46 衝撃の事実
「今日は3人で来たのか。 遠慮せずに座るといいよ」
アレックさんに言われたのでいつも通りに座ったけど、なんとなく2人は緊張してる気がする。 王都からこっちに来るまで一緒だったはずなのにまだ慣れないのだろうか?
「それで、ソフィア。 こっちに来たばかりではあるけどどうかな?」
「は、はい! あのですね……」
ソフィーは、家の感想や、ギフト錬金術を初めて使った時の事、などなどをかんだりつっかえたりしながらアレックさんに伝えていく。
だけどこっちにも話は聞こえる訳で、お師匠様がどうとかこうとか言われると恥ずかしくて仕方がない。
「楽しそうでなによりだよ。 シーラから報告することは?」
「特にございません」
ないの? 本当にないの? 自分で全部こなせてるし、こなし続ける気なのかな……。 1人でこなすのって大変なはずなんだけどなぁ……。
「では、ユリト君はどうかな?」
「詳しい事はソフィーが話してくれたんで要望をいくつかですね。
まずは、出来る事ならソフィーに確認の儀をしてもらってその情報がみたいです。
それと、これから錬金術を使っていくにあたって、魔力把握を最低限覚えて、できれば魔力制御が使えるようになってほしいので、アレックさんが教えてくれるか、もしくは教えてくれる人の紹介をしてほしいです。
後は、俺は冒険者の仕事もしたいですし、ソフィーの相手ができたり、シーラの仕事を手伝える人材がほしいです。
シーラの仕事に文句はまったくないのですが、休みなしというのもどうかと思いますし、仕事量も多い。 俺やソフィーを優先して仕事ができないこともあると思いますから、やっぱり今のままだといずれ問題が出て来るかと思います」
「また一気にきたね……。 確認の儀に関してはソフィアとシーラがどう思うかだね」
「私は見てもらってもいいと思いますです」
「私としてはやめていただきたいと思いますが、今後の事を考えれば見ていただいた方がいいのでしょうね」
普通、そういう情報って他人には見せないしね。 というかむしろ、最初以外受けない人が多いけどね。 でも、これで確認できるけど……実は確認する必要が本当に必要なのか? と思わないでもない。
見たところで何かできるかわからないし、アレックさんだけ知ってれば実はいいんじゃない? とも思う。 だけど、俺が知ってる事で役に立つことが……あるのかなぁ?
「教えることに関してはそうだね……。 シーラに送り迎えをしてもらって昼食後に教会へ来て、ジュリにみてもらうようにしようか」
「ジュリさんですか?」
俺のジュリさんのイメージって優しいお姉さんだけど掃除してる印象しかないんだけど……。
「これに関してはジュリが適任だろう。 何せ、魔力把握と制御の成果の確認をするために、練習していた1人だからね」
「そうだったんですか……いつ会っても掃除してるイメージしかなかったのに……」
「ただ待ってるだけじゃなんだからと掃除をしてたに過ぎないよ。 もう見習いから外さないといけないし、色々やってるんだよ」
「色々やってるところに仕事増やして大丈夫なんですか?」
「問題ないよ。 むしろ、これからの事を考えるなら、1から人に教える経験を積めるのはいいことだろうね」
「まぁそれならいいですけど……」
さっきから俺とアレックさんしか話をしてないけど、シーラは元々口を出してくることが少ないし、ソフィーはやっぱり緊張してるらしく、話さないでいいなら黙っていたいみたいだ。
さっき話してた時妙に早くしゃべってる気がしたけど、早く話終わりたかったんだな……。
「それであとは人を雇いたいということだね。 んーこれ以上私から金銭を出すのはちょっと厳しいかな」
「それなら俺の方でお金は出してもいいから雇いたいですね。 別に住み込みじゃなくてもいいですしね」
「ふむ……。 私もシーラ1人ではきついとは思っていたんだ。 こっちで見繕っておくから頼むよ。 たぶん、月々金貨5枚程度までで抑えられるようにしよう」
「え……。 そんなにお金かかるんですか?」
金貨10枚とかでも払えない事はない。 でも、多くても金貨4枚かからないだろうと思っていたからびっくりした。
「普通に雇うだけならもう少し抑える事はできるが、やはりそれなりに信頼できる人間となるとこれくらいはかかるさ。 ……足が出てもよろしく頼むよ」
「わ、わかりました」
マリーナさんに感謝だよ! 金銭面がなんかこの分だとやばいことになりそうだよ! 冒険者仕事もしっかりやって稼がないとね。
「では、しばらくはシーラに任せることになるけどよろしく頼むよ。 こちらも早く見つけられるように努力しよう。 それではソフィアの確認の儀をしようか」
「は、はいです!」
突然話を振られたので勢いよく立ち上がった。 お嬢様なんだよね? どれくらいのお嬢様なのかは知らないけど、それにしてもこのアレックさんへの態度……。 本当はどれだけ大物なんだろうか? 俺からするとただの教会のおじさんなんだけどね。 そんな事を考えてるうちにソフィーの確認の儀が終わったみたいだ。
「ソフィア、これが君の能力を書き出したものだ。 見せていいなら君からユリト君に見せなさい」
「はいです。 お師匠様どうぞ」
俺はもらった紙を見る。 なになに
身体能力D 魔力C
ギフト 光属性、錬金術
スキル 基礎魔法、清浄、空間収納、剣術、プロテクション、礼儀作法
剣術がある……。 いや、それは置いておこう。 礼儀作法はまぁわかる。 いざという時はきっと切り替えてくれるのだろう。 そしてプロテクション。 なんだこれ?
「アレックさん……プロテクションって何ですか?」
「防御の無属性魔法だね。 そういえばユリト君は覚えてなかったね。 普通に使うとほとんど使えない魔法だから覚えてる方が珍しいんじゃないかな?」
「そうなんですか?」
「物理、魔法両方に対応できると聞けば聞こえはいいが、消費魔力の割に弱くてあっという間に破られるし、維持し続けるのにも魔力をけっこう使うからね」
「なんでそんな魔法ソフィーは覚えてるの?」
「一瞬の隙を作れれば助けられるから、この魔法でその一瞬を稼げ。 って言われて覚えたです」
その状況って危ない状況って事だよね? 命を狙われる立場だったってこと? あれ? こんなところにいて大丈夫なのだろうか?
「なんとなくユリト君が勘違いしてる気がするね。 ソフィアその魔法はレベル上げに行く前に教わったという事でいいのかな?」
「はいです。 安全は優先してあるけども絶対じゃないって言ってたです」
レベル上げに行く。 これの意味はそう多くない。 いや、意味としてはただ単にレベル上げに行くってだけなんだけど、それをできる人間はいったいどういう立場なのかというのが分かってしまう訳だ。 最低でも大商人の娘だろうけど、そんなんじゃきかないですよね?
「それと、私が聞いた話が本当だとするならばユリト君よりはるかにレベル上がってると思うよ。 シーラも同行していたはずだから同じくらい上がっているね」
「はい、私もお供させていただきましたので、同じようにあがっています」
絶望した! 絶望したよ! 実は家の中最弱は俺なのか! もちろんレベルだけがすべてじゃない。 そんなんだったら俺がオークに勝てるはずがない。
でも、基礎能力がまるっきり変わるのだ。 しかもソフィーと俺は身体能力は同じランクだ。 となれば、気功や身体強化を使わなければ基礎能力では負けてる。 地道な鍛錬で強くなっても、レベルが上がっただけであっという間に並ばれるのだ。 だから絶対に負けてる。 そんな状態で連れまわされれば、俺の方が疲れるのは当たり前じゃないか!
装備もあるって言ってたし、魔力総量も俺よりあるんじゃないだろうか? 回復量はまず間違いなく俺の方が多いだろうけど、総量は負けそうな気がするよ……。
「お師匠様? どうしたのです?」
「あーいや、世の中の無常を噛みしめてた。 でも、そんなレベルあげってけっこう大変だったでしょ?」
レベルを上げるという事はどこかに遠征しているはずなのだ。 それも今行ったとしても11歳の女の子。 行ったのはもっと前になるはずで、本人も護衛も大変だっただろうなぁ。
「修練場に行っただけですからそんなでもないです。 私たちは20層まで潜ったのですよ」
誇らしそうにソフィーは言うけど、聞いてしまった俺は後悔する事になった。 色々なところを歩いて回る冒険者の人に聞いたことがある。 貴族は色々と肉体的にも精神的にも大変なので、若いうちからレベル上げをして体を強化するのだ。
その中でも上位貴族以上が専用で使える特殊ダンジョンが存在していて、そこのことを修練場と呼ぶって言ってた。 その人は実際に護衛でその中に入ったらしいけど、すごく効率よく一定のレベルまで上げられるらしい。
そんなダンジョンを使えるって……知りたくもない情報だったよ。
「もしかしなくても、ユリト君は修練場の事聞いたことがあるのかな?」
アレックさんに問いかけられ、一瞬どう答えるか迷ってしまった。 これを知ってるという事はソフィーが上位貴族であったことがわかった訳で、それに伴ってアレックさんもその立場の人間が様付けする立場なのだ。 でも、答えに迷った段階で俺とアレックさんの仲じゃ何を考えたかばれてる様なものなので素直に言った。
「……前に修練場に護衛で入ったことがあるっていう冒険者に話を聞いたことがあります」
「そうか……でも、気にしないでほしい。 私とユリト君の仲じゃないか」
「今更態度変えるとか無理ですからやりませんけど、知らなくていい事を知ったので面倒が起らないといいなぁと思う次第です」
「その辺りはこちらでなんとかするから気にしないでいいよ。 今まで通りね」
今まで通りね……。 つまり知らないうちに面倒事に巻き込まれそうになってたのを知らないうちに処理してたってことでしょうか? 政治? の世界は怖いです。 誘拐未遂とかはもろに巻き込まれてましたけどね!
「あーところでソフィー。 プロテクションを1回使ってみてほしいな」
とりあえず、このままだと空気がなんか嫌な感じなので方向転換してみることにした。 無属性魔法なら俺でも覚えられるしね。
「はいです。 ふー……。 プロテクション!」
発動したプロテクションは体全面を守れるくらいの大きさだった。 ソフィーに断ってから殴ってみると多少の抵抗と共にあっさり壊れた。
「これで一瞬の隙作れるのか?」
「これで十分ってその人は言ってたですよ」
あの微妙な抵抗だけで十分とかどんだけだ……。 とりあえず俺も試してみる。 とりあえずさっきのソフィーのプロテクションのマネをすればいいね。
「プロテクション」
使った感じはマジックアローと同じくらいの消費かな? 使い方次第では化けるかもしれないけど、耐久力に問題があるからなぁ……。
「お師匠様? あの使えてます?」
「ん? 使えるけどどうかした?」
俺はとりあえず、何度か出したり消したりして感覚を掴んでいた。 それを見てさらにソフィーの表情が変わる。 シーラもなにやら驚いてるみたいだ。 アレックさんはやれやれって感じだけどなんなんだろうね。
「いやあの……どうしました?」
「お師匠様! そのままポンポン使ってるのは普通じゃないです! そんなことできる人初めて見ました!」
「実際ユリト君の専売特許だからね。 その魔法発動速度と無詠唱、それに並列展開と改変はね」
「それもですが、いくら無属性魔法とはいえ1度見ただけで覚えてしまうのも異常なのですが……」
「そうは言っても無属性ですし、限界がありますからねー。 とりあえずアレックさん、今から出すプロテクション殴ってください」
そう言って俺が出したプロテクションは手のひらよりも少し大きいくらいのサイズだ。 もう2人は驚いて固まってる。
「ずいぶんと小さく展開できたものだね。 それではさっそく、てい! ……ユリト君、とても痛いのだが……」
「だから、アレックさんにやらせたんじゃないですか。 女性にそんなことさせるわけにはいかないでしょ?」
その女性2人はさらに固まっている。 なにせプロテクションが割れなかったのだ。 これだけの耐久性があれば不意打ちで色々使えそうだね。
「あの……お師匠様? あの硬さはなんです? プロテクションなのです?」
「うん、とりあえず小さくして密度を上げてみた。 大きさ、魔力の込め具合、展開位置、これらをいじれば面白い使い方もできそうだね」
「普通そんなことできないです……」
「まぁユリト君だからね。 そういうものだと思っておいた方がいいよ」
「なるほど! お師匠様だからなんですね!」
「そう納得させていただきます」
あれ? なんかまた俺の存在が変に理解された気がする……。 ただ異議を言えるような空気ではないのが残念でならない。
「それでは、今日はこれくらいかな? この後少し用事があって準備をしておきたいんだよ。 ジュリには言っておくから明日からソフィアはこっちに習いに来るといいよ」
「あ、そうなんですか? それなら失礼しますね」
「失礼しますです」
「失礼いたしました」
そうして今日のアレックさんとの時間は終わった。 なんか色々知らなくていい事をたくさん知ってしまった気がする時間だったよ……。
まぁ、新しい魔法覚えたしいいよね! ……あ、知恵の輪の話するの忘れた。 また今度にでもしようか。




