9 食事
ミュースさんはいつまでたっても手を離してくれなかった。
手を繋ぐというのがもうなんとも恥ずかしい気持ちでいっぱいになっていた。
そんな状態で夕暮れ亭まで……パーティの皆様が待っている席まで手を繋いでいるはめになったのだ。
「おーおー、見せつけてくれるねぇ」
「ひゅーひゅーですね~」
オーランドさんとミリアさんに冷やかされる。あぁぁぁぁ……もう帰りたい。
「ユリト君、席につくといい。すみません。彼に果実水を1つお願いします」
「はい……」
スコットさんはさすがです。 気配りができます。 帰らせていただけたらもっと良かったですが、周りが絶対に許さないですよね。
席に着くと隣にミュースさんが陣取った。ものすごい構われてます。なんとなく機嫌もよさそうです。
「無理に誘って悪かったね。まだ時間があるから夕食には早いけど、色々話をすればちょうどいい時間になると思うよ」
「そうですね。えっと何の話をしましょう? あ、果実水ありがとうございます」
恥ずかしさでのども乾いてたらしく、目の前に置かれたら飲まずにはいられなかった。
「それなら最初は気功の事だ! どうやって手に入れたか話してくれ!」
「ん、話が聞ければなんでもいい」
「ユリト君、頼めるかい?」
オーランドさんは前のめりになって頼んできた。特に困る事でもないので、
「話すのはいいですけど、参考にはならないと思いますよ? 俺は確認の儀の後、色々な事をやりたがったって両親が言ってました。その中で体力をつけるために毎日走っていたんです。それとは別に、しばらく後に身体強化の魔法を教えてもらいました。教えてもらってからは、身体強化の練習もしてました」
「身体強化ってよくそんな使い勝手の悪いもんを練習する気になったなぁ。強化はできるけど一気に魔力消費して実践じゃ使えないって聞いたが」
「確かに最初はとてもきつかったです。使って疲れて、回復しろー回復しろーって思いながら休んで、使えるかな? って思ったらまた使ってを繰り返してました」
「ユリト君~。それ危険な気がするんですけど、大丈夫でした~?」
「小さい頃ですから、よくわからないですよ。ただ、魔法関係でよく倒れては両親に心配かけてましたが」
ミリアさんがやっぱり、みたいな顔をしてた。ミュースさんは心配そうな顔をしてた。
「昔の事ですから……今なら倒れる前にちゃんとやめられますよ」
「倒れる前じゃなくて、もっと早い段階でやめるべきだと思うの~」
ミリアさんがもっともな事を言った。ミュースさんもうんうんと頷いてる。
「今はそこまでやるようなことないから大丈夫ですって大丈夫。 で、こんな事を繰り返していたら、身体強化の制御が少しづつできるようになったんです」
「身体強化の制御なんて普通できませんよ~。私も身を守るために制御できたらと思いましたけど全然できなかった~」
「すごい」
褒められたり、ちょっと呆れた目で見られたりして反応に困ったのでそのまま続ける。
「制御できるようになったのは、何度も使ったからだと思うんですけど、それ以外にも色々魔力関係の補助スキル覚えててそれが助けになったみたいです。」
「補助スキルか~。あれ、覚えるの大変だって言うのに色々覚えてるのね~」
「まぁ……、倒れるくらいでしたし……」
静かになった。沈黙が痛いです。
「身体強化とか魔法とかはその辺でいいから、いい加減気功の話にしてくれよ。まだ全然気功出てこないじゃないか」
「気功はこの後ですね。身体強化の制御を覚えて、それを使って走る事をやるようになったんです。でも、いくら制御できるといっても、まだ完全じゃないですし、魔力も少なかったので長時間は使えなかったんです」
「身体強化は元々、一時強化するもので継続して使うものじゃないけどね~」
ミリアさんがそんなツッコミをいれてくるが、そのまま進める。
「まぁ、それはおいといて、魔力が少なくなっても家には帰らないと行けないので必死になって帰っていたわけですが、ある日気が付いたんです。自分の中にまだ使ってない力があることに」
「つまり、そいつが気功だったと言う訳か?」
「最初は、ずいぶん扱いずらい魔力だなぁって思って使い始めたんです。でも、なんか身体強化使ってる感覚とだいぶ違うなぁと思って、知り合いの神官さんに話をして確認してみたら実は気功でしたって事ですね」
それを聞いてオーランドさんは考え込んでしまったが、スコットさんがズバリとまとめてくれる。
「つまり、子供の無茶な努力の末ってことだね」
「耳が痛いですけど、おっしゃる通りでございます」
「毎日の走り込み、時に倒れるほどの魔力使用、それ以外にも色々やってたんだよなぁ……無理だな!!」
オーランドさんは気功をあっさり諦めたみたいだ。そもそも、守護者は護衛メインのパーティだから毎日鍛錬ってのは無理なのだと思う。
「それだけ努力してきたんだ。他の事もそれなりに努力してきたのかい?」
「母さんに調薬習ったり、父さんに剣術習ったりしてますね」
「なるほど、君が1人でゴブリンを倒せるのは知っていたけど、強化と剣の腕というわけだね」
スコットさんが盛大に勘違いしていた。
「確かに剣でゴブリン倒せるには倒せますけど剣の腕はさっぱりないですよ。縦と横にきれいに振る以外できないですし」
「今までの君の話を聞くと剣も努力してきたように思ったけど、そうでもないんだね」
「いえ、その……人並み以上には剣も努力してきたつもりなんですけど……。5年間素振りを重ねてきたのに未だに剣術スキル覚えないんですよね」
「ん?」
「え?」
「は?」
皆さんそれぞれに驚いたようだ。スコットさんは声も出ないらしい。
「ちょ、ちょっと待て! 剣術スキルなんて覚えるだけなら魔法使いでも1週間で覚えられるスキルだぞ!? 1日1回で素振り終わりとかじゃないだろうな!」
「ユリトに失礼。謝罪を要求する」
俺が何か言う前に、ミュースさんがオーランドさんに謝罪を要求した。普通に考えればあり得ない事なのは知っているのでフォローにまわる。
「ミュースさん、俺は気にしてないから気にしないでください。素振りは今でも毎日300回は縦横それぞれ振ってるんですけど、まったくダメですね。神官さんの話によると致命的に相性が悪いと覚えられないスキルがあるから、信じがたいけどそういう事だろうって言ってました」
「ん~本当にそんな事あるの~? 覚えるだけならなんとかなりそうじゃないかな~」
「神官さんが言ってた例は、魔法使いが斧の練習しても斧スキルが覚えられなかったって言ってました」
「変人」
確かに変な人だとは俺も思うけど声に出してしまうのはいかがなものでしょうか?
「まぁ、事実として俺は剣術スキルが覚えられないのでどうにもならないですね。剣で倒すというのも身体強化と気功のごり押しです。そもそもゴブリン倒すのは大抵マジックアローでやっちゃいますけどね」
「それは……今はいいかもしれないけれど、将来的に厳しいくなるんじゃないかな?」
スコットさんの言うとおりではあるんですけどね。
「確かにそうですけど、俺の目標は森の魔力草採取ですからね。それに最悪、薬草採取とポーション作りで十分に生計なりたちますし」
「安全第一」
「いや、安全すぎるだろうよ」
オーランドさん、俺も確かに安全すぎるとは思いますけどもね。
「色々やらかしてる俺ですけど、格下しか相手に出来ない雑魚ですからねぇ」
「私がユリトを守る」
「いや、森の状態の報告もしたし、3日後には仕事で町を出るからね?」
「むぅ」
スコットさんの言葉にむくれるミュースさん。でも、森の状態か……。
「その森の状態って俺が聞いても問題ないですか?」
「変」
「ミュース……君のユリト君びいきは分かっているけど、この手の話は言っていいことと悪いことがあるのだからまかせてほしいな」
「ちょっと静かにしてましょうね~」
ミリアさんはミュースさんを抑えにかかる。俺がミュースさんに直接聞くと色々聞いてはいけない話までしてしまう可能性が高いのだ。
「とはいえ、それほど話すことは多くない。ミュースが視線を感じたというくらいでゴブリンには会わなかったんだ」
「え? ミュースさんが視線しかわからないって十分やっかいな気がするんですけど……。それに街道にはゴブリンが出てるなら森でもゴブリンに会っても不思議じゃないですよね?」
「だから、さっきミュースが言った。変、という一言につきるんだと思う」
「その辺にしてそろそろ食おうぜ!」
オーランドさんが話をぶった切ってくれた。でも確かにお腹もすいてきた。
「ユリト君、いいかな?」
「お腹もすきましたし、いいですよ」
この後は夕食を食べながら、楽しく食事をすることができた。俺にむりやり酒を飲ませようとしたオーランドさんが、ミュースさんとミリアさんにボコボコにされたりしてたけどね。
こうして食事を終え、家まで送ってもらった。両親に挨拶して、自室に戻りベットに入り込んだ。
今日から生活が変わった。これからも色々なことが変わっていくと思う。だけど俺は精いっぱいがんばっていこうと思う。
それでは、おやすみなさい……体拭くのは明日でいいか……。