気になるよねー
翌日から再開された授業は体調のことを考えて午前中だけとされていた。
いつも授業を受けている部屋は、わざわざ私の勉強のためだけのもので、私がその時々で読んでおくといい本が常に取り揃えられている。もちろん勉強に必要な辞書や参考書もある。
五日ぶりくらいにそこに来たのに、大して勉強せずに終わりにされてしまって逆に頭がスッキリせずだ。
誰の指示だか分からないが、過保護っぷりにさすがに呆れそうになるも、体調が万全であると分かっているのは自分だけなのだから、高熱が下がって二日くらいならそんなものかもしれないと思い直した。
そんなわけであまり空腹にならなかったから、部屋で簡単にはお昼を済ませてもらうと、食後ヴィヴィがやたら改まって、私の横に立った。
「私も共犯にしていただけませんか?」
犯罪を犯すつもりはないんだけど。
そう思って私が首を傾げると、ヴィヴィは慌てて説明を加えた。
「私は男爵家の三女で、行儀見習いの名目でこのお屋敷で働かせていただいてます。けれど、生涯シャルエッタ様にお仕えするともう決めているのです。実家の方にもそう伝えてあります。ですから」
「待って待って」
私が慌てて持っていたティーカップを置いたのに対して、ヴィヴィは驚くほど落ち着いて返事をする。
「はい」
「ウォリーシック家にのまちがい?」
そりゃあ姉様とわざわざ人払いまでして話し合っているんだから、ヴィヴィが気にならない訳はないとは納得できるけど、でもまさか自信満々に私専属メイドだとは初耳でそっちのが驚きだ。
「シャルエッタ様にですよ、ですから」
「ちょ、待って待って」
「はい」
「私がいつまでも貴族でいられるかなんて分からないよ、もしもずっとそうだとしてもいずれどっかに嫁がされて、その時は誰も連れていけないかもしれないよ」
一応オルバ様とは見掛けだけは許嫁だからね、でもオルバ様が相手ではないだけで結婚は貴族の令嬢の宿命だ。
このまま貴族として暮らしていけたとしたら、恩返しに少しでも利のある政略結婚ができればいい。
ちょっと母が平民である境遇的に難しい面はあるけど、そう思うオルバ様と仮許嫁としてくれているのは、すごい。しかも仮としてるのは私とオルバ様の秘密なのだ。両家は本当に結婚してもいいと思ってるってことだ。
公爵家が寛容なのかバージル家とウォリーシック家には深い繋がりがあるのか。
「どこへ行かれようとも付いていきます。ですから」
ヴィヴィは私が止めるのを予想してそこで言葉を切った。
取り敢えず最後まで聞くことにする。
「……はい、どうぞ」
「シャルエッタ様が何をなさるおつもりなのか、是非教えて頂きたいのです。決して誰にも、実家であっても、ご当主様であっても他言いたしません」
これは罠なのかなー。
ヴィヴィのことはかなり信頼してる。
でも私自身の人を見る目に信頼がないのだ。まだ思い出せてないだけで前世で何か騙されてるのかと思うくらい自信がない。
「うーん、私だけのことだったらいいよって言えるんだけど」
私が傷つくくらいは覚悟しておけば済むけど、今回のことは姉様が半分以上絡んでる。そこを伏せては何も話せない……こともないけど、かなり改編を加えないと難しいことは確かだ。
これから少なくとも五、六年は続く事だからこそ、初期からグルになるなら正確に情報を共有した方がいい。
「姉様がいいと言ってくださらないと私だけでは決められないの」
「もちろんです。私の方からも丁寧に説明とお願いをさせていただきますが、シャルエッタ様ご自身の許可をまず頂きたいのです」
「私は姉様が良いとおっしゃるなら大丈夫、ヴィヴィが味方なら心強い」
これは本心だ。
私の凡人加減は揺るぎようがないから、できることなんか限られている。その点、ヴィヴィは違う!
何だかよく分からない情報網のようなものを持っているのをヒシヒシと感じて暮らしてきたから分かる。
「ただ1つだけ、よろしいですか」
終始真剣な表情を崩さないヴィヴィが、それをはっきり声にまで乗せている。
余程忠告したいことなのだと思うが、全く予想できず間抜けに先を促す。
「なあに?」
「私はあくまでもシャルエッタ様のお味方でありたいので、エリー様を優先させることは例えシャルエッタ様のご命令でも出来かねます」
果たしてそんな状況になるか疑問ではあるが、そういうとなら私からもある。
「なるほど、じゃあ私からも1つ」
「なんでしょうか」
「無茶はしないこと。例えば私が屋敷から追い出されることになっても、なんとかしようとしなくて大丈夫」
ヴィヴィにはそんな気全くないかもしれないけど、万一もある。
予想されてる未来だからちゃんと言質くらいは取っておかないと。
「分かりました、どこへなりとも付いていきますのでシャルエッタ様が望まない限りは抗いません」
「ありがとう」
気になることばかりで、訂正を促したい気持ちがいっぱいになったけど、なんだかもうヴィヴィには何を言っても通じなさそうな雰囲気を感じて、私はなんとかひきつった笑顔でお礼を言った。
するとヴィヴィが話題を思い切り切り替えた。
「お茶の時間にシャルエッタ様に会いたいとトーマ様から先触が来ていたのですが、お疲れではないですか?」
「兄様が?」
そんなこといままでなかったから、まさか快復祝いと言うわけではないだろう。
たぶん姉様が私の部屋に来た理由を訊かれるはずだ。
それでも折角会いたいと仰っていただけるなら、もちろん会いましょう。
食事の時以外はほとんど会えないし、話せる機会は貴重だから!
お読みいただきありがとうございました。




