ミチ-1-
ミチ第1話
ミチは今日も部屋にこもっていた。何かがしたいわけではない。何もしたくないから自分の部屋にこもっているのだ。何も考えたくないから。そこにいれば、何も見なくていい。そこにいれば、何もしなくていい。ただベッドに横になり、目を閉じているだけ。ときどき、何かが割れる音がしたり、壁を叩く音がするけれど、母親の悲鳴でなければ大したことはない。
ミチはもう6年生になった。友だちは、どこの中学に行くやら、受験の志望校がどこやらと、近い未来に向けた話でもちきりなのだが、そんなこと考える気持ちにもなれやしない。とにかくミチは、静かな時間が欲しいだけだった。
ミチにも楽しいと思えるときはある。それは学校。学校に行けば、親のゴタゴタを見なくていいし、考えなくてもいい。一番解放される時間だ。誰に気兼ねすることなく大声で笑えるし、遊べる。はしゃぎ放題。我慢していた声を、思いっきり吐き出すことができるのだ。ミチのクラスは、それができるクラスなのだ。
ミチが何か面白いことをするのをみんな待っていた。ミチが何かをするとみんなは大喜び。笑いの中心にいつもミチがいた。
こんなことがあった。クラスのお楽しみ会のときのこと。子どもたちの好きなゲームのフルーツバスケットの最中。3回座れなかったら罰ゲーム。友だちに譲ってばかりのハルが罰ゲームをしなければならなくなった。罰ゲームの内容はモノマネ。芸能人でもいいし、クラスの誰かの真似でもいい。みんなが知っているというのが条件。まだ、ハルが「みんなのハル」になる前のことだから、ハルにはちょっとハードルが高かったのだろう。困ったハルがモジモジしていると、その雰囲気をぶち壊す言葉が。それがミチだった。
「はいはい、みなさーん!」
と言いながら手を二度叩く。そのあと必ずにっこり笑顔。それを見たみんなは、それが和美のモノマネだとすぐわかった。そして、その次を期待して待っていると、今度は腕組みをして少し斜めに立つ仕草をした。すると、
「こら、お前たち。それは俺に対する挑戦上か?」
ゲラゲラ笑いながらタクが言った。
「出た〜。2組の山下先生の得意技だ〜。挑戦上だ〜」
ミチとタクの絡みが面白くて、もう誰の罰ゲームだったのかなんて、みんなどうでもよくなってしまった。ミチのモノマネがもっと見たくなったみんなは、
「アンコール!アンコール!」
と、大盛り上がりになった。
お楽しみ会が終わって机を元に戻すとき、ハルがミチに近づいてきた。
「ごめんなさい、私…」
と、小声で言いながらモジモジしてると、
「ごめんなさい、私…」
と、今度はハルの真似をしながらにっこり笑って見せるのだった。ハルもつられて笑ってしまった。それがハルの「ありがとう」の代わりになった。
ミチのさりげない優しさをじっと見つめていた和美は、ミチにお礼を言わなくてはと交換日記を開いた。
ミチさんへ
今日は、私のモノマネまでやってくれてどうもありがとう。私、2度手を叩いたりしてるんですね。初めて気が付きました。それをみんなが笑って喜んでるところを見ると、そんなに似てたんですね。そのあとの山下先生の真似なんて、タクさんまで参加して大盛り上がりでしたね。いいコンビです。
ハルさんのこと助けてくれてありがとう。正直に言うと、どうなるかなぁって心配してたんです。クラスのみんなは決して責めたりする人たちではないのですが、あのときにミチさんが立ち上がってくれなかったら、お楽しみ会がどんな雰囲気になっていたか。ミチさんにクラスのみんなが救われました。
ミチさんは人の気持ちが読めるようですね。何を求めてるのか?何で救われるのか?こんな難しいことをあなたは気づける人なんだなぁと驚きもし、嬉しくも思いました。
ありがとう。私のクラスの一人にあなたがいてくれて、本当に嬉しいです。
先生より
このミチの優しさは、毎日の生活の中で身につけてきたものと言えるのである。父親の苛立ちや母親の不満や不安。そんな両親を見ながら、ミチはいつも考えていた。どうしたら両親の気持ちが軽くなるのかと。ミチが優しいのは、いつも、自分以外の人のことを一番に考えているからかもしれない。




