5 1人で黙々と仕事をこなします。
まずは、身体強化の魔法を切った。
これは魔力の節約もあるけど、警戒の意味が大きい。気功だけの方が同じ出力でも色々感じやすいのだ。
探知を使いながら、視線を感じないか? 何か怪しい物は見えないか? そんな風に警戒しながら薬草を探していた。
慣れてるから、比較的簡単に見つけられるけどもね。って早速最初の1本を発見したので、空間収納に閉まってある袋を取り出す。
自分用と提出用を最初から分けてあった方が楽だからね。
ポーションでは薬草の根は使わないので、根のギリギリの所で刈り取る。 薬草は年中生えるけどもこうやって根を残して置いた方が継続して取れて便利だ。
探知には何もかからず、警戒していても何も感じない。ただ黙々と1人で薬草を集める。1人だから黙々と集めるしかない。警戒は怠らないけどね。
でも、こうして1人で来るのは始めてだ。今までは必ず父さんが一緒にいてくれた。1人で行動するってけっこう寂しいかもしれない。
それがたとえ、気が抜けてるぞ! と後ろから蹴りを入れてくる父さんだったとしても……。うん、父さんじゃない方がいいね。
友達とか仲間とかと一緒に来たいね。友達も少ないし、仲間はいないけどもね! ……うん、泣きたくなってきた。
元々、同い歳の子らは家を出て行かないとならない立場の人間しかいなかった。だから、冒険者になったり、住み込みの職人見習いになったり、別の町に行ってしまった。
12歳になると、家を継げない、もしくは、継ぐものがない子は、どんどん家を追い出されるのだ。そういう生活習慣だからしょうがない。
ちなみに俺には5歳年上の兄がいたので、本当なら追い出されるはずだった。だけど兄は、俺は最強の冒険者になるからもう家には帰らない! と高らかに宣言して家を出て行ったので、俺はのんびりできるわけだ。
選択授業が戦闘系だったので、友達も戦闘系……つまり冒険者になった。むしろ、俺が1番最後に冒険者になった。
そいつらは上を目指してクエストを頑張ってるって言ってた。学校は1年かけて文字や計算を教えてくれる。剣術などを含めた必須以外は自由に受けることができる。
2年目は、学校は完全に自由登校だ。自由登校というよりも12歳になると色々な仕事を始めさせられるので、その準備というか……暇つぶし? の場所になる。
なので誕生日が早いあいつらパーティは、冒険者稼業に専念してた。
学校はみんな一緒にスタートなのに、冒険者ギルドの登録は誕生日だなんてと俺は愚痴ってた。その分、身体強化と気功とか色々時間が取れたと思えばよかったのかもしれない。
もちろん今思えばだ。どうせ俺はみんなと同じようにはできない。いや、そういう道を最初から進む気はなかったのだから……。
つまり、こうして1人でいるのは自分で選んだ道なのだ! 友達もみんな町の外に出て行ってしまう事が決定的なので友達もいなくなるのは時間の問題だね!
やっぱり泣いていいですか? めんどう見てくれる年上の人達を大事にしよう。アレックさんとか教会の皆さんとかエレナさんとか冒険者ギルドの人たちとかね。誰か忘れてる?気のせいだろ?
ちなみに年下とか1つ上の人達からはバカにされてます。剣術があれじゃあしょうがない。しょうがないんだ……。
こんな風に、俺、寂しい奴、るるる~なんて思っていてもやることはやっている。探知は切れてないし、警戒だってしてる。
薬草だってもう27束集まってるよ! ……俺は、空間収納から袋をもう1枚出して7束をそちらに入れて、残り20束を空間収納の中に戻した。
分けてあった方が楽とかいいながら、すっかり忘れてた。 反省……。
そして俺は見つけてしまった。直径20cmくらいでお椀型のあの魔物だ。俺の探知では感じ取ることはできない。警戒していても見落としてしまう。そんな特殊能力を持って……いるわけではなく、ぶっちゃけ弱すぎてみんなから無視される。キングオブ最弱魔物、人はその名をスライムと呼ぶ!
うん、1人で色々考えてたから変な感じになってる。冷静に考えて落ち着こう。
このスライム、正式名称「草原スライム」と言う。
子供に蹴り飛ばされて死んでしまう弱さだ。だからスライムは弱いと言われる。だけどそうじゃないのだ。スライムというのは種類が多い。
だから弱いのから強いのまでピンキリなのである。人間に例えれば、赤ちゃんもいれば勇者様もいるという感じなのだ。
おとぎ話で、魔物と仲良くなれる能力をもった勇者がもっとも頼りにしてた最強の魔物はスライムだったというお話もあるくらいだ。
そんなお話があるので、子供がスライムを拾ってきて、育てたい! と言って親に、ダメ。っと言われる。そんな犬や猫みたいなことがある。
俺はスライムを拾ってきたことはない。スライムの核は集めているけどもね。 父さんにものすっごい変な顔されたけどもちゃんと理由があるのだ。
それは錬金術師の勘だ。勘じゃんと言うことなかれ、錬金術師のこの手の何かに使えそうじゃないか? というのはれっきとした能力なのだ。
ただ、俺の錬金術師の腕がまだ低いため、何に利用できるのかわからない。アレックさんが言うには、利用できるのがわかればもう少しで作れる証拠なのだと過去の資料が証明してるらしい。
それよりも、アレックさんが手に入れられる情報の中だと、学問式錬金術にはスライムの核の利用方法はないらしい。
見つけ出したら、すごいことになるかもしれないと言ってた。けど、所詮は低レベル商品でしかないと思うんだけどなぁ。
考えて、いろいろな意味でたぶん落ち着いただろう。それではスライムさん、核いただきます。俺はスライムに手を突っ込み核を抜き出した。
スライムはべちゃっと潰れて消えていった。薬草もそこにあるのをついでに採取して30束そろった。
必要数の薬草は揃った。まだ時間はあるので森に近づいてゴブリンが出てきていないか確認しに行くのもいいだろう。今から戻って野ウサギを探すのもいいだろう。
父さんに急かされず、どうするか考えることができるのは1人の特権かもしれない。今はまだ言い訳してないと涙がこぼれそうになる。この気持ちにも慣れていくのだろうか?
一部だけみればカッコいい事言ってるように聞こえるけど、所詮はぼっちの戯言なのだ。 ハハハッ
下らないことを考えていたからだろうか? 探知に反応があった。森の方からだ。反応は2人、この辺りで感じるにしては大きすぎるのでたぶん人間だとは思う。
思うのだが、不人気狩場であり、明らかにこんな所にいて人間の強さじゃない。というか、こっちにまっすぐ歩いて来てるのが見えた。
気功の出力をあげれば誰が来てるか見えるようになるかな? なんて思ってたら、別の何かを感じだ。気功の出力を一気にあげる。
さっきの感じたものがなんだったのかわかった。姿が見えないのに草を踏む音が聞こえたのだ。草原で姿が見えないレベルの隠密行動スキルってなんだよ! と思いながらも見えない何かから距離を取ろうとした。
けど、後ろに飛ぶのはなにやら危険な気がしたので横に向かって全力で走った。
見えない何かが驚く気配を感じた。このまま離脱! と思ったが、驚く気配とは別方向から体当たりをくらってしまい、押し倒された。後ろの危険な気がしたは人がいたのか!?
草原で草の踏む音とか風の感覚とかを感じられないってシャレにならないよ!
この町で人さらいとか聞いたことがない。初クエストでまさかこんなわけのわからない状況に追い込まれるとは思っていなかった。
反応があった時に、逃げに徹すればよかったのだろうか? 別の何かを感じた瞬間にとっさに剣を抜けていれば状況は変わったのではないか?
というか、今ならまだ気功を切って身体強化を全力全開で発動すれば逃げられるんじゃないか? 相手はシーフタイプのはず、可能性は十分にあるはずだ!
体当たりくらって腰にくっつかれているけども、武器を抜いてる感じはない。それならばと実行しようと思ったら、驚いた気配の人と、腰にくっついてる人が姿を見せた。ついでに反応があった2人も走ってこっちに来てたらしくすぐそこに立っていたのだった。