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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
47/86

47 再会したけど……

 闇の月、無の週、光の日


 ソフィー達との生活が始まって2週間と少したった。 2週間も経つと生活の流れが大体できてきた。 

 俺は基本的に以前と同じような生活に戻った。 朝と夜のポーション作りの時にソフィーが一緒にいるくらいだ。 

 ソフィーは連日教会に通っては魔法の指導を受けている。 教会側としても光属性持ちはいてくれると助かるためジュリさん含め積極的に教えてくれてる。 その代わりに治癒院の手伝いなどもしているそうだ。 

 シーラはメイドとしての仕事をガンガンこなしてる。 なんか日に日に家がきれいになってる気がする。 だけどまだ、新しい人は探してる最中で見つからないみたいだった。

 知恵の輪に関しても今度は忘れずに報告した。 特に問題になるようなものでもなさそうだったので好きにしていいと言われてる。 ちなみにこの知恵の輪自体はアレックさんも初見の物だった。





 オーク狩りも終わり、町に帰って来てから1つの気配が気になった。 他に比べて明らかにその気配は薄く捉えずらく、後ろからついてくるのだ。 まるでなにかの機会を狙っているかのように……。 

 俺はわざと人通りの少ない道を歩いた。 そして、その気配と俺との間に人がおらず、気配と俺の線上に人が入ってくる可能性がほぼないと思える状況でその気配は一気に距離を詰めてきた。 

 俺はそれを確認して後ろからの衝撃を転ばないように気を付けつつ受け入れた。


「お久しぶりですね。 ミュースさん」


「ばれてる」


 そう、後ろから来ていた気になる気配。 それはもう1年ぶりにもなるミュースさんだった。 しかし、あの気配に気が付けるようになるとは我ながら成長したのかな? 

 そんな事を考えてる間もミュースさんはギュッと抱き付きながら頭をぐりぐりこすりつけてた。


「ミュースさん。 久しぶりなんだから正面から挨拶しましょうよ」


「ん」


 それでも、しばらくぐりぐりしてから前に回って来た。


「久しぶり、新しい女ができたって聞いた」


「いきなりそうきますか!?」


 確かに今はソフィーとシーラと一緒に暮らしてるけど、いきなりそこを誤解を与える表現で投げつけられるとは思ってもみなかった。


「お店に行ったら、家を出て女と暮らしてるって聞いた」


「確かに家は出てますし、一緒に暮らしてるのは確かですけど、そういうのじゃないですよ」


「ん、私が1番。 他は2番。 しゃがんで」


 相変わらず小さいけど俺に対してだけ押しが強い。 大人しくしゃがむと後ろから首に手を回して抱き付いてきた。 しっかり抱き付いたのを確認してから立ち上がると、ミュースさんの不満そうな声が聞こえた。


「むぅ、また大きくなった。 これはよくない」


「よくないって、俺はまだまだ伸び盛りですよ? ここで身長が止まる方がよくないです」


「仕方がないから諦める。 じゃ行く」


「甘いものでいいですか?」


「ん」


 俺は大分久しぶりの感触と共に歩き出した。 いや……久しぶりではあるけど身長差がまた開いたからそういう意味では感触は変わったのかもしれない。 

 しかし……やっぱりこれ目立つよね? さっきからだいぶ見られてる。 エレナさんの時とは違う妙な視線を感じる。 そういう視線を無視してお店に入って席に着く。


「それでミュースさん、今までどうしてたんですか?」


「外回りの依頼ばっかりでこっちに来られなかった」


 商隊の護衛は大まかに2つパターンがある。 1つは王都から伸びる道を行ったり来たりするパターン。 そして2つ目が王都から伸びる道以外の町と町を繋ぐ道を進むパターンでこれの事を外回りという。 

 俺のいる町は1つめのパターンの商隊しか通らない。 前に聞いたことがあったが、外回りはハマると中々抜け出せなくなるみたいだ。 ミュースさん達もおそらくハマったんだと思う。


「ハマったんですね」


「ん、完璧にハマった。 迷惑」


「それでようやく抜け出せた訳ですね」


「違う。 王都に行くために3週間休んだ」


「王都に何か用事があるんですか?」


「解散するのに都合がいい」


 ……え? 今なんて言った? 解散するって言った? もしかして……誰か……。 俺の中に嫌な予想が走る。 こういうのは体験したくないんだけどな……


「あ、あのミュースさん……。 スコットさん達は?」


「明日出発するための準備してる」


 あれ? あっさりしてる? もしかして勘違いか? ちゃんと聞いた方がよさそうだね。


「ちなみになんで解散するんですか?」


「スコットとミリアが結婚する」


 そっちか! 安心したよ! というかあの2人結婚するのか……。


「そうだったんですか。 誰かが死んだとかじゃなくて良かったですよ。 それにしても結婚ですか。 お祝い言わなきゃいけませんね」


「無理。 忙しくてそれどころじゃない」


「……ミュースさんは?」


「ユリトに会うので忙しい」


「仕事押し付けるのはどうかと思うのですけど……」


「町中じゃ私はあんまり役に立たない。 この町なら余計に無理」


「この町なら余計に無理な理由は?」


「ユリトに会わないとかありえない」


 ……あぁ、うん、ド直球で投げ込んでくるよね。 かなり照れる。 なんて言えばいいんだろうね。


「えっと……そうですか……。 それでその……ミュースさんは解散したらどうするんですか?」


「自由になった私がユリトの所に来ないとかありえない」


 ですよねー。 そんな気がしてました。 今日帰ったら、ソフィーとシーラにちゃんと伝えておかないとな……。 でも、なんて言えばいいんだ? うぅ、本当になんて言えばいいのやら……。


「部屋は大丈夫。 ユリトの部屋がある」


「ちゃんと別に部屋用意しますから! 部屋は十分にあまっておりますから!」


「一緒はダメ?」


 ジーとこっちは見てくるミュースさん。 ここはビシ! と言わないといけないとは思うのだけど言葉が出てこない! いや待て、今口を開くとダメじゃないですとか言いそうな自分が怖い! ここは黙ってるしかない気がしてきた。 でも、無言だと相手が都合よくとる場合が多い気がする。 どうすれば!?


「冗談」


「へ?」


「冗談。 安心して」


「あ、あぁ、冗談ですか。 驚かせないでください……」


 そうだよね。 女性だもの常に同じ部屋とかいられないよね! ハハハ!


「いつでも行ける。 問題ない」


「あぁ、なるほど」


 納得した。 いつでも行き来できるなら同室である必要はないという事ですね。 遠慮しなければ入り放題だもんね。 問題が解決してないじゃん! こうして俺は流されていくんですね。


「ユリト」


「なんですか?」


「食べ終わった」


「え?」


 テーブルの上を見ると確かに2つの空いたお皿があった。 いったいいつの間に店員さんは来て置いていったのだろうか? そして俺が注文した分はどこにいったのだろうか?


「2つともおいしかった」


「俺も食べたかったです」


「それは残念」


 俺のささやかな抵抗はあっけなく無視された。 いやまぁ……また今度食べにこよう。


「ユリト」


「なんですか?」


「もう行かないといけない」


「え? 時間ないんですか?」


「ん、今回の依頼主がすごいめんどくさい。 見送りに来てくれても相手できないから来なくていい」


「そうなんですか……。 名残惜しいですけどまた会えますもんね。 ってスコットさん達には会えないのか。 ちゃんとおめでとうございますって言いたかったんだけどなぁ」


「伝えておく。 元気でいてね」


「はい、ミュースさんもお元気で。 皆さんにもよろしく伝えてください。 あぁそうだ。 手持ちこんなもんしかないですけど渡しておきますね」


 俺は薬草をいれておく袋を取り出して、その中に手持ちのポーションとポーションプラスを全部つっこんだ。 祝いの品としてはイマイチだけど他に出せるものがない。


「ん、ありがと。 みんなに渡しておく。 支払いは私がする」 


 こうして、久しぶりの再会は終わった。 なんとも中途半端な形で終わってしまったし、スコットさん達にも挨拶ができなかった。 お世話になったしちゃんとしたお祝いの品も送りたかったんだけどなぁ……。 

 ただ、冒険者なんていつ命を落とすかわからない職業だ。 それがちゃんと結婚して家庭を作るんだから2人には幸せになってほしいなって思った。

 俺はミュースさんの事をどう説明しよかと頭を悩ませながら家路についた。

 しばらくして、オーランドさんの事をまったく思い出してなかった事に気が付いて心の中で謝った。 ごめんなさいオーランドさん。

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