56 薬草の事を知りましょう
数々の困難を抜けてついに我々は辿り着いた。そうここは薬草採取地。約束の場所である。
ここに来るだけで疲れてしまったのは、きっと俺だけだろう。みんな普通だ。普通に楽しそうに歩いてここまで来た。
途中で変なのが絡んで来そうだったので俺の中で行動阻害魔法になったプロテクションで転ばせて、押し付けて動けないようにした。
意外と普通に起き上がろうとして起き上がれないとむきになる人ばっかりで匍匐前進しようとする人は誰もいなかった。
リンダが、今日はとても楽に移動できましたわね。なんて言ってたって事は絡まれるのは日常茶飯事か。おかげで着いた途端に変な事思ってしまったよ……。
「みんな、ここら辺から薬草が多く生えてる地域になる。向こうに冒険者がちらほらいるだろ?あんまり近づいて邪魔しないようにね。ここでのルールで薬草は採取可能な物がまとまって3束より少ない時は採っちゃダメだから気を付けてね。ここはすでに採取できる状態じゃないから奥の方に行こうか。ちなみにほとんどないけど、極々稀にゴブリンが出て来たり、何かいたりするから気を付けてね。それじゃアルタ6束くらいまとまってるところがあったら教えてね」
「どうして僕に言うかな?」
「シーフを自称するなら薬草の知識位あるでしょ? 見つけるのもたぶんうまいだろうし」
「そっかー。それじゃ期待に応えるよ」
そういうとスッと移動して探しに行ってしまった。探してこいとは言ってないんだけどね。
「探してこいって言った訳じゃないけど行っちゃったね。とりあえずこの草を見て」
「1人で行動させてよろしいんですの?」
「彼女はシーフだよ? むしろ1人で行動して情報を探り持ち帰るのが仕事の1つだよ。いきなり危険な事をさせるならまだしもここなら大丈夫。人の話ちゃんと聞かないのはちゃんと言っておかないといけないけどね。でも、確保できるわけじゃないから無駄になる可能性もあるんだけどねぇ」
「確かに……。昔から即行動と言うところがありましたわね。しっかりお話しておきますわ」
どんなお話だ……。笑顔がちょっと怖いぞ。まだまだ迫力は足りないけれどな。比較対象は誰とは言ってないですよ?
「それは置いといて、これが薬草だね。見た目そのままで覚えて。これの形に近い植物は確認されてないから注意点も特にないよ」
薬草は見た目がわかりやすい。意図的にわかりやすくしました! って感じるくらいわかりやすい。それをみんなでマジマジと観察する。そこまで真剣に見なくても覚えられると思うけれどもね。
「みんなでしゃがんで何見てるの?」
「お帰りアルタ。薬草の形を観察してる最中だよ。でだ、探し行ってほしいとか俺は言った覚えはないんだけど?」
「あれ? そうだっけ? 失敗失敗」
「失敗失敗じゃありませんわ! 人の話適当に聞いて暴走して怒られたこと今までもあったでしょう!」
「あぁん、リンダ怒らないでよー」
そういうとアルタがリンダに抱き付いた。そうするとリンダの勢いがどんどん弱くなっていき、仕方がないですわねとなった。操縦法は完璧なのかもしれない。
「先行して探すのはいいけど、その場所確保できるわけじゃないんだよ? 長距離の連絡手段があるならまだしもないなら無駄になる可能性もあるからね」
「言われてみれば……。そこまで考えてなかったよ」
アルタの事はよくわからないなぁ……。すべて計算してるようにも見えるし、そうじゃないようにも見える。
「でも! 誰かに見つかる前に行けばいいだけだよね! 行こう行こう!」
反対する事もないし、みんなでついていく。少し歩いた所で止まってそこには確かに薬草があった。しかしまぁ……よくこんなもん見つけたな。
「普通、薬草の近くには薬草以上の背の高さの植物は生えない。それが常識。だからこういう例外なら確かに他の人に先を越される事はないけどね……。教材とするには不向きすぎるだろ……。素直に探し出す能力は感心するけどさ」
アルタが見つけた薬草は量は多くあったし、質もいい。ただ、周りが膝くらいの高さの植物が生えていた。足の甲くらいまでの背しかない薬草をよく見つけたもんだ。
「ユリトさん。すごい事って認識でいいの?」
アーサー君に聞かれたから答える。すごい事ではあるんだよね。すごい事では……。
「普通に見てもわからないから、それを探し出せるのもすごければ、常識的な知識を持ってればそもそも探そうとは思わない。薬草の専門的な知識があるってことで更にすごいって事だね。アルタはいったいどんな師匠についてたのさ……」
「僕の師匠は秘密さ」
「あの変態女ですわね。戦えば強いし知識も豊富でしたけど、すぐに人の体触って来るんですから……」
「リンダー。秘密っていったじゃん」
「私が秘密にしてたわけじゃありませんわ」
「変態女とか言われても、俺はまったくわからないから……。それよりも採り方と使い方教えるよ。それとこの背の高いのは抜かないようにね」
「なぜだ? 邪魔だろ」
ビアンカの指摘はもっともだ。説明するのも見るのも実演するのも試してみるのも何をするにしても邪魔だと思う。でも、この場所にとっては重要な場所にこれからなるので抜かせるわけにはいかない。
「薬草とほかの植物が共存してる場所は、ある程度の期間が過ぎると爆発的に周囲に薬草を増やすんだよ。理由はわかってないけどね。でも、その共存してる植物を減らすと増えなくなるから抜かないように。ちなみにこれ薬草の知識としては知る人ぞ知るって感じの知識だからね」
爆発的に増やす効果があるならなぜ周知しておかないか? それは発生することが少なく、下手に教えてその場所を荒らされる方が困ると判断されているためだ。
「この場所なら薬草はあるに越したことはないしな……。わかった抜かないように気を付けよう」
ビアンカも納得したみたいだし、ちゃちゃっと教えちゃおうか。
「薬草を採る時の注意としては、根っこギリギリを刈り取る事。根はポーションの材料にはならないし、根が残ってると次が生えてきやすいからね。こうギリギリをスパッとね。で、使い方だけど、これを手でグリグリ揉む。液が出てきたら、葉っぱの裏側を傷につけて傷を抑える。こうすればある程度止血はできるし、治りも早くなる。簡単に説明したけどこれ以上の説明もないから、もし忘れた場合はアルタに聞けばいいよね」
「うん、このアルタさんにまかせなさい! って、僕この手の知識あるって言ったっけ?」
「この場所見つけた人間が知らないはずないだろうに……」
「それもそうでした!」
「それじゃみんな、ここで1回ずつ薬草採ろうか。この場所じゃあんまり薬草取り過ぎるのはよくないしね」
「そういえば、植物を抜くのはダメと言われましたが薬草はいいのですか?」
「根が残ってれば大丈夫らしいよ。ただ、取り過ぎは増える時期が遅れたり規模が小さくなったりするらしいから、1人1回ずつね」
「なるほど……」
そんなこんなでみんな薬草の採り方を覚えた。まぁ新人が出来る仕事だしね。
魔力草みたいに採る時に色々気を付けないといけないものじゃない。取りに行くには魔物の数が問題なんだよなぁ。全部隠密行動で隠れて進めればいいけどそうは行かないだろうし……。護衛付じゃ日帰りできないだろうし、採りに行ける知識持ってる人もいないだろうし、いたとしても雇う費用が一体いくらになるんだか……。採れる保証もないしな……。
やっぱり寄生してレベル上げしかないのだろうか?あぁ……町を離れたくないよ。例のトラウマよりも深い感情っていったいどこからきてるんだろうね。
うん、あまりにも暇過ぎて余計な事考えてたな。せっかくの楽しい時間が勿体ない。楽しい時は楽しまないとね。
「ユリトさん、一通り採取と使い方試してみました」
「それじゃ、3人で組んで別々に行動しようか」
俺がそう言った瞬間空気が変わった。
言ってからやってしまったと思うけどそうも言ってられない。薬草採取で1日分を稼ぐには1人最低10束いる。1か月後なら20束だ。まだ資金に余裕があるとはいえ、今日の分くらいはしっかり稼ぐべきなのだ。
そう俺は思っても、女の子達のアーサーと一緒の組になるのは私という無言のやり取りが続いてる。
アーサー君はなにやら不思議そうな顔をしてる。ちょっと待て……気が付いてないだと!? いやあの……これは普通気が付きませんか? それとも、こういう光景慣れ過ぎて自分への好意が鈍感になっちゃいませんか?
「僕にいい考えがある!」
そういうアルタに視線が集まる。頼むからボケて、僕がアーサーと2人で組んで解決! とか言い出さないでほしい。




