65 約束とは
褒美やら謝罪やらと言われても俺はけっきょく特に浮かばなかった。仕方がないと質疑応答形式で俺からなんとか情報を引き出した結果。
「この家の購入代金の肩代わり、それと使用人の配置ですか……。家の仕事してくれる人がほしいのは確かですけど、そこまでしてくれるんですか? 継続的にお金かかりますけど」
「そこまでというが必要な処置だと思うぞ? ユリト君の知り合いを思い浮かべてみるがいい。人脈がとんでもないことになってると思わんか?」
少し考えてみる。アレックさんが実は王族で……。その父親が目の前にいて、ミュースさんは第3王子の近くにいて、ソフィーは貴族で、あれ? 今は違うのか? まぁいっか。そう考えると……。
「なんで王都から離れたこの町でこんなに王族との繋がりができるのか不思議で仕方がありません」
「王都にいたところで、平民が王族と仲良くなるなど本来ありえないからな。そう考えればユリト君。君が思ってる以上に重要人物であり護衛をつけておく必要もあると思わないかい? それにこれからソフィアがギフト錬金術の有用性を証明すれば、それは自然と君にも向くはずだ。でも、大丈夫だ。私が飛び切りの使用人を用意するさ」
「それはそれで高額になりそうですし、そんな人材を俺に使うのはどうかと思うのですが……」
「それでもいいという人物を選ぶから大丈夫だ。アレックみたいな人間は案外いるものだよ」
この話に関してはもうこれ以上何を言っても無駄だと思った。俺としてもこの家を1人で管理できるとは思っていないし、誰か雇わないといけないかなぁとは思っていたのだ。
けっきょくアレックさんは追加人員用意できなかった訳だし、今の状況だとこの家で働くことは危険な事かもしれない。だったらもうレーリックおじさんに任せてしまえばなんとかしてくれるだろうと思う。
「わかりました。よろしくお願いします」
「任された。では、私の用事はこれまでなので帰らせてもらうかな。スコット行くぞ。挑戦者はソフィア達の準備ができたら馬車を呼びに来てくれ。あぁ、それと昨日はすっかり忘れてたが、使用人が来るまで騎士を2人ほど貸しておくからそのつもりで」
「騎士をってちょっと待ってくださいよ! どうすればいいんですか!?」
「何、自分の事は自分でできる連中だから大丈夫だ。経費ももたせるしな」
「そろそろサボってた冒険者の仕事しないといけないんですけど……」
「したらいいじゃないか。連れて行くも置いていくも自由だぞ」
「それ護衛の意味ないですよね!?」
「手を出したらわかってるだろうな? って威圧だから気にするな。それではな」
レーリックおじさんはそのまま去って行った。さらりと押し付けられた。いやしかしこれは必要な処置だと思いたい。
「レーリックおじさんはここに来るまでの間もあんな調子だったのか?」
「魔物が近寄ってくると真っ先に魔法ぶっ放してたな」
「それでいいのか……」
カイトの答えにもう呆れるしかなかった。たぶん冒険者としてかなり強かったと思う……。ってちょっと待て王様やる前の話だろ? だからって今も強いとは限らない訳で……。弱かったらこんな事できないか……。
「いいんじゃない? だって騎士の人がなーんにもいわないもん。それよりおひさーユリっち」
「久しぶりロッドス。その呼び方も懐かしいよ」
「ユリト久しぶりー」
「久しぶりアルトル」
「ユリトやっほー」
「ルル、久しぶりのあいさつでそれはないだろ……」
「でも昨日も会ってるしね」
「ルルの言い分もわからんでもないんだけどさ……」
そんな訳で、これで友人達としっかりとした再会の挨拶がようやくできた訳だった。だった訳だけど……。
「それじゃさっそく模擬戦しようぜ!」
「やだ」
カイトが模擬戦をやりたがりだした。だが速攻で拒否した。模擬戦怖いです。
「ちょ!? 今度会った時にボコボコにしてやるって言っただろ! 模擬戦しなきゃできないじゃん」
「マティスさんに模擬戦やろうぜって誘われてやってな……。人ってこんなに飛べるんだって実感して、気がついたら1日たってた。下手したら死んでたよ。なんて治癒院の人に言われてなぁ。それ以後対人戦は怖いからやりたくないのだよ」
「情けない事いうなよ! やろうぜ!」
「今のカイトからはその時のマティスさんに似たものを感じるから絶対にやだよ! そもそもお前、学校にいた時もルール無視して突っ込んできたじゃん! 今あんなことされたら死ぬっての! Eランク冒険者なめんな! Cランクなんぞに勝てるか!」
「ユリト君がすがすがしいほど情けない事言ってますね。ちなみに今の戦い方を聞いてもいい?」
「基本はオーク相手にしてて、森の中を隠れながら移動して1撃で戦闘不能。もう1撃いれてしっかり殺すって感じかな」
「その戦い方でカイトと正面から戦うのは無理がありそうね。カイト諦めた方がいいと思うけど?」
「男には引けない時がある。覚悟! ぐべら」
飛びかかって来そうだったのでプロテクション展開して転ばせて、背中に2本十字に展開させて動きを封じてみた。
「な、なんだこれ? 起き上がれないんですけど!?」
「いきなり飛びかかってこようとするからだろ? しばらくそうしてろって言いたいけど魔力が無くなりそうで怖いからここまでね」
「お? 起き上がれた。なんだったんだ今の?」
突然起き上がれなくなれば疑問に思うのも当然だろう。仕方がないので解説してあげる。
「プロテクションを小さくして足元に出して転ばせて、転んだところで背中に2枚十字になるように展開して起き上がるのを阻害してた」
「ユリトの魔法の使い方は面白いよねー。そういう発想も大事かなぁって思うけどなかなかできないやー」
「アルトルは普通に魔法使いできるんだからこういうの必要ないだろ? それともそれでも必要なのか?」
「創意工夫は必要だよー。そういうところから崩せるかもしれないしねー」
強い魔法覚えられるならそれをぶっ放せばいいというのが魔法使いの基本だ。それでも、創意工夫が必要というアルトルはすごいね。俺の場合やらなきゃどうしようもないしな。
そんな話をしていたら、シーラが戻ってきて、
「荷物の準備が整いましたので、馬車を呼びに行ってもらってもよろしいですか?」
「わかりました。ルルよろしくね」
「任された! それじゃ行ってくるね」
あらかじめ決めてあったようでさっさとルルが呼びに出かけて行った。それから馬車が来るまでお互いに今までの事を報告しあったのであった。
それにしてもなんでまた領主館に行くんだろう? 日程の確認程度ならもう終わってるはずだし……。
向こうについてからの打ち合わせだとしても王都まで早くても3週間かかるはずなんだけどなぁ。




