69 採取しましょ
その感覚にまずいと思った時にはもう遅く、思いっきり足を滑らせて転がり木にぶつかった。意識を失わなかったのは身体強化してあったおかげだろうか? ただ、1度集中が解けるとその反動が来るのか動けなかった。いや、もしかしたら木にぶつかった衝撃で動けないのかもしれない。とにかく動けない事だけは確かだった。
「ユリト君、大丈夫?」
「動けない……です。あ、しゃべれた」
なんとかしゃべることはできるみたいだった。それによって体の状態がさらに変化する。今まで無視してた疲れが急激に襲って来たのだ。
「あ、これ無理」
そうつぶやくと意識が遠のいていった。
気が付くと頭の後ろはなにやら暖かく、すぐ横には人がいた。つまりひざまくらされてた。
「えっと……あの、お手数おかけしました?」
「気が付いたのね。それにしても急に気絶するんですもの。びっくりしたわ」
「すみません……。色々集中してたら疲れとかそういうの無視してまして……」
「そう……。その感覚ちょっと教えてもらっていいかしら?」
教えてと言われたので、さっきのひたすら追いかけるだけでいい感覚とか、それ以外は身体強化に気功、魔力吸収をどうにかしようと必死だった事とかを話した。
「なるほどね……。よくここまで生きていられたわね」
「そんな事言われるほどひどい事してました?」
「疲れを無視して行動できる極端な集中力なんて、危険な物に決まってるでしょ。ある程度なら成長の為に必要だと思うけど完全に無視できるとか想像もしてなかったわよ」
実は危険なものらしい。昔からたまにある感覚なので全然そんな風に思ったことはなかった。よく考えれば魔力切れでよく倒れてた訳だし疲れ以外に魔力も案外、集中しすぎて自分の状態に気が付いてなかったのかもしれない。
「これ、下手な人に教わってたら死んでたかもしれないわね。私も調子に乗り過ぎたからこれから気を付けるわ」
「えっとお願いします? それでいつまでこうしてればいいのでしょうか?」
「起き上がれるなら起き上がっていいけど、できるの?」
とりあえず起き上がってみるとそのまま普通に立てた。そういえば倒れて寝込んだ後って多少意識がボーっとすることはあっても起き上がりに苦労した記憶はさほどない気がする。
「いったいどんな体してるのよ……。それほど長い時間眠ってたわけでもないのに……。どれくらい動けそうかわかる?」
「少し待っててくださいね」
魔力量を確認して、体を軽く動かして今の状態を把握する。身体強化と気功もどれくらい一緒に使えるか確かめてみる。
「あ」
「何かあった?」
「いえ、身体強化と気功が両方とも9割以上でも動けるみたいだなぁって思って。今まで7割から8割って感じだったのになぁ。でも、やってもそんなに長時間できないとは思いますけど」
「身体強化の維持はもの好きの趣味って言われるくらいのものをここまで使いこなして、気功も使えるんだからこそついて来れたのよね……。私は気功覚えてから同じことやろうとして両方を全力で出来るようになるまで10年はかかったわよ」
「あはははは……。それにしてもここどこですか? 森の中だとしても生き物の気配が全然しないですし、もう帰りますか?」
そう、さっきからのんびり話をしてる原因は俺の状態がわからないというのもあるけど、生き物の気配がまったくしないのだ。どうなっているのだろうか?
「気配がしないのは私が魔力をまいてるから怖がって逃げてるのよ。そろそろ魔力草が生えてるはずだから少しくらいは採取していきたいわね」
「え? そんな奥まで来てるんですか? 俺が寝てたって言ってもまだ時間の余裕ありそうな気がするんでそこまで奥まで来てるなんて思えないんですけど……」
「それだけ移動速度が異常だったのよ。歩けるなら行くわよ。ここからは探しながらだから帰りの為に力温存しておきなさい」
「わかりました」
ここに来るまでに力を使い果たしてしまったのは誰のせいだろうかとか思ったが口にしてはいけないと思い飲み込んだ。魔力草だから気配察知じゃ見つけられないよね。探知とか使ったら見つかるのかな? さすがに魔力があるとはいえ草は無理か、それに力を温存とも言ってるしね。あぁでも……。
「ポーラ姉さん。探知使ってもいいですか?」
「理由は?」
「魔力草の魔力って独特なんでもしかしたら見つかるかなぁって思って」
「それで見つかれば探すのに苦労しないでしょうに……。でもまぁ、やりたいならやってみなさい」
「ありがとうございます!」
そんな訳でお久しぶりの探知を発動させてみる。久しぶりで情報の管理がおかしくなってるのを修正する。昔見た事のある魔力草を思い浮かべて探してみると、それっぽい反応が奥の方にチラホラ感じた。って感じられるじゃないですか! 探知使いっぱなしだと魔力が微々たるものだけど減るので、気配察知の方も意識して使う。2つの情報を混ぜ合わせて気配察知の方で、さっき見つけた魔力草と思われるもののある場所をチェックしておく。
何気なくやったけど、こんな事もできるのかと驚きつつ、ポーラ姉さんに結果報告だ。
「なんとなく引っかかったんでそっちに行ってみてもいいですか?」
「本当にそうかどうかもわからないし、どこにあるかもわからないから行ってみましょうか」
実際に分かったとは思ってないよなぁと思った。でも、俺だって自信はないんだ。どうせ探すならやってみようくらいなものだし、失敗なら失敗でさっき感じたのはなんだったか確認できるからいいと思って、さっき反応があった場所に向かうのであった。
「色々と規格外の子だとは思っていたけどここまでとはね……」
呆れたようにポーラ姉さんが言う視線の先には魔力草が生えていた。さっきの反応通りの場所だ。これで見つける事ができると判明した。後はここに来るまでの魔力の確保だけど、それはこの魔力草でマジックポーション作ればなんとかなると……いいなぁ。
「見つかったからいいじゃないですか。それじゃ採取しちゃいますね」
魔力草の採取はただ採ればいいという訳じゃない。質の良い物を持って帰ろうとするならそれなりの準備が必要になる。魔力草は独特の魔力を持っており、この魔力のおかげでマジックポーションを作る事ができる。だけど、それは土から離れると魔力を放出し始めて2日もすると使い物にならなくなる。
土ごと持ち帰ろうとしても多少はマシになるもののやはり魔力の放出は多い。それにそうやって持って帰って来てしまうと、次を見つけるのが大変になってしまう。しかも栽培不可能だとされている。
それではどうやって採取し持ち帰るのか? まず採取は15cmほどの高さのある魔力草の半分くらいを切る。この時に魔力をまとってる物で切らないといけない。この後は色々方法がある。もっともいい方法はマジックポーションに切り口を浸しながら持ち帰る方法だ。これだとかなりいい状態で持って帰ってこれる。後は魔力水の中に沈めるや、布に魔力水を浸しておいて持って帰って来るなどだ。
さて、今回はまったく準備してないのでどうするかと言えば、クロノバックを使う。入れればそのままの状態が維持されるのだから特にすることもない。便利である。しかも入る限りとってもいいのだ! 本当に便利な物をいただきました。ありがたい限りです。
クロノバックを用意して、マジックナックルを威力最弱で手にまとわせる。全部を抜いてしまわないようにしっかりと下の方をおさえて、ブチッとちぎる。ちぎったらすぐにクロノバックに入れて終了である。今までは桶に魔力水入れて空間収納に入れておいてもって帰ろとか思ってたのにすっごい楽だ。
「豪快に言ったわね……。普通ならそれダメだと思うのだけど、薄っすらと手に魔力纏ってるからいけるのね」
「そうですね。これでマジックポーション作れればいいんですけどね。じっくり観察してる暇もありませんしね。次に行きましょうか? できる限り採取して帰りたいです」
「そうね。まかせるわ」
ポーラ姉さんはなんか疲れたみたいな顔をしてた。いったいなんでだろうか? 俺は意気揚々と次をめざしどんどん採取していく。それはクロノバックがいっぱいになるまで続いた。
「ユリト君、町についたわよ」
魔力草を大量に採取できホクホクだったが帰りがあった。今度は抑え気味で走ってくれたおかげで倒れる事なく町にたどり着くことができた。あくまで町にたどり着いただけである。
「ポーラ、姉さん……。これ、以上は……。はぁはぁはぁ……」
ご覧の有様である。気功使っても体力が追い付かないとは……。なんとか町の中に入ったのはいいけどそこで力尽きた。意識もあるしある程度は大丈夫だとは思うけど動きたくない。
「今日はよくがんばったと思うわよ。私が背負ってあげるからちょっとだけがんばって背中に乗ってちょうだい」
「うぅ……が、がんばります」
気合と根性を入れてポーラ姉さんの背中に乗る。門の付近でやったこともあって後日エレナさんに問い詰められたのは言うまでもない。
そろそろ更新があやしいです。出来るだけがんばろうと思いますが、できなくてもご容赦いただけますようお願い申し上げます。




