77 終結
陣に帰ってくると皆疲れ果てていた。オーク達の死体はそこらじゅうに転がっているし、怪我人の治療も行っているようだった。気が付いてこちらに来たのはジルベルトさんだった。もし他の人達が来たのなら文句の1つも言われたかもしれない。俺に関してはきっと色々言う人もいるだろうなと思った。
「ジェネラルは倒したんだよな?」
「もちろんよ。こっちもがんばったみたいね」
「死なないように必死だったよ」
ジルベルトさんも少なくないケガをしてるみたいだった。慌ててもってたポーションプラスを渡した。そこそこ数を減らしたとはいえまだ結構な数が残っていてこっちにも流れたはずだ。これくらいのケガですんで良かった。
「ありがとう、ユリト君。ポーラさん、ここはこんな状態ですがこれからどうしますか?」
「ここは任せるわ。私たちはこのまま奥まで行って片付けて来るわ。さすがにこれ以上戦わせるのは無理みたいだしね」
ポーラ姉さんが本格的に鎮圧にかかるようだ。俺はどうしようか? 一度町に戻ってポーションを作る材料をもらってくるべきかもしれない。
「それじゃ、グレン、ユリト君行くわよ」
「え? 俺もですか?」
「当然でしょ? おそらくキングは隠れてるはずだからシーフ技能必須なのよ。私達じゃ見つけられない可能性もあるもの」
「ポーラ姉さんの勘の良さならいけそうな気がするのですが……」
「それでもよ。ほら、行くわよ。ここはお願いね」
こうして俺は連れ出され、森の中を駆け回る事になった。
森をどんどん奥に進んでいって初めて気が付いたことがある。それはこの森の深さだ。今まで日帰りしかしなかったし、オーク肉を取に来るパーティも新人も森の浅い所しか入らない。だからこの森の深さをまったく知らなかったのだ。これだけ奥があったならそれはオークも大量にいるわけだ。
「まさかここまで森が広いとはね……。このまま抜けたら別の町についたりしないわよね?」
「可能性はある。たしかここから東の方にある町はオークの暴走が起きる町のはずだ」
「つまり2つの町に暴走の原因を供給してる場所がここになるわけね。1日じゃちょっと無理そうね」
「俺、泊りになっても大丈夫な道具なんて持ってきてないんですけど……」
「それは私が持ってるから大丈夫よ。周りへの警戒は必要だけどね」
「今までこんなに森が深いなんて聞いたことなかったけど、誰も調べなかったのかな?」
「調べてもお金になるわけではありません。それに調査費を出してまで調べようとする者もいなかったのでしょう」
「なるほど。でも、今回ここが原因だとわかれば奥地の討伐とか依頼でるようになるのかな?」
「無理じゃないかしら? 私達だからこの速度だけど普通のパーティならここに来るまでで1,2日かかるかわからないわよ? 移動速度の問題もあるし、戦闘時間もあるしね」
確かにそうだと思った。町の方に力を入れていた為か、今遭遇するのはほとんど単体で行動してる。そうすると2人があっという間に片付けてくれる。俺はついていくだけだ。本当に俺はいる必要があるのだろうかと思うけど、ここまで来てしまったらなついていかないと帰るに帰れない。このまま大人しくついていくのだった。それがまさかあんなことになるなんて思ってもなかった。
なにがあったのか? それはこの森の中を4日も走り回っていたのだ。キングが見つからずなんてことはない。2日目には見つけて倒した。だがその見つけた場所がまずかった。
オークの集落は聞いたことがあったがもう集落と言うよりも町という規模になっていたのだ。その中でも立派な建物に住んでたキングを忍び込んで倒し、ジェネラルも倒して回った。まさかキングが3匹もいるとは思ってもみなかった。どちらかと言えばキングとプリンスなのかもしれないが……。
これで食料はどうしてるのかと思ったら、穴から出てきたオークが出口にいたオークに殺されてた。派閥なのかなんなのかわからないが共食いしてるらしい。町中の強そうな気配を探って倒してる時は、人間に重ねてしまって少しこれでいいのかと思ったが、食べ物が出て来るから集まって増えてるだけで生産活動してる訳ではないとわかると気が楽になった。
「魔物に変に感情移入すると死ぬわよ」
ってポーラ姉さんの言葉はその通りだと思った。けっきょく強そうな気配を倒し終わった後で範囲魔法でまとめて町をボロボロにさせていた。最初からそうすればいいと思ったのだができるなら魔石の回収とレベルのためにやっておきたかったそうだ。ボロボロになった町の様子を見て少し胸がチクッとしたのは気のせいってことにしておきたい。
その後は帰ろうとしたら森の中にジェネラルがいた為に、帰る予定を変えて森の中を走り回って森の様子を確認していたのだ。ポーラ姉さんの手持ちの食料や森で集めた食料でもそろそろきついとようやく帰ってこれたのだった。
久しぶりに陣に戻って来た時はようやく戻って来たと思ったものだ。そして思い出した。何も言わずに森の中で何日も過ごしたのだ。父さんとかものすっごい心配してるんじゃないかと。
「ポーラ姉さん、父さん心配してるだろうから会いに行って来たいんだけど……」
「悪いけどもう少し待ってね。まずは陣の様子を確認してからね」
確かに陣の様子を確認してからの方がいいかもしれない。父さんもう少し待っててください。陣に戻ると見張りをしてた人がこちらを見つけて報告してるみたいだった。そりゃ主力の2人がいなくなって数日たってるから見つけたらすぐに報告するよね。
「おかえりなさい! どうでしたか!?」
「ただいま、キングも倒してきたから状況は改善されるはずよ。詳しい報告をしたいから主だった人を集めてもらいたいんだけど」
「わかりました! そう伝えてきます!」
この状況が終わると思ったのだろう。喜んで報告に行った。でも、少なくてもナイトクラスは森の奥にかなりの数いるって知ったらどうなることやら……。まぁこっちにまで出て来るかどうかはわからないけれどね。
「喜んでましたね」
「少なくとも今回はここで終わりでしょう。森の奥に関しては……私たちに回って来そうね……。すぐにどうこうって問題でもないはずだからしばらくはゆっくりさせてもらうけどね」
「付き合わされたこっちの身にもなってください……。もうおうちに帰りたいです」
「可愛く言ってもダメよ。最後の仕事が終わったらね」
しかし、俺が最後の報告についていくことはできなかった。理由は簡単だ。俺達の帰還を見張りをしている人が報告したのを父さんが聞いたのだ。その父さんが走ってきて俺をそのままさらっていき泣きながら説教された。その説教も突然終わり、父さんが倒れた。もうびっくりして慌てた俺だったが周りの人が止めた。どうやら俺が帰ってくるまでまともに寝ていられなかったそうだ。それなら仕方がないと寝床に運んだ。
そこで話が終わればよかったんだけど、そうも行かなかった。襲撃の前に警備隊や冒険者の何人かが森に入ったが誰も戻ってきてないと聞かされた。もちろん兄さんも帰ってきていないそうだ。マリーナ義姉さんの事どうするんだよ! って思った。
それを聞かされたあとは森の様子を聞かれたのだが、兄さんの事もあったし、ポーラ姉さん達の話し合いが終わってからじゃないと情報を流していいのかわからないからと断った。
こうして実に3か月以上に及ぶ大規模暴走はひとまずの幕が下りる事になった。しかしこれがまだまだ世界的に見て始まりでしかなかったのだと気が付くのはもっと後の事だった。
俺達は皆、傷つきながらもできることをやっていくしかなかった。
これにて第2章終了です。
お気づきだと思いますがかなり端折ってます。
真面目に書いてたら途中で挫折しそうだったので申し訳ないです。
第3章は来週の月曜から投稿します。
気分を入れ替えて……かけたらいいなぁ




