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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
3章、薬屋さんの錬金術師
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84 縁が集まる場所

 さて、現状を確認しよう。

 教会の広い部屋に通されてた時、すでに相手は待っていた。これが俺達の戦力だ。と言わんばかりに多くの人間がいた。

 勇者と思われる中央に座る黒髪の男、その横にいる他の騎士よりも良さそうな装備を着込んでる男、たぶんこの人が現王の弟オレストだろう。

 オレストと思われる人の後ろには騎士たちが並んでる。その反対側には冒険者の栄光の軌跡というAパーティらしき人達がいるが……アーサー君達だった。パーティ全員で10人くらいになってますが増えたんですね女の子。

 俺を見たアーサー君が少し驚いてた。アルタは口パクで久しぶりとか言ってた。後で時間があれば話をしてみるのもいいかなって思った。

 正直、人選ミスじゃないかと思った。王族とは言え弱みのあるオレストに、冒険者のアーサー君達なんて友達だし……仕事だから私情は持ち込まないかな? それでも威圧という意味では逆に気が楽になった。

 騎士たちは騎士たちで、ポーラ姉さんを見て萎縮してる。もし威圧が目的なら完全に逆効果ですよねこれ。だけど後ろの様子が見えない推定勇者と推定オレストは余裕の表情を浮かべている。あれ? 推定オレストはなんで余裕そうなんだ? 王族だからか? まさかポーラ姉さん知らない訳じゃないよね? それにしても推定勇者は顔を見るだけでイライラするな。なんなんだろ。気持ち悪い。


「沙織、久しぶりだね。迎えに来たよ」

「必要ないから帰って」


 こちらが席に着く前に立ち上がり、両手を広げ爽やかそうな笑顔を浮かべた男の言葉をバッサリと切るサオリ。それでいいと思う。あの笑顔は作りものだからあんなののそばにいる必要なんてない。俺、作り物の表情とか見分けられたっけ?


「どうしてだい? 僕達は数少ない同郷からやってきた人間で友達だろ? だったら一緒にいるべきだ」

「同郷からやってきたのはそうだけど友達なんかじゃない。それに私はあなたが嫌いなの。向こうにいる時も言ったよね」

「こんな所に来てまで照れ隠しかい? ツンデレだとしてもちょっとやり過ぎだと思うよ?」

「嫌いな人に嫌いって言ってるだけなのに……どうなってるんだろ……」

「異世界の方よ。よろしいだろうか?」

「その前に席を勧めたらどうだ? 自分だけ座ってるつもりか?」


 推定オレストが、このまま話を続けようとしたのでそれを遮る。これの事は王族として考えなくてもいいんだから気にする事はない。相手を立たせたまま話し合いとか……王族だと普通にやてるのだろうか?


「貴様……私を誰か知らないのか? 貴様がそのような口を聞いていい存在ではないのだぞ」

「サオリ、座ろうか? ポーラ姉さん達とアレックさんはどうします?」

「えっと座っていいの?」

「私たちは護衛役よ? 後ろで控えてるから思う存分やっちゃいなさい」

「あの程度なら我々で抑え込めますのでご安心くださいませ」

「私は立ちっぱなしはきついから座らせてもらうよ」

「うん、ありがとうね。サオリ座ろう」

「えっと、うん」


 とりあえず、座らせる気がないようなので勝手に座る事にした。無視された推定……もういいか。オレストはうるさく色々言ってるけど無視する。騎士の人達は困り顔だ。普通ならこちら側に圧力でもなんでもかけるべきなんだろうけど、ポーラ姉さんとグレンさんがいるためそれもできない。勇者は黙って見ている。おそらく王族からの圧力だからほっとけば自分に都合のいい方向に話が進むと思っているんだろう。


「俺はな! 現国王の弟なんだよ! 王族なんだ! 不敬罪で投獄するぞ!」

「オレストさん、ミュースさんは元気にしてますか?」

「は? 私の運命の女性をなんでお前ごときが知ってるんだ。答えによっては叩き斬ってやるぞ!」

「あなたがいなければ、今俺の隣にミュースさんがいたはずなんですよ。そういう話は聞いた事があるでしょ? 王族としての力を使って無理やり女性を手に入れたオレストさん」

「ち、違う無理やりなどではない!」

「まだレーリックおじさんからの教育が足りないみたいですし、アレックさんそう伝えておいてもらえますか?」

「わかった。父上にはそう伝えておこう」

「ア、アレック様? それにレーリック元国王をおじさん呼ばわりだと……。き、貴様はいったい……」


 まさかと思ってたけど、俺の情報一切持ってないの? 保護してる先の人間がどんな人間か知ってそれに合った褒美やらなんやらで釣ろうとするんじゃないの? もしかして力でごり押しするつもりだったのか?


「ユリト君はアレックとレーリックのお気に入りなのよ。ミュースって子はあなたがいなければ、仕事が終わり次第ユリト君の所に行くはずだった。あなたが相手にするには相性が悪い相手だと思わない?」

「うるさい! お前みたいな小娘がそんな口叩いていいと思っているのか!」

「は?」


 俺は思わず声が出てしまった。え? だって確か騎士団の副団長だかじゃなかったっけ? それなのにポーラ姉さんの事しらないの? 本当に?


「え? ポーラ姉さんの事知らないの?」

「誰がそんな小娘の事知るか!」

「オレスト様! 少々お耳を」

「何なんだまったく! ……え? ……ウソだろ? ……えっと……」


 騎士から耳打ちされてオレストの顔色がどんどん悪くなる。顔も名前も知らないけど、その功績は知ってるんだろうか?


「そ、そうだとしても俺は国の代表として、そして教会からの手紙を携えて来てるのだ! 勇者様のお望み通りその娘を連れて行くぞ」

「巻き込まれた彼女の意見を無視してですか?」

「もっとも大事なのは勇者様の意見だからな。これは覆る事のない事実だ」


 自分の勝利を確信してるようで悪いけど、その手はすべてこちらの手札で潰せるのだ。最初からこれを出さなかったのは、向こうもサオリの事を考えて引いてくれるなら出さない方がいいだろうって判断だったんだけど、最初っからこの手札出しておくべきだったね……。そもそも自己紹介すらしてないよ。なんなんだろうね?


「アレックさん」

「あぁ、君は教会からの手紙を携えていると言ってるが誰からの手紙だろうか? 私たちは教皇自ら今回の事に関しては関与しないという手紙を受け取っているのだが?」

「う、嘘だ! そんなはずは……」

「教会は今回の事に関与しません。だからこそ、場所の提供だけにとどまっているのです」

「だ、だって……」

「ポーラ姉さん」

「この手紙が見える? ここに元、前、現国王の署名で巻き込まれた少女の意見をもっとも重要視するって手紙があるの。ちなみにオレスト。あなたに関しては立場を気にしなくていいそうよ? あなたの後ろ盾は何1つないの。理解した?」

「う、嘘だ! 父上が、兄上がそんな……」


 オレストは頭を抱えてしまった。こんなんを相手にしなきゃならないミュースさんがかわいそうになってきた……。運命の女性って言ってるし、レーリックおじさんも引き離しはしてないから悪いようにはなってないとは思うけど……心配になってきた。とりあえずうるさいのが1人撃沈した。


「はぁ……ねぇサオリ」

「プロテクション!」

「マインドクリア」


 勇者が言葉を発したのと同時に危機察知が反応した。そのため勇者を囲むようにプロテクションを発動させた。それがもっともいい方法だと思ったからだ。そして動いたのは俺だけじゃなかった。ジャンナが精神異常を回復させる魔法を使った。ポーラ姉さんとグレンさんは騎士たちへのけん制、アーサー君達はジャンナの守護に入ってた。

 この動きについて来れなかったのは勇者とサオリと騎士達だ。アレックさんは何か魔法を使おうとしたけど間に合わなかったっぽい。勇者は邪魔されるとは思ってなかったのかもしれない。騎士はちゃんと動け。こっちは楽だけど。サオリは……仕方がないだろう。


「ここでチャームを使われるとは思わなかったよ。私1人では持続させる魔力が足りなくなるからここにいる人間から魔力を徴収させてもらうよ。サンクチュアリ」

「光の防御魔法の最高峰ね。やりすぎな気もするけど」

「相手は勇者様ですからね。魅了の魔法は怖いですから、対策は出来る限りの事はしないといけませんよ。ユリト君はもうプロテクション切って大丈夫ですよ」


 アレックさんとポーラ姉さんの話から何をされたかはわかったけど、魅了の魔法って……。


「風岡君、どういうつもり?」

「そちらが勝手に判断しただけだろ? 僕はそんな事していないよ?」

「よく言いますね? 移動の途中も僕の仲間たちに使ってたのを知らないとでも思っていたんですか?」

「それも言いがかりだよ。僕は何も知らないよ」


 アーサー君のパーティメンバーは揃いも揃って美女美少女揃いだからね。引き抜きたかったんだと思うけど、それはジェンナが治療してたか、耐性魔法かけてたのかもしれないね。


「どちらにしろ、サオリは僕たちと一緒に来るべきだ。国が保護してくれるからなんの心配もいらないよ」

「日本に帰れないなら、せめて風岡君の近くにはいたくない。ユリトのそばにいたい。だから私は絶対にここから動かないから」

「僕の気を惹きたいのもわかるけど、そこまでやるのは逆効果だよ? 素直になりなよ」

「風岡君が変に受け取ってるだけでしょ!」


 2人のまったくかみ合わない言葉の応酬が続くことになったが、かみ合わない為まったく意味をなさなかった。勇者が自分勝手過ぎる……。これを黙らせる手段が本当にあるのか? ○○○。また何か聞こえた気がした。なんなんだよ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ!


「君は変わらないんだね。風岡浩司」


 そう言って前に出てきたのはアルタだ。でも、その様子が今まで見た事のないものだった。昔の彼女の印象は明るく楽しい女の子って感じだった。実際さっき見た時もその印象があった。でも今はどうだ。冷たい雰囲気をまとってゴミクズでも見るような目で勇者を見てた。


「もっと親しげに呼んでくれた方がうれしいよ。アルタ」

「君の名前なんて呼びたくもないし、呼ばれたくもないよ。今の僕はアルタだけどアルタじゃないから自己紹介しておくね。僕の名前は雨宮美晴。僕の名前覚えてる?」

「……さ、さて、誰だったかな?」


 勇者が動揺してる? それにしても雨宮美晴……。なんだろ? この泣きたくなるような気持ちは? 悲しいような嬉しいような……。色々訳がわからないよ。


「そっか、覚えてないんだね。君から強引に誘ってきて、約束しちゃったからって行ったのにけっきょく時間には来なくて、連絡してる最中に後ろから襲われて殺された女の子の名前なんて君は覚えてないんだね? 電話口で聞いた最後の君の言葉は、あ、ごめん、今からだったっけ? だったよ。私の最後の言葉すら覚えてないんだね。絶対に許さないって言ったんだよ」

「お、覚えてない! いや、そんな事はなかった! なかったんだ! 適当な事を言うな! ぼ、僕は知らない知らないぞ!」


 アルタは前世があるって言ってた。アーサー君達も何か反応してるみたいだけど俺は俺でいっぱいいっぱいになってて他にまで気がまわらない。アルタが昔話を勇者に聞かせて、勇者がそれを否定する。騎士たちは戸惑うばかりで動けない。

 アルタの話は初めて聞いた気がしない。聞いててむかつく話ばかりだけど聞いた事のある話だ。いや、知っていた話か? 自分の中で何かが形になっていき、言葉が聞こえた。

 あぁ、そうか。それを俺に伝えたかったのか。うん、今まで散々ふりまわされたけどありがとう。お疲れ様。ここからが俺が本当に1人で歩いて行く道なんだね。それじゃあね。


「アルタ、勇者、ちょっといいかな?」

「ユリト? 邪魔しないでほしいんだけど」

「な、なんだ? なんでも聞くぞ!」


 アルタはまだ言い足りないらしい。まぁ追い詰められてるとはいえ勇者は知らぬ存ぜぬばっかりだからね。でも、俺はたぶんニヤリと悪く笑ってると思う。


「勇者はなんでも聞いてくれるのか。なら聞いてくれるよな? 俺は絶対にお前を許さない。たとえ死のうが絶対にお前だけは許さない。美晴の事をお前が忘れても絶対にだ。って言った俺の言葉は覚えているか? 風岡?」

「は? え? な、なんでお前がそれを……だって、だってあいつはあそこにいたじゃないか!?」

「桜井悠斗は召喚前に弾き飛ばされたからここにいるはずがないって? じゃあどうして美晴はここにいるんだ? 美晴がいるなら俺がここにいてもおかしくないだろ?」

「な、なんでだよ! なんでいるんだよ! あの時だって見えなかったから沙織に話しかけたのにいやがるし、なんで異世界まで来てお前に会わなきゃいけなんだよ! 桜井!」


 勇者は完全に俺の事を桜井悠斗だと思ってるが、それは違う。俺はあくまでもユリトでしかない。桜井悠斗という人間の残滓が俺に影響を与えて、最後に言葉を少し残してくれただけの事だ。きっと突っつかれれば俺が桜井悠斗でないことはばれると思う。でも、完全に混乱しきってる勇者はもう俺の事が桜井悠斗にしか見えないのだろう。今だけは頭を動かしてサオリから聞いた話からそして、アルタの今話してた内容から桜井悠斗を組み立てる。


「また強引に連れ出していくのか? 俺のそばにいる人間をまた連れて行くのか? どうなんだ? 答えてみろよ」

「いるか! そんな女もういらない! お前の近くあるものは僕を不幸にするんだ! そんな不幸を持って帰れるか! そっちのやつらももういらないからな! おい! いつまで頭抱えてるんだよ! 行くぞ! こんな町とっとと出て行くぞ。不幸になる不幸になる不幸になる。僕は今度こそ今度こそ!」


 すごい顔をして勇者は出て行った。騎士たちも追いかけたりオレストをひっぱっていった。ここに残った空気は追い返したことを安堵するよりも、色々と困惑する空気だけだった。

まぁ……当然そうなるよね。

次が最後なのですが短いので11時に投稿します。

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