74 応援
予想された事とはいえ、俺への風当たりが強くなっていた。とはいえ、それは応援に来た冒険者達がほとんどで警備隊や後方支援してる人達には俺を守ってくれてた。そのせいで陣の中で分裂が起きそうになっているが、それをなんとかギルドの職員やポーラ姉さん達で抑えてた。
そうはいっても最初の頃にいたオークがほとんど出てこなくなった事と今の状況に嫌気がさして、陣を離れる冒険者も出てきていた。陣の警備要員が減る事で人員の構成を変更せざるを得なくなり、その変更によってさらに冒険者が離れる悪循環に陥りつつある。
現状森の奥まで行っているのは俺達だけだ。ナイト、メイジ、アーチャーの組み合わせにウォーリアーがぞろぞろと歩く森の中ではまともに行動できるパーティがいないのだ。マティスさん達も陣の防衛に集中しなければいけないような状態だ。さすがにこの状態はまずいとポーラ姉さんに出てもらえるように頼んできた。森の中に入る人間があまりいないため怪我人もでにくいのが後押ししてる。頼まれたポーラ姉さんの返事は、
「後、1週間この状態なら私も出る事にするわ。ここまで待っても来ないなら出るしかないでしょう」
1週間後というのは、俺達がナイトに遭遇してから2か月たった日になる。2か月もあって王都から応援が来ないのならポーラ姉さんが出るということが決まった。
そんな話し合いがあったからというわけではないだろうが、それから4日後に王都から多くの冒険者がやってきた。少し期待してたのだが、アーサー君やミリーやカイルたちはいなかった。それなのに見たくもないバカの姿はあった。
「おいおい、雑魚のユリトちゃんがこんなところでなにやってるんだ? 食事係でもやってるのか?」
あざけるように嫌な笑い顔でそんなことを言ってくるがそれに構ってあげる暇はないのだ。
「呼ばれてるんだ。邪魔するな」
「んだとてめぇ!」
俺に掴みかかって来るけどさらりと避けて行く。こんなやつに時間をとられてる時間はない。王都からやってきた上位の冒険者に顔を見せるためにジルベルトさんに呼ばれているのだ。本来こういう仕事はタブスさんの管轄のはずなんだけど、警備をしてくれる冒険者達に色々と指示をだしたりして忙しいらしい。それはタブスさんの仕事なのだろうかと疑問に思う。
「待てって言ってんだよ! この、避けるな!」
ポーラ姉さんから回避訓練は徹底的にされているのだ。この程度なら見なくても、後ろからでもまったく問題なく避けられる。次第にエスカレートしてきて剣まで抜いて攻撃してきてるけどその程度の攻撃が俺に当たる訳がない。
……こうして見ると本当に強くなったなぁと実感する。最大火力の魔力消費量が問題あるけど、ここ最近のレベルがいくつも上がってるのでそれも緩和されてきてる。俺のシーフ技能とグレンさんの戦力で戦果はとんでもないことになってるのだ。それでも、終わりが見えないのだからいったいどれだけ潜んでいる事やら。
「舐めやがって……。なんで、当たらないんだよぉ!!!」
「攻撃が単調だし、遅いからだろ? これくらい余裕ではあるけど鬱陶しいからやめてくれない?」
「ふざけんな! 雑魚のくせに!」
どうやら煽ってしまったみたいだ。それにしてもこれだけ攻撃を苦も無く避けられてるのにまだ雑魚扱いって……。それよりも周りも止めてほしい。見世物じゃないんだけどねぇ。そんなことを思っているとテントの前で待っててくれたジルベルトさんが一気に距離を詰めてきた。俺はすっとバカとの間の道を空ける。ガチン! と金属音が聞こえた。
「ロブ! 何をやってるんだ!」
「ジ、ジルベルトさん。そいつがあんまりにも生意気だったんで……」
「だからって武器を使うとは何事だ! しかもあれだけ避けられてるのに実力差もわからないのか!」
「で、でも、そいつ剣がまったく使えない雑魚ですよ! 避けるのがちょっとうまくなったからって調子に乗ってるんですよ!」
「剣の腕だけがすべてじゃないだろ。ユリト君は重要な戦力だ。ケガの1つでも負わせたら、いやこれだけの事をしたんだ。懲罰は覚悟してもらう」
「ま、待ってください!」
「うるさい! そこのえーと、エリトスだったか? こいつを警備隊に引き渡してくれ。ユリト君に襲い掛かったと言っておけばいい」
「わ、わかりました。ほら行くぞ」
「ジルベルトさん! 待って。くそ、ユリトてめぇぜってぇ許さねえぞ!!」
そんな事を口にしたバカは、連れて行ったエリトスさんにげんこつくらってた。ジルベルトさんはため息をついてた。
「あいつは自分より弱い人間に対しての態度が問題で何度も何度も言って聞かせたんだがな……」
「あのバカと知り合いだったんですね」
「あのバカって……、まぁ同じ大型パーティに所属して色々指導したからな。性格があんなんじゃなくて、ちゃんと努力すればそれなりに強くはなれるのだが……」
「それが出来てれば苦労しないですけどね……。それで中で皆さん待ってるんですか?」
「あぁ、色々言われると思うが、グレン殿いるしどうにかなるだろ」
ジルベルトさんにそう言われてなんとかなると思ってた時期が俺にもありました。
そこにいたのはAランクパーティ2つとBランク3つだったのだが、Aの1人とBの2人が俺が森に入るのは不適合でグレンさんに寄生してる。だから、別々に行動するべきだと主張してきた。その主張の裏で、俺達と一緒に組んでくれという思惑が見え見えすぎた。こちらの意見をまともに聞いてくれるのはもう1人のAの人だけだった。残りの人はめんどくさい、そんなの知らないって感じだった。グレンさんが言っても聞かない。むしろグレンさんが言えば言うほどごますりがひどくなった。
「話になりません。皆様少々おまちください」
そういってグレンさんがどこかに行ってしまった。そうなると今度は俺への罵詈雑言が始まった。なんでこんな頭悪そうなのがランク高いのだろうかと思ってしまった。そのせいでため息までついてしまったために、それが気に入らなくて殴り掛かって来る人がいる始末。集中しなきゃいけないとはいえポーラ姉さんほどじゃないので避けられる。あっけにとられてないで助けてくれないかなぁと思うのは当然だと思う。ジルベルトさんが抑えてくれて助かったけど、この程度でBランクなのだろうか?
「ジルベルトさん、この人ってBランクなんですよね? ジルベルトさんと比べるとあまりにも弱いんですけど……」
「俺は一応Aランクの基準を最低限満たしてる冒険者だぞ。同じBランクなら俺の方が強いさ」
「話を聞いてお姉さん参上よ! 何してるの? もしかしてユリト君に手を出そうとしたの? こいつ森に放り出しましょうか」
ジルベルトさんと話してたら、ポーラ姉さんを伴ってグレンさんが戻ってきた。状況を正確に見抜くとはさすが元Sランク。
「ポーラ姉さんさすがにそれはまずいから」
「そう、とりあえず話の分からないバカはどいつかしら? シーフとして優秀でナイトも倒せるユリト君がグレンと組むのがふさわしくないとかいうのはどれ? 文句があるなら今言いなさい。そもそも私たちは協力者であって冒険者でもなんでもないの。自分たちだけでなにもできないなら大人しく防衛やってなさい」
グレンさんもそれなりの威圧を放ってはいたけど、スタイルの違いもあるのか威圧の出し入れが苦手っぽいので、十分に怖いのだけど実力ある人たちには通用しなかったのだろう。しかし、ポーラ姉さんは違う。この手の事はお手の物だ。全開の威圧を受けてびびって腰抜かしてる。唯一意見を聞いてくれたAの人だけ大丈夫そうだけど、それでもがんばってる様子が見て取れる。
外で誰かが倒れる音が聞こえたのでやばいなぁとは思いつつ、嵐が去るのを待つ。ちなみに俺もこんなものをまともに浴びたら全力で逃げる。だけど今はプロテクションを全方向に展開する事で防いでいる。
防御力なく、妨害魔法になりかかってたプロテクションだが、こういう攻撃力を伴わない威圧や殺気、精神系魔法には効果があることが最近分かった。そのおかげで俺に届く頃にはだいぶ弱くなってるのでこの場に居続ける事ができるのだ。
あの状況から文句を言えるはずもなく、俺はそのままグレンさんと組んで森に挑むのだった。
ただ人が増えると言う事は色々な問題も起きる。その行動が自分自身の命を危険に晒す物だとしても自らの実力を勘違いして走り出すのだ。
功を立てる為に、新たにやってきた冒険者が、本来人を守る事を主目的とするはずの警備隊員の一部が指示を無視して森に入ってしまったのだった。




