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ユキ -5-

金魚の卵コーナープロジェクト!

ユキが「みんな」になれた日。ユキは大事なことをみんなに気づかせます。

命とは「頑張ること!」なのだろうか?

ユキ 第5話


和美の提案で「金魚の卵コーナー」を作り始めたユキたちは、休み時間になるとそれぞれに分担した活動に没頭し始めた。ユキはもちろん卵の絵の担当。卵を見つけた日から毎日描いてきた卵の絵を見ながら、みんながもっと見やすくなるために大きく描き始めた。ミナミはユキが書いてきた日記を見ながら、その日その日の卵の特徴や様子を文章でまとめている。ハルはユキやミナミが作っているそれぞれの資料をどのようにレイアウトしようかと編集を担当している。そして、クラスの他の友だちも興味津々に集まり、手伝おうとしたり、ユキの絵や日記に見入っていたり、とにかくみんなで「金魚の卵コーナー」作りを楽しんでいた。

和美は、そんなクラスの活動の様子を校長に伝え、ユキたちの活動の許可をもらえるように頼んでいた。

「ユキさんの今回の活動はチャンスだと思うんです。ユキさんの良さを理解してもらえるだけじゃなくて、ユキさんが友だちを必要とするきっかけになると思うんです。」

校長は和美の話を静かに聞いていた。今までのユキの行動を担任の和美とともに心配していた校長である。和美の提案を興味深く聞いていた。校長は和美の話を聞き終えると笑顔で頷き返事をした。

「分かりました。職員室前の金魚の水槽をもっと児童の目に触れる場所に移動しませんか?」

校長は話を続けた。

「子どもたちが気兼ねなく見ていられる場所の方がいいでしょう。せっかくユキさんたちがみんなに見てもらおうと頑張っているんですから、もっと広い場所がいいですね。保護者も立ち止まって見ていただける場所を探しましょう。」

和美は校長の理解と好意に感謝した。「金魚の卵コーナー」の場所は、昇降口前のホールに決定した。ここなら人が集まっても邪魔になることがない。

和美が教室に戻ると、ユキの机の周りに人だかりができていた。

「すごーい!」

「この小さなのって、心臓だよね?」

「メダカの勉強でやったね。」

ユキの絵を見て驚きを隠せないという感じだ。

「まだまだあるよ〜」

風の声が聞こえてくると、和美の顔にも笑顔が浮かんできた。

「プロジェクトチームのみなさん。」

和美の言葉に、誰からか返事が聞こえてきた。

「プロジェクトチームなんてかっこいい!」

「だって、全校のみんなが命のことを学ぶためのお手伝いをする尊いチームですよ。」

和美が腕組みをして凛とした態度をとって見せると、子どもたちも真似をして、

「そうです!僕たちは偉いんです!」

そんな風に言うのはやっぱりミチ。和美の顔まで真似てるつもりらしい。クラスのみんながドッと笑ってる中でユキだけが真顔で言った。

「偉いのは金魚の赤ちゃんだよ〜。頑張って生まれてきたからね〜。」

ミチもみんなもユキには負けたという感じで顔を見合わせて微笑んでいた。ユキだけがキョトンとしていたけれど。


その日の3時間目の初め、クラスの中からこんな提案があった。ルミだ。

「先生、ハルやミナミから聞いたんですが、ユキたちがやっているのは水槽の金魚だけじゃなくて、ビオトープの生き物にも関心をもってもらいたいって。それなら、コーナーだけじゃなくて、ちゃんと全校に向けて発表したほうがいいんじゃないかなあって思ったんですけど。」

和美は「発表」についてもう少し詳しく聞かせて欲しいと言った。

「作ったものを見てもらうだけじゃなくて、きちんと伝えたほうがいいっていうことです。朝会なんかの時に、卵でも、小さな赤ちゃんでも、こんなにしっかり心臓が動いてるんだって。生きてるんだって。声で伝えるっていうことです。感じたことをありのままに伝えるのが一番じゃないかなぁ。それが一番人の心に残ると思います。」

和美は「ルミらしい考えだなあ」と感心していた。見てくれるのを待つのではなく、もっと積極的に訴えたほうがいい。ユキがせっかく頑張っているのだから、みんなの心に響いて欲しい。そんな願いがルミの言葉から伝わってきたのである。

「ユキさん、お友だちの意見をどう思いますか?全校のみんなの前で発表ですって。」

和美は、決めるのはユキだと思ったからだ。

ユキはルミの意見を静かに聞いていた。ユキの答えもやっぱりユキらしいものだった。

「ユキやるよ〜」

心地よい風が窓から入ってきて、みんなの心を優しく撫でてくれた。そして、みんなは一つになった。


発表はプロジェクターを使ってスクリーンに大きく映し出したらどうかと言うのは、パソコンに詳しいヒロの意見だ。ユキが描いている卵の絵をそのまま大きく見せようというのだ。そして、日に日に変化する卵の様子を言葉で伝える。伝えるのはやっぱりユキがいい。ユキの感動をユキの言葉で。ユキが伝えることで、ユキの良さをみんなに知ってもらえる。これはクラス全員の思いだ。この、クラス全員で取り組むプレゼンは、立派な学習活動になっていた。パソコンでの作業はユキの絵日記を基にした情報活用能力の育成につながる。また、その編集に際しては、どの順番で、どのような考えをまとめていくかは文章の構成能力の育成になろうか。そしてプレゼンの計画運営はもう言うまでもない。今回のような学習活動は、子どもたちの意思で主体的なものになっている。子どもたちの学習のゴールは「全校のみんなに命の大切さを伝える」ことであり、それに向かっての準備は問題解決学習になっていた。正に総合的な学習である。和美は子どもたちの中から材を見つけ、気づかせただけであるが、あらためて思うのは、「初めに子どもありき」の大切さ。子どもたちから学ばせてもらうことの多さに一人感動する和美だった。


発表当日。和美のクラスの子どもたちは、朝会で全校のみんなが興味をもって聞いてくれるのかどうか、心配で緊張をかくせなかった。

「ユキ、落ち着いてね。」

ずっと前からユキのことを静かに見守り、理解者であったルミがユキの肩を抱きながら言った。しかし、当のユキはずっと嬉しそうに笑顔であった。

「大丈夫よ〜」

いつものユキだ。そんなユキを和美は微笑んで見ていた。和美は思うのだった。

「上手くやらなくてもいいの。ユキさんが本当に伝えたいことを伝えられれば。」

和美にとって、今日という本番よりも、ここまでユキがいろんな友だちと関わりをもち、その友だちがユキのことを受け入れられたこと。それ自体が尊いのだと。和美は嬉しかったのだ。ユキが「みんな」になれたことが何よりも嬉しかったのだ。きっとユキの両親も同じ気持ちなのだろう。

発表か始まった。全校の児童はユキの話に吸い込まれるように聞き入った。

「透明な卵が金魚の赤ちゃんになるよ〜」

「白い卵は命になれなかったよ〜。かわいそうね。」

「初めに黒い点が出てくるよ〜。これが目だね〜。」

「わあー!」という声が見ている子どもたちからもれ出した。子どもたちの目はスクリーンに釘付けである。

「今度はピクピク動き始めるよ。やっぱり命なんだね〜。」

この時の画面はユキの絵ではなく、動画を用意していた。ユキのリクエストでもあり、また、みんなも賛成した。「生きていること」が伝わることが重要だからだ。ピクピク動く心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。見ている子どもたちの顔は感動でいっぱいという感じだった。このとき、全校の児童が同じものを見、同じ感動を味わっていたと言っていい。そんな中でもユキはやっぱり風のよう。ピクピク動く心臓を見ながら、

「かわいいね〜」

この言葉が、ユキが一番伝えたかったことなのだろう。この小さな命はかわいいのだ。かわいいのだから、大事にしてほしいのだった。それがユキの「真実」だった。

発表は終わった。大成功だった。全校のみんなから自然と拍手がおこり、ユキはユキのお返しを忘れなかった。体育館のステージの上の真ん中に立ち、にっこり笑って言ったのだ。

「卵は毎日変わったよ〜。変わるって素敵ね〜。ユキも変われたよ〜。お友だちできたよ〜。ユキはみんなが大好きです。」

和美はステージの脇に立ち、涙が止まらなかった。ハルもミナミも、ルミもミチもダイスケも、みんなみんな笑顔で泣いていた。


次の日、和美はユキから交換日記を受け取った。



先生へ


先生ありがと。

ユキは変われたね。お友だちが笑ってくれたよ。やさしく笑ってくれたよ。

金魚のお友だちもできますか?水そうにもビオトープにもたくさん来てくれると金魚も寂しくないね。

先生、プロジェクトありがと!


ユキより


和美はユキから教わったのだった。「みんなになる」のは子ども同士だけではない。いろいろな命がつながることが大事だということを。大切に思う心。それがあれば、みんなつながる。







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