62 肩書きを聞いても態度がそう見えないと理解できない
「びっくりしてくれたかな? けっこうけっこうハハハ!」
微妙な表情をしていたアレックさんの後ろからがたいのいいおじさんが出てきた。この人が首謀者? なんでこんな事を?
「父上……。彼は平民なのですよ。自重していただきたいです」
アレックさんがおじさんのことを父上と呼んだ。あれ? アレックさんって前の王様の子供だよね? えっと……、え?
「わしが先代国王レーリックだ。もうじき元国王になる予定だがな!」
こういう時どういった反応をすればいいのかさっぱりわからずにキョロキョロしてしまった。後ろにいたソフィーとシーラはすでに膝をついてた。あれ? もしかして最初から気が付いてました?
「ハハハ! お主はなかなか面白いな。後ろの子らは普通だな。先代とはいえ国王の前で立ったままというのは不敬だとは思わないのか?」
そんな事を言いつつもニカっと笑う顔ではどうしていいのかわからない。これが睨まれたり迫力ある顔で迫られれば申し訳ございません! って土下座でもなんでもするんですけどね。
「もういっぱいいっぱいでどうしていいのかわからないんですけど……。それよりもうじき元国王になる予定とかって言っていいんですか?」
そうすると、目をパチパチとするレーリック先代国王様。周りからの視線はどことなく、この子はどこに突っ込んでいるんだろう。と言ってる気がする。
「フハハハハハ! 本当に面白いなアレック! お前が気に入る訳だ」
「私も聞き逃しましたが、さすがに国の一大事をさらりとここで話すのはやめてください。ユリト君が面白い子というのは否定しませんが」
「えっと、その……。とりあえず上がりますか? いつまでも玄関で立ち話というのも失礼でしょうし……」
「そうだな。上がらせてもらおうか。ここで靴を脱ぐのだったな。わしもこういう和風の家は好みで住みたいのだがなぁ」
「警備面を考えてください。それとも王宮内にでも作るつもりですか? それと上がるのはいいですが警備の者たちへの命令をお願いします」
アレックさんの普段と違う一面を見た気がするけど、レーリック先代国王様が無頓着すぎる気がする。
「おぉ、そうだったな。では手筈通りに動いてくれ。スコットと挑戦者の皆は必ずついてくるように」
なんかものすごい聞き覚えのある名前と、聞かされた事のあるパーティ名が聞こえたような気がしたけど、とりあえずはこっちのやる事をやらないとね
「シーラ、準備を。ソフィーはお客様をリビングに案内よろしく」
「「は、はい」」
俺はスリッパを用意するけど確実に数が足りない。護衛の方には我慢してもらおう。
レーリック先代国王様とアレックさんが中に入り、護衛の方々が靴を脱ぐのに手間取ってる。慌てて脱いで追いかけていく。普通は任務中に靴脱ぐことになるとか考えてないよね。
スコットさんも俺を見て目で挨拶すると急いで追いかけて行った。やっぱり元守護者のスコットさんでした。
「よーユリト久しぶり!」
「カイト……久しぶりだけど、護衛対象が行っちゃったぞ。仕事しろ仕事」
「ユリト君の言う通り。ほら行くよ」
「でも、場所わからんぞ」
「はぁ、ほら案内するからさっさと靴を脱いでくれ」
パーティ挑戦者、見送った同級生達だ。俺を迎えに来たって事で選ばれたのかな?
「全員脱いだな。それじゃ行くよ」
思わぬ再会ではあったけど、仕事中じゃ無駄話する訳にもいかないしね。俺はリビングに案内した。そうすると席について寛ぐレーリック先代国王様がいた。他人の家なのに1番寛いでるな……。
「おぉユリト! お主はわかっているな! 地方に来ると変な和風を目にすることが多いのだが、この家は違和感がない。そして緑茶! わかっている。本当にわかっているな!」
なんかおいしそうに緑茶飲んでる。この人は何をしに来たのだろうか? というかアレックさんとレーリック先代国王様以外はみんな立ってるけど座ってはいけないのだろうか?
「ありがとうございます? えっと、アレックさんこの後はどうすればいいのでしょう? 座ってもいいの?」
「あぁ、そうだね。父上、席を勧めていただかないと」
「ん? おぉ? 自分の家なんだから好きにすればいいと思うぞ」
なんとも適当な返事だ。大丈夫なのだろうか? いや、もう隠居してるはずだしいいのかな?
「えっとそれじゃあ座りますね。ほら、ソフィーも」
「は、はい!」
あれ? ソフィーがですつけてない。今回だけか? それともつけないでも話せるのかな?
「そんなに緊張する事はないぞ? 話の分からん頭の固い奴は今回1人も連れてきてないからな。わしの信頼している者たちとユリト君の知り合いだ。気にする必要はない。そういえば再会の挨拶もちゃんとするべきだな。ほれ、スコットからするといい」
本当にこのおじさん何しに来たんだ? 最初からアレだったから偉い人って意識できないんだけど、どんどん俺の中の評価がただのおっさんになって来た。そういえば何歳なんだろ? スコットさんはまわりを見てから1度確認をとってから挨拶してくれた。
「久しぶりだね、ユリト君。色々あって今はこうして騎士の1人として働かせてもらっているよ」
「お久しぶりです、スコットさん。ミリアさんとの結婚おめでとうございます。ミリアさんとミュースさんは元気ですか?」
「ありがとう。ミリアは元気だよ。ユリト君に会うと話したらよろしく言っておいてほしいと言ってたよ。ミュースについてはいる場所が違うからわからないかな」
「そうですか」
「次は挑戦者だな」
ミュースさんの事を聞いたせいでちょっと空気が悪くなったかなと思うけど、それを察してかレーリック先代国王様が声をかける。
「では、私が代表しまして。久しぶり、ユリト君。こうしてみんな無事に仕事してるわ。ランクも最近Cに上がったのよ」
「久しぶり、ミリー。1年ちょっとでCランクか。がんばってるね。俺としてはみんなが無事な事が嬉しいよ」
「挨拶はその程度でよいかな? 後日また時間をとるから安心してくれ。それでは本題に入ろうか」
ようやく本題に入るようだ。ここから気合を入れないと……。俺はこの町で生きていきたいんだ。ちゃんと伝えよう。レーリック先代国王様も何やら気合を入れてるのか深呼吸してる。俺はともかくどうして向こうが気合入れる必要があるんだ?
「孫が迷惑をかけた! 息子もバカだった! すまん!」
「……え?」
謝られた。先代国王様に謝られた。あれ? 本題って俺を連れて行くからって事じゃないの? あれあれ?
「父上、とりあえず頭をあげてください。ユリト君が混乱してます。今回来たのはユリト君を迎えに来たのでしょ? その為に本題と言われて構えていたところに謝罪されて混乱してますよ」
「む、おぉ確かに面白い顔をしておるな。迎えに来たのは確かだが、そんな事よりこっちの方が大事だと思うのだがな。立場を超えて愛し合っているならまだしも、一方的にというのはいかん。とりあえずオレストは殴った。アドニスも王を引いたら殴る」
「ちなみに、オレストが例の第3王子で、アドニスが現在の国王だよ」
アレックさんが補足してくれるけど、殴るって……。なんというか目の前の人が本当に王様だったのかと疑問に思う俺はきっと間違ってない。
「オレストがやった事は許せることではないが、アドニスが止めておればなんとでもなった。それを止めもせずに追認するなど……。もっとまともな教育係がいなかったのかと悔やまれる。本当にすまなかったな」
「いえ、どんな育て方されても親の思い通りに育たないのが子供ですし、レーリック先代国王様が謝られる事ではないですから」
「そんな他人行儀な。レーリックおじさんと気軽に呼んでいいのだぞ。アレックはアレックさんと呼んでいるのだから気にすることはない」
「はぁ、じゃぁレーリックおじさんが謝る事じゃないと思うから気にしないでください。こういう所は似てるんですね。アレックさん」
「この父に似てると言われるのは微妙だ」
俺の発言を聞いて頭を抱えてたり、笑うのをこらえてたりしてる人が多数。王の威厳みたいなもの見せてもらってないからどうしてもねぇ?
「うんうん、いい。本当にいいなアレック。この子はいい。物怖じしないな。まだ言葉遣いが固いのがちと残念だがな」
「レーリックおじさんが威厳ある態度とってくれれば、こんな風にはできないですよ。でも、そういうの完全に抑えてるし、もうただのおじさんにしか見えないだけです」
「ただのおじさんか……。いいな! よしユリト君。私と一緒に王都に行こう!」
「お断りします」
流れるようにさらりと誘われたので速攻で断った。騎士の人らの何人かが思わずふいた。なるほど、確かにおじさんが信頼してる人達だね。頭が固い人じゃやってられない職場だろう。
「まぁ、断られるよな。アレックからの連絡もそうなってたし……。本当ならそれじゃあ仕方がないなぁで帰りたいのだが、頭の固い連中は納得しなくてなぁ。困った困った」
さて、ここからが本番だね……。どうにも軽い雰囲気で簡単に話が通りそうなのはきっと気のせいだろう。気合入れて話をまとめないとね。




