表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
43/86

43 教えるって大変です

「ただいまー」


「おかえりなさいませ、ユリト様」


 まさか挨拶が帰ってくるとは思ってなかったのでびっくりした。 ビクっとしたのがわかったと思う。


「あーえーっと……ソフィーは起きた?」


「お嬢様なら今、食事をとっているところです」


「つまり、さっきまで寝てたと?」


「そういうことになります」


 やっぱり疲れてたのかなぁ……。 それとも夜更かしが過ぎたのか……。


「夜更かしが過ぎたのかと思います。 本当に遅い時間まで起きていましたから……」


 言葉の最後の方がなんかこう、しみじみ言った気がするので遅くまで付き合わされたのだろう……。


「無理しないでいいですからね。 昼寝とかしてもいいですし」


「お気遣いありがとうございます。 ですが、眠っていない訳ではないのでご心配には及びません」


 これがメイドの基本性能なのだろうか? いやいや、そんな事はありませんよね。 ないよね? ただ、あんまりしつこいのもよくないだろうし、この話はここまでかな。


「わかった。 それじゃあ俺は錬金部屋にいるから、準備ができたら来るようにソフィーに言っておいてもらえる?」


「かしこまりました」


 俺は錬金部屋に行き、準備をしておく。 今日これからやる事、確認する事、どの時点でやめるのか、そういったものを整理しなおす。 初めての事でわからないことだらけだ。 

 やってみてからじゃないとわからない事だって多い。 だからこそ、現状で考えられる範囲の事は最低でもちゃんと考えておきたいのだ。 しっかりお師匠様ができればいいけど、俺にいったいどれだけの事ができるか……。 はぁ、頭が痛いよ。  

 そんなことを考えてたらノックの音が聞こえた。


「どうぞー」


「失礼しますです」


「おはよう、ソフィー。 昨日はよく眠れた?」


「お、お師匠様は意地悪です!」


「ごめんごめん、それじゃ第2回錬金術講座始めていいかな?」


「はいです! よろしくお願いしますです」


 元気がいいのはいいんだけど、力入れすぎると魔力も供給過多で無駄遣いになるんだけど、自分自身で感じながらやっていくしかないかな。 俺はそんな事を考えながら、薬草を取り出しソフィーの前に置く。


「それじゃ、今日はポーションが作れるかどうかの確認からいこうか。 どうするべきかは覚えてるよね?」


「はい! じっくり観察です!」


 ジーっと薬草を見るソフィー。 紙を作ってもそれほど消耗したようには見えなかったし、たぶん問題なく作れると思うんだけどね。


「えっと……薬草と魔力水があれば作れそうです! でも……あの……」


 ソフィーは少し困ったような態度を見せる。 どうしたんだろうか?


「どうかした?」


「お師匠様は10本まとめて作ってたですが、私は1本しか作れそうにないです……」


「それはそうだけど、それがどうかした?」


「え? ポーションはまとめて作るのが普通じゃないのです?」


 ……あぁ! 俺が作ったのが基準になってるのか! その辺の説明してないっけ? んー……してない気がする。 これはちゃんと説明しておかないとダメだったね。


「俺だって最初から今の物が作れた訳じゃないよ。 薬草1束からポーション1本。 そこから始まって作り続けていくうちに今の状態になったんだよ。 だからソフィーも作り続ければ同じことができるようになるよ……たぶん」


「お師匠様! たぶんってなんですか! わ、私じゃできないのです?」


 ソフィーがちょっと泣きそうになってる。 ちょっと待て! そうじゃないの! 言い方が難しいがそんなのは後だ!


「違う違う。 錬金術使った時も俺とは違ったでしょ? だから、まったく同じものが作れるかどうかなんて俺もわからないんだよ。 ただ、作ればきっと品質の良い物ができるようになるからそれだけは安心して」


「あぅ、そうなのですね。 わかりました」


「最初に言ったと思うけど、俺も独学で人がどうかわからないから、ソフィーが色々やっていくのと照らし合わせてやっていくから、俺と違ってても全然問題ないからね。 むしろ、その違うところがソフィーのギフト錬金術だから大事にしてね」


「は、はいです!」


 お師匠様ってすっごい気を使うよ……。 大変だよ……。 でも、きっと、最初だけ、最初だけだから! がんばろう……。


「それじゃ、桶に半分くらい水を張って魔力流して、魔力水作ってもらえる?」


「はいです!」


 ソフィーは水を張って手を突っ込んで、しばらくその状態で止まったままになってた。 どうかしたんだろうか?


「お師匠様、ここからどうやって魔力を流すです?」


「え? あれ? できない?」


「できないです……」


「ちょ、ちょっと待って! 考えるから!」


 ソフィーがやり方がわからないと言う。 だから俺は必死になって考える。 今まで大して意識した事がない魔力水作りでつまずくなんて思ってもいなかった。 

 俺はこの魔力水を作る作業は錬金術の技術の1つだと思っていた。 だからこそ、ソフィーでもできると思ってた。 つまり前提が違う? 錬金術の技術の1つではないと言う事になる。 じゃぁ、魔力水を作り出す技術はどこから来ているのか? 俺の持ってるスキルを思い出す。 魔力を流すという事ができるスキル……。 うん、間違いなく魔力制御だろ? 魔力を直接動かしてるわけだしな。 よし、たぶん原因判明。


「俺が勘違いしてたみたいだけど、この魔力水を作る技術は錬金術じゃないみたいだね。 だからソフィーは悪くないよ。 うん、こういう発見も大事だね」


「錬金術じゃないならどうしてお師匠様は魔力水を作ることができるです?」


「たぶん、スキルで魔力制御覚えてるからそれでだと思う。 それくらい魔力を制御できないときっと魔力水は作れないんだと思うよ」


「それじゃあ、私は1人でポーションは作れないですね……」


 そう言って落ち込むソフィー。 フォローが! フォローが大変です!


「そんな事はないよ。 魔力水を作る方法はあるから大丈夫。 むしろ普通は樽に水をためて、その中に魔石を沈めて魔力水を作るからね。 ソフィーはポーション作れるみたいだから、そっちの準備もしておくから、しばらくは俺の作った魔力水で作ろうか」


「自分で作れなくても大丈夫です?」


「大丈夫大丈夫。 ただ、魔力水はともかく魔力制御はできた方がいいと思うから、その辺の事は明日アレックさんにでも聞いてみようか」


「アレック様にそのような事を聞いてもいいのですか?」


「いつも雑談してるみたいなもんだし、大丈夫じゃない?」


ソフィーはなんか口をパクパクさせている。 そして不意に悟ったように、


「お師匠様ですからしょうがないです」


 とか言い出した。 しょうがないって……。


「あー、まぁ、それは置いといてちゃっちゃとポーション作るよー」


 俺は、ソフィーが用意した水に魔力を流して魔力水を作り、ポーションを作る事を促す。 ソフィーは自分のやりやすい位置に桶と薬草をおいて


「錬金なのです」


 やっぱり、俺とは違ってシンプルに光が弾けただけだった。 でも、ちゃんとポーションが1本その場にはあった。


「お師匠様! できました!」


「うん、お疲れ様。 それで、今の自分の魔力残量は大体どれくらいかわかる?」


「魔力残量ですか? それはどうやればわかるんです?」


「これもさっきの魔力制御と同じで錬金術じゃない魔力把握というスキルになるんだけど、とりあえず自分の魔力がどれくらい減ったかなんとなくでもわからない?」


「えーと……よくわからないです……」


「そっか……。 とりあえずそれに関してもアレックさんに聞いてみようか。 そうなると……シーラを呼ぼうか」


「シーラを呼ぶですか? なんでです?」


「今まで魔法使って魔力が減って疲れたりした事があると思うんだけど、その状態くらいまでポーション作ってみようかなって思ってね。 そうなるとシーラが付いててくれた方が対処しやすいからね」


「わかりました。 ちょっと呼んでくるです」


 呼びに行ってくれるんだなんて思ってみてたら扉を開けて、シーラー! って大声で呼んでた。 探してくるとかじゃなくて、そっちかよ! いや、お嬢様としてはこんなもんか? 大声で呼ぶお嬢様っていうのも違和感があるけど、近くに控えてないなら仕方がないのかな。


「お待たせいたしました。 ご用件はなんでしょうか?」


 少しの間をおいて、すぐにやって来たシーラ。 反応が早いけど、これからのソフィーの練習とかを考えるとシーラ1人じゃ家が回らない気がするぞ。 


「お師匠様がシーラにお願いがあるそうです」


「なるほど。 ユリト様、ご用件はなんでしょうか?」


「ソフィーがどれくらい魔力があるかわからないから、何回かポーション作ってもらおうと思ったんだけど、魔力が急に減って倒れたりしたら俺が対処するのまずいかなぁって思ったんだ。 だから、シーラにそばにいてもらえないかなって思って」


「そこまで魔力を減らす必要があるのですか? あまり危険な事はしないでいただきたいのですが」


「心配するのはわかるけど、誰かいる状態で確かめておかない方が危険だと思うよ。 ソフィーは自分の魔力が今どれだけ減ったかがわからなかった。 常にそばに誰かいる状態で錬金術を使えるかわからないんだから、だったら危険だと判断するまでどれくらい使えるか覚えておく方がいいと思ってね」


「そばに人がいる状態以外で使わなければいいだけではありませんか? それにそんな状態になるまで使わなければいいだけの事ですし」


 シーラとしては絶対反対って事かな。 練習するのに何回使えるかが分かってる方がいいとは思うんだけどね。


「はぁ……。 わかったよ。 朝と夜に1回ずつ、ポーション1回作るだけにするよ」


「お師匠様! それだけしか作っちゃいけないのです?」


「ギフト錬金術は魔力を大量に使う。 だから2回目で魔力がきついことになるかもしれない。 だったら今現在1回は平気なんだからその1回で止めておくべきだろ?」


「それはそうかもですが……。 私もっともっとがんばりたいです!」


「お嬢様、危険な事はしないでください」


「多少危ない事もしないで練習したいなら、最低でも魔力把握を覚えてもらわないと許可できないよ」


「うぅぅ……わかったです……」


 ソフィーは渋々といった感じで返事をした。 たぶん2、3回くらいは平気な気がする。 だけど、俺の勘でしかないしなぁ……


「それじゃシーラ仕事邪魔して悪かったね。 今回はこれでお終いでまた夜作ろうか。 おつかれさま」


「おつかれさまです……」


「お疲れさまでした。 それでは私は仕事に戻りますね。 ユリト様、お嬢様の事よろしくお願いします」


 押し付けられました? 俺、押し付けられましたか? まぁ、こういうフォローもしないといけないのかな……師匠って大変ですね。


「あー、ソフィー。 樽と魔石買いに行かないといけないから一緒に行こうか? 昨日だって馬車でここまで来たから町の中全然見てないだろ?」


 そうやって俺が提案すると、うつむいてた顔が上がってくる。


「町に出てもいいんです?」


「ん? ダメな理由でもあるのか?」


「ちょっとシーラに聞いてくるです!」


 ソフィーは勢いよく出て行った。 よくよく考えてみればお嬢様だったなら、出歩くことが出来なかったのかもしれない。 そうだったら、出てもいいかわからなくて聞きに行くのも納得できる。


「お師匠様! 1人じゃダメだけど、お師匠様やシーラと一緒なら家から出ていいって言ってましたです!」


「それなら出かけようか」


「はいです!」


 こうして、買い物とお嬢様の初めての町歩きが始まる。 って、この町が初めてなだけで、実家にいた時には歩いたことあるよね?


「ユリト様、お嬢様は身軽な町歩きが初めてですのでお気を付けください」


「シーラ!? び、びっくりするから!」


「失礼しました。 ではいってらっしゃいませ」


 本当に初めてらしい……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ