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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
44/86

44 ソフィーとお買い物

「おっちゃん、串2本ちょうだい」


「あいよ」


「じゃあこれ、大銅貨4枚ね」


「おう、またこい」


 俺達は買い物に行く途中にあった出店の臭いに惹かれて思わず串焼きを買ってしまった。 ソフィーが興味津々って感じだったのも自制できない要因になっていた。


「ほらソフィー1本どうぞ」


「あ、ありがとうです」


 ソフィーに串を渡して俺はパクパク食べる。 うん、美味しいね。 

 ソフィーに味の感想でも聞いてみようかと思って見るとなにか戸惑っているようだった。


「どうかした?」


「あのあの、このまま歩きながら食べるです?」


「そうだけど……。 それがどうかした?」


「い、いえ! こんな風に食べるのは初めてなのです。 ではいただきますです」


 確かにお嬢様じゃ食べながら歩くなんてしないか。 そもそも町に出るのだって初めてなわけだしな……。 そういう面倒も見てあげるべきなのかなぁ? でも、それはお師匠様としての仕事ではないけど、同居人ならそれくらいはした方がいいのかな? その辺の事も考えておこう。


「お師匠様! これおいしいですね!」


「そうだね」


 食べたり、見たり、お金をおろして目的の道具屋さんまで来た。 樽を買わないとね。 

 朝夜だけなら俺が用意してもいいんだけど、魔力水を1から作るには最低でも1週間は魔石をつけておかないといけない。 品質を上げたいなら長期間つけておく必要がある。 

 だから今のうちから用意しておいた方がいざ使おうとした時に使えるから用意しておこうと思ったのだ。


「お姉さん、こんにちは」


「おやユリト君、こんにちは。 今日は女連れでなんのようだい?」


「こっちの子の見学がてらね。 引っ越した家に魔力水用の樽買いに来たんだけどいい感じのあるかな?」


「なんだい、家を出たから自分で人を雇って店でも出す気かい」


 くくくっと笑いながらそんな事を言う。 まぁ冗談だろうけどね。


「そんなつもりはまったくないですよ。 ソフィーのポーション製作用に必要だから買いに来たんだよ」


「なるほどなるほど、それじゃでかいのじゃなくていいね。 小さくてもよさそうだけど……これくらいでどうだい?」


 そう言ってポンポンと叩かれたのは大体70cmくらいの高さの樽だった。 ちょっと大きい気がするけど……これくらいの大きさがあれば気が付かないで蹴っ飛ばすとかはしないですむかな。


「ん~じゃあ、それください」


「あいよ。 大銀貨2枚ね。 それで持ち帰る? それとも運ぶかい?」


 俺は大銀貨2枚を渡して、その樽を空間収納に入れてみると入った。 けっこう容量増えたもんだなぁ……。


「空間収納に入ったみたいなんで持ち帰りで」


「はいはい、まいどありー」


 これで樽は買えた。 次は魔石だね。 実家にも魔石を卸してるお店で頼めばいいよね。 俺はよく知ってるばあちゃんの魔石屋へと向かった。 

 ちなみにソフィーは道具屋の中ではキョロキョロしながら俺の後ろにずっとついてた。 どうすればいいのかわからないのかな? もっと自由にしていいと思うけど、経験がないんじゃ無理かな。 

 キョロキョロしてるソフィーを連れて魔石屋に到着した。


「ばあちゃん、こんにちは」


「ユリ坊かい。 今日はどうしたんじゃ」


「引っ越した家の方に魔力水用の魔石ほしいんだけど頼める?」


「魔力水用じゃと1か月契約、ゴブリン20を週2、運搬込みで金貨1枚と大銀貨6枚じゃ」


 俺は樽をその場に出した。


「この大きさなんだけど、それでいいの?」


「知らん。 昔から魔力水を作る時はゴブリン20を週2と決まってるんじゃ。 それ以外で販売したことなどないのじゃ」


「それじゃ、時々個数を調整することになるかもしれないけど大丈夫?」


「それくらいは平気じゃ。 支払いはどうするんじゃ?」


「色々面倒だから前払いの1年契約、その後は時期が近づいたらその都度更新でいい?」


「良い良い。 1年契約の前払いじゃから、おまけで金貨11枚じゃ」


「じゃあこれ、確認して」


「うむうむ、確かに。 すぐに家に届けさせるかい?」


「今日は自分で持って帰るよ。 だから次からお願いね」


「そうかい。 少し待つのじゃ」


 そう言って、ばあちゃんは奥へと行って魔石を取りに行った。


「お師匠様。 魔力水を作るのにはそんなにたくさん魔石が必要なのです?」


「ゴブリンの魔石は4日も水につけておくと溶けてなくなるんだよ。 だから週2で届けてもらって、水とゴブリンの魔石を継ぎ足しながらやっていくんだよ」


「大変なのです……」


「実際のポーション作りはもっと大変だよ。 薬草と魔力水だけじゃなくて、作るための道具も必要だし、できたポーションをいれる瓶だって必要なんだから」


 ソフィーとそんな話をしてるとばあちゃんが袋を持って戻って来た。


「ほらこれじゃ、またくるといい」


 そういって袋を樽に投げ込んだ。 その扱いはないと思うけど、別に割れるものでもないし、割れても問題ないからいいか。


「ばあちゃん、投げるのはどうかと思うけどね……。 それじゃまたね」


「お、おじゃましましたです」


 ちょこっとだけ文句を言って俺は樽をしまって2人で店を出た。

  ぶらぶらするのもいいけど、どうしようかな? ってそうだ。 シーラにお昼どうするか言ってないな……。


「ソフィー、シーラにお昼どうするか言ってこなかったから帰ろうか。 また後で出てきてもいいし」


「そうですね。 お昼食べたらまた連れてきてくれるです?」


「それがご希望ならね」


「ありがとうございますです!」


 俺達はこのまま家に帰るつもりだった。 だったんだけど、なぜかソフィーが武器屋の前で止まった。


「どうしたの?」


「えっと、あの……見ちゃダメですか……?」


「いいけど……武器に興味あるの?」


「剣は持って来れなかったので、できれば1本ほしいです」


「剣……使えるんだ……」


「護身用程度です」


 護身できればいいと思います。 俺みたいに振るだけじゃないだろうしな……。 でも、ここで買うかどうかはともかくとして見ていく分にはいいかな。


「とりあえず見るだけ見ておこうか。 すぐに必要になるわけじゃないしね」


「素振り用はほしいのです……」


「それじゃ適当に見繕ってもらおうか」


「はいです!」


 剣を買う事にした俺達はその武器屋に入った。 で、店員さんの1人を捕まえてソフィーの剣を一緒にみてもらっている。 俺はさっきから気になってる事があるのでそれを優先させてもらう事にした。


「おじさん、ここで働いてるの?」


 このおじさん、名前は…………。 ごめん、覚えてないです。 元警備隊の人で、あのゴブリンの時のケガが原因でやめたと思ったけど……確かそうだったよね?


「おう、ここが俺の実家でな。 弟が鍛冶師やってるんだよ。 さすがに40近くで無職になると独り身でもため込んでた金が底をつきそうでな。 野垂れ死ぬかなぁなんて思ってたんだが、弟が助けてくれてな。 いや、ほんと助かったよ」


「兄弟仲いいんですね」


「まあな! そういやユリトんとこの兄貴が戻って来たんだろ? なんか評判いいみたいじゃないか」


 は? え? 今なんて言った? 評判がいいだと? 何それ? え? どうゆうこと?


「おい、ユリト。 なんかすっごい変な顔してるけどどうした?」


「え? だってあの兄さんだよね? 評判がいいとかありえないと思うんだけど……」


「そうか? お前の兄貴は警備隊に入ったんだろ。 で、たまに俺に会いに来るやつらがいるんだけど、そいつらからは評判いいぞ。 あぁでも、父親のリックとは折り合いが悪いって言ってたな」


「評判がいいって、どんな風にいいのか聞いてもいい?」


 正直わからない。 帰って来た時はあんなんだったし、その後もたまに会うと色々言われるし……。 1人だけバカみたいに高い金もらってるみたいじゃないか。 いいご身分だな。 とかさ……。


「少し言葉遣いとかで生意気そうな感じはあるけど、先輩の言う事はちゃんと聞くし、実力も歳の割にはしっかりしてる。 なんだかんだで周りに気を使ってるから、少し生意気なところがなんか可愛がってやりたくなるんだとか言ってたぞ」


 ……誰の話をしてるんだろうか? 気を使う? 言う事はちゃんと聞く? えっと、あれ?


「顔に思いっきり誰の話してるの? って書いてあるぞ。 ユリトからするとそんなに信じられないか?」


「うん、まったく信じられない」


「俺も会った事があるわけじゃないからなんともいえんがなぁ……。 そうすると、ユリトにだけそういう態度なのかもしれん」


「俺だけにそういう態度って言うけど、あの態度をする人間が他の人に評判になるくらいの態度を人を選んでできるとは到底思えないんだけど……」


「ん~、予想でしかないがユリトが弟だから嫌いなのかもしれないなぁ」


 弟だから嫌い? どういう事だろう? 俺、兄さんになんかしたかな……。 って考えても小さいころから嫌われてたら、理由なんてまったく思いつかない。


「たぶん小さい頃から、なんとなくの記憶でも態度悪いんだけど、俺がなにかやらかしたって事なのかな?」


「ユリトが悪いってわけじゃないな。 ただ、ユリトが生まれて自分だけに向けられてたものが減った。 それにリックがユリトは魔力切れでよく倒れるって言ってたから、余計に両親がお前の事気にかけてたんだろ。 だから、両親とられたみたいで嫌だったんだろうよ。 で、それがでっかくなっても残ってて今に至るって事かね」


「そういうものなの? 俺にはよくわからないけど……」


「俺は周りが騒がしかったからさほど感じなかったが、たまに寂しいとは思ったもんだ。 いや、小さい頃の事で色々忘れてるのに覚えてるってことは案外けっこう気にしてたのかもしれんな」


「そうだとしても、兄さんにだけは歩み寄るってしたくないんだけど……」


「ユリトも相当言われたみたいだな……。 まぁ時間が解決する事もあるかもしれん。 ただまぁ、人からあんまり兄貴の事聞かない方が良さそうだな。 意外と周りの評判は良さそうだしな」


「うん」


 兄さんの悪口ならまだしも、いい話なんぞ聞きたくもない。 ……俺、こんなに兄さんの事嫌いだったんだなぁと再確認した気がした。


「まぁあれだ。 なんか買え!」


 ものすごい話の転換だ。 しかも買えって……。 俺がそんなにひどい顔してたのかな? 


「買うのはソフィーの分があるから遠慮しとくよ。 でも、向こうもなんか時間かかりそうだし見て来るね」


 一通り見て心惹かれたものがあった。 それはメイスだ。 ぶっちゃけ武器として見てない。 この金属の塊がほしい。 むしろ、鉄の塊がほしい。


「おじさん、お願いがあるんだけど」


「ん? お願いってのは何だ?」


「鉄のインゴット売って」


「うちは、材料売ってる訳じゃないんだがなぁ」


「ダメなら諦めるけど、ダメ?」


「ちょっと待ってろ。 聞いてくる」


 おじさんが裏に聞きに行ってくれた。 おじさんいい人だね! 普通材料売ってなんて言う客いないだろうしな。


「ユリト……これっだ!」


 そういうとおじさんが5本の鉄のインゴットを持って来た。 その5本だけでどれだけの重さがあるのさ……。


「ほしい数とか言ってないんだけど……。 それにそんな風に持って来てケガ大丈夫なの?」


「平気だ平気。 で5本くらいならくれてやる。 って弟が言っててな」


「いいの? 助かるけどさ」


「追加でほしい時は、いつでも声をかけてくれって言ってたぞ。 もちろん、次からは金とるけどな。 気にせず持ってけ持ってけ」


「うん、ありがとう」


「お師匠様! これほしいです!」


 そういってソフィーが持って来た剣だが、なんかこう……高そうですよ?


「ちなみにおじさん、これいくら?」


 ソフィーを案内してた店員さんが困った顔してるのが、嫌な予感を加速させる。


「あー……金貨15枚だっけか?」


 向こうの店員さんが頷いてる。 うぉまじか……。


「お師匠様……ダメですか? 前に使ってた剣に似ててとっても使いやすそうです!」


 そういって見上げてくるソフィー。 しかも目がキラキラしてる。 お嬢様の金銭感覚がわからん! 

 ってちょっと待て。 そもそもお金の価値をわかっているのかどうかも怪しいのではないのだろうか? そう考えると……俺の手に負えない気がしてきた。 よし、アレックさんに明日相談だ! そんな事より目の前の事だ。


「あーわかった。 これ買おうか。 ただ、これから金貨を使うような買い物はしないでね。 まぁそれでも必要な時は出すけどね」


「ありがとうございますです!」


 最初以外ちゃんと聞こえていたのか心配になった。 服はあるって言ってたけど、防具ほしいとか装飾品ほしいとか言わないよね? まさかとは思うけど食料品にものすごくお金かけてたりしないよね? そういうお金はアレックからもらってるって言ってたし……その中でやりくりしてるはずだよね!


「ユリト……その大丈夫か?」


「お金はあるから大丈夫。 ……はい、これね。 これからの事は色々心配になってきた」


「強く生きろよ」


 おじさんにそんな風に慰められた。 本当に強く生きなきゃいけないよね……。


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