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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
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60 これまでとこれからの境界線

 俺はフラフラと町を歩いていた。特に目的があった訳じゃない。ただ、あそこにいたくなかっただけだ。でもやっぱり無意識とはいえ目的地はあったみたいだった。気がつけば実家の前にいた。でも中に入るのはためらわれて、そのまま移動する。

 母さんや父さんに会いたいと思った。だけど兄さんには会いたくない。兄さんが夜勤で門番やっててくれればいいけど、兄さんの仕事状況などまったく知らないからどうしようもない。


 フラフラ歩く俺はたぶん誰か人に、優しくしてくれる人を求めているのだろう。母さんや父さんならたぶん受け止めてくれる。でも、今兄さんに会えばよくない気がする。そんな俺が行く先としたらここになるのは当然だった。

 俺は今エレナさんの家の前にいる。こういう使い方はよくないとわかりながらも気配察知で中の様子を伺う。まだ起きてるみたいだね。


 コンコンコン、コンコンコン。俺がノックするとエレナさんが扉の近くまで来た。


「どちら様ですか?」


 普通こんな時間に人が来ることなどないのだろう。エレナさんの声には警戒の色が見えた。当然と言えば当然だ。女性の1人暮らしなのだから警戒しておくのが普通だ。


「こんな時間にすみません」


 自分の名前を名乗る前に扉が勢いよく開いた。時間って言った辺りでこっちに扉から少し離れた位置にいた動いたのは気が付いたけどそれでもびっくりする勢いだった。


「ユリト君!? こんな時間にどうしたの? あぁうん、そんな理由は後でいいか。とにかく上がって」


「訪ねてきた俺が言うのも変ですけど、いいんですか?」


「ダメな理由なんてないでしょ。ほら入って入って」


 部屋の中に案内されて、席に着いた。最近はまったく来なくなったけど、一時は毎日のようにこの部屋に来ていた。なんだか懐かしい。理由が理由だからあんまり思い出したくはないけどね。


「はい、これでも飲んで」


 もらった飲み物を飲んでその暖かさに少し落ち着く。落ち着いた気がする。ただ自分がこんなに冷え切っていたのかとも思った。それは体が冷えてるというわけではなくて、精神的にといったところだろうか。


「それでどうしたの? なんというか表情が抜けてるというか……」


「ソフィーがポーションプラス作れるようになったんです」


「それはおめでとう? ユリト君の弟子だったわよね。それはまたすごい成長速度ね。年が明けてから来てたのよね」


「そうですね。でも本格的にポーション作り、錬金術を鍛え始めてからたったの2か月でここまで来ました」


 そう、たった2か月だ。その前からポーション作ってはいたけど、1日2回1本ずつなんて速度でやってた。いや、よく考えてみればその速度でも俺の最初の頃よりも早いか……。


「まだ魔力制御を覚えてないので俺に完全に並んだとは言えません。でも、苦手な制御も時期に覚えると思います。そうなったら完全に追いつかれます。何度も気絶して心配かけて、それでも必死になって魔力を増やして、色々な事もやって体力つけたりとか冒険者やるための知識つけたり、家を継ぐための勉強もいっぱいしてきました。でも、1番がんばりたかったのは錬金術です。魔法を使ったのだってそのためでした。冒険者やりたいのだって素材を自分で集めたり、魔力を増やしたかった。家を継ぐ為の勉強はちょっと違うけど、それでもその中からポーションは錬金術で作れるものだってわかって楽しかった本当に楽しかった」


「ユ、ユリト君?」


 今までに見せた事のない俺の様子にエレナさんはどうすればいいのかわからないような様子だった。なんか冷静に自分を見てる自分がいるのが笑える。それでも口は止まらない。そしてそれは何を言いたいのかわからずに加速だけしていく。


「初めてミュースさんがポーション買ってくれた時はうれしかったんです。その後にまた来てたくさん買ってくれてびっくりしました。その後別の人が買ってくれてそれからどんどん売れて、品物がなくて量が作れなくて、いろんな人がいて怖くて迷惑かけて本当に申し訳なくて、でも色々な人が助けてくれてうれしかったけどやっぱり怖くて、どうにかなって安心して、今度はこんな事が起こらないようにがんばって作れるようになろうって思ったけど、外に出れないからレベル上げなんてできなくて、だから必死に魔力増やそうとしたり、出られるようになったら魔物狩れるようにがんばったのに、すっごいがんばったのに剣術は全然うまくならなくて、ずっとやってるに未だにうまくならなくて子供までへたくそって言われて、魔法だって無属性魔法しか使えない。必死になってがんばってマジックアローの使い方とか威力の調節とかできるようになったけど、けっきょく属性持ってる人にはまったく勝てないってわかってて」


 自分でも何を言ってるのかわからなくなっていく。冷静に見てた自分もどんどん小さくなっていく。さすがにこの様子を見て困惑してる場合でないとエレナさんは察したみたいだ。


「ユリト君! 落ち着いて、落ち着てね。大丈夫、大丈夫だから」


 エレナさんは抱きしめて安心させようとするけど、俺は拒否するように自分の顔の前に腕を持って来て交差させて完全に抱きしめられないようにした。今言葉を止められたくはない。


「俺は弱くて、でも違うって言ってくれるけど、だけど俺は弱いよ。だってもういっぱいいっぱいなんだよ。今より強くなんてなれないよ。強くなったとしてもみんなの方が強くなれるよ。魔力があっても属性のない魔法使いなんて役に立たない。接近戦なんてできない。シーフ技能は成長してるかな? って思えるけど、けっきょくは戦う力がある程度なきゃ生きて情報を伝えられない。そもそも、この町から出て行く気なんて一切ないんだから強くなる必要もない。でも外に出て戦わなきゃレベルが上がらない。魔力たくさん増やせない。でもみんな言ってくれる。今のままでも十分ユリトはみんなの役に立ってるぞって。ポーションが作れればそれだけで十分だって。でも俺だって欲はある。もっと色々作れるようになりたい。だから少しずつでもがんばっていこうって思ってた。思ってたけど、ギフト錬金術初めて使ってから3か月もたってないソフィーにほとんど追いつかれた。寄り道もしてるけど何年も俺はがんばってきたのにあっという間に追いつかれた。レベルの壁は理不尽だ。日々の努力なんて全部吹っ飛ばして強くなる。悔しいよ。虚しいよ。錬金術が俺のものじゃなくなったよ!」





 ユリトの魔力ランクは確かに高かった。でも、属性がなかった。剣術も含めて接近戦の才能もまったくなかった。あったのはギフト錬金術。

 普通なら諦める。薬屋の息子として薬の勉強すれば十分に生きていけるだけの知識は手に入る。それでもユリトが選んだのはギフト錬金術だった。

 錬金術というものに惹かれてそれを使えるようになるように、使いこなせるようになるように生きてきた。

 そしてユリトの手によって途絶えた技術は復活への1歩を踏み出した。この道を歩いてるのは自分だけ、それがユリトが知らず知らずに心に作った大きな1つの柱だった。


 だから、突然帰ってきた兄達に家を出て行けと言われても自分を保つことができた。受け止める事ができた。

 ソフィアに関しては、彼女がもっとゆっくりとした成長ならば問題なかった。ゆっくりとならば自分だけのものでないことを理解し受け取れられた。

 しかし、レベルが上がり魔力総量が多いという土台とユリトのが道筋をつけ、明確な目的意識を持っての成長は早かった。

 ユリトがコツコツゆっくりと手さぐりで、長い間の停滞を経て至った場所に追いついてしまった。

 自分が長く努力してきたことを短期間で追いつかれると言うのはきついものがあった。

 外からの事、自分が教えた事、様々な事で追い詰められて今日この時完全にそれが決壊した。

 言葉を吐き出したユリトはエレナに抱き付いて小さな子供のように泣いたのだった。





 私は戸惑っていた。こんなユリト君は見た事がなかった。トラウマになっているところを触ると泣いてしまうのは知っていたけどこんな風に泣くのは初めて見た。


「大丈夫、大丈夫だからね」


 私はそう言って抱きしめる事しかできなかった。それ以上に何をすればいいのかなんてわからない。


 ユリト君は強い子だとずっと思っていた。出会いは弟が、外を走ってる子がいるんだ。話してみたいな。という事を言ったので話しかけたのが最初だ。

 私はすでに家を出てギルドで働いていた。でも、病弱だった弟が心配でよく実家に帰って話をしていた。そこで弟の話を聞いて話しかけた。

 ユリト君は弟の為によく家に遊びに来てくれていた。私は仕事が終わってから弟の所へ行くので、会うのは仕事が休みの日くらいだった。

 弟と仲良くなり私をエレ姉と慕ってくれた。でも、現実は無常で弟の容体は悪化していき死んでしまった。

 想像以上にそれは私に重くのしかかり、仕事が手につかず家に引きこもってしまった。心配して見に来てくれる両親もどうしていいかわからず、時間にまかせようとした。

 そんな中で私に積極的に接してきたのがユリト君だ。でもエレ姉と呼ばれるのが嫌で嫌でたまらなかった。


「弟じゃないのにエレ姉なんて呼ばないで!」


 それでもユリト君は来てくれた。その時からエレナさんに呼び方が変わった。なんでそんなにかまってくるのかわからなかった。

 でも、誰かがいてくれる時間の方が変に考えないですんだ。それが段々と安心感になっていった。そして1番そばにいてくれたのはユリト君だった。

 そうして立ち上がった私はユリト君を頼って生きてきた。でも、今のユリト君を強い子だなんて言えなかった。

 恋人を作らないんですか? とたまに聞かれた。ユリト君がいるからそういう存在は必要ないと思ってた。

 でも、私がもっとしっかりしていればこんなになる前にユリト君は相談してくれただろうか?

 弟子の子が来る前に家にあれが帰って来て、ユリト君は実家に頼りにくくなったと思う。こうして私の所に来てるのがその証拠だ。

 私がしっかりしてれば相談してくれただろうか? こんな風になる前に……。私に心配かけないように軽く言う癖をつけずにあることをそのまま伝えてくれただろうか?

 私がしっかりしてれば変わったかもしれないし、変わらないかもしれない。でも、もっとちゃんと1人で立とうと思う。年上の私が助けるのが本来のあり方だと思うから。





 思いっきり泣いた俺は知らないうちに寝てしまったみたいだ。しかもエレナさんに抱き付いたままで……。自分の気持ちの整理もできておらず、とんでもない迷惑をかけたという思いもあり、恐る恐る顔をあげた。


「おはよう、ユリト君」


「おはようございます。エレナさん」


「エレ姉って呼んでもいいのよ?」


 エレナさんからの不意打ちをくらい、俺の頭は真っ白になり再び動き出すにはしばらくの時間が必要だった。

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