんなに積極的に話してくださる方ではないと思っていたのに一体どうしたのでしょうか、寝込んでる間にこの屋敷全体に何か魔法が!?

そんな気配感じないけど……あとでヴィヴィか姉様に聞いてみるしかないですね。





お読みいただきありがとうございました。

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