表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

なにゆえに?

 そもそも「面倒くさいから」という理由で「片付けない道」を歩んできたというのに、ここまで面倒なことになってしまったのでは、全く意味がないどころか、はっきり言って、逆に損である。


 このままの状態を続けて、延々とムダな労力を使い続けるよりも、一発、ガッツリ片付けて、片付いた状態をキープするほうが、明らかに楽であろう。


 よし、片付けるしかない。

 片付けよう!


 しかし、ひとたびカオスに堕ちた空間を、秩序あるものとして立て直すのは、非常に大変な作業である。


 ここで「ハァ? 何言ってんの、そんなもん簡単じゃんよ」という者は、もともと「片付ける」側に属する人間であり、カオス空間を作り出すことは最初から無いであろう。


 まあそれはそれとして、ともかく、この私が――自他ともに認める「片付けない女」であったこの私が――この部屋を片付けるしかないわけだ。


 さて。

 問題は、どうしたいのか・・・・・・・、ということだ。


 何から手をつけるのか、は、今、さほど重要ではない。


『この部屋を、最終的にどういう空間にしたいのか』


 このゴール地点が、明確なビジョンとして見えていなければ、小手先の整理整頓に留まり、そのうちに自分が飽きてきて、作業そのものを放り出してしまうおそれがある。


 私は考えた。

 ゴールを考えるには、まず、スタートから。

 この部屋が本格的に荒れ始めたのは、いつからだったのであろうか。


「大学生になってから、か……」


 では、なぜ、大学生になってから、極端に部屋が汚くなったのか。

 私は文科系の学生であったが、別に、勉学のための物品が急激に増えたということはない。


「まあ、本とかマンガは増えたよな……」


 しかし、これはあまり関係なさそうである。

 本やマンガ類は、別室の壁の一辺をすべて制覇し、「万里の長城」のごとく平積みになっているからだ。(←それはそれで問題だ)


 この部屋をカオス空間としている主な原因は、大量の「衣服」、そして無数の「紙袋」――


「そうか……服が増えたからか!」


 小・中・高は、制服通学。

 しかも、さほど頻繁に外出するたちではなかった私は、私服をそれほど必要としなかった。

 しかし大学は、毎日、私服通学。

 外に遊びに出る機会も増えた。

 そのため、衣類の数が飛躍的に増大していたのである。


 ハコ(呪われた合板たんす)は変わらず、中身は倍増(いや、倍以上か)。

 これを「収納しよう」などと考えること自体、そもそも、無謀なことだったのである。


 さらに。


「何じゃ……この袋は……」


 入れた本人(私)にすら中身の判然としない、大量の紙袋。

 安定が悪く、積み重ねることができないため、ひたすら2次元的に増殖し、床面積の実に7割近くを埋め尽くしている。


 考えてみると、この紙袋は、高校時代からあった。(←あったんかい)

 しかし、どうも、昔は、この部屋はこんなに汚くなかったような気がするのである。



 床はすっきり見えていたし、週に2度は――この数字が多いか少ないかは、各自の判断にお任せする――掃除機もかけた。

 机の上も、どうにか片付いていて、たまには拭き掃除もして――


「あ!」


 私は、バシンと手を打った。

 これほど片付けが嫌いな私が、なぜ、週に2度も掃除機をかけていたのか、その理由を思い出したのだ。

 ――それは、週に2度、家庭教師の先生に来てもらっていたからだ。


 私は現代文・古文・漢文は常に学年首位を争う成績、そして数学は全て学年最下位を争う成績という、極端な生徒だった。

 あまりにもヤバすぎる私の数学の成績を見かね、大学受験に向けて、家庭教師の先生がつけられたのである。

 今となってはたいへん贅沢な話であったと思うが、まあそれはそれとして、要するに、週に2度、他人がこの部屋に入っていたわけだ。

 つまり、嫌でも、一時的にでも、きれいにしておく必要性があったのである。


 なぜ、荷物が紙袋に入っているのかも、これで思い出した。

 先生が来る日は、部屋をきちんとしておかなくてはならないため、ガラクタをいちいち別室に避難(隠匿ともいう)させていた。

 そのとき持ち運びが楽なように、全てをまとめて紙袋に突っ込んだのだ。


「そうか……!」


 私は悟った。

 今、この部屋が汚い理由はふたつ。



 1.モノの体積が、収納の容積を、はるかに上回っているため。

 

 2.自室を他人が訪れることがなくなり、人の目を気にしなくなったため。



 カオスの始点を見極めたことにより、自分なりのゴール地点が見えてきた。

 つまり、



 1. 収納の容積 ≻ 物品の体積 という状態を作る。


 2. 「ここが私の部屋です」と他人に見せて恥ずかしくない状態を作る。



 これである。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ