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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
53/86

53 急展開過ぎてついていけない

 ユリト以外には聞かせたくないとの事だったので自室に案内して、飲み物を用意し、扉を閉めて気功を使いつつ、気配察知で人の動きを感知しながら話を聞くことにした。

 行動監視みたいで家の中で気配察知を積極的に使うのは本当は嫌なんだけど仕方がないね。


「ソフィーもシーラもそばにはいません。そろそろ話してもらえますか?」


「おう、まぁ聞かせたくないと言ってもお偉いさんが絡んでるから、どこまで聞かれていい話かわからんからって理由なんだけどな。それじゃ順を追って説明していくぞ」


「俺としては結論をまず聞きたいんですけどね」


 今まで色々心配してきたのだ。無事というのは聞いたけどどんな状況なのか早く聞きたいと思うのは自然な事だと思う。


「そんな怖い顔するなって。知ってる俺が笑っていられるんだ。平気だ平気。それに俺はここに来るまでにどう話すか考えたんだ。少しくらい話を聞いてくれよ」


「結果だけ聞ければいいんですけど……。こうやってる方が時間かかりそうですね。続きをお願いします」


 このまま押し問答してもしょうがないので続きを促した。どう話すか考えてるうちに話さないといられなくなったに違いない。迷惑な……。


「おう! 俺達が護衛の依頼を受けてたのは知ってるな? で、その依頼は王都の2つ前の町までだったんだよ。あの依頼主はめんどくさい奴だったから終わった時の解放感といったらなかったぜ! でだ、俺達はそこから王都に向かおうと思ってたわけだが、そこで問題が起きたんだよ」


 ……? 話が止まった。なんでだ? オーランドさんがこっちを見てる。あぁ……、聞いてほしいんですね。ここでめんどくさいって思うのは仕方がないよね?


「何が起きたんですか?」


「実は……。魔物が活性化しててな。暴走起こすような場所じゃないけどそれでも危ない訳だ。で、俺達にも討伐をしてくれって頼まれたんだよ」


 魔物の活性化、それはその地域の魔物が増えたり凶暴になったりすることをいう。

 暴走も似たようなものだけど、決定的に違うのは上位種が出るか出ないかだ。上位種が生まれやすい場所というのがあるらしくて、この町で魔物が活性化すると大体上位種が出るから暴走になる。

 王都から2つ前の町はたぶん過去に上位種が出た事がない。もしくはほとんどないのだろうと思う。


「ミュースは嫌そうではあったんだが、さすがに放置するわけにはいかないだろ? それに俺達が進むのにも厄介だ。だから討伐依頼を受けたんだよ。そもそも、王都だって近いしな。応援もすぐに来るだろうから楽勝だと思ってたんだ。だけどだ……。何が起こったと思う?」


 そういうのいいから! 早く続きを話してよ! と思うのは別におかしくないよね? せっかく来てくれたんだし付き合うけどさ。付き合うけどさ!


「何が起きたんですか? 上位種でも出ました?」


「そこまででっかい話じゃなくて、応援が全然来なくてな。ギルドも打診してあるのになんで来ないのかさっぱりわからんと言われてな……。俺達は出来る限り多くの時間を討伐に費やした訳だが、その町にいた奴らだけじゃ沈静化できなくてなぁ。もうやってられん。って言って他に移っちまった奴らもいたよ。しばらくしてようやく応援が来たと思ったらだ……。何が来たと思うよ」


「何が来たって応援がきたんでしょ? それとも王都で厄介者扱いされてる連中でも押し付けられたんですか?」


「いやいや、厄介者なんて言ったら不敬罪捕まっちまうぜ。なんと騎士の連中が出てきたのさ」


 騎士が出てきたってのは正直驚いた。王都の治安維持や冒険者が行きたがらない場所にランクの高い魔物が出て、被害が出る可能性がある時などに出動するのが騎士の仕事だったはずだ。言い方は悪いけど王都から近い町の魔物の活性化程度で出てくるはずがない。


「なんで騎士が? これくらいで騎士が出てくる案件じゃないよね? そもそもこれなら冒険者の領分でしょ?」


「そうなんだよ。普通なら騎士が出てくる訳がない。むしろ冒険者の稼ぐ機会を潰すようなマネだ。普段なら絶対にやらない。それでも来た。さて、なんでだと思う?」


 いちいち聞かなくていいよ! と思いながらも考えてみる。王都なら冒険者も多いはず……。つまり冒険者がなんらかの理由で少なくなってて来れなかった?


「他の場所で問題が起こってて、冒険者はそっちに行ってたんですか?」


「いや、そんな事は全然ないぞ。答えは……。なんと第3王子の実戦経験のためだ!」


「え? なんで? 戦うだけなら修練場があるでしょ? それ以外の経験にしたって、このタイミングでなんでわざわざ出てくるの?」


「ユリトは修練場の事知ってたのか。今回は魔物の活性化がどんなものか見せる為だったみたいだぞ」


「もしかして、その為に冒険者の応援を止めて、時間かけて騎士を連れて来たの?」


「その為にだな」


 その指示を出した人間の頭を疑う。いや、王族やら貴族やらは俺達と考え方が違うのだろう。アレックさんなんかはたまに押しが強いくらいだけど、ソフィーには時々感じるし、シーラは立場はわからないけど考え方は確実に違うなって感じる。 


「信じられないよ……。それのせいで迷惑する人間だっているのに……」


「お偉い様が何を考えてるのかなんてのは知らんさ。それで騎士も出て来たからな。それからすごかった。あの苦労は一体何だったんだ! って感じだよ。だから油断したんだろうなぁ。活性化じゃ珍しい魔物の一斉攻撃が始まったのさ」


「活性化だと増えて凶暴化するけど、バラバラに行動するのが普通なのに組織的に動いたの? 実は暴走だった?」


「違う違う。組織的なんてものじゃない。ただ、みんなまとめて攻撃してきただけだ。だけど、数が多くてな騎士連中も俺達も大なり小なりケガをした。王子なんてあのまま攻撃されてたら確実に死んでた。それを助けたのが近くにいたミュースって訳だ」


 王子を助けたミュースさん……。あぁ、これは動けない状況になるわ……。それでも逃げ出してきそうではあるけどね。


「それで動けない状況ってわけですか……」


「ユリトが考えてるのとはちょっと違うと思うぞ。王子を助けた。だけならどうにかなったかもしれないんだがなぁ。更に致命的な事が起きた。いや、実は起こってた」


「致命的な事が起こってたって一体なんです」


「その王子がミュースに一目惚れしたらしい。しかも、助けられたからじゃなくて、町中で一目見た時かららしい」


 ……確かに見た目可愛いのは確かですけどね。でもですよ。 普通手を出そうと思える人じゃないと思うのですよ。いや、助けてもらうまでは見てるだけだったならセーフなのか? あれ? 混乱してきた。自分の事はとりあえず考えないようにした。


「しかも、攻撃受けそうになった理由がミュースに良い所みせようとがんばって近くに行ったのはいいけど、見とれて隙を作ったかららしい」


「その王子バカなんじゃないの?」


「不敬罪で一発逮捕だな! 俺もバカだと思ったけどな! そんな訳で、助けられた王子は戦いが終わった後に、顔真っ赤にしながら結婚申し込んでな。しかも振られた。爆笑もんだったぞ! 笑ったらダメだと思って必死に耐えたけどな!」


「耐えたのはいいんですけど、それはそれでミュースさんまずい事になるんじゃ……」


「怒った騎士が剣を抜こうとして王子に殴られてたぞ。それでほぼ鎮圧できたから、って事で治療が終わってから騎士を少数残して引き上げる時に俺達もついてくるように言われて王都に向かったんだよ」


「ミュースさんよく無事でしたね……」


「王子の入れ込み具合がすごかったんだよ。彼女の事はこれから愛を育めばいい。彼女に手を上げることを私はけっして許さない! とか宣言してたしな。ミュースは迷惑そうにしてたけど、王都に向かう最中はずっと王子がそばを離れなかったよ」


 王子が……が!? えっとそこは普通、王子のそばに呼ばれて離れることを許されなかったとかじゃないの?


「王子のそばに呼ばれた訳じゃないんですか?」


「違うな。実際そうしたらどうかって言ってる騎士がいたんだが、私が彼女のそばにいたいのだ。とか言ってたぞ。俺にはわからんが恋愛ってのは凄まじいな」


 続きが聞きたいんだけど、声が出なかった。どんだけだよ王子。王子どんだけミュースさん好きになってるんだよ! 立場考えようよ!


「絶句するよな。俺も見てて正気を疑ったもんだ。あの体見てどう反応させればいいんだろうな? 女はやっぱりボンキュボンだよな!」


「刺されても知りませんよ?」


「ユリトしか聞いてないじゃんかよ。それで、王宮まで案内されて王様に会ったりなんだりして色々あって、けっきょくスコットは騎士団、ミリアはスコットの嫁、ミュースは王子の護衛兼愛人になったわけだ」


 ん? あれ? 一気に話が飛んだ? 色々のあいだに何があった!


「話飛ばし過ぎじゃないですか?」


「えーめんどくさいじゃん。って睨むなわかったわかった。えっとだな。褒美もらえるって事になってスコットは実力を見てから、騎士に取り立てられたんだ。3週間足止めくらってる間にCランクにしたし、実力だけで言えば俺達はBランクくらいはあったからな! 本当だぞ? 護衛中にBランクの魔物と戦って俺ら4人だけで倒せたんだからな。ミリアは元々その予定だったから嫁になった。ミュースは王子の熱烈愛の告白から逃げ出そうとしたんだがな。王様にすら、私は運命と出会ったのです。もしも認められないならば私もあの方のように王宮を出て、彼女のそばにおりましょう。とか言い出してな。てんやわんやの大騒ぎだよ」


 なんか笑ってるけどそれ笑い事じゃない。ミュースさん大迷惑だし、王様も大困惑だろうに……。


「あれ? でも第3王子なら仮に出て行かれても問題ないんじゃないの?」


「将来騎士団をまとめるための教育を受けてきてたらしいぞ。そんな人物手放せるか?」


「無理」


 即答する。即答するしかないじゃん。そんなのに捕まったらもう色々無理だ。


「だろ?だからもう王まで動いてでミュースの立場が決まっておしまいって訳だ」


「ちなみにオーランドさんはどうしたの?」


「俺は冒険者のがあってるからな。金もらってお終いだな。後、最後に依頼を受けた」


「なんというか色々大変だったんですね……。ミュースさんももうここには来れないと……」


 なんだかんだで、あれだけ好意を向けてくれていた人だ。覚悟も決めていたんだけどこんな幕切れとは想像してなかったよ……。


「他人事みたいだけど、大変なのはお前もだぞ。ユリト」


「え? なんでですか?」


 今の話のどこに俺が大変になる要素があっただろうか? ミュースさんを説得しろとか言われるのか? 逆効果だと思うけど……。


「一斉攻撃されたから、回復手段が足りなくなってな。んで、ユリトからもらったポーション使ったんだが騎士がすっごい驚いててな。特にあの黒い蓋のやつ。回復すげぇみたいじゃねえか。でだ、これ作った人間は誰だ?って話になってな。それが回り回って俺が手紙届けることになったんだよ」


「それって……王都からの呼び出しの可能性があるってこと?」


「それは知らん。てかユリトお前知ってたか? この町に王族がいるとかよ」


「えっと……なんの冗談です? この町がそんな町に見えます?」


「そうなんだがよ。手紙を届ろって言われた時に、王家縁の方なので粗相のないようにって言われたんだよ。多少ビビッて会ったら、別になんともないおっさんだったけどな!」


 ……確か手紙って教会に届けたんだよね? その時名前言ってたよね……。


「アレックさんに渡したんだっけ?」


「そうそう、アレックとかいうおっさんだな!」


 気軽に接してた教会のおじさんは、王家に繋がる人でした。それは貴族っぽいソフィー達が様付けするよ! すっごく納得した瞬間でもあった。納得したけど今後どう接すればいいのさ……。


「ところで第3王子って何歳なんですか?」


「20って言ってたっけかな? きれいな奥さんいたぞ」


「え? それでミュースさんに結婚申し込んだんですか?」


「聞いた話じゃ、政略結婚でやることやってるけどそれだけらしいなぁ。もったいない話だ」


 なんかものすっごくミュースさんの先行きが不安なんですけど……。悪い事が起きませんようにと祈っておくしかできないのかな……。


 

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