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薬屋さんの錬金術師  作者: エイキ
第2章、薬屋さんの雇われ錬金術師
42/86

42 納品しましょ

 朝起きていつものメニューをこなして家に戻るとシーラが料理をしてた。


「おはよう、シーラ」


「おはようございます。 お早いのですね」


「朝から素振りしたり、走ったりを毎日やってるからいつもこんなもんだよ」


「なるほど、食事になさいますか? すぐに支度しますが」


「納品分のポーション作ってくるから、もう少し後でいいよ」


「かしこまりました。 食べる時に声をかけてください」


 ……これがこれからの日常になって行くのか。 慣れなければいけない……。 がんばって慣れよう。 そう決意して、俺はポーションを作りに行くのだった。

 そしてポーションを作って戻ってきて、食事を食べ終えたのだけど、


「ねぇシーラ、ソフィーは?」


「まだ起きてこられませんね。 旅の疲れもありますし、昨日の夜は興奮してなかなか寝付けないようでしたので、起床にはまだ時間がかかるかもしれません」


「……興奮したソフィーに捕まって、シーラもあんまり寝てないんじゃないの?」


「メイドですので」


 決め台詞キタ! いや、だから答えになってない。


「まぁ無理しないでね。 でも、旅の疲れがあったんだよねぇ……。 それなら錬金術の事は今日にして休ませてあげるべきだったかな」


 最近は気功のおかげで疲れた! って感覚があの森の追いかけっこくらいだ。 それに旅もしたことがないから、その辺の感覚がないんだよね。 失敗したかなぁ。


「お嬢様のあの様子を見て休めと言われて、休んだと思いますか?」


「あー……。 うん、無理っぽいね」


「そういうことです。 お時間は大丈夫ですか?」


「ギリギリってわけじゃないから大丈夫だけど、余裕があった方がいいよね。 それじゃ、いってきます。 くれぐれもソフィーが勝手に錬金術使わないように見張っててね」


「わかりました。 いってらっしゃいませ」


 俺は、シーラに挨拶をして家を出た。 納品して戻ってくる間に、ソフィーは目を覚ますのかな?





 俺は実家の裏口から入り、会った人に挨拶しながら事務所に向かった。 事務所に入ると母さんとマリーナがいた。 今までなら母さんはこの時間調剤室の方にいたのだけども、俺が家を出て納品するようになってからはここで受け渡しをしている。 調剤室だと話をしていると周りの邪魔になるかもしれないからね。


「おはよう、母さん、マリーナさん」


「おはよう、ユリト」


「おはようございます、ユリト君」


 2人とも挨拶を返してくれる。 最初は、ああ言ったものの本当に大丈夫だろうかと心配してたけど案外どうにかなっていたりする。

 俺とマリーナさんの最初はあれだったので、印象が悪かったのは事実なのだが、母さんから話を聞くと最初は丁寧に挨拶をしていたみたいだ。 父さんも母さんも驚いてはいたけど、息子が嫁を連れて帰って来たのは嬉しかったみたいだ。 だけど、兄さんが家を継ぐと言い出した所で空気がかわった。

 

 ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、兄さんの言い方はともかくとして、俺がまだ家を継いでない状態で兄さんが帰って来た場合、兄さんが家を継ぐのが世間一般での意見となる。 例え兄さんが二度と帰ってこない宣言をしていたとしてもだ。

 これは昔、散々もめてケンカから殺し合いになった事が何度かあったために、家にいる1番早く成人した子供が家を継ぐのが暗黙のルールになっている。 だから、俺が成人してない状態で兄さんが帰ってくれば兄さんが継ぐことになるのだ。

 もちろん、帰ってきても両親の反対で家を追い出されることもある。 お嫁さんを連れて来ると受け入れざるを得ない状態になるけどね。


 それでも母さんが反対したのは職人としての常識があるからだ。 世間一般では誰が継ごうが特に関係ないが、この家は店を継ぐ商人の家系ではなくて、調剤師としての知識を継ぐ家なのだ。

 だから、母さんは子供の頃から薬の知識を教えられて、イレーネさんの所に行ってさらに知識を吸収していったと話してくれた。 だからこそ、お店の経営や事務仕事は苦手なのと母さんはよく言い訳にしてた。 よくその状態で今まで店が持っていると思わざるを得ない。 そうすると、調剤師の知識がない2人には継がせられないのだ。


 父さんに関しては、単純に兄さんの態度が気に入らなかっただけらしい。 それでマリーナさんからしてみれば、なぜ反対されているのかがわからないのだ。 ロミットが継ぎ、自分が店を経営すればなにも問題ないと思っていたからだ。 しかも、父さんが反対する理由がロミットの態度が気に入らないからと言われる。 ここで母さんがちゃんと調剤師としての技術を継ぐ家というのを説明すればよかったのだけど、父さんと兄さんの口喧嘩みたいになってしまったために口が出せなかったみたいだ。 そのせいでマリーナさんも理不尽に反対されるのは納得できないとかみつき、話は平行線でにらみ合いに移行したところで俺が帰って来たというわけだ。


 その後、謝罪もしてくれたんだけど、第1印象が悪かったのでそれを引きずっていた。

 だけど、今はお店に必要な人材だと思ってる。 数字に異常に強いのだ。 母さんから事務処理手伝ってほしいと言われなくなったので聞いたら、マリーナさんが頼りになるから大丈夫だと言われた。 一応俺も見せてもらったけど完璧だった。 ただ、接客には絶対に出ないらしい。 自分の性格では無理だと言うけど、商人ならそれはやろうよと思う。

 まぁ、感謝してることもある。 それほど困ってる訳ではないけれど、月の契約が見直されて金貨30枚になったのだ。 正確にはお互いの妥協点の探り合いでこの金額だ。

 兄さんに説教くれてたせいで、俺の契約内容を一切知らなかったマリーナさんが1度見せてほしいと頼まれたので、見せたのだがそれはもうすごい勢いで怒り出した。 母さんに詰め寄って、何でこんなに安い金額で契約してるのか! と言うのだ。 

 話を聞けば、こんな金額ならいくらでも引き抜きが来るからもっとしっかり払うべきだと言う。 俺としては実家だし、別にかまわないと言っても、ユリト君に甘えるだけ甘えた経営なんて絶対によくない。 最低でも金貨40枚は払うべきとの主張だった。 それで協議の結果が金貨30枚と色々な条件だった。

 雇い主がもっとお金を払う。 雇われる方が、もっと安くてかまわないってどんな交渉だよと思ったのはたぶん俺だけでなく、周りみんなが思ったことだと思う。 

 商人であろうという気持ちが強すぎて、人の気持ちを置いてけぼりにする人ではあるけれど、悪い人ではないのだと思う。 たぶん……。 というのが今の俺の評価である。 補佐に着くにはいいけれど代表になるには足りないものが多い人だなぁと思う。


「それじゃあ母さん、ポーション40本ね」


「はい、それじゃ数えちゃうわね。 ところでユリト、昨日弟子ができるかもなんて言ってたけどどうなったの?」


 ポーションを数えながら聞いてきた母さんに昨日の事を話す。


「なんか、ものすっごいギフト錬金術に思い入れがあるみたいで、一緒に住むことについてどう思うかとか聞く気も失せるくらい積極的だったよ」


「で、その子は可愛いの?」


「まぁ、可愛いけど……」


「ミュースちゃんの事もあるのに大変ね」


 ミュースさんにももうほぼ1年会ってない。 元気でやってるとは思うけど、別方向で護衛依頼受けてるのかもしれない。


「いや、大変って……ソフィーは弟子だし、そういうのはないと思うんだけどなぁ」


「ソフィーね、ふふ、女の子を泣かすような事しちゃダメよ」


 母さんの中では、ソフィーは俺に惚れる設定らしい。 いやいや、そんなことないよ。 ないよね?


「ユリト君、私はそのソフィーさんに興味があります」


「マリーナさんがですか? どうしてです?」


「その子はポーション作れますか?」


 あぁ、確かにそれは気になるだろうね。


「まだ、作らせてないのでわからないですけど、作れても商品にはしばらくできないですよ? 俺と同じ質の物を作るにはたくさん作って質を上げないといけないですし、そもそも同じ物が作れるかどうかもわかりませんから」


「ギフト錬金術は不思議なものですね。 情報が足りないだけでしょうか? でも、早くその子が使い物になってくれると嬉しいですね。 そうすれば周りにも広げやすいですし」


「店で独占したいとは思わないんですか?」


「王都の大商人ならまだしも、地方の町の1件の薬屋ですよ? 今の状態でも怖いのに、それ以上の危険を招き入れるようなマネはしたくないです。

 あぁ、でもできればその子のポーションが売れるようになったら、この町の商人に売ってほしいですね。 1回外と契約結ぶとさらに契約を迫る人が来るでしょうからね」


 この言い方がなんともいえない評価に繋がるんだけど、独占して利益を出して大儲けってわけじゃないからある程度は信用できるのかなって感じだね。


「ポーションはまたその時になったら相談しますね。 それじゃ、俺は帰るね」


「数もちゃんとあったから問題ないわね。 お疲れ様ユリト、また明日ね」


「お疲れ様です、ユリト君」


 薬草をもらって家に帰ります。 さて、ソフィーは起きてるかな? 起きてたら昨日の続きをしなきゃだね。 

 明日は教会だから、明後日は冒険者ギルド行けるといいなぁ。



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