∞1 プロローグ
∞1 プロローグ
沢山の光の粒子が漂うなか、自らも他と同じように光の粒子の一つとなって暗く広い空間にぼんやりと漂っていた。
「(あれ?何でこんなとこにいるんだ?ってか手も足もないし声も出せねえ)」
自分の意思で動こうにも身動き一つとれない。誰かに助けを呼ぼうにも光の粒子が瞬いているだけだし、そもそも声が出ない。ただ、そんな状況でも不思議と恐怖感はなく、むしろ安心できるような心地良さに包まれていた。
「(ん~・・・何でこんなとこにいるんだっけ?えーと、確か・・・)」
その日は特に何の予定もなく、ただただ暇を持て余していた。
「あー・・・暇過ぎて死ぬる」
誰に聞かれることもない呟きは空間に溶け込み、聞こえるのは鳥の声ぐらいのものであった。
複数あった課題の提出も終わり、図書館・ファミレス・自宅という虚しいサイクルから解放された今日こそは久々に充実した休みを過そうと思っていたのだ。
しかしながら、誰かと遊びに行こうにも、数少ない友人たちは『まだ課題が~』とか『バイトが~』とか『実は彼女と初めてのお泊まりが~www』とか言い、若干腹立たしい理由の奴もいるが、皆一様に予定があるらしく孤独な休日を過ごすことになってしまっていた。仕方なく部屋で籠城を決めこもうとしても、手元にあるのは読み終わったマンガに今更やるのも面倒に思えてくる積みゲーと、充実しているとは言い難いラインナップである。
「このまま籠っていても貴重な休日が勿体ないな(そもそも籠れるだけの物資もないし・・・)。
うしっ、気分転換に外でも散歩すっかな」
そう言うと着古したスウェットの上からパーカーを羽織り、肌寒くなってきた外へ出た・・・はずだった。
「は?何これ??えっ、ちょっ、はぁ???」
困惑するのもそのはず、閑静な住宅地の一角にある安アパートの外は朝と夕方以外、人通りがほとんどないコンクリートで舗装された道であったはずで、玄関先や窓から見える樹木は紅葉しはじめていたのである。
しかし目の前に広がる光景は、辺り一面草原だったからだ。
「え~っと・・・とりあえずリセット・・・」
一度玄関に戻り扉を閉める。いま見た光景のせいで思考が停止しかけたが、冷静に、は無理だったので、パニック状態になりながらも考える。
「(今の光景は何だ?!暇過ぎたせいで脳がやられたのか??!いやいや、んな阿呆な。散歩に出ようと外に出て草原て。現実・・・いや、幻だな!でも幻って言っても、決して賢くはないがこれでもまともな回路を持ってる・・・はず。とりあえず嘘か幻か虚構か・・・ってこれじゃ否定しかしてねぇ!?)・・・はぁ、とりあえずもっかい確かめてみるか」
自分がパニックに弱かったことに若干落ち込みながらも、今度は覗き見るように恐る恐る扉を開く。数センチだけ開かれたところから必死に自分の記憶の中にある景色と垣間見える景色とを照らし合わせていく。
「そーっと、そーっと・・・あれはお隣さんとこの子供の三輪車。ほんでもって、アパートをぐるっと囲っているコンクリート塀」
パタンッ
隙間から一通り確認すると、再び扉を閉める。
「そりゃそうだよな!ほら、やっぱ何でもなかったんじゃん!そんなんあるわけねーから!」
と言いつつも、心底ホッとしている。
「(んー・・・やっぱこれはあれだな。課題に追われたことによるストレスだな。うん、きっとそうだ。近所の公園まで散歩してリフレッシュしよう)」
フゥッと一息いれ、自分が幻を見たことに何となくの理解を得ると、パニック陥ったことを否定するかのように、また、奇妙な体験をせずにすんだことに安堵からか、今度は思いっきり扉を開け、意気揚々と飛び出した。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・いや、何でだよ!!!」
再び広がる草原に、人目も憚らず大声でツッコミをいれていた。当然、大音量でツッコミを入れても白い目で見てくる人がいる訳がない、というより人っ子一人いない。
否定したくも二度目ともなると容易ではない。困惑しつつもそこから逃げるように後ずさる。
ドンッ
「ぐっ・・・。ん?んん?」
自宅の扉を開け放ち飛び出したのだから、玄関の淵に足をとられ転ぶことはあっても背中に何かがぶつかることなど有り得ない。
まさかと思い、一呼吸おく為に下を向く。するといつの間にか足元に自分を覆っても余りある大きな影が差している。嫌な汗が額を伝う。もし、自分の想像通りならこの状況はマズイ。
「はっ、はっ、はっ・・・(タイミングだ。タイミングで飛ばなきゃ)」
冷静になろうとも呼吸は落ち着かず、ただただ汗が流れ落ちる。きっと気温のせいだけじゃない。などと余計なことを考えつつもタイミングを見計らう。
ヒュオッ
「(今だ!!)」
風切り音を合図に全力で前方に飛び込む。土に塗れながら顔をあげ振り返ると・・・
「・・・木かよ!!!」
後ろにあったのは一本の大樹で、襲いかかってきたと思われたのもただ風が吹いただけである。
「やべ~・・・二次元の世界に影響されまくってるわ。」
自分の過剰なまでの防衛本能と想像力に呆れながらも立ち上がり、服についた土汚れを払う。
「こりゃ散歩はやめて、シャワー浴びて洗濯して惰眠を貪るに限るな」
と自分の部屋に戻ろうとして気づく。
「あれ?玄関ねぇけど・・・ドアもねぇ・・・ってかアパート・・・マジかああああああ???!!!」
アパートがあったところには大樹が立っているだけで、周りは草原である。先ほどの過剰防衛は勘違いだったとしても、想像力に関してはあっていたようだ。
「この状況って・・・よくある異世界トリップ・・・?いやいや!ここは日本のどこかで、じゃなくとも地球上のどっかの国で、超常現象的なあれでワープしたとかね!と、とりあえずスマホで確に・・・充電しっぱなしで部屋ん中じゃん!!・・・はぁ」
若干、涙目になりながらも、これからどうするか考える為、大樹に背を預け座り込む。
「これからどーすっかな~。人を探すとして地球だったらまだしも、ガチの異世界とかだったら言葉とか通じるのか?通じたとしても、この格好を見て怪しい奴め!とか襲われたりしないよな?あっ、また涙が出そう・・・」
あまりにも突飛な事態に足を抱え込み塞ぎ込む。
そのままで、どれくらいの時間がたったのだろうか。体感の時間なんぞ当てにはならないが、何も考えずにいると気づくことがあった。背中を預けている大樹はどっしりとしていて安心感がある。陽光も少し暑く感じはするもののポカポカとしており、吹く風は時折強くもあるが涼しさを感じさせてくれる。長閑としか言い様のない情景に、塞ぎ込んでいた心を解きほぐされていく。
「まぁ、こんなとこで凹んでてもしゃーないし、まずは場所の把握と人探し!そんでもって日本の我が家に帰る方法の模索だな!」
それまでのネガティブ思考を打ち消すように、頭をガリガリと掻きながら、立ち上がると辺りを見渡した。
どうやら自分がいた場所は小高い丘のようになっており、大樹の周りは自分の膝ぐらいの植物が群生している草原だった。辺り一面草原が広がっているが、続いているのは南側だけであり、西には、草原の先に樹海ともいうべき森が広がっている。北は山が連なって巨大な山脈をきずいており、東側には平野と大きな川が見える。
「何も当てはないからな~。ん~・・・とりあえず東に進んでみるか。生きるのに水は必要だし、ここからでも分かるぐらい大きな川だったら、近くに生活してる人だっているだろ」
考えだすと気持ちが沈みだしてしまう為、とりあえず気楽に進んで行くことにした。その様子は、この後に起きることに目を背けているかのようにも見えるのだが・・・。
初めての投稿。
趣味程度で書き始めたので、不定期更新です。
読んでいただければ幸いです。