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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
49/86

49 暴走までの猶予は……?

「それでは報告を聞かせてもらえるかの?」


 俺は昨日言われた通りにガリックスさんに報告しに来た。 時間を置いてくれたことで情報の整理が自分でできて良かったと思ってる。


「はい、昨日オーク狩りをしていた時なんですが……」


 ここで俺は昨日の様子をガリックスさんに話した。 プロテクションの使い方を考えて実行してた事。 普段なら警戒行動を取った後は、なにもなかったように動くのに、明らかに急いでその場から逃げようとした事。 その後のその1匹が特殊なのかどうかの確認をした事。 そして、最後にダメージを与えた後に魔力切れ起こした演技をしてもそのまま逃げようとした事を伝えた。


「ふむ……。 まずはユリト君のやってることが相変わらず変な事をしとるということがわかったの」


「変な事って……。 俺自身弱いんですから、こういう小手先の技術は磨けるなら磨いておかないと自分が困るんですよ」


「弱いってどういう事なのだろうかの。 オークをソロで倒しまくる人間に言われたくはないの」


「見解の相違というやつですね」


 俺の力は格下を問答無用で倒せすことはできるだろう。 だけど、1撃が届かない相手と戦った場合、今ならマジックランスをぶつけて倒せない相手なら俺は逃げるしかなくなる。 そもそも強敵と戦う事を想定してない。

 そんな人間が果たして強いのだろうか? 俺のしてるのはただの格下狩りでしかない。


「話がずれたの。 それで、ユリト君と同じような報告が上がってきておる。 バカな新人がオークが自分たちの強さにビビッて逃げただの。 更にバカが深追いして死んだなどの報告がの。 慣れてないとはいえ、情報を集めておればそれが異常な行動だとわかるのだがの……」


「情報は大切だと言っても、冒険者に本を読めってなかなか難しいと思いますよ。 だからこそのアシストなんだろうとは思いますけど」


「人間は忘れる生き物であり、身をもって知らねば気が付かぬ事もある。 仕方がない事だとは思うがの」


 でも、今重要なのはそんな事じゃない。 この持ち込んだ情報がどういう意味を持つのかそれが聞きたいのだ。


「それでガリックスさん、今回のオークの行動について何か知ってるんじゃないですか? 俺の声が聞こえたのか、ランクの高い人が反応してましたよ」


「そうじゃな、話しておくかの。 ユリト君には頼んでおきたいこともあるからの」


「ポーションの追加とかですか?」


「それもあるがの。 答えからいけば、オークの今回の行動は暴走の初期行動の1つだの。 ここで叩き潰せれば暴走を食い止める事もできるはずだが実際潰すための行動を取るのは難しいの」


「暴走の初期行動で、ここで潰せる可能性があるなら潰すべきじゃないんですか?」


 暴走が起これば確実に人は死ぬし、怪我人だって多く出て悪影響が各所にでるはずだ。 だったらやるべきだと思うけど、なんで難しいのかな?


「簡単な事だの、これが暴走に繋がるか本当のところわからないからの。 潰したらそれが本当に暴走の可能性があったかわかん。 暴走してようやくあれが暴走が始まる合図だとわかるわけだの」


「でも、経験則で起こるとわかってるなら、普通やるべきじゃないの?」


「それはそうだが、我々は何者かの」


「……あぁ、冒険者って事ですか」


「そういうことだの」


 そう、俺達は冒険者なのだ。 依頼を受けてこなす。 そして金銭を得る。 暴走した方が確かにお金は多く手に入る。 だけど、それが理由で見逃すわけではないのだ。


「この段階でランクの高い冒険者をオーク程度相手に動かすお金はどこから出すのか。 って事ですか……」


「そうだの。 それもあるし、バカ共が突っ走る可能性や、新人の育成の問題。 そして経験則という曖昧な情報では人を動かしにくいの」


「経験則って曖昧な情報ですかね?」


「それが分かるものと分からんものがおる。 だから、こうして理解できる者を使って裏でコソコソ動くしかできないの」


 裏でコソコソ動くしかないか。 そういう人材の1人に数えてもらえるくらい信頼されてるってことだね。 サブマスターの覚えがいいって事はいいことだよね。


「それで、俺はコソコソ何をすればいいんですか?」


「オーク狩りを積極的に行ってもらいたいの。 また違った動きがあるかもしれんから情報がほしいからの。 それと、ポーションプラスは長期保存ができることがわかったからの。 そっちも無理のない範囲でお願いしたい」


「わかりました。 それで聞きたいんですけど」


「なにかの? あまり報酬は期待しないでほしいのだがの」


「下手に報酬増やされると、知らない人間にひんしゅくかいそうですから気にしないでください。 それじゃなくて、このままだとどれくらいで暴走が起こるかわかりますか?」


「そういえば言っておらんかったの。 この段階だといくら早くても来年以降かの。 まだまだ時間はあるから安心してほしいの」


 もっと緊迫してるかと思ったら、全然そんな事なかった。 今年1年使って準備をすればポーションプラスもだいぶ作れるし、回復量だってあがる。 ポーションに関してならソフィーもある程度作れるようになるはずだ。 だけど、逆にこれだけ余裕がある状態だからこそ、表立って動けないと思えば歯がゆいともいえる。


「オーク狩りとポーションの件お受けしました。 そして、まだ未熟ではありますが、弟子のソフィーもまたギフト錬金術によるポーション製作ができます。 まだ、効果の確認も長期保存ができるかも確認してる最中ですが、微力ながら力になれるかと思います」


 ソフィーが本当に使えるポーションを作れるかどうかはまだわからない。 だけど、あえて宣言する。 前の時は感謝された。 それでも救えなかった命もあるし、命が助かっただけで後の生活に支障がでる人もいる。 だからこそ、今度はもっと救える人は救いたい そのための宣言だ。 だけど、ガリックスさんはやっぱり年長者だった。


「そんなにユリト君が気張る必要はない。 今からそれではもたんわ。 それに君がそこまで背負い込む必要はないの。 皆、覚悟はあるのだから、それを助けるくらいでちょうどよい」


 見抜かれてるね。 それに俺がどうしたって、即死や欠損をどうにかできるわけじゃない。 


「そうですね……。 出来る範囲で無理なくがんばりますね」


「それでいい。 しかし、ユリト君の弟子の子には期待したいの。 ポーションの供給が増えるのはありがたいからの」


「あんまりやると、他から突き上げくらうのでなかなか難しいですけどね。 マリーナさんにでも相談すればいいかなぁと」


「あの方ではない人物に相談するのはいいのかの?」


「義姉さんならこういうの強いみたいですしいいんじゃないでしょうか?」


 そこで、ガリックスさんが顔をしかめる。 マリーナさんがどうという話ではない。 俺が家を出た事を知った時のエレナさんの様子を思い出したのだろうと思う。


「ユリト君を追い出した兄嫁か……。 ユリト君がいいならそれでいいがの。 絶対にエレナ君には言うでないぞ。 あの日の事は悪夢じゃった。 皆、あの夫婦の話を少なくとも冒険者ギルド内で話す事はないの」


 そう、あの日冒険者ギルドの機能がエレナさん1人の為に麻痺しかけたのだ。 普通ならたかが職員1人の態度でそんなことになるのはありえない。 ありえないのにやってしまったのがエレナさんである。

 

 発端はとある冒険者が、俺が夕暮れ亭に泊まっているのをエレナさんに話した事だ。 冒険者からしたらエレナさんとの会話の糸口くらいに程度の認識だったと思う。 

 しかし、それを聞いたエレナさんは家でなにかあって俺が宿に泊まっていると思い、心配のあまり通常業務以外はできなかったらしい。 

 その時点で、多少の滞りが起こった。 だたこれくらいなら、落ち着く時間をつかって処理すれば職員の休憩時間が短くなる程度で問題なくすむはずだった。

 そこに俺がやってきて、心配したエレナさんがあれやこれや聞いてきたため、家を出ることになった事を伝えた。 もちろん、口が悪いとか、人の感情無視ですか? とか思ったのは言わないで、兄夫婦が帰って来たのでってくらいでかなり軽く受け入れやすいように説明したつもりだった。 事実隣で聞いてた職員さんも、それは大変だったねー。 これから大変だ。 くらいの感想しか言わなかった。

 だがしかし、相手はエレナさんである。 俺の事をよく知ってるし、俺以上に俺を知ってると豪語する人だ。 あえて軽く言ったのがばれた。 それで追及されまくった。 

 でも、さすがにここで悪口を言うとどんな事になるかわからない。 だから、本当は出て行きたくなかったけど、兄さんが帰って来たんだから仕方がないよね? くらいに留めた。 留めたけど、エレナさんがブチ切れた。

 それからが大変だった。 抗議に行くとか、私が追い出してやるとか、そもそも帰ってくるなとかすごい事になった。 しかも裏で話そうと提案しても、まったく聞く耳をもってくれなかった。

 しかも、最悪のタイミングで冒険者が発した言葉のせいで更に怒りは燃え上がる。 


「エレナ、何をそんなに怒っているんだい? それくらいいくらでもある話だろ? きれいな君にそんな顔は似合わないよ。 それにロミットはそこそこいい男だよ。 僕ほどではないけどね」


 いつぞやの魔道具で絡んできた冒険者だった。 こいつはエレナさんを怒らせる才能は素晴らしいものがある。

 もうそこから先は詳しい事は覚えていない。 ただひたすらエレナさんをなだめるのに必死だった。 いつの間にやら次の日にデートの約束がされてたりしたが、そんなことは些細な事だ。 ようやく落ち着いたように見えたエレナさんに俺達は一安心したのだった。

 だったのだが、くすぶる怒りは抑えきれなかったらしくその日の冒険者ギルドはとてつもない緊張感に包まれたという。 

 職員は怯えながら仕事をして、ランクの低い冒険者の中には入り口に入ってからすぐに逃げ出す者もいたという。 うん、なんか本当に申し訳なかった……。


「あの日は大変でした……」


 思い出した俺は遠くを見る。 ガリックスさんもつられる。


「本当だの……。 ユリト君、本当に気を付けておくれよ。 本当に、気を付けておくれ……」


 変な空気で今日の報告は終わった。 それはともかく、たぶん裏でコソコソ程度ではきっと暴走を止める事は出来ないんだと思う。 

 ならば、出来る限りの準備をしておかないとね!  

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