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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
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閑話 ミュース

 まさかこんな事になるなんて思わなかった。

 最初から、なんか王子が見てると思ってた。でも、無視してた。隠れてたといってもいいかも?

 私は背が小さいから色々言われたし、ジロジロ見られた。だから今回もそうだと思った。

 私をジロジロみていいのはユリトだけだ。むしろ見てほしい。


 私はいつまでたっても小さいままで、戦いが苦手だった。シーフ技能を磨くしか冒険者として生きていく道がなかった。

 みんな優しいけど、私はきっとお荷物だと思ってた。でも、怖くて聞けなかった。一緒にいられなくなったら私はきっと生きていけない。

 そんな時にユリトとあの薬屋で出会った。





 私がそのお店に入ったのはなんとなく。商品を見てて妙なポーションを見つけた。それは普通より値段が高く小さい容器に入ったポーション。

 手に取ってみるけど、よくわからない。しかもなんかいっぱいある。


「お姉さん。ポーション買うんですか?」


 そう声をかけてきた子供がいた。私より小さい。親と一緒に買い物にでも来たのだろうか?


「このポーションはよくわからない」


「そこに説明は書いてあるんですけど、値段と容器見るだけでそこまで見てくれないんだよね……」


 説明が書いてあるというので見てみると確かに書いてある。でも、なんでこの子はそんな事知ってるの?

 説明には通常のポーションと同じくらいの効果、長期保存可能となってた。正直胡散臭い。


「胡散臭い。そんなの聞いたことない」


「やっぱり胡散臭いかなぁ……。冒険者ギルドと教会でちゃんと効果調べてもらってるんだけど……」


 冒険者ギルドと教会で調べてもらってるって言った? この子はいったいなんなんだろう。


「君は誰?」


「僕? 僕はユリト。ここのお店の息子です。それにそのポーションも僕が作ったんです」


「子供が作ったような物を置くの?」


「ちゃんとした商品です。冒険者ギルドも教会もちゃんと認めてくれてるし……」


「ポーションの長期保存なんてどうやってるの?」


 長期保存の技術、そんなものはあるはずがない。あればもっと大きな所で作られてるはず。こんな町のお店の子供が作れるはずがない。


「錬金術でポンって作るからよくわからないですよ」


「その説明の方がよくわからない」


「えっとギフト錬金術って知ってます?」


 すぐに思い出せなかった。でも思い出してみる……。あぁ確かあれだ。


「死にギフト」


「うぐぅ」


 なんかダメージ受けてる。なんだろうちょっと可愛い。それに口調も背伸びしてる感じでなんか可愛く見えてきた。


「うぅ……。そのギフト錬金術です。材料さえあればポンって作れるんです。魔力すごく使うから数は作れないですけど……」


「でも、いっぱいある」


 指さしてその事実を告げるとまたダメージ受けたみたいだ。ちょっと楽しいし、可愛い。


「さっきお姉さんも言ったけど胡散臭い、詐欺臭いって言って買ってくれないから山積みになってるんです……」


「長期保存ってどれくらいできるの?」


「わからないです。1年くらい前に作ったものもまだ効果が落ちてないみたいって言ってましたけど」


 信じられない。ポーションは10日以上たつと効果が落ちるし、20日で効果がなくなるのは常識。ハイポーションだって……覚えてないけど年単位ではもたない。


「嘘ついてない?」


「嘘ついてまで偽物売るほど、お店の状態悪くないもん」


 なんか反論するところが違うけど、急にもんとか言われると妙に可愛く見える。


「あ、これすごい丈夫なんです! 見てて!」


 何を思ったか急に1本持って床に叩きつけた。普通なら割れる。何やってるの? って思ったけど結果は、


「割れてない? しかも傷すらついてない……」


 あまりにも異常な光景をみて驚いた。だからだろうか? 買ってみようなんて思ったのは、


「これ5本もらう」


「え? 本当に? ありがとうございます!」


 なんかすごい可愛い。お持ち帰りしていいだろうか? ダメだろう。残念。

 こうして私とユリトの初めての出会いは終わった。


 このポーションの事をみんなに話した。今度使ってみて効果見てみようかとも言ってくれた。ちゃんとしたものだったらみんなの役にたつと嬉しかった。


「しかし、あれだな。見た目はちゃっちいがすごい物ってのはなんかミュースみたいだな! ちっちゃいし、戦闘力もそこそこだけどシーフとしては優秀だしな。ミュースの索敵があるから安心して護衛できるもんな」


 オーランドがそんな風に私の事見てるなんて知らなかった。みんな頷いてるからみんなそう思ってくれてるらしい。


「でも、油断しちゃダメ」


 嬉しかったけど、釘はさしておく。何があるかわからないのが冒険者だから。

 話が終わった後で、今日の事を思い出した。さっきオーランドが言ってた事は嬉しかった。もっとがんばろうって思えた。

 でも、ふとあの子供の事を思い出した。確かユリトって言ったっけ? 思い出して私は後悔した。

 私は見た目のせいで周りに色々言われた。私も子供だからってユリトの事を疑った。ユリトじゃなくて大人だったとしても疑ったと思うけど子供だから余計に信じられなかった。

 私がした事は私がされてきた事と一緒じゃないかと思った。そんな自分がちょっと嫌になった。

 でも、あの子はがんばってた。しかも死にギフトなんていうものでがんばってた。ん。がんばろう。もっともっと。


 ユリトと出会った事で少し前向きになったと思う。いっぱい感謝した。しかもポーションも優秀だった。1か月たってもちゃんと効果が出たのだ。

 だから、次にあの薬屋に行った時は、私が使えるお金で買えるだけ買った。ユリトにすっごい感謝された。すっごい満足した。


 次にポーションを買いに行った時、お店にポーションはなかった。店員に理由を聞くと私が大量に買ったのを見てた人が試しに買って使い勝手がよく、その話が広がったらしい。

 いっぱい売れてきっとユリトは嬉しいに違いないと思ったけど、そんな事はなかった。

 そのポーションを買い求める人、ポーションの製法を教えろと言う人、作った人間を引き抜きたい人、脅迫、誘拐未遂。色々な事があったらしい。

 今は色々な人の動いて落ち着いたけど、その時は大変だったらしい。ユリトは怖い目にもあったし、みんなに迷惑かけた事でしばらくふさぎ込んでたらしい。

 私の胸は締め付けられた。よくわからないけど、ユリトに会いたいと思った。

 探し回ってユリトを見つけた時は後ろから抱き付いてしまった。すごい驚かれた。また人攫いかと思ったとか言われた。失礼だが仕方がない。それにしてもまたか……。


 それでいっぱい構ってるうちにこの子は私が守ると思い始めた。でも、みんなと一緒に今までやってきていきなり抜けるとかは言えない。そもそも仕事できなくて私が死んでしまう。

 ゴブリン程度ならなんとかなるけど、最低限の生活とか耐えられないだろう。でも、ユリトの家族構成は知らないけど仮に家を出るとしてもまだ時間はある。

 それまでにお金を貯めこんでおけばいいと思った。いい方法だと思う。解散させる方法も思いついた。昔からミリアとスコットは仲がいい、結婚させればいい。完璧だ。

 そう思ってたけど、意外と仲が進展しなかった。でも、ようやく結婚する気になった。これでユリトの所にいけると思った。





 それがこの状態。振ったのに王子がすっごい絡んでくる。私の事を褒める。褒めて褒めて褒めまくる。ちょっと照れるけど困る。

 私は好きな人がいるからあきらめてほしいと言ったけど止まってはくれなかった。

 今の状況で自力で逃げられるかと言うと無理だった。時々感じる気配は明らかに私より格上だ。

 逃げるとしてもユリトの所に行けばユリトに迷惑がかかる。仲間にも迷惑をかける。貴族の誘いを断るなんて普通はできない。一縷の望みをかけて諦めてほしいと言ってみるしかない。

 反射的に振ったけど、王族の誘いを断るなど不敬だと切り殺されても文句の言える状況じゃなかった。しかもあんな人前でだ。王子が庇ってくれなければ確実に不敬罪で捕まってた。王子のせいだけど。

 それにあまりしつこく断ると周りに迷惑がかかる。好きな人がいると言ってしまったのもまずい。なら原因を取り除いてあげようとか言われる可能性もある。好きな人がいるは断りたい理由になるけど、盾にされる可能性もある諸刃の剣だ。仲間を盾にされる可能性もある。今は大人しくしようと思った。

 王子を助けたから王への謁見があるだろうって言われてたから、言い寄られても褒美代わりに自由にしてもらえばなんとかなると思ってた。


 でも失敗した。褒美として行動の自由をお願いしたら、王子が色々言ってついてくるとか言い出した。

 大混乱に陥って騒ぎを鎮めるために王が慌てて、私への褒美を王子の愛人になる事を許すとか言い出した。それ褒美じゃないという言葉を飲み込めたから私はなんとか生きている。

 王ならもっとどっしり構えていてほしいと思うのは私だけだろうか? 王がそう言ってしまったのでもうどうすることもできない。

 王の言葉になんて逆らえない。逆らえるのは勇者様と教会の一番偉い人くらいだと思う。これ以上の抵抗は自分の死か、周りへの迷惑を振りまく事にしかならない。もう……諦めるしかない。

 



 私は平民なのでけっきょく護衛兼愛人になった。今の王様はそんな事ないけど、前の王様は未だに元気で第3王子と同じ歳の子供がいるらしい。

 国が知らない子供も確実にいるという。だから平民はどんな事がっても愛人までにしかなれないらしい。継承問題とかすごそうだ。


 王子は私みたいなのが好きな変人だけど20歳でカッコいい。周りに人気がある。だから私は苛められたりするかもしれないと思った。

 でも、そんな事はなかった。まずは王子の奥さんが私の事を気にしてくれた。とってもいい人だ。政略結婚で夫婦仲はそんなによくなかったみたい。私が来て王子の纏う空気が軽くなったと喜んでた。

 メイドさん達の視線は最初嫌だった。でも、だんだん変わっていった。どうしてか最初はわからなかったけど、奥さんが教えてくれた。

 どうやらスコットが実は王都についたらパーティ解散して、私が好きな人の所に行く事になっていたと周りに話しているらしい。

 情報通のメイドさん達はその情報を仕入れて、王子に気に入られたポッと出の女から、王子のせいで好きな人と引き裂かれた悲劇のヒロインになったみたいだ。


 なんだかんだで、最初は嫌だったここでの生活も長く続けたため王子との関係も慣れてしまった。もうユリトの所に行く事はできないし、会う事もないと思う。

 私はただ遠いここからユリトの幸せを祈る事しかできない。どうかユリトが幸せでありますように。


後半部分、文章を追加しました。


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