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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
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66 予定のある日はしっかり起きましょう

 俺は領主館からみんなを見送った。本来なら俺が出入りできる場所じゃないんだけど、騎士さんに連れてきてもらって入る事ができている。

 出発時間に合わせて少し前に来たわけだけど、なんかバタバタしてて挨拶どころじゃなかった。それでもソフィーとは軽く挨拶できたんだけど、


「お師匠様! おはようございますです」


「おはよう。なんかバタバタしてるけどどうしたの?」


「レーリック様が寝坊して、挨拶したりされたりするのがずれ込んでしまったです。それ以外にも色々ありましたです……」


「そ、そっか大変だね……。これからはもっと大変だと思うけどがんばってね」


「はいです!」


「ソフィア様! もう出ますのでこちらへ!」


「は、はいです! それではお師匠様、短い間ですけど本当に本当にありがとうございましたです!」


 こんな感じでの見送りだった。けっきょくソフィー以外は手を振ったりする程度しかできなかった。バタバタしてたおかげでしんみりした雰囲気になったりしなかった訳だけどそこまでレーリックおじさんが考えていたとは思えなかった。

 むしろちゃんと挨拶したかった。もうよほどの事がない限り会えないはずだしね……。





 しばらく一緒に暮らすことになった騎士の人は男2人だった。2人ともいい人でアルムさんは家事全般をこなしてくれるらしい。そこまでしなくてもと言っても趣味だからと言われて好きにしてもらうことにした。

 ザムさんは一緒に行動するらしいが、冒険者の仕事の時は遠慮してもらう事にした。オーク狩りに行く時は移動速度の関係でいられると困るしね。


 そんなある日の事オーク狩りから家に帰って来たら声をかけられた。


「ユリト君、魔石の納品に来てたから受け取っておいたけどどうすればいい? 一応錬金部屋にはおいておいたけど」


「そういえば契約はそのままだったっけ……。ありがとうございます。考えてみますね」


 そう言って俺は錬金部屋に向かった。そして机の上に置いてあるゴブリンの魔石。


「ソフィーが使う魔力水用だった訳だし、もう必要ないんだよね」


 ちょっとしんみりした気持ちになった。ソフィー達がいなくなって寂しくなるかなって思ってたけど、騎士の2人が予想以上にいい人なので楽しく暮らさせてもらってる。

 それでも前とは違うのでふと思い出してしんみりした気持ちになる。俺はゴブリンの魔石を2つ手に取りコロコロ転がす。コロコロコロコロコロコロ……。


「ん? 錬金?」


 なんか妙な感覚になって錬金とつぶやいてしまう。2つの魔石は錬金術が発動して1つの魔石になってしまった。


「はい? え? なんで?」


 錬金術師としての勘がまったく動いた事のない魔石で錬金できた事で混乱した。とりあえずできたものを眺めてると無性に持ってる剣を素材にしたくなった。

 しかしそれはいけない。何せあれは父さんからもらった大切な物なのだ。そうとなれば善は急げ。アルムさんに挨拶して武器屋に走り剣を1本買ってきた。家に帰るとザムさんが、


「町中ならお供につれてけよー」


 とか拗ねてたけど、そんなのを気にしてる場合じゃない。俺は錬金部屋に飛び込んでさっきの魔石と剣を机の上に並べる。

 何事かと思った2人も見学に来るがそれに構っていられる余裕はない。何をこんなに急いでいるんだろうと自分でも思う。焦ってるというよりは、楽しみで仕方がない! って感じだけどね。


「錬金開始」


 出来上がった物は手のひらくらいの大きさの何かだった。なんだこれ? 観察してみれば浮かんでくるかなぁなんて思ってたら、


「これ銃か? だいぶちっさいみたいだけど」


「ザムさん知ってるの?」


「昔の勇者様が作ろうとして失敗した武器だな。王都の勇者博物館に設計図が展示されてるんだ。ただ、加工するのが大変だとか魔法でいいじゃんって事でそのまんま歴史資料扱いだな」


「そうなんだ」


 そんな話をしてる間もずっと銃を観察してる。とりあえず使ってみようか。鉄のインゴットの残りも置きっぱなしだし……。

 そんな訳で鉄のインゴットに的にして銃を構える。右手でグリップを握ってトリガーに指をかける。左手は右手を包み込むように前からギュッと握り1mほど離したインゴットを狙い……撃つ!

 撃った音も着弾した音も何も聞こえないでちょっと焦る。固唾をのんで見守っていた2人にも困惑してるようだ。

 何度か撃ってみる。確かに何か出てるのはわかるんだけど効果が見られない。


「ん~……失敗作か?」


 ザムさんの言う事ももっともだと思う。しっかり握るのもバカらしくなり右手だけで持って左手を撃ってみた。


「うわ……」


 当たった時に思わずそんな声が出た。いやだってこれ……。


「ユキト君! 自分の手を撃ったりして何してるの!? 大丈夫!?」


「大丈夫です。子供が蹴ったボールを手で受け止めた方がよっぽど痛いです」


「おいおい、それって……」


「現状ものすっごい弱い魔力弾を撃ちだすだけみたいですね」


 この結果を見て2人は出て行った。現状では武器にすらならない武器、それがこの銃、デリンジャーだ。……ゴブリンの魔石からできたからゴブリンジャーとか思ったけどやめておこう。


 このままじゃ使い物にならないけど、なんかものすごくしっくりくる。今まで武器を持っても感じた事のない感覚だ。もしかして銃が適性のある武器ですか? 今まで失敗作しか存在してない武器に適性があるとかどういう事なの? 正確に言えばこれを本当に銃と呼んでいいのかも微妙なんだけどね。魔法撃ちだす物もはたして銃でいいのだろうか?

 

 でも、観察結果強くする方法は浮かんでいた。魔石をさらに追加すればいいのだ。追加すればいいんだけど……錬金した魔石を作る熟練度が足りない。ゴブリンの魔石なのでかき集めれば集められそうだけど、他にもやることがある……。契約そのままにしておいてチマチマやっていこうと思う。

 今のままじゃできないけど、オークの魔石でも集めておけばいずれできるようになるかな? 

 スライムの核は未だに次に何ができるかわからないし……数が足りない事だけはわかってるんだけど今でもけっこうな数集まってるんだけど、どれだけ必要になるのか……。


 後日、アレックさんに報告しておいた。今のところ弱いとはいえ武器だ。どういう扱いになるかはわからないけど、ソフィーの役に立つといいなと思った。

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